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翔太編
一月
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不謹慎な言いようだと思うが、神社にとって元旦はかきいれ時である。
社務所に勤める身である以上、そんな折に休むような事はできるわけもない。これでもしも、彼女が一般の人であったなら、年末年始イベントに仕事を理由に参加できないのだから、下手を打つと別れ話にもなりかねない気がする。
まあ、なんやかんやで、めでたく交際することになったのは、この神社の宮司の娘であり、時に催事を取り仕切る事もある、三法屋美鈴。その彼女が今どこにいるかと言えば、札所でお守りやおみくじの販売、御朱印の受付をしているというわけである。
俺は同じく窓口の奥で、神社の銘の入ったグッズや菓子の売り場にいる。売り場と言っても、売っているもの自体の種類は多くはなく、場所的には窓口にいる彼女らとほとんど同じ所にいる。仕事も同じ場所で、というのはシチュエーション的には嬉しいところではあるが、会話を交わす暇もあらばこその忙しさなのだ。
この上塚岡神社は町内会レベルの地域密着型神社であるため、大きくはない…ぶっちゃけ小さい神社だが、それでも大晦日から正月三が日は目の回る忙しさである。
年末年始は、年に一番忙しい時期なのである。
三が日を過ぎても、一週間くらいはいつもより人の出入りが多い。よって、窓口にはその期間だけアルバイトが入る。
俺は三が日の集計である。こんな小さな神社によくもこんなにお賽銭が集まるもんだ。景気がいいせいか、一万円札もちらほら見える。
夜も遅くなって、やっと一次集計が終わる。これでようやくおせちにありつける。
三が日はどうしていたのかって? いろいろな準備にバタバタしていて、カップ麺とか菓子パンみたいに作業しつつもすぐに食べられるものばかりだった。
「いただきます」
俺がいるのは、実は三法屋家の団らんの中である。うちの両親はそれぞれの実家に数日間づつ行っている。結構遠方なので、五日くらいまでは帰ってこない。
ここの仕事に就く前は、年末年始はここでお参りを済ませた後で、俺も同行していたのだが、現在はこの通り。もちろん、疎遠になどはしておらず、ここの仕事が一段落ついてから顔を見せに行っている。祖父母の近くに住むいとこも少なからずいるので、そちらと遊ぶこともある。
去年までは、おせちのおすそ分け程度のものだったのだけれど、正式に交際に至った今年は、美鈴から申し出てくれてお宅までお邪魔しているわけである。無論、客としてでなく正月の席にいるのは初めてだ。
「おいしい?」
いろいろと取り皿に取ってもらっていたが、筑前煮を食べている時に美鈴が聞いてきた。いや、美鈴さん、ここでおいしくなくても、それをそのまま伝えられるほど遠慮のない関係ではないですよ。
すごくおいしいけど。
「おいしい」
美鈴の方も俺の表情で、お世辞でも取り繕ったことでもないことは、なんとなくでも判ってくれたと思う。
「よかった」
軽く微笑んで、美鈴は飲み物を取りに立った。
その間に美鈴のお母さんである美春さんがそっと耳打ちしてきた。
「筑前煮はね、今年はあの子一人で作ったのよ」
そうだったのか。余計な事まで言わなくてよかった。それにしても、年末年始にそんな時間よくとれたな。
「ふふん。翔太のために一生懸命つくったもんじゃ。下手な言葉は死を招いておったぞ」
「ちょっと、お父さん。やめてよ」
すっかり酒の入った松蔭さまもご機嫌である。ああもう、この生臭坊主が…いや、宮司の場合、破天荒なのは何て言うのだろう。
社務所に勤める身である以上、そんな折に休むような事はできるわけもない。これでもしも、彼女が一般の人であったなら、年末年始イベントに仕事を理由に参加できないのだから、下手を打つと別れ話にもなりかねない気がする。
まあ、なんやかんやで、めでたく交際することになったのは、この神社の宮司の娘であり、時に催事を取り仕切る事もある、三法屋美鈴。その彼女が今どこにいるかと言えば、札所でお守りやおみくじの販売、御朱印の受付をしているというわけである。
俺は同じく窓口の奥で、神社の銘の入ったグッズや菓子の売り場にいる。売り場と言っても、売っているもの自体の種類は多くはなく、場所的には窓口にいる彼女らとほとんど同じ所にいる。仕事も同じ場所で、というのはシチュエーション的には嬉しいところではあるが、会話を交わす暇もあらばこその忙しさなのだ。
この上塚岡神社は町内会レベルの地域密着型神社であるため、大きくはない…ぶっちゃけ小さい神社だが、それでも大晦日から正月三が日は目の回る忙しさである。
年末年始は、年に一番忙しい時期なのである。
三が日を過ぎても、一週間くらいはいつもより人の出入りが多い。よって、窓口にはその期間だけアルバイトが入る。
俺は三が日の集計である。こんな小さな神社によくもこんなにお賽銭が集まるもんだ。景気がいいせいか、一万円札もちらほら見える。
夜も遅くなって、やっと一次集計が終わる。これでようやくおせちにありつける。
三が日はどうしていたのかって? いろいろな準備にバタバタしていて、カップ麺とか菓子パンみたいに作業しつつもすぐに食べられるものばかりだった。
「いただきます」
俺がいるのは、実は三法屋家の団らんの中である。うちの両親はそれぞれの実家に数日間づつ行っている。結構遠方なので、五日くらいまでは帰ってこない。
ここの仕事に就く前は、年末年始はここでお参りを済ませた後で、俺も同行していたのだが、現在はこの通り。もちろん、疎遠になどはしておらず、ここの仕事が一段落ついてから顔を見せに行っている。祖父母の近くに住むいとこも少なからずいるので、そちらと遊ぶこともある。
去年までは、おせちのおすそ分け程度のものだったのだけれど、正式に交際に至った今年は、美鈴から申し出てくれてお宅までお邪魔しているわけである。無論、客としてでなく正月の席にいるのは初めてだ。
「おいしい?」
いろいろと取り皿に取ってもらっていたが、筑前煮を食べている時に美鈴が聞いてきた。いや、美鈴さん、ここでおいしくなくても、それをそのまま伝えられるほど遠慮のない関係ではないですよ。
すごくおいしいけど。
「おいしい」
美鈴の方も俺の表情で、お世辞でも取り繕ったことでもないことは、なんとなくでも判ってくれたと思う。
「よかった」
軽く微笑んで、美鈴は飲み物を取りに立った。
その間に美鈴のお母さんである美春さんがそっと耳打ちしてきた。
「筑前煮はね、今年はあの子一人で作ったのよ」
そうだったのか。余計な事まで言わなくてよかった。それにしても、年末年始にそんな時間よくとれたな。
「ふふん。翔太のために一生懸命つくったもんじゃ。下手な言葉は死を招いておったぞ」
「ちょっと、お父さん。やめてよ」
すっかり酒の入った松蔭さまもご機嫌である。ああもう、この生臭坊主が…いや、宮司の場合、破天荒なのは何て言うのだろう。
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