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読み切り

それはさすがにないだろ

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 夜は深まり、東京の喧騒も遠くに感じられるほど静かになっていた。しかし、私の心臓の鼓動だけが、この静寂を打ち破る。なぜなら、私の前には吸血鬼がいるからだ。彼の名前はヴラド。不死の存在、夜の支配者。

「さあ、ゲームを始めよう。君が朝まで生き延びれたら勝ちだ」

 ヴラドの声は、不気味に響く。

 私は逃げるしかない。しかし、彼のスピードには敵わない。そう考えた瞬間、頭に閃いた。吸血鬼の弱点、それは日光だけではない。もう一つ、あるじゃないか。それは、プロレスリングだ。

 私はヴラドに提案する。

「吸血鬼よ、お前との勝負をプロレスリングで決めよう」

「プロレスリング?」

 ヴラドは一瞬、困惑の色を見せる。しかし、すぐに笑みを浮かべた。

「面白い。受けて立とう」

 そして、私たちは東京のど真ん中、夜中にもかかわらず明かりがつけられたプロレスリングのリングに立っていた。観客はいない。ただ、夜の静寂が見守る中、勝負は始まった。

 ヴラドは吸血鬼らしい動きでリングを動き回る。しかし、私もただではない。プロレスリングの技を駆使して、ヴラドと渡り合う。

「こんなことで、私が負けると思うか?」ヴラドは嘲笑するが、私は笑みを返すだけだ。

 そして、ついに、決定的な一撃。私はヴラドをコーナーポストに押し上げ、トップロープからのフライングボディアタックを決める。ヴラドはリングに倒れ込み、動かなくなる。

「勝者、私だ!」

 私は息を切らしながら宣言する。しかし、ヴラドはゆっくりと立ち上がり、今度は本当の笑みを浮かべる。

「面白かった。久しぶりに楽しい時間を過ごしたよ」ヴラドは言うと、消えていった。

 朝が来る。私は一人、リングの中で勝利を喜ぶ。しかし、それ以上に、この不思議な出来事を通じて、吸血鬼と友情のようなものを感じていた。
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