どんな選択肢を選んでも失敗エンドを迎える現代学園物乙女ゲームのヒロインになりましたが、ハッピーエンドを目指したいと思います!

春音優月

文字の大きさ
上 下
7 / 44

7話 人生を変える最後のチャンス

しおりを挟む
「ここは、『わくわくスクールメモリー』の世界です」
 
 なんとなくそうじゃないかとは思っていた。
 だけど、三木さんからはっきり言われ、予想以上に衝撃を受けてしまう。
 
「何でゲームの中に入れるんですか?」
「分かりません」
「分からないって……」
「呪われてるって言ったじゃないですか。プログラミング通りにゲームが作動しないし、おかしいんですよ」
 
 そんなことあるの?
 科学が発達して人間が仮想世界で暮らす、なんて日がもしかしたらいつかは来るのかもしれない。でも、そういう感じでもなさそうだし、呪いって何?
 
「ですが、生身の人間の行動でこの世界は変わるみたいなんですよ」
「なるほど。外側からバグを直そうとしても直らないから、バッドエンドだらけのゲームを内側から変えようというわけですね」
「理解が早くて助かります」
 
 三木さんは猫目を細め、満足気に笑う。
 私が考えていたお仕事とは、全く違うことをやらされるみたい。思わずため息をつきたくなってしまった。
 
「でも、あの……、困ります。こんなの聞いてませんし、私、……出来ません」
 
 高校生だったのは十年も前なのに、上手くやれる気がしない。それにいくらゲームとはいっても、本物みたいな高校生の男の子と恋愛なんて出来ないよ。
 
 高校生の時に彼氏なんていなかったし、……。大学生の時に付き合って即フラれた彼氏(?)がいるぐらいで、まともな恋愛経験もない。
 
 そんな私がバッドエンドだらけの世界でハッピーエンドを迎える? そんなの、絶対無理だよ。
 
「そうですか、分かりました」
 
 わりとあっさり引いてくれた? と、思ったのも束の間。
 
「また、無職に戻るんですね?」
 
 三木さんはすっと目を細め、私の心臓をえぐった。
 もう、みんなして無職無職って。一番言われたくないことを言わないでくれるかな。実際無職だから、言われても仕方ないんだけどね……。
 
「出来ないとおっしゃるのなら、仕方ありません。無理強いは出来ませんから。でも、花井さんは本当にそれでよろしいんですね? 三十才目前にして無職、お母様もさぞご心配でしょう」
「ちょ……っ。こんな道端で無職無職連呼しないでくださいよ。あと、私はまだ二十七才ですからっ」
 
 キョロキョロと辺りを見回して誰もいないことを確認してから、三木さんに詰め寄った。三木さんは悪びれもせず、平然とした顔をしている。
 
「僕も花井さんと同じ立場ですよ」
「え?」
「一作目は売れてくれましたが、評判は最悪。二作目の初動は厳しいでしょうね。社運をかけたこのプロジェクトが失敗したら、社は倒産。僕は無職です」
 
 三木さんは、真顔でそんなことを言い始めた。
 
 たしかに、ゲームは評判も大事。
 あそこまで低評価レビューついちゃったら、次作で盛り返すのは相当厳しいよね。
 
「でも、三木さんはまだ若いし、他の会社に再就職出来ますよ」
「失敗作を生み出して、一作で会社を潰した制作チームの人間をどこの会社が雇ってくれるんですか?」
「そう言われると……」
 
 悪い意味で爪痕残しちゃったし、もしまたゲーム会社に再就職したいのなら、三木さんは私以上に厳しい状況なのかも。とは言っても、三木さんとは友達でもないし、昔からの知り合いというわけでもないし、会ったばかりの赤の他人。
 
 三木さんが無職になろうが路頭に迷おうが、私に助ける義理はない。でも、……。
 
 無職、か。
 そうだよね。ここでこの仕事を断ったら、また無職に戻るんだよね。

 ニートして親に迷惑かけて、それで最終的に困った私は、髪の毛が大幅に後退した五十代の男性と結婚して、きっと職も夢もない人生を過ごす。
 
 そんな未来を想像したら、ゾッとした。
 
「誰でもこの世界に入れるわけじゃないんですよ」
 
 うつむいて考え込んでいたら三木さんに声をかけられ、私は顔を上げる。
 
「そうなんですか?」
「はい、人生をやり直したいと思っている人だけなんです」
 
 視線を上げると、三木さんのアンバーの瞳と目が合った。
 
 人生をやり直したい……。
 たしかに、私はそう思ってた。
 
 職も夢も彼氏もお金も何もない、失敗ばかりの人生をやり直したいって。いつも逃げてばっかりの自分を変えたいって。
 
 それなのに、また逃げるの?
 せっかく目の前にチャンスがあるのに?
 また無職に逆戻り?
 
「やり、直したいです。人生を変えたいです、私」
「それなら、やりましょう。過去は変えられませんが、未来は変えられます。ハッピーエンドを迎えて、一緒に無職を回避しましょう」
「……はいっ」
 
 怪しいし、訳の分からない状況。断って、無難な会社に再就職出来るようにがんばった方が良かったのかもしれない。
 
 それでも、気がついたら私は頷いていた。
 だって、きっとこれが人生を変える最後のチャンスだと思ったから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

婚約破棄を望むなら〜私の愛した人はあなたじゃありません〜

みおな
恋愛
 王家主催のパーティーにて、私の婚約者がやらかした。 「お前との婚約を破棄する!!」  私はこの馬鹿何言っているんだと思いながらも、婚約破棄を受け入れてやった。  だって、私は何ひとつ困らない。 困るのは目の前でふんぞり返っている元婚約者なのだから。

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

処理中です...