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ぷりてぃ・すふぃんくす8
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この国から隣国に向かうためには、大きく分けて二つのルートがある。
山道ルートと平地ルート。
山道ルートは半日ほどだが、平地ルートは二日ほどかかってしまう。
だが、殆どの人は平地ルートを利用する。何故なら、この山を通るためには、山に住まう魔獣スフィンクスから問われる問題に答えなければならない。答えられなければ、食われてしまうという…。
「そこの君」
「はい」
「どうして君はここを通ろうとするのですか。魔獣が出ると話を聞きませんでしたか」
そう話しかけてきたのは、手足がネコ科で毛皮のレオタード。翼を背負ったグラマラスな美人。その当の魔獣スフィンクスであった。聞いていた話にはなかったことだが、メガネをかけている。だが、野暮ったいものでなく、デザインは悪くないかな。
スフィンクスはメガネをくいっと上げて話を続ける。
「確かに、この山は双方の国を結ぶ最短ルートですよ。険しい道でもないし。だからと言って、わざわざ魔獣が出る道を選ぶのはリスクが高すぎると思いませんか。平地ルートなら、確かに遠回りになるものの、ゆっくり休める宿も多いし」
「いやその」
なんか一気に捲し立てる感じで話すスフィンクス。だが、よく見ると微妙にこっちとは目線を合わせていない。
「水や食糧の補給も容易で、仕事の依頼をするギルドもほぼ全部の種類が揃っているでしょ。娯楽施設も多い。緊急の用件でもない限り、ここを通るメリットは何もないですよ」
「だからあの」
「他に何かここを通る意味があるとでも?」
強気な口調のまま、強硬な姿勢は崩さないのだが、今一迫力に欠けた感じがある。目線が少し違うのもそうだが、最初に現れた場所から微妙に後ずさっているのだ。こういうシチュエーションで意見を押し通そうというのなら、こっちに迫ってきてもいいのではないだろうか。
そういう状況に、あることをふと思い立ったので、ちょっといたずらを仕掛けてみた。
「スフィンクスに、そう、君に会ってみたくて」
そう言うと、スフィンクスは今度は目線を横に向けた。
「好奇心、猫を殺す」
「はい?」
「知らぬからと、興味本位で向かえば、命を落とすこともあるということですよ。リスク管理ですよ。急がば回れ。たとえ遠回りの道であろうとも、途中で事故に会ってしまえば、目的地に辿り着けない場合もあるのです。目的を達成しようというのであれば、まず第一目標を定めるべきでしょう。それが隣国に到着するということ。違いますか」
少し頬を赤らめて人差し指を立てた手を、話をする一拍ごとに小さく振り下ろす、一生懸命子供に言って聞かせるような姿勢ではあるんだけど、目線がこっちを向いていないんだよなあ。
これはやっぱり…。
「いやあ、でも、スフィンクスって綺麗なお姉さんだって聞いたしさあ、スタイルもいいとか、話し上手とか色々聞いてるし。それに実際すごい美人だったわけだし」
俺がそう言うと、スフィンクスは首だけガッとこっちに向けて固まってしまった。次の瞬間、その顔が真っ赤に染まる。「ぼっ」というオノマトペが本当に聞こえたかのようだった。
「なななな、何を言ってるんですか。ままま、魔獣ですよ。質問に答えられなかったら、たたたたた、食べられちゃうんですよ」
「ボンキュッボンでスタイルも抜群だし」
「やややや、やめてください。美人とか言うの。容姿とか体のこと言うのはセクハラですよ」
スフィンクスは自分の体を隠すかのように腕を回して、悶えるように動いていた。
ああ、やっぱり。そういう方面のアプローチは苦手なんだな。褒められ慣れていないんだな。
「ああ、なんかかわいい」
「やめ、やめ、やめてくださいってば。い、い、い、いいですか。たっ、たとえ自分は褒めているつもりであっても、相手が困っていたら、やめてほしいと言っているなら、やめてください」
「褒めてるつもりなんかないんだけどな。自意識過剰じゃね」
「えっ…」
スフィンクスの表情は、驚き、怒り、恥ずかしさ、いろいろごちゃ混ぜになった表情になった。俺の言ったことがよほど不可解でもあったのか、混乱して次の言葉が出せずにいるらしい。
「うっそ~♪」
「もういやー!」
スフィンクスは半泣きで駆け出した。が、少し先で立ち止まり、俺を睨みつけた。
「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これは何」
涙目で必死にスフィンクスたる質問を投げかけてきた。ここで変な答えを言ったら、さすがに鬼畜の所業だろうなあ。
「…人間」
「正解よ。とっとと行っちゃえ! バカー」
スフィンクスは泣きながら行ってしまった。
まずい。さすがにこれはやり過ぎてしまったらしい。
実際のところ、隣国に用事があった訳ではなく、スフィンクスに会ってみたかったというのは本当の事ではあるのだ。俺はもと来た方向へと向き直り、山を降りた。
そのまま帰るつもりで街中を通ったのだが、何やらあちこちで騒ぎになっていた。その話を聞いてみると、あろう事か、さっきの俺の所業がもう知れ渡ってしまっているではないか。
さすがに俺がやったという事までは知らないようだった。お互い名乗るわけではないから、むこうもそれはわからないだろう…と思っていたのだが、急報で手配書が来たという。
それには、俺の顔がでかでかと描いてあるではないか。
いかん。詰んでる。これは逃げると余計に面倒なことになるやつだ。でもどうして顔写真が載っているのだろう。
俺は覚悟を決めて、近くの自警団の詰所に行った。行ったら、むこうの方もさすがに驚いたようだった。
----------
今回の問題で、早々に対象者が出頭してきたために、事態は収束へと向かった。
スフィンクス側からの好意により罪に問われることはなかったのであるが、礼を失した行為をした当人に対しては、スフィンクスの作法による正式な謝罪を行なうことを求められた。これに関しては当人の了解も得られている。
ただし、条件付きでもあった。
今後三ヶ月、スフィンクスは活動を一時休止。その間に人間側の行動指針を徹底せよとのことであった。今回ほどではないが、以前からこういったことは少なからずあった模様である。
今後の展開が良き方向とならん事を期待する。
山道ルートと平地ルート。
山道ルートは半日ほどだが、平地ルートは二日ほどかかってしまう。
だが、殆どの人は平地ルートを利用する。何故なら、この山を通るためには、山に住まう魔獣スフィンクスから問われる問題に答えなければならない。答えられなければ、食われてしまうという…。
「そこの君」
「はい」
「どうして君はここを通ろうとするのですか。魔獣が出ると話を聞きませんでしたか」
そう話しかけてきたのは、手足がネコ科で毛皮のレオタード。翼を背負ったグラマラスな美人。その当の魔獣スフィンクスであった。聞いていた話にはなかったことだが、メガネをかけている。だが、野暮ったいものでなく、デザインは悪くないかな。
スフィンクスはメガネをくいっと上げて話を続ける。
「確かに、この山は双方の国を結ぶ最短ルートですよ。険しい道でもないし。だからと言って、わざわざ魔獣が出る道を選ぶのはリスクが高すぎると思いませんか。平地ルートなら、確かに遠回りになるものの、ゆっくり休める宿も多いし」
「いやその」
なんか一気に捲し立てる感じで話すスフィンクス。だが、よく見ると微妙にこっちとは目線を合わせていない。
「水や食糧の補給も容易で、仕事の依頼をするギルドもほぼ全部の種類が揃っているでしょ。娯楽施設も多い。緊急の用件でもない限り、ここを通るメリットは何もないですよ」
「だからあの」
「他に何かここを通る意味があるとでも?」
強気な口調のまま、強硬な姿勢は崩さないのだが、今一迫力に欠けた感じがある。目線が少し違うのもそうだが、最初に現れた場所から微妙に後ずさっているのだ。こういうシチュエーションで意見を押し通そうというのなら、こっちに迫ってきてもいいのではないだろうか。
そういう状況に、あることをふと思い立ったので、ちょっといたずらを仕掛けてみた。
「スフィンクスに、そう、君に会ってみたくて」
そう言うと、スフィンクスは今度は目線を横に向けた。
「好奇心、猫を殺す」
「はい?」
「知らぬからと、興味本位で向かえば、命を落とすこともあるということですよ。リスク管理ですよ。急がば回れ。たとえ遠回りの道であろうとも、途中で事故に会ってしまえば、目的地に辿り着けない場合もあるのです。目的を達成しようというのであれば、まず第一目標を定めるべきでしょう。それが隣国に到着するということ。違いますか」
少し頬を赤らめて人差し指を立てた手を、話をする一拍ごとに小さく振り下ろす、一生懸命子供に言って聞かせるような姿勢ではあるんだけど、目線がこっちを向いていないんだよなあ。
これはやっぱり…。
「いやあ、でも、スフィンクスって綺麗なお姉さんだって聞いたしさあ、スタイルもいいとか、話し上手とか色々聞いてるし。それに実際すごい美人だったわけだし」
俺がそう言うと、スフィンクスは首だけガッとこっちに向けて固まってしまった。次の瞬間、その顔が真っ赤に染まる。「ぼっ」というオノマトペが本当に聞こえたかのようだった。
「なななな、何を言ってるんですか。ままま、魔獣ですよ。質問に答えられなかったら、たたたたた、食べられちゃうんですよ」
「ボンキュッボンでスタイルも抜群だし」
「やややや、やめてください。美人とか言うの。容姿とか体のこと言うのはセクハラですよ」
スフィンクスは自分の体を隠すかのように腕を回して、悶えるように動いていた。
ああ、やっぱり。そういう方面のアプローチは苦手なんだな。褒められ慣れていないんだな。
「ああ、なんかかわいい」
「やめ、やめ、やめてくださいってば。い、い、い、いいですか。たっ、たとえ自分は褒めているつもりであっても、相手が困っていたら、やめてほしいと言っているなら、やめてください」
「褒めてるつもりなんかないんだけどな。自意識過剰じゃね」
「えっ…」
スフィンクスの表情は、驚き、怒り、恥ずかしさ、いろいろごちゃ混ぜになった表情になった。俺の言ったことがよほど不可解でもあったのか、混乱して次の言葉が出せずにいるらしい。
「うっそ~♪」
「もういやー!」
スフィンクスは半泣きで駆け出した。が、少し先で立ち止まり、俺を睨みつけた。
「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足。これは何」
涙目で必死にスフィンクスたる質問を投げかけてきた。ここで変な答えを言ったら、さすがに鬼畜の所業だろうなあ。
「…人間」
「正解よ。とっとと行っちゃえ! バカー」
スフィンクスは泣きながら行ってしまった。
まずい。さすがにこれはやり過ぎてしまったらしい。
実際のところ、隣国に用事があった訳ではなく、スフィンクスに会ってみたかったというのは本当の事ではあるのだ。俺はもと来た方向へと向き直り、山を降りた。
そのまま帰るつもりで街中を通ったのだが、何やらあちこちで騒ぎになっていた。その話を聞いてみると、あろう事か、さっきの俺の所業がもう知れ渡ってしまっているではないか。
さすがに俺がやったという事までは知らないようだった。お互い名乗るわけではないから、むこうもそれはわからないだろう…と思っていたのだが、急報で手配書が来たという。
それには、俺の顔がでかでかと描いてあるではないか。
いかん。詰んでる。これは逃げると余計に面倒なことになるやつだ。でもどうして顔写真が載っているのだろう。
俺は覚悟を決めて、近くの自警団の詰所に行った。行ったら、むこうの方もさすがに驚いたようだった。
----------
今回の問題で、早々に対象者が出頭してきたために、事態は収束へと向かった。
スフィンクス側からの好意により罪に問われることはなかったのであるが、礼を失した行為をした当人に対しては、スフィンクスの作法による正式な謝罪を行なうことを求められた。これに関しては当人の了解も得られている。
ただし、条件付きでもあった。
今後三ヶ月、スフィンクスは活動を一時休止。その間に人間側の行動指針を徹底せよとのことであった。今回ほどではないが、以前からこういったことは少なからずあった模様である。
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