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外竜大戦篇
第四話乃二
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「かんぱ~い」
ジョッキがかしゃんと合わされて、全員がビールをあおる。その中でも勢いよく、一気にジョッキを開けたのはポーだった。
「ぷっは~。いやもうこの一杯を邪魔する奴がいたら、寸刻みにしてやっても構わないと思っちゃうね。あ、中生おかわり」
「医者の言動じゃないですよ。先生」
「いいの。いいの。病院で言ったらヤバいけど、居酒屋まで来たらこっちのものよ」
今日のポーは日勤明けで、明日から二日間の休みである。そこで同じ日勤明けの医師や看護師と飲み会となった。今日は折良くスタッフに余裕があり、相当大きな事故でも起こらない限り、呼び出しもなさそうである。席は一応個室のような状態にはなっているが、にぎやかな店内の喧騒は聞こえてくる。会話が途絶えたとしても、一気にトーンダウンするようなことはないだろう。
「中生お待たせ。それでは、ご注文どうぞ」
「串揚げ盛り合わせ六人前と大判さつま揚げ二つ、枝豆三つにキリキリ焼きが二つ」
「ホッケの開きとママメ揚げ、それからタコきゅう」
「クジラ刺しとほうれん草のおひたし」
「げぇ、クジラぁ?」
「俺は好きなんだよ」
「とりあえず、それで。それから中生おかわり二つ」
「あたしはウーロンハイにして」
「じゃあ中生一つとウーロンハイ一つで」
国際医療センターは、やりがいのある職場ではあるが、その分、体力勝負の面も結構ある。みんな飲むわ食うわ、すごいペースである。
「鍋も行っちゃおうか」
「さんせーい!」
「何鍋にする?」
「ちゃんこ鍋コラーゲン入りなんてのがあるよ」
「あー別にねえ。コラーゲンなんて食べたって吸収されるわけじゃないし」
「そういう知識はいらねーつうの」
「それなら海鮮寄せ鍋」
「あたしカニだめ」
「贅沢な」
「俺もカキとか苦手」
「カキがだめならホタテを食べたらいいじゃない?」
「何その貝貴族」
「そんなあれもだめ、これもだめとか言ってたら、野菜しか入れるものなくなるぞ、おい」
「あたし野菜きらーい」
「ダシだけかよ! もういいわ。間をとってイシカリ鍋な」
「どこの間じゃあ!」
とはいうものの、鍋もあっさり平らげて、雑炊に突入である。
「ところで、ポー先生って休みの日って、何やってるんですか?」
「うん? まあ別に、昼まで寝てて、お腹空いたらカップ麺でも食べて、また寝て、起きて暗くなってたら、ビールでもかっくらってぇ」
「色気ゼロ…」
「というより人間としてどうなんですか、それって」
「ちゃあんと生きてるから不思議なのよね~」
「自分で言うか。せめて食事くらいまともに取りましょうよ」
「いや、せめてと言うなら、外に出ましょうよ」
「掃除や洗濯は?」
「ああ、まあ、それくらいはするわよ。勤務サイクルに一回くらいは、ねえ」
「先生の勤務サイクルって?」
「十一日でしたよね。四勤二休四勤一休」
「うわぁ。しかも「一回くらい」って言ったし」
「やってるわよお。洗濯なんて、放りこんでおけば、乾燥までやってくれるんだから」
「自分の仕事ないじゃん」
「畳んでますか?」
「洗濯してりゃ着られるわよ」
「畳んでないんですね…」
「先生は「お嫁さん」が必要ですよね」
話を中断するように、ポーの携帯が鳴る。皆、えっというような顔になる。
「あー大丈夫、この音はセンターからじゃないから」
ポーは席を立ち、部屋の隅で背を向けて電話に出る。
「先生、そこだと話が全部聞こえますよ」
「だめだ聞いてないわ」
聞こえていないのか、構わずなのか、ポーは通話を続ける。
「あ、母さん。どうしたの。うん、こっちは仕事が終わってみんなで飲んでるところ。楽しくやってるわよ」
『いや、あんたも全然電話とかくれないから、どうしてるのかなとか思うでしょう、普通』
そこでポーの勘が働いた。
「…また、お見合い?」
『あらやだ、どうしてわかったの。あれかい、あの魔法みたいなので母さんの心を読んで』
「できないわよ。確かにそういう魔法はあるにはあるけど、あたしは使えないの」
『まあ、本当にあるの? なら母さんも習ってみようかねえ』
「簡単に言わないで。その魔法は習うのも使うのもケリアミス(世界最高峰の山。標高9,102m)に登るくらい大変なんだから」
人の心を読む魔法とは、神統系魔法の精神感応術である。ポーの言うように、難易度トップクラスの魔法で、三大術師でも使えるのはテーだけである。
『冗談よ冗談。それよりねえ』
「いらない」
『話だけでも聞いておくれよ』
「だって母さんが紹介する人って、最初は「医者という仕事は大変ですね」とか「人を救う仕事は尊敬しますよ」とか言うんだけど、最後は仕事はやめて家庭を守ってくれみたいな事を言う人ばっかりじゃない。いつもいつも、どこから見つけてくるのよ、そんな人ばっかり」
『そんなこと言ったって、あんたがちゃんと、お相手を見つけていたら母さんだってこんなに…まさかあんた不倫とか』
飲み物を口にしていた誰かが、ぶっ、と音を立てて噴いた。
「してません!」
『風俗のコンパニオンだとか』
「やってません!」
『うちの最寄りの沿線は』
「金町線! て何言わせんのよ」
その時その個室で、ドンガラガッシャーンとかいう音がしたとかしなかったとか。
『はあ…こんなノリもいいのに、なんで男の一人くらい釣り上げられないのかねえ。自分の娘に言うのもなんだけど、あんた結構可愛いわよ。人付き合いもいいし、奇行癖があるわけじゃないし。収入のいい腕のいいお医者様だし。なんか言ってて逆に変な方向に行きそうだわ。完璧超人?』
そこまで聞いてサエキ看護師、言わずにはいられなかった。
「まあ、他のことはとりあえずいいとして、あの変なギャグをかますのは、奇行癖と言わないのかしら」
「言うよね」
「だよねえ」
さすがに電話のほうに聞こえるほどではないが、サエキに皆が同意する。
「ついて…これないのよ」
『お相手が? 何に?』
「あたしの生活パターンていうか、何ていうか。つきあってると、段々顔色が悪くなっちゃうの」
『あなたがちゃんとすればいいんでしょう』
「そういう事じゃないの。あたしの勤務って、十一日サイクルで、休みは三日入ってるけど、土日祝日関係なしで、勤務も日勤、前夜勤、後夜勤の組み合わせはいろいろだし、呼び出しはかかるし、不規則のオンパレードなのよ。あたしは魔力大王なんて呼ばれて、魔法で体力は何とでもなってるけど、相手はダメ。体育会系の人にも最後はゴメンなさいされちゃったし。自分と仕事とどっちが大事だとか言われた事もあったわよ」
『やっぱり、あんた、家庭に入った方がいいんじゃないかしら。そうでなかったら、独立して昼間だけの町医者みたいのもいいんじゃない?』
「考えたことはあるわよ。独立するのも」
これは後ろの皆にとっては穏やかな話ではない。が、ポーは次のように続ける。
「でも、国際医療センターの仕事って、すごいやり甲斐があるの。自惚れじゃなくて、あたしを頼ってくれる患者さんもいるし。つらい事もたまにはあるけど、元気になった人を見送ったら、どんな苦労も吹き飛んじゃう。私にとってかけがえのない場所なのよ」
『あんたのそういう一本気なとこ、お父さんそっくりだわ。仕事は全然違うけど親子よねえ』
「なんか他人事みたいに言ってるけど、あたしは母さんの子でもあるんですけど」
『まあ、わかったわ。まだあんたも若いとは言われる年だし、もうちょっと頑張りなさい。せめて魔力女王と言われるくらいに』
「そっちに頑張ってどうすんのよ!」
もう全員、のたうち回る寸前である。
「お、お母さん、おもしろすぎる」
「先生、お母さまの血もしっかり引き継いでますねえ」
「それにしても先生って、恋多き人だったんですね。今は人間やめますか状態になっちゃってるけど」
電話を終えたポーを迎えたのは、皆のそれは暖かな眼差しであった。
「聞こえ…」
「最初に全部聞こえますって言いましたよ」
「う~、その優しい視線がかえってつらいわ」
「まあ、飲み明かしましょう、魔力女王」
「言わないで~」
それでもしっかりグラスを差し出すポー。追加で何杯か飲んで、少し落ち着いたようである。
「にしても、今日は結構忙しかったわね」
「先生、解析術四件でしたっけ」
「一つは全身解析だったしね。明日が休みでよかったわホントに」
よかったと思ったのもつかの間、ポーの携帯がまた鳴る。携帯を見たポーの顔が苦虫を噛み潰したようになった。
「呼び出しですか」
「多分ね。はい、トマースです」
『ウラノフです。今電話は大丈夫ですか』
今日の当直医師の一人で、外科のウラノフ医師であった。
「大丈夫よ」
『日勤が終わられたのに、申し訳ありません。今急患が来ていまして、その解析術の結果が妙な事に、わあっ!』
ウラノフ医師が叫んで、電話からガチャガチャゴツゴツという音が聞こえた。院内携帯を落としたようである。その後は遠くに「押さえて」「固定ベルト」という声が聞こえた。
「もしもし、もしもし」
ばたばたと人が動く音が聞こえるが、応答はない。
間があって、やっと応答がある。
『もしもし、外科部長のステンボルグだ。今電話に出ているのは…』
「あ、部長。トマースです」
『ポー君か。来ることはできるかね。今どこに』
「居酒屋キタノウミです。車をとばせば二十分で行けます」
『すまん。状況は途中で説明する。そのまま切らないでくれ』
「わかりました」
ところが急にまた電話の向こうが、慌ただしくなる。
『患者に急変が起きた』
「五分で行きます。一旦切ります」
ポーは携帯を切って、トートバッグからさらしを取り出し、胴に巻きつける。左の脇腹の所に魔法文字が現れたが、今は中ほどでずれている。
「はいセンセ、お水どうぞ」
ポーはサエキから水のたっぷり入ったジョッキを受け取って、一気に飲み干す。そして、魔法文字のズレを直す。
「よし。OK」
さらしに描かれている魔法文字は、呪術系のもので、肝臓代謝機能を強化するもの。それもかなり強めのものだ。要は肝臓のドーピングをして一気にアルコールを消化しようというわけである。もちろん体への負担は結構大きい。
最初にズレがあったのは、完成した文字があると、不意の発動もありうるので、巻きつけた時に完成するようにさらしに分割して描いてあるのである。
ポーはクレジットカードをテーブルに置く。
「支払いはこれでやっといて。ちょっと下がって、跳ぶから」
そしてポーは瞬間移動術によって、国際医療センターに跳んだ。
「五分で行きます、だもんなあ」
「先生ももっと力抜いたら楽なんだろうけど、抜かないんだよね」
「抜いたら先生じゃないよね。うちらは少しでも先生の力になろう」
「そうよね」
「次に行く?」
「やめとこう」
「あたしは飲んでないから、センセの所にバッグとか荷物持って行くわ」
「すまん。たのむよ」
「かんぱ~い」
ジョッキがかしゃんと合わされて、全員がビールをあおる。その中でも勢いよく、一気にジョッキを開けたのはポーだった。
「ぷっは~。いやもうこの一杯を邪魔する奴がいたら、寸刻みにしてやっても構わないと思っちゃうね。あ、中生おかわり」
「医者の言動じゃないですよ。先生」
「いいの。いいの。病院で言ったらヤバいけど、居酒屋まで来たらこっちのものよ」
今日のポーは日勤明けで、明日から二日間の休みである。そこで同じ日勤明けの医師や看護師と飲み会となった。今日は折良くスタッフに余裕があり、相当大きな事故でも起こらない限り、呼び出しもなさそうである。席は一応個室のような状態にはなっているが、にぎやかな店内の喧騒は聞こえてくる。会話が途絶えたとしても、一気にトーンダウンするようなことはないだろう。
「中生お待たせ。それでは、ご注文どうぞ」
「串揚げ盛り合わせ六人前と大判さつま揚げ二つ、枝豆三つにキリキリ焼きが二つ」
「ホッケの開きとママメ揚げ、それからタコきゅう」
「クジラ刺しとほうれん草のおひたし」
「げぇ、クジラぁ?」
「俺は好きなんだよ」
「とりあえず、それで。それから中生おかわり二つ」
「あたしはウーロンハイにして」
「じゃあ中生一つとウーロンハイ一つで」
国際医療センターは、やりがいのある職場ではあるが、その分、体力勝負の面も結構ある。みんな飲むわ食うわ、すごいペースである。
「鍋も行っちゃおうか」
「さんせーい!」
「何鍋にする?」
「ちゃんこ鍋コラーゲン入りなんてのがあるよ」
「あー別にねえ。コラーゲンなんて食べたって吸収されるわけじゃないし」
「そういう知識はいらねーつうの」
「それなら海鮮寄せ鍋」
「あたしカニだめ」
「贅沢な」
「俺もカキとか苦手」
「カキがだめならホタテを食べたらいいじゃない?」
「何その貝貴族」
「そんなあれもだめ、これもだめとか言ってたら、野菜しか入れるものなくなるぞ、おい」
「あたし野菜きらーい」
「ダシだけかよ! もういいわ。間をとってイシカリ鍋な」
「どこの間じゃあ!」
とはいうものの、鍋もあっさり平らげて、雑炊に突入である。
「ところで、ポー先生って休みの日って、何やってるんですか?」
「うん? まあ別に、昼まで寝てて、お腹空いたらカップ麺でも食べて、また寝て、起きて暗くなってたら、ビールでもかっくらってぇ」
「色気ゼロ…」
「というより人間としてどうなんですか、それって」
「ちゃあんと生きてるから不思議なのよね~」
「自分で言うか。せめて食事くらいまともに取りましょうよ」
「いや、せめてと言うなら、外に出ましょうよ」
「掃除や洗濯は?」
「ああ、まあ、それくらいはするわよ。勤務サイクルに一回くらいは、ねえ」
「先生の勤務サイクルって?」
「十一日でしたよね。四勤二休四勤一休」
「うわぁ。しかも「一回くらい」って言ったし」
「やってるわよお。洗濯なんて、放りこんでおけば、乾燥までやってくれるんだから」
「自分の仕事ないじゃん」
「畳んでますか?」
「洗濯してりゃ着られるわよ」
「畳んでないんですね…」
「先生は「お嫁さん」が必要ですよね」
話を中断するように、ポーの携帯が鳴る。皆、えっというような顔になる。
「あー大丈夫、この音はセンターからじゃないから」
ポーは席を立ち、部屋の隅で背を向けて電話に出る。
「先生、そこだと話が全部聞こえますよ」
「だめだ聞いてないわ」
聞こえていないのか、構わずなのか、ポーは通話を続ける。
「あ、母さん。どうしたの。うん、こっちは仕事が終わってみんなで飲んでるところ。楽しくやってるわよ」
『いや、あんたも全然電話とかくれないから、どうしてるのかなとか思うでしょう、普通』
そこでポーの勘が働いた。
「…また、お見合い?」
『あらやだ、どうしてわかったの。あれかい、あの魔法みたいなので母さんの心を読んで』
「できないわよ。確かにそういう魔法はあるにはあるけど、あたしは使えないの」
『まあ、本当にあるの? なら母さんも習ってみようかねえ』
「簡単に言わないで。その魔法は習うのも使うのもケリアミス(世界最高峰の山。標高9,102m)に登るくらい大変なんだから」
人の心を読む魔法とは、神統系魔法の精神感応術である。ポーの言うように、難易度トップクラスの魔法で、三大術師でも使えるのはテーだけである。
『冗談よ冗談。それよりねえ』
「いらない」
『話だけでも聞いておくれよ』
「だって母さんが紹介する人って、最初は「医者という仕事は大変ですね」とか「人を救う仕事は尊敬しますよ」とか言うんだけど、最後は仕事はやめて家庭を守ってくれみたいな事を言う人ばっかりじゃない。いつもいつも、どこから見つけてくるのよ、そんな人ばっかり」
『そんなこと言ったって、あんたがちゃんと、お相手を見つけていたら母さんだってこんなに…まさかあんた不倫とか』
飲み物を口にしていた誰かが、ぶっ、と音を立てて噴いた。
「してません!」
『風俗のコンパニオンだとか』
「やってません!」
『うちの最寄りの沿線は』
「金町線! て何言わせんのよ」
その時その個室で、ドンガラガッシャーンとかいう音がしたとかしなかったとか。
『はあ…こんなノリもいいのに、なんで男の一人くらい釣り上げられないのかねえ。自分の娘に言うのもなんだけど、あんた結構可愛いわよ。人付き合いもいいし、奇行癖があるわけじゃないし。収入のいい腕のいいお医者様だし。なんか言ってて逆に変な方向に行きそうだわ。完璧超人?』
そこまで聞いてサエキ看護師、言わずにはいられなかった。
「まあ、他のことはとりあえずいいとして、あの変なギャグをかますのは、奇行癖と言わないのかしら」
「言うよね」
「だよねえ」
さすがに電話のほうに聞こえるほどではないが、サエキに皆が同意する。
「ついて…これないのよ」
『お相手が? 何に?』
「あたしの生活パターンていうか、何ていうか。つきあってると、段々顔色が悪くなっちゃうの」
『あなたがちゃんとすればいいんでしょう』
「そういう事じゃないの。あたしの勤務って、十一日サイクルで、休みは三日入ってるけど、土日祝日関係なしで、勤務も日勤、前夜勤、後夜勤の組み合わせはいろいろだし、呼び出しはかかるし、不規則のオンパレードなのよ。あたしは魔力大王なんて呼ばれて、魔法で体力は何とでもなってるけど、相手はダメ。体育会系の人にも最後はゴメンなさいされちゃったし。自分と仕事とどっちが大事だとか言われた事もあったわよ」
『やっぱり、あんた、家庭に入った方がいいんじゃないかしら。そうでなかったら、独立して昼間だけの町医者みたいのもいいんじゃない?』
「考えたことはあるわよ。独立するのも」
これは後ろの皆にとっては穏やかな話ではない。が、ポーは次のように続ける。
「でも、国際医療センターの仕事って、すごいやり甲斐があるの。自惚れじゃなくて、あたしを頼ってくれる患者さんもいるし。つらい事もたまにはあるけど、元気になった人を見送ったら、どんな苦労も吹き飛んじゃう。私にとってかけがえのない場所なのよ」
『あんたのそういう一本気なとこ、お父さんそっくりだわ。仕事は全然違うけど親子よねえ』
「なんか他人事みたいに言ってるけど、あたしは母さんの子でもあるんですけど」
『まあ、わかったわ。まだあんたも若いとは言われる年だし、もうちょっと頑張りなさい。せめて魔力女王と言われるくらいに』
「そっちに頑張ってどうすんのよ!」
もう全員、のたうち回る寸前である。
「お、お母さん、おもしろすぎる」
「先生、お母さまの血もしっかり引き継いでますねえ」
「それにしても先生って、恋多き人だったんですね。今は人間やめますか状態になっちゃってるけど」
電話を終えたポーを迎えたのは、皆のそれは暖かな眼差しであった。
「聞こえ…」
「最初に全部聞こえますって言いましたよ」
「う~、その優しい視線がかえってつらいわ」
「まあ、飲み明かしましょう、魔力女王」
「言わないで~」
それでもしっかりグラスを差し出すポー。追加で何杯か飲んで、少し落ち着いたようである。
「にしても、今日は結構忙しかったわね」
「先生、解析術四件でしたっけ」
「一つは全身解析だったしね。明日が休みでよかったわホントに」
よかったと思ったのもつかの間、ポーの携帯がまた鳴る。携帯を見たポーの顔が苦虫を噛み潰したようになった。
「呼び出しですか」
「多分ね。はい、トマースです」
『ウラノフです。今電話は大丈夫ですか』
今日の当直医師の一人で、外科のウラノフ医師であった。
「大丈夫よ」
『日勤が終わられたのに、申し訳ありません。今急患が来ていまして、その解析術の結果が妙な事に、わあっ!』
ウラノフ医師が叫んで、電話からガチャガチャゴツゴツという音が聞こえた。院内携帯を落としたようである。その後は遠くに「押さえて」「固定ベルト」という声が聞こえた。
「もしもし、もしもし」
ばたばたと人が動く音が聞こえるが、応答はない。
間があって、やっと応答がある。
『もしもし、外科部長のステンボルグだ。今電話に出ているのは…』
「あ、部長。トマースです」
『ポー君か。来ることはできるかね。今どこに』
「居酒屋キタノウミです。車をとばせば二十分で行けます」
『すまん。状況は途中で説明する。そのまま切らないでくれ』
「わかりました」
ところが急にまた電話の向こうが、慌ただしくなる。
『患者に急変が起きた』
「五分で行きます。一旦切ります」
ポーは携帯を切って、トートバッグからさらしを取り出し、胴に巻きつける。左の脇腹の所に魔法文字が現れたが、今は中ほどでずれている。
「はいセンセ、お水どうぞ」
ポーはサエキから水のたっぷり入ったジョッキを受け取って、一気に飲み干す。そして、魔法文字のズレを直す。
「よし。OK」
さらしに描かれている魔法文字は、呪術系のもので、肝臓代謝機能を強化するもの。それもかなり強めのものだ。要は肝臓のドーピングをして一気にアルコールを消化しようというわけである。もちろん体への負担は結構大きい。
最初にズレがあったのは、完成した文字があると、不意の発動もありうるので、巻きつけた時に完成するようにさらしに分割して描いてあるのである。
ポーはクレジットカードをテーブルに置く。
「支払いはこれでやっといて。ちょっと下がって、跳ぶから」
そしてポーは瞬間移動術によって、国際医療センターに跳んだ。
「五分で行きます、だもんなあ」
「先生ももっと力抜いたら楽なんだろうけど、抜かないんだよね」
「抜いたら先生じゃないよね。うちらは少しでも先生の力になろう」
「そうよね」
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