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ぷりてぃ・すふぃんくす11

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 この国から隣国に向かうためには、大きく分けて二つのルートがある。
 山道ルートと平地ルート。
 山道ルートは半日ほどだが、平地ルートは二日ほどかかってしまう。
 だが、殆どの人は平地ルートを利用する。何故なら、この山を通るためには、山に住まう魔獣スフィンクスから問われる問題に答えなければならない。答えられなければ、食われてしまうという…。

「ここを通りたくば、我が問いに答えよ。答えられなければ、食ってしまうぞ」
 山道ルートの中盤に差し掛かったとき、スフィンクスが現れた。
 毛皮のレオタードを着て、手足がネコ科の様相で翼を背負った女性が現れた。だが、こんな事を言っては失礼なのだが、そんな美人というほどでもないし、胸も…まあ普通にあるが、グラマーというところまではいかないし、あれは…猫耳? スフィンクスがそんなんだって聞いたことないぞ。それに普通の人間の耳もちゃんとあるし。
 スフィンクスを見るのは初めてなので、こういうものなのかとも思ったのだが、どうも違和感がぬぐいきれない。そういう目で見ていると、どんどん妙な点が出てくる。腕に皺がよってるのは、手袋履いてるんだよな、あれ。足も足で、靴底があるじゃん。
「スフィン…クス?」
 靴底に気が付いて、そこを注視していると、隠そうとでもしたのか、くるっと後ろを向いたのだが、逆にヒール部分がはっきり見えるし。視線を上にあげれば、あっと驚く翼を固定する止め紐があるではないか。
 思い出した。絵に描かれているスフィンクスの翼は後ろに伸びているのだが、彼女のは真横に広がっている。
「誰だ、あんた。スフィンクスじゃないな」
「ちっ、バレちゃあしょうがねえな。おい、にいちゃん。有り金全部置いて行きな」
 偽物は小刀を抜いて肉薄してきた。まさかの追い剝ぎだったとは。こんな人通りの少ない街道で待ち伏せだなんて、何を考えているんだ。
 そうは言っても、こっちは武装もない、武術の心得もないただの旅の商人。命あっての物種で、身包み剥がされても、生きて帰れるのなら、再起はどうにでもなるだろう…多分。
「い、命ばかりは…」
「両手を頭の後ろで組め。そして跪きな」
 私は言われた通りにする。
「ふふん、いい心がけだな。ほれ、その背負ってる物も降ろすんだよ」
 追い剥ぎに言われるままにリュックを降ろそうとすると、その追い剥ぎの背後に人影があった。それをつい目で追ってしまう。
「はっ、そんな後ろに誰かいるように目線を動かす手口は知ってるんだよ。だがな、こんな静かな山道で物音一つ立てないで近づいて来れるわけが」
「必殺スフィンクス・キーーック」
 後方には油断し切っていた追い剥ぎは、飛び蹴りをまともに受けた。
 飛び蹴りを受けた追い剥ぎは横向きでゴロゴロ転がって動かなくなった。

「大丈夫ですか」
 現れたのは、今度こそ間違いなくスフィンクスだった。スフィンクスは、まだ地面に座り込んでいる私に手を差し伸べてくれた。
 安堵でちょっと足に力が入らず、立ったものの少しよろめいた拍子に追い剥ぎが落とした小刀を蹴飛ばしてしまい、少し転がった。
 …のだが、音が変だった。
 柄の木の音はした。だが金属音がまるでせずに、なんか鈍い音がしただけだった。
 思わず拾い上げて、刀身の刃がついていない側を摘んでみると、柔らかい。見た目はきれいな光沢のある金属的な物だが、軽く振るとゴムのようにブニブニと揺れるではないか。
「なんだこれ」
「あちゃー、バレちゃったか」
「何やってんのよ。ちゃんと片付けとかなきゃ」
 声をした方を見ると、さっきの追い剥ぎだったのだが。
「かっ、顔が」
 起き上がっていた追い剥ぎの顔面が半分めくれて剥がれていた。
「もういいよね。うっとおしい」
 追い剥ぎだった女は、めくれていた顔全部を剥がして、手足もポンポンと脱いで背中の翼も放り投げて、自分の翼を広げた。何か控えめに見えていた胸も一気にボリュームが出た。
 こっちもスフィンクスだったのだった。

 話を聞くと、まあ言ってみれば茶番というやつで、さっきのように追い剥ぎもスフィンクスの変装だったわけだ。
 これはこの二人のスフィンクスが独断でやっていたわけではなく、スフィンクスと人間の上の方で取り決めを結んでやったものだそうな。
 何も知らされていなかったこっちにはいい迷惑である。

「それにしても、あんなに蹴飛ばされて大丈夫なんですか」
「平気、平気。子供のじゃれあいだってもっとすごいことやってるからね」
 平気ならいいんだけど。やっぱり魔獣なんですね。
「はいこれ」
 スフィンクスから少し大きめの封筒を渡された。
「人間の方の役所にこの書類を出せば、いろいろやってもらえるらしいわよ」
「じゃああとは問いかけだけね。とっととやっときましょうか」
「伝統のある行為のはずなのに、やっつけ仕事みたいになってますね」
「そうよね。今回のことも惰性でやってるだけになってることに新しいものを取り入れようかということらしいけど、やるべき方向が違うと思うのは私だけかしら」
「あたしは結構面白かったけどな」
「あなたの役ならそうでしょうけどね。あの悪役もなんて言うかもっと演技する側のモチベーションを上げるようにしてもらいたいもんだわ」
「それにしてはノリノリでやってたように見えましたけど」
「あれ、地だもんね~」
「うっさい! まあ、ともかくいくわよ。朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これはなに」
「人間です」
「オーケー。結構余計な時間をかけちゃったわね。送って行ってあげるわ。後ろから掴まって。ほら、あんたは荷物を持ってあげなさいよ」
 追い剥ぎ役だったスフィンクスは翼をたたんで後ろを向く。
「いや、掴まると言われましても」
 相手は魔獣とはいえ、結構肌が露わな妙齢の美女である。いろいろと考えてしまう。
「大丈夫。防護結界を使っていれば、直接には触らないから。肩に手を置くようにしてみて」
 言われたように、両手を肩に掴まるように持っていくと、肌に触れる結構手前でふわっとしたものを感じた。その直後、体が浮き上がった。
「おおお」
「行くわよ」
 何か押されるとか、動かされる感覚もなく、景色が飛んだ。
 ものすごいスピードで、あっという間に山道の出口、街道への接続地点まで到着したのだった。

 スフィンクスに送ってもらったおかげで、予定よりかなり早くたどり着くことができたので、例の書類を出しに行ってみた。
 感想とかなんかいろいろ提出を求められたが、後になってかなりの高額な金が支払われた。今から思えば結果的には良かったのかな。
 
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