上 下
9 / 10

9、好きな人

しおりを挟む
 どこに行ったのか探すまでもなく、恭はすぐに見つかった。普段俺たちが使っている教室で自分の机に伏せっている恭に近づき、声をかける。

「恭?」

 俺が声をかけると、恭は机から顔を上げたけど、恭の顔は涙でぐちゃぐちゃだった。映画を見た時のように鼻水は出してないけど、涙の跡で恭のかっこいい顔が大変なことになっている。

「はい。まずは顔ふいて」
「……ありがとう」

 拒否られるかなって思ったけど、ズボンのポケットから出したハンカチを恭が素直に受け取ってくれて、少しホッとする。

「あのさ、恭。さっきの話なんだけど、」
「良典、俺は良典が好きだよ」
「うん?」

 恭が顔を拭き終わったのを見計らい、話を切り出そうとしたけど、俺の言葉に被せるように恭が話し出す。

「最初は良典が告白してくれて嬉しくて付き合ったんだけど、すぐに良典のこと好きになった。良典のこと大好きなんだ。良典と別れたくない」

 せっかく顔を拭いたのに、恭の瞳にはまた涙がいっぱいたまっていき、こんな顔をさせてるのは俺なんだって思うと胸が痛んだ。俺だって、お前と別れたくない。

「でも、良典が美穂のこと好きなら、」

 恭は何かを言いかけて途中で辞め、辛そうにうつむく。そんな恭の隣にかがみ、椅子に座っている恭と目線を合わせてから、恭の顔を両手でつかみ、こちらを向かせる。

「聞いて、恭」

 恭の目は相変わらず涙がいっぱいたまってたけど、それでも俺の目を見てくれたので、恭の目を見ながら、ゆっくりと話し出す。

「俺、本当は高島さんに告白しようとしてた。
でも、間違えてお前のロッカーに手紙を入れて、喜んでるお前を見てたら、間違えたって言い出せなくなって……」

 そこまで言うと、辛そうに目を伏せる恭に胸が張り裂けそうになる。ごめん、恭。本当に俺って最低だよな。

「でもさ、付き合ってるうちにどんどんお前のこと好きになっていったよ。もし、恭が俺のことを許してくれるなら、俺はこれからも恭の彼氏でいたい。恭と別れたくない」

 本当は、初めてデートをした日に俺は恭のことを好きになってたんだと思う。すぐ泣くし、思ったことそのまま口に出すし、俺の思ってた高田恭と全然違ってたけど、可愛くてかっこよくてめちゃくちゃいいやつで。

 さっき階段で恭に話を聞かれて、もしかしたら恭とダメになるかもって思った時、恭と別れたくない。恭のことが大好きだって改めて思ったんだ。 

 目に涙をいっぱいためている恭を見ていたら、俺まで泣きそうになってくる。もしかしたら恭にフラれるのもって思ったら、声が震えてきてヤバかったけど、どうにかそこまで言いきると、恭はポロリと涙をこぼした。

「ほんと? 俺のことが好き?」
「うん、好き。大好き。お前しか好きじゃない」

 真っ赤な目で俺を見ている恭の顔に自分の顔を近づけ、ちゅっと唇を重ねる。唇を離すと、恭はボロボロと涙をこぼし、すがりつくように俺の両肩に手を置いた。

「良かったぁ。じゃあ、俺たち別れなくていいんだね」
「う、うん。あのさ、怒らないの?」

 涙ながらにそう言った恭の言葉に少しの違和感があって聞いてみたけど、恭は「何が?」と不思議そうに俺の顔を覗き込む。

「間違えて告白したとかふざけんな、とか、そういうのないの?」
「ないよ。良典が間違えてくれたおかげで、良典と付き合えたんだし。俺は良典が好きで、良典も俺が好きなら、何も問題ないよ」

 きょとんとした顔をしながらも、恭ははっきりとそう言ってみせた。

「お前ってさ、なんていうか、いいやつだな……」

 普通はキレてもおかしくないだろうに。

「え?」
「好きだって言ったの」

 ま、そんなとこが好きなんだけど。

「俺も大好き」

 満面の笑みを浮かべた恭と目が合うと、今度は恭の方からキスをしてきた。自分よりも大きな恭の背中に手を回し、恭のキスを受け入れる。大好きだよ、恭。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

台風の目はどこだ

あこ
BL
とある学園で生徒会会長を務める本多政輝は、数年に一度起きる原因不明の体調不良により入院をする事に。 政輝の恋人が入院先に居座るのもいつものこと。 そんな入院生活中、二人がいない学園では嵐が吹き荒れていた。 ✔︎ いわゆる全寮制王道学園が舞台 ✔︎ 私の見果てぬ夢である『王道脇』を書こうとしたら、こうなりました(2019/05/11に書きました) ✔︎ 風紀委員会委員長×生徒会会長様 ✔︎ 恋人がいないと充電切れする委員長様 ✔︎ 時々原因不明の体調不良で入院する会長様 ✔︎ 会長様を見守るオカン気味な副会長様 ✔︎ アンチくんや他の役員はかけらほども出てきません。 ✔︎ ギャクになるといいなと思って書きました(目標にしましたが、叶いませんでした)

王様のナミダ

白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。 端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。 驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。 ※会長受けです。 駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

推し変なんて絶対しない!

toki
BL
ごくごく平凡な男子高校生、相沢時雨には“推し”がいる。 それは、超人気男性アイドルユニット『CiEL(シエル)』の「太陽くん」である。 太陽くん単推しガチ恋勢の時雨に、しつこく「俺を推せ!」と言ってつきまとい続けるのは、幼馴染で太陽くんの相方でもある美月(みづき)だった。 ➤➤➤ 読み切り短編、アイドルものです! 地味に高校生BLを初めて書きました。 推しへの愛情と恋愛感情の境界線がまだちょっとあやふやな発展途上の17歳。そんな感じのお話。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/97035517)

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

告白ゲーム

茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった 他サイトにも公開しています

女装趣味がバレてイケメン優等生のオモチャになりました

都茉莉
BL
仁科幸成15歳、趣味−−女装。 うっかり女装バレし、クラスメイト・宮下秀次に脅されて、オモチャと称され振り回される日々が始まった。

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

処理中です...