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15話 そんなに簡単じゃない
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◇
その日以降、補習が終わってから毎日潤くんは私の家まで送ってくれた。
夜は必ず電話かメッセージをくれるし、これってかなりいい感じ? 好感度も半分ぐらいまで上がってきたし、私の自惚れじゃない……よね?
ハッピーエンドを迎えなきゃという使命よりも、純粋に今の状態がすごく楽しい。気になってる男の子と付き合う一歩手前の状態って、こんなに楽しいんだ。
もうゲームクリアとか再就職とかどうでもいいから、潤くんとこの世界にずっと一緒にいたいな。
そんなことを思ってしまうくらいには、今の私は浮かれてたんだと思う。
「毎日補習しかやってないわりには、ずいぶん楽しそうだね」
補習が始まってから五日後の登校時、電車の中。冷ややかな目でこちらを見てきた悠真に嫌味を言われてしまうくらいには。
「実は、補習の時に知り合った人と仲良くなったんだ」
悠真への報告は補習終わってからでいいかなぁと思ってたけど、そろそろいいよね。ほぼほぼ潤くんルートで確定だし。
「誰?」
「吉川潤くん」
当然のように聞き返されたので、潤くんの名前を教える。悠真は一度「吉川潤ね」とつぶやいてから、スマホで情報を検索していた。
「すっごく優しくて、いい人なの」
悠真は、じっくりスマホの画面を見ていた。待ちきれなくて、横から話しかける。
「優しくて、いい人……? 吉川潤が……?」
スマホから私の方に視線を向けたと思ったら、悠真はなぜか怪訝そうな表情を浮かべた。
え。私、何か変なこと言ったかな?
「そうだよ……?」
悠真の反応に少し不安になったものの、間違ったことは言ってないはず。だけど、悠真の顔は険しいまま。
「どういうところが?」
「え? 家まで送ってくれるし、話してても楽しいところ?」
具体的にどういうところって言われても困るけど、話してても優しい人なんだなって思うし、それだけじゃダメなの?
だんだん自信がなくなってきて後半は声が小さくなりながらも、悠真に潤くんの良さを伝える。しばらくして、悠真が伏し目がちにため息をついた。
「杏は詐欺に遭いやすいタイプだよね」
「そんなこと、……」
ない、と思うんだけど、はっきりとは否定出来なかった。悠真の会社からの怪しげな誘いにノコノコ応じたあげく、半分騙されたような形でゲームの世界に生きてるんだから、ある意味詐欺にあったようなものなのかも。
でも、その件と潤くんのことは関係ないはず。
「悠真としては、潤くんは反対なの?」
「そうじゃないよ」
悠真の態度が気になって、聞いてみる。そうしたら、悠真はすぐに否定した。
「でも、……」
「僕は、杏の攻略をサポートしたいだけ。反対も賛成も出来る立場じゃないから」
立場、か。
納得出来るような出来ないような返事を返されて、やっぱりモヤモヤが残る。
「反対はしないけど、ひとつだけ言わせて」
しばらく沈黙があったあと、悠真からそう切り出された。
「うん……?」
「吉川潤は、そんなに簡単じゃないよ。浮かれてるみたいだけど、気をつけて」
「え、わ、分かった。気をつける、ね」
簡単じゃないって?
順調に好感度上がってるみたいだけど、ここからが難しいとか?
どういう意味なのか気になったけど、なんだか聞きづらい。
結局それきり会話がないまま、私たちは学校に着いた。
その日以降、補習が終わってから毎日潤くんは私の家まで送ってくれた。
夜は必ず電話かメッセージをくれるし、これってかなりいい感じ? 好感度も半分ぐらいまで上がってきたし、私の自惚れじゃない……よね?
ハッピーエンドを迎えなきゃという使命よりも、純粋に今の状態がすごく楽しい。気になってる男の子と付き合う一歩手前の状態って、こんなに楽しいんだ。
もうゲームクリアとか再就職とかどうでもいいから、潤くんとこの世界にずっと一緒にいたいな。
そんなことを思ってしまうくらいには、今の私は浮かれてたんだと思う。
「毎日補習しかやってないわりには、ずいぶん楽しそうだね」
補習が始まってから五日後の登校時、電車の中。冷ややかな目でこちらを見てきた悠真に嫌味を言われてしまうくらいには。
「実は、補習の時に知り合った人と仲良くなったんだ」
悠真への報告は補習終わってからでいいかなぁと思ってたけど、そろそろいいよね。ほぼほぼ潤くんルートで確定だし。
「誰?」
「吉川潤くん」
当然のように聞き返されたので、潤くんの名前を教える。悠真は一度「吉川潤ね」とつぶやいてから、スマホで情報を検索していた。
「すっごく優しくて、いい人なの」
悠真は、じっくりスマホの画面を見ていた。待ちきれなくて、横から話しかける。
「優しくて、いい人……? 吉川潤が……?」
スマホから私の方に視線を向けたと思ったら、悠真はなぜか怪訝そうな表情を浮かべた。
え。私、何か変なこと言ったかな?
「そうだよ……?」
悠真の反応に少し不安になったものの、間違ったことは言ってないはず。だけど、悠真の顔は険しいまま。
「どういうところが?」
「え? 家まで送ってくれるし、話してても楽しいところ?」
具体的にどういうところって言われても困るけど、話してても優しい人なんだなって思うし、それだけじゃダメなの?
だんだん自信がなくなってきて後半は声が小さくなりながらも、悠真に潤くんの良さを伝える。しばらくして、悠真が伏し目がちにため息をついた。
「杏は詐欺に遭いやすいタイプだよね」
「そんなこと、……」
ない、と思うんだけど、はっきりとは否定出来なかった。悠真の会社からの怪しげな誘いにノコノコ応じたあげく、半分騙されたような形でゲームの世界に生きてるんだから、ある意味詐欺にあったようなものなのかも。
でも、その件と潤くんのことは関係ないはず。
「悠真としては、潤くんは反対なの?」
「そうじゃないよ」
悠真の態度が気になって、聞いてみる。そうしたら、悠真はすぐに否定した。
「でも、……」
「僕は、杏の攻略をサポートしたいだけ。反対も賛成も出来る立場じゃないから」
立場、か。
納得出来るような出来ないような返事を返されて、やっぱりモヤモヤが残る。
「反対はしないけど、ひとつだけ言わせて」
しばらく沈黙があったあと、悠真からそう切り出された。
「うん……?」
「吉川潤は、そんなに簡単じゃないよ。浮かれてるみたいだけど、気をつけて」
「え、わ、分かった。気をつける、ね」
簡単じゃないって?
順調に好感度上がってるみたいだけど、ここからが難しいとか?
どういう意味なのか気になったけど、なんだか聞きづらい。
結局それきり会話がないまま、私たちは学校に着いた。
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