もしもいつも通りの明日が来なかったとしても

Stage2 始動

story22 異文化コミュニケーション

「ん……」
 
　お腹が空きすぎて気持ち悪くなってくるくらいの強烈な空腹感と共に、意識を取り戻す。
 
　どれくらい寝てたのか分からないけど、けっこう時間は経っているのかも。明るかった窓の外がすっかり暗くなっている。さすがにもう安静時間過ぎたよね。
 
　色々気になることや心配は尽きないけど、それは後で考えることにして、ひとまず何か食べたい。
 
　とりあえず電気をつけてみると、机の上に私のバッグと服が数着置かれていた。これ、私の服じゃないけど、着ていいってことなのかな？
 
　机の上に置かれた服を手に取って広げてみると、アフリカっぽいカラフルな柄のロング丈のワンピースだった。ちょっと派手だけど、可愛いよね。
 
　現地で買うつもりで着たから、ちょうど着替えもなかったし、ありがたく使わせてもらおうかな。
 
　シンプルな手術着から、用意されていたカラフルなワンピースに着替え、お気に入りの花柄の腕時計をつけてから病室を出る。
 
　ドアを開けて一歩踏み出した瞬間、廊下の壁にもたれかかっているブレットと目が合った。
　
「You woke up. let's go.（目が覚めたのか。行こう）」
「え……？　どこに？　ていうか、ずっとここにいたの？」
 
　あ、思わず日本語で言っちゃった。
　だって、目が合った途端に行こうって言われてもね。
　
「ごはん、たべに。ずっといた、わけじゃない。さっき、きた」
「……あれ？　日本語しゃべれるの？」
 
　英語で言い直そうとしたけど、予想外に日本語で答えが返ってきたから、また日本語で返しちゃった。てっきり日本語話せないって思い込んでたけど、実は話せるの？
 
「すこしだけ。……。Chiaki taught me Japanese. But I can't speak much, so it would be helpful if you could speak in English.（チアキに教えてもらった。でも、あまり話せないから、出来れば英語で話してくれると助かるよ）」
 
　ちょっとだけ恥ずかしそうにしているブレットがなんとなく可愛く感じる。ブレットってクールな印象だったからとっつきにくかったけど、少しだけでも日本語で話してくれたおかげで親しみが湧いてきたかも。
 
「OK！」
 
　笑顔で返事をして、ブレットのそばに近寄る。
 
「So who else will come? Chiaki?（それで、他には誰が来るの？　千明とか？）」
 
　理由は分からないけど、わざわざご飯誘いに来てくれたみたいだし、せっかくなら私も行きたい。そう思って誰がくるのか聞いてみたけど、なぜかブレットは神妙な顔で黙り込んでしまった。なに？　何か変なこと言った？
 
「No one else comes. You and I, weren't you?（他には誰も来ない。俺とお前の二人だけど、嫌だった？）」
「へ？　ええ？　嫌じゃないけど……。
Me and you? I wonder why you invited me……（二人で？　その、何で誘ってくれたのかなって……）」
「Why? Isn't it because I wanted to go out with you? （何でって？　二人で出かけたかったから、っていう理由じゃダメか？）」
 
　え、ええ？　思いっきりストレートに口説かれてる？　……じゃないよね、さすがに。違うよね？　どうしよう、ブレットのキャラが良く分からない。
 
　千明みたいに軽いノリならこっちも軽く返せるけど、まっすぐに私を見つめるブレットにドキッとしちゃったよ。
 
「If you don't like it, don't force it.（嫌なら無理にとは言わないけど）」
　
　反応に困って返事を返せずにいると、私が嫌がってると思ったのか、ブレットがそんなことを言い始めたので、あわてて首を横に振る。
　
「I don't hate it（嫌じゃないよ）行こっ！」
 
　なんなのかよく分からないけど、誘ってくれたのは嬉しいし、私もお腹は空いている。というよりも、正直ペコペコで早く何かお腹に入れたくておかしくなりそう。

　ここで言い合っていても仕方ないので、ブレットの背を押して歩き始めた。