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3、初めての出会い
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ミアと勇者の結婚が決まり、一週間が過ぎた日のこと。ついにミアは生まれ育った魔界を出て、人間界へと足を踏み入れていた。
「まだ着かぬのか」
「申し訳ございません、ミアさま。もう少々お待ちを」
ミアは苛立ったように足を踏み鳴らしながら、これで何度目になるか分からないやりとりを馬車の従者とかわす。
「人間界になど行きたくないが、馬車にただ乗っているだけと言うのも退屈だ。全く……。魔界ならば、どこへでも転移魔法でいけるというのに」
「仕方ないですよ、ミアさま。転移魔法は、一度でも行ったことのある場所しか使えませんから」
宙に浮かんでいる黒猫リリスは、苛立ちを隠そうともしないミアをなだめるように声をかけた。
「でも、ミアさま。初めての場所に行くのってワクワクしますよね」
「何を言っておるのだ、お前は。人間界に行くのが楽しみなわけなかろう。魔族の恥晒しめ」
「そんなことおっしゃらないでください、ミアさま~」
ふんっと腕を組んでふんぞりかえるミアの周りを、リリスが背の羽を使ってふわふわと飛び回る。
それからも使い魔リリスが主人であるミアをなだめていたが、馬車のカーテンから見える景色が変わったことに気がつくと、リリスはすぐにミアを呼んだ。
「ミアさま! お外をご覧ください!」
「む……」
ミアがカーテンの外に視線を向けると、そこには美しい花や木々が植えられた庭園があり、向こうの方には大きなお城が見えた。
おそらくここが勇者の子孫が住まう場所であり、ミアが住むことになるところであろう。すぐにミアはそう悟ったが、次の瞬間には初めて見る花たちに目を奪われていた。
魔界にももちろん花や木はあるが、人間界よりも毒々しいものが多く、お城に植えられている花はミアの目にはとても可憐で新鮮なものに映る。
「可愛いお花~。綺麗ですね、ミアさまっ」
「フン、あんなもの。魔界の花の方がずっと美しいわ」
リリスに同意を求められ、ミアは慌てて視線を逸らす。やれやれとでも言うかのようにリリスは苦笑いしていたが、窓の外に視線を向けると、庭園を歩いている男がいることに二人同時に気が付く。
身長はおそらく180センチ以上はあるだろうか。スラリと伸びた長い手足が印象的だが、それ以上に整った容姿が目を引いた。
陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪は黄金のように美しく、その透き通った瞳は人間界の空のように青い。ミアのいた魔界では、ミアのような赤い髪や紫、黒髪などの髪色をした者が多く、金色の髪の者は滅多にいなかった。
「これはこれはアデルさま。ミアさま、ご到着でございます」
初めて見る金色の髪の美しさにミアは見惚れてしまっていたが、従者がその男に声をかけたことにハッとする。
「あのお方が、ミアさまの旦那様となられるアデルさまなんですね。素敵な方ですね~。ミアさまもお気に召されたようで良かったです」
「何を馬鹿げたことを。あのような優男を気にいるものか」
口ではそう言っていたが、ミアの頬はわずかに赤く染まっていた。
ミアの顔を見て、リリスは含み笑いを浮かべている。ニヤついているリリスに腹を立てたミアは、勢い良くカーテンを閉めてしまった。
「さっさと目的地まで連れて行け」
「ですが、アデルさまが……」
「さっさと行け!」
「は、はい!」
従者たちは何か言いたげにしていたが、結局はミアの迫力に負けて馬車を出してしまう。
「まだ着かぬのか」
「申し訳ございません、ミアさま。もう少々お待ちを」
ミアは苛立ったように足を踏み鳴らしながら、これで何度目になるか分からないやりとりを馬車の従者とかわす。
「人間界になど行きたくないが、馬車にただ乗っているだけと言うのも退屈だ。全く……。魔界ならば、どこへでも転移魔法でいけるというのに」
「仕方ないですよ、ミアさま。転移魔法は、一度でも行ったことのある場所しか使えませんから」
宙に浮かんでいる黒猫リリスは、苛立ちを隠そうともしないミアをなだめるように声をかけた。
「でも、ミアさま。初めての場所に行くのってワクワクしますよね」
「何を言っておるのだ、お前は。人間界に行くのが楽しみなわけなかろう。魔族の恥晒しめ」
「そんなことおっしゃらないでください、ミアさま~」
ふんっと腕を組んでふんぞりかえるミアの周りを、リリスが背の羽を使ってふわふわと飛び回る。
それからも使い魔リリスが主人であるミアをなだめていたが、馬車のカーテンから見える景色が変わったことに気がつくと、リリスはすぐにミアを呼んだ。
「ミアさま! お外をご覧ください!」
「む……」
ミアがカーテンの外に視線を向けると、そこには美しい花や木々が植えられた庭園があり、向こうの方には大きなお城が見えた。
おそらくここが勇者の子孫が住まう場所であり、ミアが住むことになるところであろう。すぐにミアはそう悟ったが、次の瞬間には初めて見る花たちに目を奪われていた。
魔界にももちろん花や木はあるが、人間界よりも毒々しいものが多く、お城に植えられている花はミアの目にはとても可憐で新鮮なものに映る。
「可愛いお花~。綺麗ですね、ミアさまっ」
「フン、あんなもの。魔界の花の方がずっと美しいわ」
リリスに同意を求められ、ミアは慌てて視線を逸らす。やれやれとでも言うかのようにリリスは苦笑いしていたが、窓の外に視線を向けると、庭園を歩いている男がいることに二人同時に気が付く。
身長はおそらく180センチ以上はあるだろうか。スラリと伸びた長い手足が印象的だが、それ以上に整った容姿が目を引いた。
陽の光を浴びてキラキラと輝く金色の髪は黄金のように美しく、その透き通った瞳は人間界の空のように青い。ミアのいた魔界では、ミアのような赤い髪や紫、黒髪などの髪色をした者が多く、金色の髪の者は滅多にいなかった。
「これはこれはアデルさま。ミアさま、ご到着でございます」
初めて見る金色の髪の美しさにミアは見惚れてしまっていたが、従者がその男に声をかけたことにハッとする。
「あのお方が、ミアさまの旦那様となられるアデルさまなんですね。素敵な方ですね~。ミアさまもお気に召されたようで良かったです」
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口ではそう言っていたが、ミアの頬はわずかに赤く染まっていた。
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「さっさと目的地まで連れて行け」
「ですが、アデルさまが……」
「さっさと行け!」
「は、はい!」
従者たちは何か言いたげにしていたが、結局はミアの迫力に負けて馬車を出してしまう。
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