「探偵 曾我山入鹿（そがやまいるか）」

5 ある秘密

「生暖かい手」

　入鹿と釜堀は、夜の帳が下りた町のホテルバーで、ゆったりとした雰囲気の中で対面していた。彼らの間には、静かに燃えるキャンドルが置かれ、柔らかい照明が二人の表情を和らげていた。

　釜堀は、自分の理想について熱心に語り始める。

「本当の意味での性的な自由を、この町で実現したいんだ。人々が自分自身を表現し、性的な差別に縛られることなく生きられる社会を作ること。それが僕の夢だよ。そして、その一歩が混浴温泉なんだ」

　彼の言葉は、真剣そのもので、その瞳には夢を実現させるための強い意志が宿っていた。入鹿は、そんな釜堀の姿に改めて心を打たれた。彼女自身も、釜堀の理想に共感し、彼と一緒にその実現を目指したいと感じていた。

　一方、バーの隅の席で、美月はこれを盗聴器を通じて聞いていた。彼女の表情は驚きと困惑で満ちていた。

「こんなに真剣に考えているなんて…」

　美月は、釜堀の理想が自分の常識や価値観とは大きく異なることに、混乱を感じずにはいられなかった。

　しかし、その場の雰囲気は、美月の心の動揺を知る由もなく、釜堀は情熱を入鹿にぶつけていた。

「僕たちが目指す世界は、まだまだ理解されにくいかもしれない。でも、だからこそ、僕たちが先頭に立って変えていかなければならないんだ」

　釜堀は入鹿の手を握り、力強く言った。

　入鹿は、その手の生暖かさを感じながら、釜堀の言葉に深く頷いた。

「一緒に、その理想を実現したいですが、あなたがやっていることを文章で送っていただけませんか？」

「ああ、もちろんだよ❤」

　二人の間に流れる生暖かい雰囲気は、美月には理解しがたいものであったが、釜堀の興奮は下半身をみれば、誰の目にもわかるものだった。