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31話 リセットされないわけ
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「おーい、どしたー?」
「杏ちゃん?」
千夏ちゃんと柚ちゃんに同時に声をかけられ、ハッとする。立ったまま、ぼんやりしてしまっていたらしい。
ダメだ、やっぱり一成先輩のことが気になる。
「これ、あげる」
「え? ちょっと、杏?」
買ったばかりのコーンおにぎりを千夏ちゃんにおしつけ、教室から飛び出す。
「うわっ」
「ご、ごめんなさいっ」
いきなり飛び出した私のせいで、男子とぶつかりそうになっちゃった。ちゃんと謝らなきゃと思って見上げると、そこにあったのはよく見知った顔――悠真だった。
「そんなに急いでどこに行くつもり?」
少し呆れた顔をしてみせる悠真。
「悠真に会いに行こうと思ってたの。悠真は、……」
「僕も。杏に会いにきた」
ここにいるってことはもしかしてとは思ってたけど、やっぱりそうだったみたい。
「悠真、あのね。一成先輩に彼女ができて、ハートが」
言葉の途中で、悠真がしっと人差し指を口に当てる。
「こっち」
悠真は手招きして、階段を下りていく。私もその後をおって、階段を下りる。
どこまで行くのかなって思ってたら、結局三階から一階まで下りて中庭にきた。
教室で過ごす人がほとんどだから、昼休みの中庭にはほとんど人がいない。中庭の隅――植木の近くで、悠真は私に話の続きを促した。
「それで?」
「一成先輩に彼女ができて、バッドエンドになったんだ。それなのにリセットされてないし、ハートまでなくなっちゃったの」
混乱していてあまり上手く伝えられなかったけど、とにかく今日あったことを訴える。
「ああ、それね」
悠真は腕を組み、小さく頷く。
「バッドエンドになったら、やり直せるんじゃないの?」
「やり直せるよ。杏はまだこの世界にいるでしょ」
「でも、……」
一成先輩にはまだ彼女がいて、ハートもなかったら、やり直すも何もないような。
「杏にとってはバッドエンドでも、彼女ができた松永さんにとってはハッピーエンドってこと」
悠真が真顔で言う。
「それって……」
どういう意味なんだろう。頭がこんがらがってきた。
「松永さんだけ攻略対象から外れたんだよ」
息を吐きながら、悠真は目を伏せた。
「ええっ!? じゃ、じゃあ、もう攻略不可なの?」
思わず大きな声が出ちゃった。
少し離れたベンチに座っているカップルがびっくりして、こちらを見ている。
悠真は猫みたいな目を嫌そうに細め、肩をすくめた。
「彼女から奪う根性があるなら、攻略してみてもいいんじゃない」
悠真は半目で私を見ながら、恐ろしい提案をする。
「え、いや、さすがにそれは、無理、かな」
あの可愛くて有名な西園寺さんと張り合うなんて絶対無理だし、そもそも奪うっていうのもちょっと。
「杏ちゃん?」
千夏ちゃんと柚ちゃんに同時に声をかけられ、ハッとする。立ったまま、ぼんやりしてしまっていたらしい。
ダメだ、やっぱり一成先輩のことが気になる。
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「悠真に会いに行こうと思ってたの。悠真は、……」
「僕も。杏に会いにきた」
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「悠真、あのね。一成先輩に彼女ができて、ハートが」
言葉の途中で、悠真がしっと人差し指を口に当てる。
「こっち」
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どこまで行くのかなって思ってたら、結局三階から一階まで下りて中庭にきた。
教室で過ごす人がほとんどだから、昼休みの中庭にはほとんど人がいない。中庭の隅――植木の近くで、悠真は私に話の続きを促した。
「それで?」
「一成先輩に彼女ができて、バッドエンドになったんだ。それなのにリセットされてないし、ハートまでなくなっちゃったの」
混乱していてあまり上手く伝えられなかったけど、とにかく今日あったことを訴える。
「ああ、それね」
悠真は腕を組み、小さく頷く。
「バッドエンドになったら、やり直せるんじゃないの?」
「やり直せるよ。杏はまだこの世界にいるでしょ」
「でも、……」
一成先輩にはまだ彼女がいて、ハートもなかったら、やり直すも何もないような。
「杏にとってはバッドエンドでも、彼女ができた松永さんにとってはハッピーエンドってこと」
悠真が真顔で言う。
「それって……」
どういう意味なんだろう。頭がこんがらがってきた。
「松永さんだけ攻略対象から外れたんだよ」
息を吐きながら、悠真は目を伏せた。
「ええっ!? じゃ、じゃあ、もう攻略不可なの?」
思わず大きな声が出ちゃった。
少し離れたベンチに座っているカップルがびっくりして、こちらを見ている。
悠真は猫みたいな目を嫌そうに細め、肩をすくめた。
「彼女から奪う根性があるなら、攻略してみてもいいんじゃない」
悠真は半目で私を見ながら、恐ろしい提案をする。
「え、いや、さすがにそれは、無理、かな」
あの可愛くて有名な西園寺さんと張り合うなんて絶対無理だし、そもそも奪うっていうのもちょっと。
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