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16話 噂
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◇
その日のお昼休み。いつものように千夏ちゃんと柚ちゃんと机をくっつけ、お弁当を広げる。
たわいない話をしながらご飯を食べていたら、柚ちゃんが少し身を乗り出し、声をひそめた。
「ねぇ、杏ちゃん。彼氏出来たって、ほんと?」
「え?」
彼氏? 予想もしていなかったことを言われ、反応が遅れてしまう。私が反応出来ないでいる間に、今度は千夏ちゃんが続けた。
「杏に好きな人がいるなんて知らなかった。言ってよ」
笑みを浮かべながらも、千夏ちゃんは少し寂しそうに言う。柚ちゃんも「そうだよねぇ」と千夏ちゃんに同意した。
どういうこと?
さっきから私に彼氏がいるていで二人とも話してるけど、もちろん私に彼氏はいない。
「まって、ごめん。何の話?」
二人の顔色を伺うように、おずおずとそう言う。柚ちゃんと千夏ちゃんは私をじっと見てから、二人して顔を見合わせた。
「うちのクラスの子が、杏と彼氏が一緒にいるとこ何度も見かけたって」
そう切り出したのは、千夏ちゃんだった。
そんなこと言われても彼氏なんて……――あ、もしかして。
「それって、吉川潤くんのこと?」
ここのところ毎日補習の帰りは潤くんと一緒だったし、それを誰かに見られたのかもしれない。そう思ったのだけど。
「吉川潤って隣のクラスの? 一年生の三木悠真って子と付き合ってるんじゃないの?」
「えっ。悠真と? 付き合ってないよ!」
そっちかぁ。思ってた人とは違ったけど、急いで千夏ちゃんの言葉を否定しておく。私がさらに言葉を続ける前に、柚ちゃんが口を開いた。
「でも、毎日一緒に学校に来てるんだよね?」
柚ちゃんは不思議そうに首を傾げ、上目遣いで私を見つめる。……そんな噂が?
「一緒には来てるけど、家が隣だからだよ。悠真とは、小さい頃からの幼なじみなの」
「幼なじみだからって、男子には変わりないでしょ。付き合ったりしないの?」
「そうそう。けっこうかっこいい子らしいけど~」
「つ、付き合わないよ」
千夏ちゃんと柚ちゃんに詰められ、私は首を横に振る。
だって、悠真は攻略対象じゃないし。ハートついてないから。なんて、言えるわけないよね。
「物心つく前から一緒だからね。悠真は弟みたいなものなの」
苦笑いを浮かべつつ、そう補足しておいた。
弟みたいなものというか、本当は同僚みたいなもの。でも、やっぱりこれも二人には言えない。
ゲームの中の人間とはいえ、友達を騙してるみたいで少し心苦しくなる。それでも、本当のことなんて言えるわけないんだけど……。
「そういうものなんだ?」
千香ちゃんは、なんだかあまり納得がいっていないような顔をしてる。
「うん」
「ふぅん。ま、そっちはいいや。で? さっき何で吉川潤の名前が出てきたの?」
「私もそれ知りたぁい」
鋭い視線を私に向ける千夏ちゃんと、大きな目を輝かせる柚ちゃん。……やっぱり、そうなるよね。
二人に問い詰められ、私は潤くんとのことを洗いざらい吐く羽目に。ちょっとからかわれたけど、最終的には二人とも応援するって言ってくれたんだ。友達と恋バナ、懐かしい。
その日のお昼休み。いつものように千夏ちゃんと柚ちゃんと机をくっつけ、お弁当を広げる。
たわいない話をしながらご飯を食べていたら、柚ちゃんが少し身を乗り出し、声をひそめた。
「ねぇ、杏ちゃん。彼氏出来たって、ほんと?」
「え?」
彼氏? 予想もしていなかったことを言われ、反応が遅れてしまう。私が反応出来ないでいる間に、今度は千夏ちゃんが続けた。
「杏に好きな人がいるなんて知らなかった。言ってよ」
笑みを浮かべながらも、千夏ちゃんは少し寂しそうに言う。柚ちゃんも「そうだよねぇ」と千夏ちゃんに同意した。
どういうこと?
さっきから私に彼氏がいるていで二人とも話してるけど、もちろん私に彼氏はいない。
「まって、ごめん。何の話?」
二人の顔色を伺うように、おずおずとそう言う。柚ちゃんと千夏ちゃんは私をじっと見てから、二人して顔を見合わせた。
「うちのクラスの子が、杏と彼氏が一緒にいるとこ何度も見かけたって」
そう切り出したのは、千夏ちゃんだった。
そんなこと言われても彼氏なんて……――あ、もしかして。
「それって、吉川潤くんのこと?」
ここのところ毎日補習の帰りは潤くんと一緒だったし、それを誰かに見られたのかもしれない。そう思ったのだけど。
「吉川潤って隣のクラスの? 一年生の三木悠真って子と付き合ってるんじゃないの?」
「えっ。悠真と? 付き合ってないよ!」
そっちかぁ。思ってた人とは違ったけど、急いで千夏ちゃんの言葉を否定しておく。私がさらに言葉を続ける前に、柚ちゃんが口を開いた。
「でも、毎日一緒に学校に来てるんだよね?」
柚ちゃんは不思議そうに首を傾げ、上目遣いで私を見つめる。……そんな噂が?
「一緒には来てるけど、家が隣だからだよ。悠真とは、小さい頃からの幼なじみなの」
「幼なじみだからって、男子には変わりないでしょ。付き合ったりしないの?」
「そうそう。けっこうかっこいい子らしいけど~」
「つ、付き合わないよ」
千夏ちゃんと柚ちゃんに詰められ、私は首を横に振る。
だって、悠真は攻略対象じゃないし。ハートついてないから。なんて、言えるわけないよね。
「物心つく前から一緒だからね。悠真は弟みたいなものなの」
苦笑いを浮かべつつ、そう補足しておいた。
弟みたいなものというか、本当は同僚みたいなもの。でも、やっぱりこれも二人には言えない。
ゲームの中の人間とはいえ、友達を騙してるみたいで少し心苦しくなる。それでも、本当のことなんて言えるわけないんだけど……。
「そういうものなんだ?」
千香ちゃんは、なんだかあまり納得がいっていないような顔をしてる。
「うん」
「ふぅん。ま、そっちはいいや。で? さっき何で吉川潤の名前が出てきたの?」
「私もそれ知りたぁい」
鋭い視線を私に向ける千夏ちゃんと、大きな目を輝かせる柚ちゃん。……やっぱり、そうなるよね。
二人に問い詰められ、私は潤くんとのことを洗いざらい吐く羽目に。ちょっとからかわれたけど、最終的には二人とも応援するって言ってくれたんだ。友達と恋バナ、懐かしい。
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