四大国物語

マキノトシヒメ

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外竜大戦篇

第三話乃四

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 セイオウ王国の騎士は現在、右翼、左翼ともにこの魔法剣の使い手で、大隊程度の軍隊であれば、たった一人で対応することのできる力量を持っている。ただし、騎士はあくまで王宮団剣士の一人。王宮、王族の守護がその最大の存在理由であり、他国での軍事的作戦には参加することはない。それでも、国内での防衛戦という事態になれば、軍との共闘が必要となる事もあるため、騎士は大佐相当の階級の権限が与えられている。ただし、軍規及び騎士に関するセイオウ国内法では、軍と騎士はお互いに命令権はなく、協力の要請も受けるか否かはお互い自由である。
 セイオウ王国の左翼騎士は、先ほど、大砲の砲撃をも剣技一つで防いだ、イルスタッド・バーズ。
 セイオウ王国に古来からある、名門バーズ侯爵家の当代の次男である。中学生あたりまでは、かなりの悪童であって、家にも地域にもかなりの問題を引き起こしていたが、ある時を境に悪行はぱたりと止む。高校を卒業すると同時に王宮団へと入団。剣士として雷光剣伝承者ウォン・ドレイルから剣を学び、その時には魔法剣ではなく、基本剣技をみっちりと叩き込まれた。
 イルスタッドが用いた剣技は、ウォンの伝承している雷光剣ではなく旋風剣である。剣に大気をまとい、攻撃、防御にその高速機動による高圧によって効果を発揮する。この魔法剣は一度、消滅の危機を迎えていたのだが、イルスタッドによって再興されたのである。
 バーズ侯爵家は文官系の家柄であったが、イルスタッドの祖父である先代侯爵、ミシェル・バーズは王宮団剣士となり、イルスタッドはその血を受け継いでいると言えそうである。だが当代侯爵クランブル、イルスタッドの兄である長男ナカズトは武術はまったくダメで、文官たる家系のそのままの人物である。
 そして、右翼騎士。名をクリル・ラ・ウォン・ダ・イン。
「偉大なるウォンの弟子にして、イン伯爵の代理人たるクリル」という意味である。
 イン伯爵家もまた、バーズ侯爵家に劣らぬ名門で、特に武官としての王国への献身が代々の家訓である。
 当代、クリオステル・イン伯爵も若い頃は王宮団剣士であり、剣士長も務めたほどの人望を持つ。ただ、イン伯爵は夫人との間に子供ができず、遠縁から養子を迎える段取りを進めていたのであるが、とある事件をきっかけに爵位と領地の返還をして、伯爵家の廃止をすることに考えを変えていた。
 クリルはイン伯爵領の契約農家の娘で、元の名をクリル・スコーダという。子供の頃に、イン伯爵主催の剣術祭りの剣術大会に参加し、そこに来訪していたウォン・ドレイルの目に止まり、後に弟子入り。雷光剣の使い手としてイン伯爵からの推薦を受けて王宮団剣士となり、騎士となった。クリルの体格と剣の運びは、病没した女性王宮団剣士ミランダ・ウェイ・ライルの再来と言われ、ミランダから教えを受けた女性剣士達からも、かわいがられ、鍛えられている。
 そして、二人の騎士はそれぞれ二つ名を持っている。それに関するインタビュー記事がある。

ーイルスタッド卿が持っておられる二つ名ですが、どうして北極圏の現象なのでしょうか。
「ん? いや別に理由なんかないわ。まあ強いて言えば語呂が良かったからくらいかなあ。結構いいだろ「オーロラの騎士」」
ーいやそこは南国セイオウなんですから、灼熱(サンライト)の騎士とか、旋風剣を使われてるのですから、暴風(ストーム)の騎士とか。
「文句あっか」
ーいいえ…。それでは、クリル卿はどうなのでしょう。クリル卿も北極圏の現象なのですが…。うわ、なんですか、その「ずっと言いたかったんだけど、誰も聞いてくれなかったの」と言いたげな顔は。
「あのね、あのね、騎士って白馬に乗って颯爽とってイメージがあるでしょ? だから白夜(ホワイトナイト)と白馬の騎士(ホワイト-ナイト)をかけてね、「白夜の騎士」」
ーセイオウには馬はいないですし…。
「文句ある?」
ーいいえ…。えー、それではこのへんで。

 二人とも結構大概である。

(第三話 了)
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