上 下
38 / 44

38話 完全にデジャヴ

しおりを挟む
 夏休み中に勉強をがんばったのが良かったのか、サッカーの話題で盛り上がったのか良かったのか。広夢くんの好感度は、びっくりするくらいに簡単に上がっていった。

 このままだったら、3月までかからなくてもクリアできるかも~。なんて、ちょっとだけ心に余裕が生まれてきた一方で、気にかかることが二つ。

 一つは、千夏ちゃんのこと。
 悠真は気にしない方がいいって言うけど、やっぱり気になってしまう。

 もう一つは、潤くん。
 千夏ちゃんはまだいいとしても、明らかにハッピーエンド妨害要因の潤くんは無視するわけにもいかない。一成先輩ルートの時と同じく、今回もガンガン好感度上がっちゃってるし。そんなに私のこと殺したいのか……。

 千夏ちゃんの目を気にしつつも、広夢くんの好感度を上げながら、とにかく潤くんと遭遇しないように避けて避けて避けまくる毎日。

 そうして、いよいよ文化祭が週末に開催される週の水曜日を迎える。

 文化祭準備の追い込みで下校時間が遅くなり、夕日も沈み、辺りは暗くなりはじめていた。駅から離れると人気も少なくなり、ちょっと怖くなって早足で歩く。

「杏ちゃん」

 しばらくして、後ろから誰かに声をかけられた。

 ものすごーく、嫌な予感。完全にデジャヴ。というか、もう絶対潤くんじゃん。

 このまま振り向かずに走り去りたいけど、そんなことしたら後ろからぶっすり刺されそう。


 仕方なく足を止め、後ろを振り向く。

「どうして俺を避けるの?」

 そう言った潤くんの瞳は、やっぱり生気がなかった。

「避けてなんか……」
「避けてるよ。他の男とは話すくせに」

 好感度上げても、ヤンデレ彼氏エンドになって刺される。避けても、逆恨みして刺される。

 私はどうしたらいいの。

「杏ちゃんも俺を裏切るんだね」

 私が固まっている間にも、潤くんは何度も聞いた言葉を口にする。そして、完全に光を失った瞳をこちらに向けたまま、潤くんはポケットに手をやった。

 ……マズイ。
 今回は、前回のように守ってくれる人もいない。
 自分でどうにかしなきゃ。

 たしか、一成先輩に凶器を持った相手への護身術を教えてもらったはず。けど、えっと、どうするんだっけ。

 パニックになっている私を待たずして、潤くんがゆっくりと近づいてくる。右手には、むきだしになったナイフ。

 ひっ。また、バッドエンド……?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

愛すべきマリア

志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。 学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。 家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。 早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。 頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。 その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。 体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。 しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。 他サイトでも掲載しています。 表紙は写真ACより転載しました。

【完結】ヤンデレ設定の義弟を手塩にかけたら、シスコン大魔法士に育ちました!?

三月よる
恋愛
14歳の誕生日、ピフラは自分が乙女ゲーム「LOVE/HEART(ラブハート)」通称「ラブハ」の悪役である事に気がついた。シナリオ通りなら、ピフラは義弟ガルムの心を病ませ、ヤンデレ化した彼に殺されてしまう運命。生き残りのため、ピフラはガルムのヤンデレ化を防止すべく、彼を手塩にかけて育てる事を決意する。その後、メイドに命を狙われる事件がありながらも、良好な関係を築いてきた2人。 そして10年後。シスコンに育ったガルムに、ピフラは婚活を邪魔されていた。姉離れのためにガルムを結婚させようと、ピフラは相手のヒロインを探すことに。そんなある日、ピフラは謎の美丈夫ウォラクに出会った。彼はガルムと同じ赤い瞳をしていた。そこで「赤目」と「悪魔と黒魔法士」の秘密の相関関係を聞かされる。その秘密が過去のメイド事件と重なり、ピフラはガルムに疑心を抱き始めた。一方、ピフラを監視していたガルムは自分以外の赤目と接触したピフラを監禁して──?

夫には愛人がいたみたいです

杉本凪咲
恋愛
彼女は開口一番に言った。 私の夫の愛人だと。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

転生悪役令嬢の前途多難な没落計画

一花八華
恋愛
斬首、幽閉、没落endの悪役令嬢に転生しましたわ。 私、ヴィクトリア・アクヤック。金髪ドリルの碧眼美少女ですの。 攻略対象とヒロインには、関わりませんわ。恋愛でも逆ハーでもお好きになさって? 私は、執事攻略に勤しみますわ!! っといいつつもなんだかんだでガッツリ攻略対象とヒロインに囲まれ、持ち前の暴走と妄想と、斜め上を行き過ぎるネジ曲がった思考回路で突き進む猪突猛進型ドリル系主人公の(読者様からの)突っ込み待ち(ラブ)コメディです。 ※全話に挿絵が入る予定です。作者絵が苦手な方は、ご注意ください。ファンアートいただけると、泣いて喜びます。掲載させて下さい。お願いします。

処理中です...