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39話 道端で
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「杏!」
へ? 悠真?
聞こえて振り向く前に、走ってきた悠真が私と潤くんの間に割って入った。
そして、悠真はナイフを持っている潤くんの右手をひねって上半身のバランスを崩させ、そのままアスファルトに叩き伏せる。
え……。す、すごい。これって、合気道の型だよね?
一成先輩だけじゃなく、悠真まで。
「いい加減にしてくださいね?」
潤くんをおさえこんだまま、悠真は大げさに息を吐く。
「まだ何もしてないよ」
潤くんは両手をあげて、悪びれもせずに言う。
「まだ、ね」
「離してくれない?」
数秒の間があった後、悠真はしぶしぶといった感じで潤くんをおさえる手を離した。
「あーあ、酷い目にあった」
潤くんはゆっくりと立ち上がり、自分の制服についた汚れを手ではらう。
「どっちが」
刺々しく吐き捨てながら、悠真が潤くんに冷たい視線を送る。
「これ以上繰り返すようなら、ここにいられなくしますよ」
「分かった。分かったよ、もうしないから」
面倒くさそうに言ってから、潤くんは私の方を見た。
「またね、杏ちゃん」
生気のない瞳で私を見つめ、潤くんは口元だけで笑った。こわ……。
「何度も、何度も、しつこい……」
去っていく潤くんの背中をにらみながら、悠真が疲れたように言う。
「ゆ、悠真! ありがとう」
なんだかうずうずして、黙っていられなくなって、声をかける。
「ああ、」
「悠真も合気道習ってたの? さっきの、すごかったね!」
「無理しなくていいよ」
矢継ぎ早にしゃべり続ける私の言葉に被せるようにして言って、悠真は私の目をじっと見つめる。
「え? 何……」
「震えてる」
ふいに手を握られ、心臓が止まりそうになった。
「怖かったよね。ごめん」
悠真が謝ることないのに。
本当は、そう言いたかった。だけど、悠真の声があまりにも優しくて、気を抜いたら涙が出そうで、コクコク頷くだけで精一杯だった。
「もう大丈夫」
私の手を握っていた悠真の手が離れ、ぎゅっと抱きしめられた。
悠真の身体は思ったよりも大きくて、ちゃんと男の人で、すごくドキドキする。それなのに、安心できた。
「悠真……」
そーっと悠真の背に手を回そうとする。
「あなたたち、道端で何してるの?」
!?
突然声をかけられ、慌てて身体を離す。
視線をさまよわせると、呆れたように私たちを見ているお母さんと目が合った。買い物帰りなのか、両手に買い物バッグを持っている。
「悠真くんと付き合ってたの?」
呆れたようなお母さんの視線がニヤけたものに変わる。
「ちがっ。これは、道端で危険が迫ってきて、悠真が助けてくれて、それでっ。とにかく、付き合ってるとかじゃないから!」
全く言い訳になっていない言い訳をしてみるけど、お母さんは含み笑いを浮かべたまま。
「ね! 悠真?」
隣にいる悠真を見上げ、助けを求める。
けれど、悠真は苦笑いを浮かべるばかりで、何も言ってくれなかった。
もうっ。さっきはすっごくかっこよかったのに、こういうときには助けてくれないんだから~……。
へ? 悠真?
聞こえて振り向く前に、走ってきた悠真が私と潤くんの間に割って入った。
そして、悠真はナイフを持っている潤くんの右手をひねって上半身のバランスを崩させ、そのままアスファルトに叩き伏せる。
え……。す、すごい。これって、合気道の型だよね?
一成先輩だけじゃなく、悠真まで。
「いい加減にしてくださいね?」
潤くんをおさえこんだまま、悠真は大げさに息を吐く。
「まだ何もしてないよ」
潤くんは両手をあげて、悪びれもせずに言う。
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「離してくれない?」
数秒の間があった後、悠真はしぶしぶといった感じで潤くんをおさえる手を離した。
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「どっちが」
刺々しく吐き捨てながら、悠真が潤くんに冷たい視線を送る。
「これ以上繰り返すようなら、ここにいられなくしますよ」
「分かった。分かったよ、もうしないから」
面倒くさそうに言ってから、潤くんは私の方を見た。
「またね、杏ちゃん」
生気のない瞳で私を見つめ、潤くんは口元だけで笑った。こわ……。
「何度も、何度も、しつこい……」
去っていく潤くんの背中をにらみながら、悠真が疲れたように言う。
「ゆ、悠真! ありがとう」
なんだかうずうずして、黙っていられなくなって、声をかける。
「ああ、」
「悠真も合気道習ってたの? さっきの、すごかったね!」
「無理しなくていいよ」
矢継ぎ早にしゃべり続ける私の言葉に被せるようにして言って、悠真は私の目をじっと見つめる。
「え? 何……」
「震えてる」
ふいに手を握られ、心臓が止まりそうになった。
「怖かったよね。ごめん」
悠真が謝ることないのに。
本当は、そう言いたかった。だけど、悠真の声があまりにも優しくて、気を抜いたら涙が出そうで、コクコク頷くだけで精一杯だった。
「もう大丈夫」
私の手を握っていた悠真の手が離れ、ぎゅっと抱きしめられた。
悠真の身体は思ったよりも大きくて、ちゃんと男の人で、すごくドキドキする。それなのに、安心できた。
「悠真……」
そーっと悠真の背に手を回そうとする。
「あなたたち、道端で何してるの?」
!?
突然声をかけられ、慌てて身体を離す。
視線をさまよわせると、呆れたように私たちを見ているお母さんと目が合った。買い物帰りなのか、両手に買い物バッグを持っている。
「悠真くんと付き合ってたの?」
呆れたようなお母さんの視線がニヤけたものに変わる。
「ちがっ。これは、道端で危険が迫ってきて、悠真が助けてくれて、それでっ。とにかく、付き合ってるとかじゃないから!」
全く言い訳になっていない言い訳をしてみるけど、お母さんは含み笑いを浮かべたまま。
「ね! 悠真?」
隣にいる悠真を見上げ、助けを求める。
けれど、悠真は苦笑いを浮かべるばかりで、何も言ってくれなかった。
もうっ。さっきはすっごくかっこよかったのに、こういうときには助けてくれないんだから~……。
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