お願い!猫神さま

春音優月

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4、お礼参り

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年が明け、春の訪れも近づいてきた頃……。

優は、今日も猫神様の祀られている神社に足を運んでいた。隣には、優の憧れの先輩の綾もいる。

優と綾は図書当番を共にしたあの日から時々話すようになり、たまに一緒に下校するようにまでなった。もちろんまだまだ恋人とは言い難いが、同じ委員会の先輩後輩でしかなかった以前の間柄を思えば大進歩である。

以前は話すことさえままならなかったが、優も今では緊張しながらも綾と普通に会話ができるようになったのだ。

一歩を踏み出したのは紛れもなく優自身だが、そうできたのは勇気を与えてくれた猫神様のおかげ。

そう思い、優は猫神様へのお礼参りを欠かすことはなかったが、あれから猫神様は一度も優の前には現れていない。

「今日も猫神さま現れないね。
私も会ってみたいんだけどな」

優のお礼参りに何度か付き合ってくれた綾も、猫好きとしては一度は猫神様に会ってみたいようだが、やはり一度も遭遇したことはないようだ。

社殿の近くで手を合わせた後、綾は小さく笑みを浮かべながらも残念そうに優に話しかける。

「そうですね。僕もお会いできたことが奇跡だと思うので、……」

「そうよね。神様にお会いできるなんて、滅多にないことだもの。
それにしても、水沢くんは誰からここの神社のこと聞いたの?
水沢くんに聞くまで、私はここの神社の存在を知らなかったわ」

綾は猫神様の祀られている社殿を見つめた後、不思議そうに優を見上げる。

優から猫神様の話を聞いて、普通なら多少は疑いそうなものだが綾はすんなりと信じたものの、どうやらここの神社の存在を知らなかったらしい。

「え?でも、有名ですよね?
僕は、……あれ?誰から聞いたんだっけ?」

地元では有名だと思っていた神社を綾が知らなかったことに優は驚いたものの、神社の噂をしていた人物を思い出そうとすると一人も思い出せないことに気がつく。

入学して綾を好きになってから割とすぐに神社の存在を知ったにも関わらず、噂の出所が全く思い出せないのだ。

「ふふ、不思議なこともあるものね」

おかしいな、と首をひねっている優を見て、綾はおかしそうにクスクスと笑っている。

「もしかしたら、猫神様はあまりたくさんの人にここの存在を知られたくないのかもしれないわ。ほら、猫ってとっても気まぐれだから」

「ですね。気まぐれで、普段は寄り付きもしないのに、時々甘えてくるところが可愛いんですよね」

優も昔から猫が嫌いではなかったが、今回の一件があり、ますます猫が好きになった。以前は綾の猫談議についていくのが必死だったが、今では猫の種類も習性も覚え、すらすらと会話ができるくらいだ。

「うんうん。
ねえ、水沢くんはそんな気まぐれな猫神様に何をお願いしたの?」

「え、そ、それは……」

猫神様に何を願ったのかを綾に聞かれ、優は口ごもる。実は、同じことを何度か聞かれたのだが、その度優はごまかしてきた。

さすがに、綾と親しくなりたかった、と本人に言うのは気まずいのだろう。

「毎日お参りまでして叶えたい願いがあったなんて、とても気になるわ。
その願いは叶ったんでしょう?
いい加減教えてくれてもいいんじゃない?」

モゴモゴと誤魔化している優に、綾は一歩近づいて答えを促す。

その時、どこからか「何をやっておるのじゃお主は。早う言わぬか」と猫神様の声が優の耳に聞こえてきた。

優はキョロキョロと辺りを見回すが、猫神様はおろか、辺りには猫一匹さえ見当たらない。

(気のせい、か……。でも、もしかしたら猫神様も見てくれているのかもしれない)

猫神様のお姿は見当たらなかったものの、猫神様に応援されているような気がして勇気づけられた優は、顔を真っ赤にしながらも口を開く。

「僕の願いは、……っ!」



日本のどこかに、どんな願いも叶えてくれる猫神様が祀られている神社があるという。

ただし、その猫神様はとっても気まぐれで、気の向いた時にしか願いを叶えてくれないという噂がある。

本当に実在するのかも分からない、とても不思議な神社。もしもその神社を見つけ、猫神様に会うことができた人はとても幸運だ。

思いきって願いごとをしてみるのもいいかもしれない。

ただし、願いを叶えてくれるかどうかは、すべて猫神様の気分次第だ。
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