四大国物語

マキノトシヒメ

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外竜大戦篇

第四話乃五

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 コダマが店を出ると、機動隊が遠くの通りを曲がるのが見えた。コダマも走る。コダマが着けたリストバンドには、高速移動の魔法文字が描かれている。本格的に使用すると魔力を大量に使用するのだが、効果を抑えて一割程度の速度増とすることで、魔力の使用も大幅に抑えている。コダマが小柄で、走るのにどうしてもスピードが出にくいのをフォローするための、マリカの手作りの品である。

 機動隊が出動する三十分前、その通りは人通りも少なく、いかにも穏やかな雰囲気に満ちていた。通りの中ほどに小さな噴水があり、その周りには石の上を平らに磨いた、腰掛けがいくつかあった。その中の一つに白い棒が置かれていた。長さは30cmくらい。真っ直ぐではなく、少し反っている。断面は長方形の角を落とした形になっていて、握るのに丁度いいくらいの太さである。
 そこに自転車で通りかかった男がいた。黒い石の腰掛けに置かれていた棒に目が行き、拾い上げる。プシュっという小さな音がしたのだが、男の耳には、ほとんど聞こえなかった。そして、持っていた棒の反対側が割れて落ちた。中から出てきたのは、刃であり、形として短刀というかドスになっていた。
 その刃が見えた時、男の頭に連想が走る。
《刃物?》《短刀》《人殺しの道具》《人殺し》《殺し》《殺す》《誰を?》《殺す》《殺す》《殺す》《殺す》
 男は自分に起きた状況に訳がわからず、しばらくただ立ち尽くすばかりであったが、そこに警ら中の警官が通りかかった。剥き身の短刀を握り、見つめているその姿は、職務質問というより、もう現行犯取り押さえの対象である。先に無線で署に連絡を入れて、最低限周りに危害が及ばぬように、短刀は奪おうと行動に出る。
「動くなや、にいちゃん」
 さすがに警官も不用意には近づかない。その場にいるように、手を下ろして刃物を捨てるように言いながら、少しづつ近寄る。
 男の手が下がる。だが、短刀は握ったままだ。警官は男が短刀を振り回しても対応できる方向から、また近づく。男が動く気配はないが、油断せずに近づいて、ついに短刀を握る手の手首をしっかりと捉えた。だが、短刀に気を取られ過ぎていた。男の短刀を持っていない手が、警官にパンチを繰り出す。もろに顔面に入り、警官は倒れて気を失ってしまう。
 男は叫び声を上げながら、商店街の方向に行く。その間、両腕を無茶苦茶に振り回している。100mほど進むと立ち止まり、荒い呼吸をそのままに、また両腕を振り回して歩く。男が道の交差点に差し掛かった時、運悪く横の路地から出てきた女性が切りつけられる。イヤホンを付け、端末を見ながら歩いていたので、男の存在に気づかなかったのだ。それがきっかけとなったかのように、男は走り出し、商店街を通る数人が切られ殴られた。
 機動隊が出動したのはこの直後で、ケガ人の応急手当のため、呪術師と魔導師が同行した。
 今、男は機動隊に囲まれている。機動隊は盾を前に構えて、男を囲む輪を狭めて行く。男は隊員の一人めがけて突進し、短刀を突き出す。短刀の先は盾に向かっている。そのまま盾で受ければ、刃先をそらして男を取り押さえることができるはずだった。
 しかし、あろうことか短刀は盾を簡単に貫通し、隊員の肩に刺さる。突進してきた男の勢いを止められず、隊員は後ろに倒れる。男は短刀を盾から抜くと、倒れた隊員に襲いかかる。やられる、と誰もが思った瞬間、不意に空中に出現した人影が男に蹴りをくらわせた。横から頭を蹴られた男はバランスを崩して倒れる。
「確保!」
 機動隊が男に群がり、取り押さえる。かなり暴れたが、機動隊の数にはかなわなかった。それでも、まだ短刀をがっちりと握っている。
「そのドスに下手に触るとあかんで。薬かなんか仕込まれとるわ。こいつは多分そのせいや」
 男に飛び蹴りをくらわせて着地していたコダマが機動隊に注意を促す。
 少しづつ男の指が開かれて、男の手から短刀が離される。コダマは刃先の刃の無い側をつまんで持ち上げる。
「あかん。じゃまくさいことしてくれとるわ」
 コダマの手から短刀が消える。そして上空から、パン、と破裂音がした。
「隊長さんは?」
「ワシです」
「さっきのドスやけど、爆弾入っとったんで、上で破裂させたわ。証拠品残せんですまなんだなあ」
「おおきにすんません。周りに被害がないんが、なによりでおます」
「おおきに。そううてくれはると助かります」
「せやけど、あんさんは…?」
 コダマはポケットから資格証を出して、隊長に見せる。
「魔導師カー」
 おお、という声が機動隊から起こった。

 コダマのとった行動はこのようなものである。
 コダマは曲がる道を一本間違えて、現場に到着するのが遅れた。男が倒れた隊員に襲いかかるのを、他の隊員も助けが間に合わないと見たコダマは、走りながらジャンプ、飛び蹴りの体勢で、空中で瞬間移動術を使う。出現した先に障壁があると、そのまま衝突してしまうので、通常は瞬間移動術は動かずに行なう。コダマのように様々な白兵戦戦闘術の訓練までもこなしている者でなくば、このような芸当はできない。
 男の横から出現し、そのまま男の頭を蹴りとばす。その蹴りの瞬間にも足に魔力を集中。解析術を使い、男の状態を確認する。蹴りを入れた僅かな時間であったので、詳細な解析はできないが、外的因子、つまり薬品類の存在が確認できた。
 機動隊への注意を行ない、短刀は男が握っていた柄の部分には触れぬように拾い上げ、現視術で短刀の中を探る。薬品だけでなく、爆発物があったため、予測術にて爆発までの時間を探る。残る時間がほとんどないという予測から、さらにどの場所で爆発させれば被害を食い止められるか周辺の状況を現視術で見て、その場所(空中)と時間に合わせて瞬間移動術で短刀を跳ばす。
 これだけのことを、あの短時間でやってのけたのであった。
 コダマはやってきた捜査官にも身分を明かし、状況説明をして後の現場を任せて戻り始めた。コダマがダサンドに戻ると、果たしてマチルダとトモカはまだ待っていてくれた。
 ユウマも駆け寄る。
「コダマちゃん、大丈夫だった? ケガとかない?」
「大丈夫やって。あったらここに来られへんて」
 とは言うものの、走ったり跳んだり大立ち回りであったのは間違いない。マチルダとトモカの待つ席に着くとテーブルに両腕を伸ばして突っ伏す。
「あー、もう。どこのどいつやねん。あんなけったいなモン作るんは」
「どないしたん?」
「ゴメンなあ。ここまでうてなんやけど、捜査上の関係てヤツで詳しくは話せへんねや」
「お疲れやねえ」
「休養だったはずやのに、瞬間移動術を二つやで。グチも言いたなるわあ。イケメンやっちゅう話で来よったら身内やし。なんや今日は天中殺かいな」
「コダマ、そんな古いん通用せえへんて」
「マチルダ、ツッコめる自分も自分やで。見てみい。トモカみたく「ポカーン、なんやそら」ちゅうんが普通の反応やで」
「しゃあないで、だってウチら」
 コダマとマチルダ、正面から向き合って同時に。
「「おばあちゃん子やもんね~」」
「ほれほれ、トモカもいっしょにせんかいな」
 トモカ、少々呆れ顔である。
「ま、別にええわ。知らんけど」
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