どんな選択肢を選んでも失敗エンドを迎える現代学園物乙女ゲームのヒロインになりましたが、ハッピーエンドを目指したいと思います!

春音優月

文字の大きさ
上 下
10 / 44

10話 佐久間広夢登場

しおりを挟む
 二年生の下駄箱に張り出されていた紙を見たら、私は二年二組だった。案内の通りに階段を一つ上り、二年二組の教室に向かう。
 
 教室に入ると、二人の女の子が私に近寄ってきた。
 
「おはよう、杏」
「杏ちゃ~ん、今年もみんな同じクラスで良かったぁ」
 
 まぶしい笑顔を向けてくれた背の高い女の子は、たぶん香田千夏《こうだちなつ》ちゃん。
 黒髪を高い位置でポニーテールにしている。女子サッカー部らしく、日に焼けた肌が健康的で、スポーティーな雰囲気の美人だ。
 
 抱きついてきた方の子は、私よりも少し背が低いから、東条柚《とうじょうゆず》ちゃんかな?
 手芸部所属のおとなしめの子みたいで、りすっぽい雰囲気で可愛い。ふわふわの栗色ヘアを、耳の辺りで二つにくくっている。
 
 二人とも、一年生の時からの私の親友らしい。
 
「おはよ、千夏ちゃん、柚ちゃん。今年もよろしくね」
 
 悠真が教えてくれた情報を元に彼女たちの名前を呼ぶと、二人とも笑顔を返してくれた。良かった、名前合ってたみたい。
 
「今日は番号順に座るらしいよ。杏は、佐久間広夢《さくまひろむ》の隣」
 
 千夏ちゃんはそう言って、友達に囲まれて笑っている男の子を目線で示した。
 
「佐久間くんって、たしかサッカー部だよね。千夏ちゃん仲良いの?」
 
 続けて、柚ちゃんが上目遣いで千香ちゃんに尋ねる。
 
「それなりにね。いいやつだよ。杏もすぐ仲良くなれると思う」
「そ、そっか。とりあえず挨拶してくるね」
 
 クラスに友達がいるみたいで安心したものの、他に友達出来るか心配だな。ただでさえ人見知りなのに、今さら高校生の中に入っていけるのか……。

 それでも、これがゲームだと思うと、ほんの少しだけ気が軽くなる。無職を回避するためにも、ゲームの中でまでコミュ障発揮してる場合じゃないよね。
 
 さっき悠真から勧められた松永先輩も、本当はちょっと気になる。でも親しくなるなら同じ学年の方が手っ取り早いだろうし、クラスにも攻略対象の子がいるといいなぁ。
 
「お、はよ~……」
 
 後ろから、小声で挨拶をする。
 すると、みんなすぐに挨拶を返してくれて、私が座るらしい席を空けてくれた。みんな優しい。
 
 軽く頭を下げてから、席に着く。そうしたら、隣の席に座っている男の子と目が合う。
 
「隣の席みたいだね、よろしく」
 
 明るめのオレンジブラウンの髪、ヘーゼルの瞳。元気いっぱいのわんこみたいな雰囲気の彼は、ニッと気持ちの良い笑顔を見せてくれた。
 
 しかも、胸の辺りに空っぽのハートがついている。枠だけはピンク色の、例のあれ。
 
「う、うん。花井杏です、よろしくね」
「杏ちゃんだね。オレは佐久間広夢。広夢でいいよ」
「広夢、くん」
 
 フレンドリーに挨拶してくれた彼の名前を呼ぶ。
 
 広夢くんがもう一度笑顔を見せてくれたと同時に、彼のハートの真ん中にほんの少しだけピンク色がついた。
 
 挨拶しただけで、好感度が上がった……?
 そんなこともあるんだ。
 
 広夢くんか。わんこみたいで可愛いのに、かっこいい。いきなりこんなイケメンが隣の席なんて、もしかしてめちゃめちゃ運が良いんじゃない?
 
 しかも、攻略対象みたいだし。
 単純かもしれないけど、なんかこれからの学校が楽しみになってきた。
 
 体育祭は好きな人の活躍を見て、学園祭は彼氏と一緒に回って、クリスマスやお正月も一緒に過ごす。放課後デートもいいよね。
 
 高校生の時は、結局好きな人に告白出来ずに終わってしまった。

 考えてみたら、これって理想の高校生活を疑似体験するチャンスなんじゃない?
 
 不安ばっかりだったけど、ちょっと楽しみになってきたかも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

冷遇する婚約者に、冷たさをそのままお返しします。

ねむたん
恋愛
貴族の娘、ミーシャは婚約者ヴィクターの冷酷な仕打ちによって自信と感情を失い、無感情な仮面を被ることで自分を守るようになった。エステラ家の屋敷と庭園の中で静かに過ごす彼女の心には、怒りも悲しみも埋もれたまま、何も感じない日々が続いていた。 事なかれ主義の両親の影響で、エステラ家の警備はガバガバですw

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

【完結】【35万pt感謝】転生したらお飾りにもならない王妃のようなので自由にやらせていただきます

宇水涼麻
恋愛
王妃レイジーナは出産を期に入れ替わった。現世の知識と前世の記憶を持ったレイジーナは王子を産む道具である現状の脱却に奮闘する。 さらには息子に殺される運命から逃れられるのか。 中世ヨーロッパ風異世界転生。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

処理中です...