上 下
3 / 31

3、初めての出会い

しおりを挟む
 ミアと勇者の結婚が決まり、一週間が過ぎた日のこと。ついにミアは生まれ育った魔界を出て、人間界へと足を踏み入れていた。
 
「まだ着かぬのか」
「申し訳ございません、ミアさま。もう少々お待ちを」
 
 ミアは苛立ったように足を踏み鳴らしながら、これで何度目になるか分からないやりとりを馬車の従者とかわす。
 
「人間界になど行きたくないが、馬車にただ乗っているだけと言うのも退屈だ。全く……。魔界ならば、どこへでも転移魔法でいけるというのに」
「仕方ないですよ、ミアさま。転移魔法は、一度でも行ったことのある場所しか使えませんから」
 
 宙に浮かんでいる黒猫リリスは、苛立ちを隠そうともしないミアをなだめるように声をかけた。
 
「でも、ミアさま。初めての場所に行くのってワクワクしますよね」
「何を言っておるのだ、お前は。人間界に行くのが楽しみなわけなかろう。魔族の恥晒しめ」
「そんなことおっしゃらないでください、ミアさま~」
 
 ふんっと腕を組んでふんぞりかえるミアの周りを、リリスが背の羽を使ってふわふわと飛び回る。
 
 それからも使い魔リリスが主人であるミアをなだめていたが、馬車のカーテンから見える景色が変わったことに気がつくと、リリスはすぐにミアを呼んだ。
 
「ミアさま! お外をご覧ください!」
「む……」
 
 ミアがカーテンの外に視線を向けると、そこには美しい花や木々が植えられた庭園があり、向こうの方には大きなお城が見えた。
 
 おそらくここが勇者の子孫が住まう場所であり、ミアが住むことになるところであろう。すぐにミアはそう悟ったが、次の瞬間には初めて見る花たちに目を奪われていた。
 
 魔界にももちろん花や木はあるが、人間界よりも毒々しいものが多く、お城に植えられている花はミアの目にはとても可憐で新鮮なものに映る。
 
「可愛いお花~。綺麗ですね、ミアさまっ」
「フン、あんなもの。魔界の花の方がずっと美しいわ」
 
 リリスに同意を求められ、ミアは慌てて視線を逸らす。やれやれとでも言うかのようにリリスは苦笑いしていたが、窓の外に視線を向けると、庭園を歩いている男がいることに二人同時に気が付く。
 
 身長はおそらく180センチ以上はあるだろうか。スラリと伸びた長い手足が印象的だが、それ以上に整った容姿が目を引いた。
 
 陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪は黄金のように美しく、その透き通った瞳は人間界の空のように青い。ミアのいた魔界では、ミアのような赤い髪や紫、黒髪などの髪色をした者が多く、金色の髪の者は滅多にいなかった。
 
「これはこれはアデルさま。ミアさま、ご到着でございます」
 
 初めて見る金色の髪の美しさにミアは見惚れてしまっていたが、従者がその男に声をかけたことにハッとする。
 
「あのお方が、ミアさまの旦那様となられるアデルさまなんですね。素敵な方ですね~。ミアさまもお気に召されたようで良かったです」
「何を馬鹿げたことを。あのような優男を気にいるものか」
 
 口ではそう言っていたが、ミアの頬はわずかに赤く染まっていた。
 ミアの顔を見て、リリスは含み笑いを浮かべている。ニヤついているリリスに腹を立てたミアは、勢い良くカーテンを閉めてしまった。
 
「さっさと目的地まで連れて行け」
「ですが、アデルさまが……」
「さっさと行け!」
「は、はい!」
 
 従者たちは何か言いたげにしていたが、結局はミアの迫力に負けて馬車を出してしまう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

姉の夫の愛人になったら、溺愛監禁されました。

月夜野繭
恋愛
伯爵令嬢のリリアーナは、憧れの騎士エルネストから求婚される。しかし、年長者から嫁がなければならないという古いしきたりのため、花嫁に選ばれたのは姉のミレーナだった。 病弱な姉が結婚や出産に耐えられるとは思えない。姉のことが大好きだったリリアーナは、自分の想いを押し殺して、後継ぎを生むために姉の身代わりとしてエルネストの愛人になるが……。

【R18】××××で魔力供給をする世界に聖女として転移して、イケメン魔法使いに甘やかされ抱かれる話

もなか
恋愛
目を覚ますと、金髪碧眼のイケメン──アースに抱かれていた。 詳しく話を聞くに、どうやら、私は魔法がある異世界に聖女として転移をしてきたようだ。 え? この世界、魔法を使うためには、魔力供給をしなきゃいけないんですか? え? 魔力供給って、××××しなきゃいけないんですか? え? 私、アースさん専用の聖女なんですか? 魔力供給(性行為)をしなきゃいけない聖女が、イケメン魔法使いに甘やかされ、快楽の日々に溺れる物語──。 ※n番煎じの魔力供給もの。18禁シーンばかりの変態度高めな物語です。 ※ムーンライトノベルズにも載せております。ムーンライトノベルズさんの方は、題名が少し変わっております。 ※ヒーローが変態です。ヒロインはちょろいです。 R18作品です。18歳未満の方(高校生も含む)の閲覧は、御遠慮ください。

騎士団専属医という美味しいポジションを利用して健康診断をすると嘘をつき、悪戯しようと呼び出した団長にあっという間に逆襲された私の言い訳。

待鳥園子
恋愛
自分にとって、とても美味しい仕事である騎士団専属医になった騎士好きの女医が、皆の憧れ騎士の中の騎士といっても過言ではない美形騎士団長の身体を好き放題したいと嘘をついたら逆襲されて食べられちゃった話。 ※他サイトにも掲載あります。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

冷酷無比な国王陛下に愛されすぎっ! 絶倫すぎっ! ピンチかもしれませんっ!

仙崎ひとみ
恋愛
子爵家のひとり娘ソレイユは、三年前悪漢に襲われて以降、男性から劣情の目で見られないようにと、女らしいことを一切排除する生活を送ってきた。 18歳になったある日。デビュタントパーティに出るよう命じられる。 噂では、冷酷無悲な独裁王と称されるエルネスト国王が、結婚相手を探しているとか。 「はあ? 結婚相手? 冗談じゃない、お断り」 しかし両親に頼み込まれ、ソレイユはしぶしぶ出席する。 途中抜け出して城庭で休んでいると、酔った男に絡まれてしまった。 危機一髪のところを助けてくれたのが、何かと噂の国王エルネスト。 エルネストはソレイユを気に入り、なんとかベッドに引きずりこもうと企む。 そんなとき、三年前ソレイユを助けてくれた救世主に似た男性が現れる。 エルネストの弟、ジェレミーだ。 ジェレミーは思いやりがあり、とても優しくて、紳士の鏡みたいに高潔な男性。 心はジェレミーに引っ張られていくが、身体はエルネストが虎視眈々と狙っていて――――

処理中です...