「探偵 曾我山入鹿（そがやまいるか）」

2 栗の花の匂いがする古びたトイレ

プロローグ

　真夜中、町の端にぽつんと立つ古びた公園。その一角に、噂のトイレがある。夜な夜なネット掲示板で囁かれる、奇怪な現象が起こるというその場所に、好奇心旺盛な高校生たちが挑むことになった。

「本当に悲鳴が聞こえるのかな？」

　一人が半信半疑でつぶやく。

　夜風が冷たく、校舎の影が月明かりに浮かび上がる。彼らは、心臓の鼓動を抑えながら、ゆっくりとそのトイレに近づいていった。足元からは、かすかに栗の花の匂いが漂ってくる。季節外れの香りに、一瞬だけ不安が頭をよぎる。

　トイレの前に立つと、規則正しいキシキシという音が聞こえてきた。まるで何かがゆっくりと動いているような…。その音は、彼らの恐怖を煽る。一歩、また一歩とトイレに近づくたびに、その音は明確になっていった。

「大丈夫か？」

　仲間の一人が小声で尋ねる。しかし、返事をする間もなく、彼らはトイレの扉を開けた。薄暗い中、何かがぼんやりと見える。その瞬間、耳をつんざくような

「アーーー」

　という悲鳴が響き渡った。

　しばらくして、トイレからは奇妙な声が聞こえてきた。息遣い、そして再びキシキシという音。今度は、もっと速く、もっと大きく。

　それから、高校生たちは息を切らして、住宅街へと消えていった。その後、彼らは誰一人として、そのトイレの近くを通ることはなかった。

　しかし、真実は誰にもわからない。あの夜、トイレで何が起こったのか。そして、あの悲鳴の正体は…。