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ぷりてぃ・すふぃんくす13

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 この国から隣国に向かうためには、大きく分けて二つのルートがある。
 山道ルートと平地ルート。
 山道ルートは半日ほどだが、平地ルートは二日ほどかかってしまう。
 だが、殆どの人は平地ルートを利用する。何故なら、この山を通るためには、山に住まう魔獣スフィンクスから問われる問題に答えなければならない。答えられなければ、食われてしまうという…。

「ま、待って…」
 スフィンクスが現れました。
 本当はスフィンクスに対応してもらうような目的でここ来たわけではないので、その点は正直に言っておかねばならない。
「すいません。私は隣国に行くわけではないんです。昨日からのこの気象変化に関して、国境の山地付近の調査に来たんです」
「あ、あらそうなの。それで…、何かわかった?」
「いえ、調査もこれからなので、なんとも」
「うう…そうなんだ」
 スフィンクスは泣きそうな顔で、腕を組むような感じで両手で二の腕をさすっていた。
 手足はネコ科の様相で、毛皮のレオタードに翼を背負った、グラマラスな美女であるスフィンクスなのだが、腕、脚、肩とあんなに素肌が露出した格好では、さぞかしこの寒波は厳しかろうと思う。

 この地に雪が降ったのは、実に百十年ぶりとなる。
 基本的に高温乾燥の土地柄であるため、この地に悠久の昔から住っているスフィンクスは、高温にはとても強いのであるが、寒さにはめっぽう弱い。しかし、寒波と言える気象も百年単位でしか襲来しないため、対策らしい対策は何もない。
 今私の着ている防寒着も、急遽輸入されたもので、こうやって屋外で調査活動にあたる者に優先的に配布されているものだ。
 寒そうにしているスフィンクスを見ては、心は多少痛むのだが、スフィンクスは魔獣だから、体感的には寒くとも体調面にはほとんど影響はないのだそうだ。
「もう。なんであたしが当番の時にこんなことになるのよ」
「あの辺、ちょっと雪が残ってますもんね。この寒波は百十年ぶりだそうなんですが、前の時の事とか覚えてます?」
「ええ。前もその前のもあったのは覚えてる。けど、外にいたわけじゃないから、スフィンクスづてに聞いただけで、実際に体験したのは初めてなのよ」
「根本的な原因は気流のうねりが変わったためみたいですね。その辺は前の時も観測されていて、ほぼ状況は同じだそうですから、明後日には戻るとはいかなくても、暖かいくらいにはなると予報は出てますよ」
「ならいいわ。明日は当番じゃないから」
 そうこうしている間に、遠くに人影が見えた。
「お仕事ですね。私も仕事に戻ります」
「あ、どうも。それじゃ」
 調査と言っても、各所における状況の確認である。時間ごとの気温も記録する、簡単と言える内容だ。もちろん、今日一日私一人でできる範囲など知れているから、この調査には緊急アルバイトも含めて五百人体制で行なわれている。
 地元にいる者だから、皆寒さにはそんなに強くはない。一人せいぜい三時間の交代制だ。
 
 ところで隣国の方から登ってきたと思しき人間だが、何か見たことがある服装だった。スフィンクスはその男に近づいていったが、なんか様子がおかしい。会話はしているが、スフィンクスの問いかけをしている様子はない。そうこうしているうちに、その男がスフィンクスに何かを渡していた。そうだ、あの男の服装はレストランチェーンのインドラ屋のものじゃないか。何かと思ったが、出前かい。
 つい気になってしまって、またスフィンクスのところに行ってしまった。
「寒いんだから仕方ないでしょ。いくら病気にとかならなくたって、やってられないわよ。これじゃ」
 スフィンクスに渡していたのは、スープとかを入れる保温ポットだった。フタを開けると湯気が立った。
 ちょっと恥ずかし気な様子を見せながらも、スフィンクスは湯気を上げているポットから、一口飲むと人心地ついたようで笑みを浮かべた。
 ちらっと見えたのだが、スープらしきものが真っ赤っかだったような。
「インドラ屋の30倍ホットスープだよん」
「30倍て…」
 インドラ屋のホットスープは私もたまに食べることもあるが、うまいんだが、辛い。普通のやつでも、とっても辛い。30倍なんて、はっきり言って人間の食べるものじゃないだろう。
「スフィンクスって、みんなそんな辛いもの好きなんですか」
「いやあ、あたしだけよ。これ頼むとみんな引くのよね」
「…でしょうね」

 山を降りて、採取したデータを報告した。支給された防寒着を脱いで外に出ると、まだ日は高いのだがやはり寒い。自分としてはかなり厚着をしているつもりなんだけど。
 なんとはなしに、あのホットスープを食べたくなってきた。普通のやつでも十分に辛いわけなんだけど…。
 30倍なんてのは無理としても、2倍くらいなら、大丈夫…だよな、きっと、多分。
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