6 / 12
ドールハウス
しおりを挟む叔母の葬儀が終わり、家族で形見分けをしているときに、そのドールハウスが目に入った。木製の骨組みに、精緻な装飾が施されているそのドールハウスは、まるで生きているかのように感じられた。
「これ、誰が持って帰る?」
姉が私に向かって尋ねた。
「私が持って帰るよ」と言いたくなかったが、姉たちの視線が一斉に私に向けられた。その場の空気に押されるようにして、私は渋々受け取ることになった。
数日後、ドールハウスが私のマンションに届いた。箱から取り出すと、その古めかしさと念入りな手入れが施された高級感が目立った。私は何とか売りに出して少しでも利益を得ようと考え、人形をドールハウスに配置し始めた。
それぞれの部屋には、小さな家具や装飾品が丁寧に配置され、まるで本物の家のようだった。人形もリアリティがあって、その顔には微妙な表情が刻まれていた。
「本当に精巧だな…」
その夜、私はドールハウスを売りに出すために写真を撮り、オンラインオークションに掲載した。価格は思った以上に高く設定できた。これで少しは儲かるだろう、と内心ほくそ笑んだ。
しかし、その翌日から奇妙なことが起こり始めた。仕事から帰宅すると、ドールハウスの中の人形が微妙に動いているように感じられた。最初は気のせいだと思っていたが、次第にその異変は明らかになっていった。
ある夜、寝ていると人形たちが微かに動く音が聞こえてきた。私は恐る恐るドールハウスを確認しに行った。人形たちの配置が変わっているのを目の当たりにしたとき、背筋に冷たいものが走った。
「これは一体…」
叔母の形見のドールハウスは、ただの骨董品ではなかったのかもしれない。私は叔母のことを思い出し、その趣味にどれほどの情熱を注いでいたのかを考えた。もしかしたら、彼女はこのドールハウスに何か特別な思いを込めていたのかもしれない。
数日後、私はドールハウスの買い手から連絡を受けた。高額で買い取りたいと言ってきた。しかし、私は何かに取り憑かれたように、売ることをためらった。
その夜、再び人形たちの動く音が聞こえた。今度ははっきりと目の前で見てしまった。小さな人形たちが動き、まるで私に何かを伝えようとしているかのようだった。恐怖と興味が入り混じり、私は彼らの動きを見守った。
「何かを、伝えようとしている…」
翌朝、私はドールハウスをじっくりと調べることにした。各部屋を隅々まで確認すると、床板の下に小さな引き出しが隠されているのを発見した。その中には、一通の手紙が入っていた。
手紙には、叔母の細かな文字でこう書かれていた。
「このドールハウスは、私の愛する家族との思い出を詰め込んだものです。これを受け取る人が、私の思いを感じてくれることを願っています」
私はその手紙を読み、胸が締め付けられる思いだった。叔母の思いを無視して転売しようとした自分が恥ずかしくなった。ドールハウスを手放すことを止め、私の家に大切に飾ることにした。
それ以来、不気味な現象はぴたりと止んだ。叔母の思いを受け入れたことで、彼女の魂も安らかに眠っているのだろう。ドールハウスは、今や私にとって大切な形見となり、私の家の一角に静かに佇んでいる。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【Vtuberさん向け】1人用フリー台本置き場《ネタ系/5分以内》
小熊井つん
大衆娯楽
Vtuberさん向けフリー台本置き場です
◆使用報告等不要ですのでどなたでもご自由にどうぞ
◆コメントで利用報告していただけた場合は聞きに行きます!
◆クレジット表記は任意です
※クレジット表記しない場合はフリー台本であることを明記してください
【ご利用にあたっての注意事項】
⭕️OK
・収益化済みのチャンネルまたは配信での使用
※ファンボックスや有料会員限定配信等『金銭の支払いをしないと視聴できないコンテンツ』での使用は不可
✖️禁止事項
・二次配布
・自作発言
・大幅なセリフ改変
・こちらの台本を使用したボイスデータの販売
ジャングルジム【意味が分かると怖い話】
怖狩村
ホラー
僕がまだ幼稚園の年少だった頃、同級生で仲良しだったOくんとよく遊んでいた。
僕の家は比較的に裕福で、Oくんの家は貧しそうで、
よく僕のおもちゃを欲しがることがあった。
そんなある日Oくんと幼稚園のジャングルジムで遊んでいた。
一番上までいくと結構な高さで、景色を眺めながら話をしていると、
ちょうど天気も良く温かかったせいか
僕は少しうとうとしてしまった。
近くで「オキロ・・」という声がしたような、、
その時「ドスン」という音が下からした。
見るとO君が下に落ちていて、
腕を押さえながら泣いていた。
O君は先生に、「あいつが押したから落ちた」と言ったらしい。
幸い普段から真面目だった僕のいうことを信じてもらえたが、
いまだにO君がなぜ落ちたのか
なぜ僕のせいにしたのか、、
まったく分からない。
解説ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
近くで「オキロ」と言われたとあるが、本当は「オチロ」だったのでは?
O君は僕を押そうとしてバランスを崩して落ちたのではないか、、、
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる