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第二部 ずっと一緒に暮らしたい
7.規模が違う
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7.規模が違う
邸宅内の広い庭を回って裏手に行き、馬車を取りあえずおいてから、イリスが邸宅の扉を開けて僕を中に入れてくれた。
邸宅内は白を基調にしてあり、さすが貴族のお妾さんお屋敷だっただけあるな、と言えるような佇たたずまいだった。風が吹くと庭からそこはかとなくいい香りもしている。
「ここはね、さっき言ったように取りあえずの仮住まいなんだけど、来月までは借りてるからゆっくり考えていいからね。」
「ああ。ありがとう。そうさせてもらうよ。急がなくていいんだけど、木工細工を作るために材木屋とか金物屋を知りたいから、今度街中を案内してもらえないか。」
「そうだね。街の中は広いからお店を片端から全部見るのは大変だよね。ちゃんと目的をもって見回った方がいいね。今度街中の地図を見せてもらいに行こう。」
「へえ。街の中なのに地図あるんだ?」
「そう。区画ごとにどこに何屋があるか分かるようにしてあるんだって。主に戦争のときとかに役立つらしいんだけど、火事とかあった時も避難経路が分かりやすいからなんだって。やっぱり、これもローマ時代からの知恵らしいよ。ただみんなが地図を持ってる訳じゃないよ。防犯上のこともあるから警備兵の人たちが管理してる。」
「ローマ帝国って凄いんだな。そんな知恵が今でも役に立って通じるてんだな。」
「ホントに昔のことなのに凄いよね。」
雑談しながら屋敷内を色々と案内してもらった。
三階建てで一階は玄関と大広間があり、奥に食堂と続きの間、さらに奥には厨房があった。階段横には家令の仕事部屋や召し使い用の部屋があるが今は家令がいないので空き部屋だという。
二階は客室が三部屋と書斎と図書室があり、三階は主専用の階で主寝室と続きの間とこれまた書斎と広間があった。
僕たちが使用するという主寝室にはとても大きいベッドがあったのだが、それは僕が五人は寝られるんじゃないかと思うくらい大きかった。そして続き部屋の奥に入浴用の部屋もあると聞き驚いてしまった。
「三階が主専用階なんだけど、もしもずっとここに住んで工房もここにするとしたら、一階の食堂横の続きの間でもいいし、新しく離れを建ててもいいかもね。」
イリスが簡単に言うけれど、こんな大きなお屋敷二人で住むのは大変じゃないのか。
そう思ったので聞くと、貴族のお妾さんが住んでいたころは下の大広間で舞踏会を催したり、装飾品や衣服などの品物を並べて品評会をしたりといったこともされていたそうだ。
だから、もしここで店を開くとしたら、年中ここで品評会みたいなことをしているようになるので、お客さんは来やすいかもしれない、とイリスは言う。手を広げるなら職人を住み込みで雇って、制作兼店番として三人くらいいても大丈夫じゃないか、とも。
これは、ちょっと規模が違う。腰を落ち着けていくなら、細々とするのではなく手を広げた方がいいんだろうか。でも僕は人づきあいがそれほど得意ではない。知り合いやお得意様とならかなり話せるが、露店で売る時に一見のお客さんの場合は、ほとんど話さないことが多い。僕はいつも売るために呼び込みはしないので、お客さんが買ってくれるのをずっと待つだけだった。僕の住んでいた町のセブでは、僕は午前中は工房で制作して、午後から露店で品物を売っていた。
一人で暮らす分にはそこそこ売れていたからそれで十分だったけれど、イリスを養うなら少し手を広げた方がいいな、と僕も思っていろいろ考えていた。
けれどこれは規模が違いすぎる。
僕はいきなりのことで、これからどうするかをきちんと考える事が出来なかった。
「アズ君、今のはあくまでも一つの案だから。別にずっとここに住まなきゃいけないってことはないから。悩ませちゃってごめん。こじんまりと下町で二人で暮らすのがすごく良いと思ったんだけど、ここを紹介されて、仮住まいで借りてるからそんなに悩まなくてもいいよ。」
「ああ。そうか?良かった。今ちょっと頭が混乱してた。ちょっとどうすることがいいか考えてみるよ。工房も店もいい方法を考えてみる。」
「そうそう。時間はたっぷりあるから。それより今日は疲れたでしょ?お風呂の用意するからそれに浸かって疲れを取ったらいいよ。」
「ありがとう。そうさせてもらえると助かる。」
「じゃあ後でね。僕のミツバチちゃん。」
ミツバチちゃん?なんだそれ。若い娘さんに男たちが言うのを聞いたことがあるけど、意味が分からない。僕たち二人の間には、まだわからないことが多いな。
そう思いながら、僕は主寝室だというベッドに気後れしながらも寝転がって少し気を抜いた。
少し寝ていたのか、気づいた時にはと外はもう暗くなっていた。
イリスはどこだろうと、あわてて起き上ったら僕のすぐ横にいた。
イリスがにこやかに笑ってキスを仕掛けてきたので、夕飯も取らず入浴もしてないのに、僕たちは恋人であるということを確認するための儀式を始めた。
今は久しぶりのイリスを感じよう。
難しいことは明日に回すぞ、と少しの間問題を棚上げしてイリスが良く言う彼を<堪能>することにした。
邸宅内の広い庭を回って裏手に行き、馬車を取りあえずおいてから、イリスが邸宅の扉を開けて僕を中に入れてくれた。
邸宅内は白を基調にしてあり、さすが貴族のお妾さんお屋敷だっただけあるな、と言えるような佇たたずまいだった。風が吹くと庭からそこはかとなくいい香りもしている。
「ここはね、さっき言ったように取りあえずの仮住まいなんだけど、来月までは借りてるからゆっくり考えていいからね。」
「ああ。ありがとう。そうさせてもらうよ。急がなくていいんだけど、木工細工を作るために材木屋とか金物屋を知りたいから、今度街中を案内してもらえないか。」
「そうだね。街の中は広いからお店を片端から全部見るのは大変だよね。ちゃんと目的をもって見回った方がいいね。今度街中の地図を見せてもらいに行こう。」
「へえ。街の中なのに地図あるんだ?」
「そう。区画ごとにどこに何屋があるか分かるようにしてあるんだって。主に戦争のときとかに役立つらしいんだけど、火事とかあった時も避難経路が分かりやすいからなんだって。やっぱり、これもローマ時代からの知恵らしいよ。ただみんなが地図を持ってる訳じゃないよ。防犯上のこともあるから警備兵の人たちが管理してる。」
「ローマ帝国って凄いんだな。そんな知恵が今でも役に立って通じるてんだな。」
「ホントに昔のことなのに凄いよね。」
雑談しながら屋敷内を色々と案内してもらった。
三階建てで一階は玄関と大広間があり、奥に食堂と続きの間、さらに奥には厨房があった。階段横には家令の仕事部屋や召し使い用の部屋があるが今は家令がいないので空き部屋だという。
二階は客室が三部屋と書斎と図書室があり、三階は主専用の階で主寝室と続きの間とこれまた書斎と広間があった。
僕たちが使用するという主寝室にはとても大きいベッドがあったのだが、それは僕が五人は寝られるんじゃないかと思うくらい大きかった。そして続き部屋の奥に入浴用の部屋もあると聞き驚いてしまった。
「三階が主専用階なんだけど、もしもずっとここに住んで工房もここにするとしたら、一階の食堂横の続きの間でもいいし、新しく離れを建ててもいいかもね。」
イリスが簡単に言うけれど、こんな大きなお屋敷二人で住むのは大変じゃないのか。
そう思ったので聞くと、貴族のお妾さんが住んでいたころは下の大広間で舞踏会を催したり、装飾品や衣服などの品物を並べて品評会をしたりといったこともされていたそうだ。
だから、もしここで店を開くとしたら、年中ここで品評会みたいなことをしているようになるので、お客さんは来やすいかもしれない、とイリスは言う。手を広げるなら職人を住み込みで雇って、制作兼店番として三人くらいいても大丈夫じゃないか、とも。
これは、ちょっと規模が違う。腰を落ち着けていくなら、細々とするのではなく手を広げた方がいいんだろうか。でも僕は人づきあいがそれほど得意ではない。知り合いやお得意様とならかなり話せるが、露店で売る時に一見のお客さんの場合は、ほとんど話さないことが多い。僕はいつも売るために呼び込みはしないので、お客さんが買ってくれるのをずっと待つだけだった。僕の住んでいた町のセブでは、僕は午前中は工房で制作して、午後から露店で品物を売っていた。
一人で暮らす分にはそこそこ売れていたからそれで十分だったけれど、イリスを養うなら少し手を広げた方がいいな、と僕も思っていろいろ考えていた。
けれどこれは規模が違いすぎる。
僕はいきなりのことで、これからどうするかをきちんと考える事が出来なかった。
「アズ君、今のはあくまでも一つの案だから。別にずっとここに住まなきゃいけないってことはないから。悩ませちゃってごめん。こじんまりと下町で二人で暮らすのがすごく良いと思ったんだけど、ここを紹介されて、仮住まいで借りてるからそんなに悩まなくてもいいよ。」
「ああ。そうか?良かった。今ちょっと頭が混乱してた。ちょっとどうすることがいいか考えてみるよ。工房も店もいい方法を考えてみる。」
「そうそう。時間はたっぷりあるから。それより今日は疲れたでしょ?お風呂の用意するからそれに浸かって疲れを取ったらいいよ。」
「ありがとう。そうさせてもらえると助かる。」
「じゃあ後でね。僕のミツバチちゃん。」
ミツバチちゃん?なんだそれ。若い娘さんに男たちが言うのを聞いたことがあるけど、意味が分からない。僕たち二人の間には、まだわからないことが多いな。
そう思いながら、僕は主寝室だというベッドに気後れしながらも寝転がって少し気を抜いた。
少し寝ていたのか、気づいた時にはと外はもう暗くなっていた。
イリスはどこだろうと、あわてて起き上ったら僕のすぐ横にいた。
イリスがにこやかに笑ってキスを仕掛けてきたので、夕飯も取らず入浴もしてないのに、僕たちは恋人であるということを確認するための儀式を始めた。
今は久しぶりのイリスを感じよう。
難しいことは明日に回すぞ、と少しの間問題を棚上げしてイリスが良く言う彼を<堪能>することにした。
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