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第一部 会えてよかった
6.広場にて
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6.広場にて
朝食を食べ終わった後、僕たちは広場に行く準備をした。
と言っても僕は何の準備もないけれど、イリスは顔の白さをカモフラージュするために、炭を水に入れて薄く伸ばした液を顔に塗っていた。
昨日言っていた野盗に狙われたりしないようにするにはもっと薄汚れた感じ、つまり湯を使ってほこりを落とす前の恰好をするらしいのだが、今日は軽くでいいらしい。
朝から薄汚れたままだとすごく不潔に見えるらしく、あまりお客の反応が良くないという。
しかし、何もしないと歌どころでなく口説く男や女が引きも切らないので、汚く見えない程度に汚れをつけて、顔をはあっきりとわからないようにしなければならないということだった。
本当にきれいすぎる美人は苦労するんだ、と僕は変なところで感心してしまった。
なぜなら、きれいな女の人や男の人は得することばかりだと思っていたから。
というのも、美人は得だなぁ、と思わせる妹がいたからだった。
僕の妹は母によく似てきれいだった。妹は母譲りの美しい金髪とアーモンド形の目をした碧の瞳と、抜群のプロポーションを持っていたので、誰が見てもきれいだと言われていた。そのため、小さいころからなにやかやと近所の人たちに可愛がられ、いろんなお菓子をもらったりしていたが、成人になる前から男たちにいろんな高価なものを貢がれていた。本当にあれは、贈り物、と言うより貢物(みつぎもの)と言った方がふさわしかったな。本当に、ひと財産と言われるくらいのものをもらっていた。
美人は性格があまり良くない、とか言われていたけれど、僕の妹は性格は良いし朗らかだったから、年頃になるころには求婚者が引きも切らなかった。それだから、その中で一番条件のいい隣町の町長の息子の嫁に収まる事が出来たのだ。
男の方も美人だと同じような現象があるらしく、いいところに婿に入れることが多く、美人で恰好の良い僕の友人の一人も良い商家に婿に入った。
僻(ひがん)ではないけれど、やっぱり美人は得だ、と言わざるを得ない状況を見ていたから、美人は得だなあ、と思っていた。
僕の方はというと妹の言う「残念な感じ」だから女の子とかなり親しくなっても、結婚までには至らずと言うかそういう相手とは考えられていなかった。これも縁がなかったんだろうから仕方がないけれど、やはり見た目がものをいうのは大きいよなぁ。
あれ、これって僻んでるのか。だめだなぁ。ないものねだりしたくないのに。
イリスの方はきれいすぎるっていうのが、障害になるならばそれはそれで考えものだから、あんまり羨んだりしない方が良いな。
そんなことをつらつら考えていたら、彼の支度が整ったので戸締りをしてから僕たちは連れだって広場に向かった。
まだ昼前だから広場は閑散としているはずだ。昼過ぎから夕方にかけて人が多くなってくるから、その頃を見計らって歌を唄ったらどうかと言うち、イリスもそれでよいというので、二人で露店を何軒か回ってみることにした。
ここ二~三日は雨も雪も降らず、今日も天気が良く暖かいのでそぞろ歩きにはぴったりだった。
「あれ、あれはなに?」
「あれはイノシシの肉を焼いてたれを付けたものだよ。」
「たれって?」
「豆をゆでてつぶして塩で味付けしたものだったかな」
「おいしそう。あれ食べよう。」
「ねえ、これは何?」
「ウサギの耳さあ。」
「あれもおいしそうな匂いがする」
「食べて御覧、うまいよ。」
「これはじめて食べる。」
「こっちをおまけするからこれを買いなよ。」
露店商の親父やおばさんやらといろいろやり取りをしつつ、露店で出ている品物を制覇するんじゃないかと思うくらい、イリスはいろんな店を楽しげにひやかしたり、購入した食物を端から腹におさめていった。
僕はその半数も食べられなかったのに、彼は残すことなく買ったものをすべて食べきった。
「よくそんなに入るね?」
僕があきれつつも感心してして言うと、彼はあっけらかんと言った。
「だって旅の醍醐味だよ?知らない街で食べるのはさ。その土地その土地で微妙に味付けが違ったり、素材も変わってくるから食べるのが楽しいよ。おいしいものはもちろん、多少微妙な味でも楽しんで食べなくちゃ、食べ物に申し訳ないからね!」
確かにね。でもまあ、よく食べたこと。
唄うまでまだ時間はありそうだけど大丈夫かな。
「大丈夫。一時間も経たないでも唄えるから。今日はお初だから、お客さんの反応で何を唄うか決めるよ。いつも唄いたいものを唄うから、何曲唄ったかは数えたことはないけど、お客さんを満足させられると思う。」
「でも昨日は二曲唄っただけで人が集まるくらいだったし、みんなも僕もまだずっと聞いていたい感じだったから、かなり数をこなさなきゃならないかも。特に今の冬の時期この町は娯楽が少ないから。いつもと違うことに飢えてるんだよ。」
「そっか。じゃあちょっと心しておこう。どれだけの人を引き付けられるか腕が鳴るよ。楽しみだ。」
それから腹ごなしに一時間ばかり歩いてから、僕たちは広場に戻った。
イリスは広場の中央にある噴水に近寄り座り込んで、先ほどよりもちらほら出てきた人々を気にすることなく、ハープを袋から取りだして昨日のように調律をし始めた。
もうすぐ天上の歌声が聴ける。
そして、僕は彼の歌を間近で聴くべく、彼の前の特等席に陣取って腰をおろして、昨日の夜僕たちを感動させてくれた歌声が聞えてくるのを待った。
朝食を食べ終わった後、僕たちは広場に行く準備をした。
と言っても僕は何の準備もないけれど、イリスは顔の白さをカモフラージュするために、炭を水に入れて薄く伸ばした液を顔に塗っていた。
昨日言っていた野盗に狙われたりしないようにするにはもっと薄汚れた感じ、つまり湯を使ってほこりを落とす前の恰好をするらしいのだが、今日は軽くでいいらしい。
朝から薄汚れたままだとすごく不潔に見えるらしく、あまりお客の反応が良くないという。
しかし、何もしないと歌どころでなく口説く男や女が引きも切らないので、汚く見えない程度に汚れをつけて、顔をはあっきりとわからないようにしなければならないということだった。
本当にきれいすぎる美人は苦労するんだ、と僕は変なところで感心してしまった。
なぜなら、きれいな女の人や男の人は得することばかりだと思っていたから。
というのも、美人は得だなぁ、と思わせる妹がいたからだった。
僕の妹は母によく似てきれいだった。妹は母譲りの美しい金髪とアーモンド形の目をした碧の瞳と、抜群のプロポーションを持っていたので、誰が見てもきれいだと言われていた。そのため、小さいころからなにやかやと近所の人たちに可愛がられ、いろんなお菓子をもらったりしていたが、成人になる前から男たちにいろんな高価なものを貢がれていた。本当にあれは、贈り物、と言うより貢物(みつぎもの)と言った方がふさわしかったな。本当に、ひと財産と言われるくらいのものをもらっていた。
美人は性格があまり良くない、とか言われていたけれど、僕の妹は性格は良いし朗らかだったから、年頃になるころには求婚者が引きも切らなかった。それだから、その中で一番条件のいい隣町の町長の息子の嫁に収まる事が出来たのだ。
男の方も美人だと同じような現象があるらしく、いいところに婿に入れることが多く、美人で恰好の良い僕の友人の一人も良い商家に婿に入った。
僻(ひがん)ではないけれど、やっぱり美人は得だ、と言わざるを得ない状況を見ていたから、美人は得だなあ、と思っていた。
僕の方はというと妹の言う「残念な感じ」だから女の子とかなり親しくなっても、結婚までには至らずと言うかそういう相手とは考えられていなかった。これも縁がなかったんだろうから仕方がないけれど、やはり見た目がものをいうのは大きいよなぁ。
あれ、これって僻んでるのか。だめだなぁ。ないものねだりしたくないのに。
イリスの方はきれいすぎるっていうのが、障害になるならばそれはそれで考えものだから、あんまり羨んだりしない方が良いな。
そんなことをつらつら考えていたら、彼の支度が整ったので戸締りをしてから僕たちは連れだって広場に向かった。
まだ昼前だから広場は閑散としているはずだ。昼過ぎから夕方にかけて人が多くなってくるから、その頃を見計らって歌を唄ったらどうかと言うち、イリスもそれでよいというので、二人で露店を何軒か回ってみることにした。
ここ二~三日は雨も雪も降らず、今日も天気が良く暖かいのでそぞろ歩きにはぴったりだった。
「あれ、あれはなに?」
「あれはイノシシの肉を焼いてたれを付けたものだよ。」
「たれって?」
「豆をゆでてつぶして塩で味付けしたものだったかな」
「おいしそう。あれ食べよう。」
「ねえ、これは何?」
「ウサギの耳さあ。」
「あれもおいしそうな匂いがする」
「食べて御覧、うまいよ。」
「これはじめて食べる。」
「こっちをおまけするからこれを買いなよ。」
露店商の親父やおばさんやらといろいろやり取りをしつつ、露店で出ている品物を制覇するんじゃないかと思うくらい、イリスはいろんな店を楽しげにひやかしたり、購入した食物を端から腹におさめていった。
僕はその半数も食べられなかったのに、彼は残すことなく買ったものをすべて食べきった。
「よくそんなに入るね?」
僕があきれつつも感心してして言うと、彼はあっけらかんと言った。
「だって旅の醍醐味だよ?知らない街で食べるのはさ。その土地その土地で微妙に味付けが違ったり、素材も変わってくるから食べるのが楽しいよ。おいしいものはもちろん、多少微妙な味でも楽しんで食べなくちゃ、食べ物に申し訳ないからね!」
確かにね。でもまあ、よく食べたこと。
唄うまでまだ時間はありそうだけど大丈夫かな。
「大丈夫。一時間も経たないでも唄えるから。今日はお初だから、お客さんの反応で何を唄うか決めるよ。いつも唄いたいものを唄うから、何曲唄ったかは数えたことはないけど、お客さんを満足させられると思う。」
「でも昨日は二曲唄っただけで人が集まるくらいだったし、みんなも僕もまだずっと聞いていたい感じだったから、かなり数をこなさなきゃならないかも。特に今の冬の時期この町は娯楽が少ないから。いつもと違うことに飢えてるんだよ。」
「そっか。じゃあちょっと心しておこう。どれだけの人を引き付けられるか腕が鳴るよ。楽しみだ。」
それから腹ごなしに一時間ばかり歩いてから、僕たちは広場に戻った。
イリスは広場の中央にある噴水に近寄り座り込んで、先ほどよりもちらほら出てきた人々を気にすることなく、ハープを袋から取りだして昨日のように調律をし始めた。
もうすぐ天上の歌声が聴ける。
そして、僕は彼の歌を間近で聴くべく、彼の前の特等席に陣取って腰をおろして、昨日の夜僕たちを感動させてくれた歌声が聞えてくるのを待った。
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