『むらさき』殺人事件

『むらさき』

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オカマイタチの夜

8 結末

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 章枝の告白は、静かなリビングルームに重く響き渡りました。

「私は男だったのです。でも、とても女性的な性格で、理解ある両親や周りの友人たちは私を女性として育ててくれました。私は女性として生きてきたんです」

 彼女、いや彼は一息ついて続けました。

「しかし、私の家が経済的に傾いたとき、真司郎さんとの婚約が話し合われることになりました。彼の容姿と性格には本当に惚れ込んでいた。ですが、私がオカマであることを告白する勇気はありませんでした」

 章枝は苦悩した表情で頭を下げ、言葉を選びながら語り続けました。

「そして、真司郎さんが毎年このペンションで怪しい時間を過ごしているという噂を耳にしました。真実を知るために、私は高遠として前日にチェックインし、盗聴器を仕掛けたのです」

 全員がその話に耳を傾けている中、章枝はさらに重大な事実を明かしました。

「女性としてチェックインして女性用のお風呂場に入って毛の処理をしていたら、お風呂から出てきた優以さんと出くわしてしまいました。彼女に私の秘密がバレてしまい…」章枝の声が震えました。

「咄嗟に彼女を気絶させてしまい、高遠に罪をなすりつけることを思いついたんです。それがこの事件の真相です」

 章枝の告白は、一つ一つのピースが組み合わさって、リビングルームにいた全員に衝撃を与えました。彼女の、いや彼の人生に対する葛藤と、事件発生の背景が明らかになったのです。

「ふざけんな!」

 リビングの空気が一変し、昌也の手には美樹本さんの猟銃が握られていました。章枝に向かっているその銃口からは、昌也の怒りがひしひしと伝わってきました。

「お前が優以を…!」昌也の声は震え、怒りで満ちていました。

 その緊迫した瞬間、真司郎が冷静さを保ちながら昌也の前に立ちはだかりました。

「昌也さん、これ以上はダメだ。何も解決しない。武器を下ろして話し合おう」と彼は昌也を説得しました。

 昌也は真司郎の真剣な顔に戸惑いながらも、ゆっくりと銃口を下げ始めました。そんな中、マサが予期せぬ一言を放ちます。

「昌也さんもオカマでしょ」とマサが静かに言いました。

 その言葉に昌也は明らかに動揺し、さらに混乱が加速しました。その時、意識を取り戻した優以が声を上げました。

「知ってる」と彼女は弱々しく言いました。

「昌也がオカマだってこと、知ってる」

 昌也は自分の秘密を妻が知っていたことに衝撃を受け、涙を流しながら崩れ落ちました。

「ごめん、優以。本当にごめん。隠し続けてきたけど、もう…もう隠せない…」

 真実が明らかになったその部屋では、昌也の謝罪と涙が、彼の抱えていた深い秘密と苦悩を物語っていました。

 真司郎は、混乱が一段落した後、美樹本さんと自分との関係を全員に向けて静かに告白しました。

「美樹本さんとは長い間、特別な関係を持っていました。でも、章枝さんには隠し事をしてすまなかった。本当にごめんなさい」と真司郎は頭を下げました。

 そして、章枝の方に向き直り、彼女の目を見つめながら、心からの愛を改めて告白しました。

「章枝さん、僕の愛は変わりません。あなたが誰であろうと、僕はあなたのことを愛しています。これからも一緒にいたい。許してほしい」

 章枝の目には涙が溢れ、彼女は真司郎の手を握り返しました。

「真司郎さん、ありがとうございます。私もあなたのことを愛しています」

 その後、事件はゆっくりと収束していきました。美樹本さんと松井は、リビングでマサとサンドラに深く頭を下げました。

「あなたたちには感謝してもしきれません。そして、多大な混乱を招いてしまい、申し訳なかった」と美樹本さんが言い、松井も頷きながら「本当にありがとう」と感謝の言葉を述べました。

 マサとサンドラがペンションを出るとき、サンドラが松井に向かって言いました。

「あなたもオカマでしょう?」

 松井は瞬間、驚いたような表情を見せましたが、すぐに笑みを浮かべて認めました。

「はは、さすがですね。見抜かれましたか」

 マサとサンドラは微笑みながらペンションを後にしました。彼らが去った後、ペンションの残された人々は、それぞれの真実と向き合いながら、新たな一歩を踏み出そうとしていました。



 新幹線の座席に座り込んだマサとサンドラは、穏やかに通り過ぎる雪景色を眺めながら、深い息を吐き出しました。

「ふう、ようやく終わったわね」とマサは肩の力を抜いて言いました。

 サンドラはそれに頷き、安堵の表情で答えました。

「ええ、本当に大変だったわ。でも、結局は美樹本さんの素行調査を依頼された調査員として、我々の使命は果たせたわね」

 マサは窓の外に目をやりながらうなずきました。

「ええ、それにしても、調査員以外の仕事をするとは思わなかったけど」

 サンドラは軽く笑いながら言いました。

「そうね、でもそれが我々の仕事。オーナーからの依頼だったし、やるしかなかったのよ」

 二人は再び深呼吸をし、心地よい疲労感とともに、ゆったりとした時間を楽しんでいました。

「さあ、これで我々の仕事は終わり。次の依頼が来るまで、少し休憩しましょう」とマサが提案しました。

 ふと、サンドラが何気ない質問を投げかけました。

「マサ、あなた優以さんがオカマじゃないと思う?」

 マサは少し笑って、「まさか(笑)」と返答しました。

 そして、二人はこの長い一日の出来事を静かに振り返りました。新幹線は雪に覆われた田園地帯を縫うように進み、彼らの前にはまた新しい日々が待っているという予感がありました。静かに流れる冬の風景の中で、マサとサンドラは次の仕事に向けて力を蓄えていました。
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