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4話 三木悠真登場
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◇
あれから何度かやりとりをして、数日が経った今日、私は例のゲーム会社に出向くことになった。
スーツを着てメイクをして、再就職の面接だとお母さんに言ってから家を出る。嘘はついてないよね、……だいぶ怪しいってだけで。
実家の最寄り駅から地下鉄で五駅ほど移動した都心部。まだ新しいオフィスビルに入り、エレベーターで七階まで上がる。すると、受付にいる若い女性と目が合った。
「花井杏と申しますが、三木さんいらっしゃいますか? 十五時から面談の約束をさせて頂いております」
「花井杏さまですね。少々お待ちください」
にこやかに応対してくれた女性が、内線で連絡を取ってくれたみたい。しばらくして、黒いスーツを着た男の人がこちらに来た。
この人が、三木さんかな。
年はたぶん私と同じくらいか、少し下くらい。身長は160センチの私よりはだいぶ高いけど、男性の平均身長よりやや高いぐらいかも?
ミルクティーベージュの猫っ毛、猫みたいにきゅっと目尻の上がったアンバーの瞳。顔立ちは整ってるにしてもツンとしてるというか、なんとなくとっつきにくそうな感じ。
「初めまして、三木悠真と申します。本日はお忙しいなか弊社までお越し頂き、ありがとうございました」
そんな失礼なことを思っていたら、丁寧に頭を下げられた。
「……あ、花井杏です。こちらこそ……?」
慌てて挨拶を返すも、今のは社会人としてダメだったかなと反省する。最近家族以外とまともに話してないから、コミュ障がますますひどくなってる気がするな。
「こちらでお話しましょう」
三木さんは顔色も変えず、淡々と告げる。三木さんに案内され、私も彼の後についていく。
「先日のお話は考えて頂けましたか。ご不明な点や条件面で確認しておきたいことがございましたら、ご相談ください」
応接室のようなところで二人きりになった途端、三木さんは早速本題を切り出した。正面に座っている三木さんをチラリと見る。
「私としてはとてもありがたいお話なんですが。経験もありませんし、お役に立てるのかが心配です。最短で一年、最長で二年でしたよね?」
ただのゲーム好きというだけで、ゲーム業界に携わったこともない。ただの素人に長期間、しかも住み込みの仕事なんて任せて大丈夫なのかな。
「そうですね。ご経験のことなら心配なさらないでください。花井さんの生き方や人物像が私どもの求める人材とマッチしておりましたので」
「はぁ……。コミュ障な二十七才のニート女がですか……」
簡単な経歴はメールでのやりとりで明かしたけど、何にもいいとこないよね。つい口から思ったことが出てしまう。すると、三木さんは猫のような目を細め、ゆるく口の端を上げた。
「あの?」
笑われた? もしかして、バカにされてる?
なんか失礼な人だなと思うも、よく考えたら私の方がよっぽど失礼か。いきなりクレーム送りつけるし、しかもその相手から仕事もらおうとしてるし。
「失礼いたしました。メールでの印象とずいぶん違っていらっしゃいますね」
「あ、あれはその……スミマセン。お客様根性丸出しだったというか、自分でも言い過ぎたなって反省してます」
痛いところをつかれ、しどろもどろになって言い訳をする。
「いえいえ、はっきりおっしゃって頂けて良かったです」
口元に笑みは浮かべているけど、三木さんの目は全く笑っていない。それに恐ろしさを感じつつも、とりあえず頷いておく。
あれから何度かやりとりをして、数日が経った今日、私は例のゲーム会社に出向くことになった。
スーツを着てメイクをして、再就職の面接だとお母さんに言ってから家を出る。嘘はついてないよね、……だいぶ怪しいってだけで。
実家の最寄り駅から地下鉄で五駅ほど移動した都心部。まだ新しいオフィスビルに入り、エレベーターで七階まで上がる。すると、受付にいる若い女性と目が合った。
「花井杏と申しますが、三木さんいらっしゃいますか? 十五時から面談の約束をさせて頂いております」
「花井杏さまですね。少々お待ちください」
にこやかに応対してくれた女性が、内線で連絡を取ってくれたみたい。しばらくして、黒いスーツを着た男の人がこちらに来た。
この人が、三木さんかな。
年はたぶん私と同じくらいか、少し下くらい。身長は160センチの私よりはだいぶ高いけど、男性の平均身長よりやや高いぐらいかも?
ミルクティーベージュの猫っ毛、猫みたいにきゅっと目尻の上がったアンバーの瞳。顔立ちは整ってるにしてもツンとしてるというか、なんとなくとっつきにくそうな感じ。
「初めまして、三木悠真と申します。本日はお忙しいなか弊社までお越し頂き、ありがとうございました」
そんな失礼なことを思っていたら、丁寧に頭を下げられた。
「……あ、花井杏です。こちらこそ……?」
慌てて挨拶を返すも、今のは社会人としてダメだったかなと反省する。最近家族以外とまともに話してないから、コミュ障がますますひどくなってる気がするな。
「こちらでお話しましょう」
三木さんは顔色も変えず、淡々と告げる。三木さんに案内され、私も彼の後についていく。
「先日のお話は考えて頂けましたか。ご不明な点や条件面で確認しておきたいことがございましたら、ご相談ください」
応接室のようなところで二人きりになった途端、三木さんは早速本題を切り出した。正面に座っている三木さんをチラリと見る。
「私としてはとてもありがたいお話なんですが。経験もありませんし、お役に立てるのかが心配です。最短で一年、最長で二年でしたよね?」
ただのゲーム好きというだけで、ゲーム業界に携わったこともない。ただの素人に長期間、しかも住み込みの仕事なんて任せて大丈夫なのかな。
「そうですね。ご経験のことなら心配なさらないでください。花井さんの生き方や人物像が私どもの求める人材とマッチしておりましたので」
「はぁ……。コミュ障な二十七才のニート女がですか……」
簡単な経歴はメールでのやりとりで明かしたけど、何にもいいとこないよね。つい口から思ったことが出てしまう。すると、三木さんは猫のような目を細め、ゆるく口の端を上げた。
「あの?」
笑われた? もしかして、バカにされてる?
なんか失礼な人だなと思うも、よく考えたら私の方がよっぽど失礼か。いきなりクレーム送りつけるし、しかもその相手から仕事もらおうとしてるし。
「失礼いたしました。メールでの印象とずいぶん違っていらっしゃいますね」
「あ、あれはその……スミマセン。お客様根性丸出しだったというか、自分でも言い過ぎたなって反省してます」
痛いところをつかれ、しどろもどろになって言い訳をする。
「いえいえ、はっきりおっしゃって頂けて良かったです」
口元に笑みは浮かべているけど、三木さんの目は全く笑っていない。それに恐ろしさを感じつつも、とりあえず頷いておく。
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