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Chapter 2
rain
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軽井沢南部
ぽつりと水滴が肌に触れた。
気温は22℃。空は一面に雨雲が広がり、今にも本格的に降り出しそうだった。
タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!
城隅が羽犬塚に肩を貸して前に進む。
「ウグッ‥‥‥痛っ!ふーっ!ふーっ!」
羽犬塚は脇腹に貫通銃創を負っていた。出血量からも動脈は傷ついていないが、動くたびに眉間に皺を寄せ、ちいさく呻き声をあげていた。
「頑張れ!羽犬塚!もう少し行けば休めるぞ!」
「す、すいません‥‥‥城‥‥‥隅1尉‥‥‥」
『50m先の茂みまで行くぞ!エコー援護しろ!』
『了解!!』
タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!
ゴルフコースにミニミ軽機関銃の連射音が響く。
シヒュン!!シヒュン!!
そして敵の弾がが頭上を掠め、空気を切り裂く音が鼓膜を震わせた。
『リロード!』
矢留が叫んだ!ミニミの弾丸を撃ち尽くした。すぐにその場に伏せ、箱型の弾倉を交換する。
すかさず遠山と神崎が矢留を援護する。
『エコーそのまま這ってください!』
タパン!タパン! タタン! タタン! タタン!タパン!!
神崎の言葉で、矢留はフェアウェイの芝を掴みながら、完全に顔を伏せた第4匍匐でみんなが居る茂みまで移動する。矢留の頭をかすめた弾丸は土煙を上げて芝を吹き飛ばした!何とか茂みに辿り着き直ぐに木の陰に転がるように身を潜める。
「はぁー!はぁー!ミニミは最後の弾倉です!はぁー!はぁー!‥‥‥死ぬかと思ったわ!ユヅキちゃん!」
「大丈夫ですか!!」
矢留は肩で息をしていたが、花宗を見てニヤリと笑った。
「ユヅキちゃん小銃は撃てるよね?」
「え、ええ使えますよ」
「じゃ、これ、弾は入っているから」
「了解です」
矢留から小銃と弾倉を受け取ると、チャージングハンドルを引いて弾丸を装填した。
「了解、弾は節約してくれよ!‥‥‥3人は大丈夫か?」
柳川が蒼達に声を掛けた。
「は、はい!大丈夫ですが、沢原さんがちょっと辛いみたいです」
「大‥‥‥丈夫‥‥‥まだ、大丈‥‥‥夫、はぁー!はぁー!はぁー!‥‥‥」
沢原はかなり辛そうで顔色が悪い。
「もう少しだ。ホテルに入れば少しは休める。何とか頑張ってくれ!」
「は、はい‥‥‥分かり‥‥‥まひた」
神崎は本隊から少し離れたところで腹ばいになり、スコープを覗く。そして、ゆっくりとトリガーに指を掛けた。
スコープのクロスヘアに目標の頭部が重なる。
呼吸に合わせ、トリガーを絞った。タパン!!
スコープの向こうに居る目標の頭部から血液と脳の一部が飛び散った。
撃ち終わってもトリガーは完全に戻さない。戻しきる寸前のところでカチリと指先に振動が来る。そこで止めて次の獲物に照準を合わせた。こうすると、戻しきるよりも軽くトリガーを落とせるのだ。
神崎は呼吸を整えゆっくりとトリガーを絞る。タパン!!
2人目は右肩を掠めた!
「チッ!」
『一人倒して、一人軽傷。残り4』
『良いぞ!フォックストロット!全員無駄玉は撃つなよ!』
『了解!!』
「沢原さん大丈夫?あと200mもないはず」
「え、ええ‥‥‥まだいけます!はぁー、はぁー‥‥‥」
「取り合えず、水を一口飲んで。ほら」
「あ、ありがとう、大溝君‥‥‥」
「莉子‥‥‥は、大丈夫そうだな!」
「は?妹にはちょっと雑じゃね?」
「ほら、元気そうじゃん」
莉子はほっぺを膨らませていた
それを見て、沢原は少し笑顔を見せた。
まだ雲は我慢していたが、それも時間の問題だ。
「柳川3佐」
「なんだ?」
「ちょっとおかしくないですか?こちらは負傷者と子供連れとはいえ、相手はたった4人でしつこく付いてくる。敵は弾薬が尽きれば何も出来ないなず、それとも補給が来るのか‥‥‥。武装も小火器だけだし、連携も出来ていない事から、何も考えていないのか‥‥‥。敵の落としどころが分かりませんね」
「俺もそこは解せない。馬鹿な狂信者か、はたまた時間稼ぎか‥‥‥?」
「時間稼ぎ?では増援か補給か?」
「分からんね。こっちは基山が来れば補給できるが‥‥‥。とにかくホテルまで子供達と羽犬塚を連れて行くしかない。遠山1曹は羽犬塚を頼む。あとちょっとだ」
「了解です!」
『全員聞いてくれ!残り200も無い。エコーとフォックストロットで援護してくれ。残りは一気に建物に入るぞ』
『了解!!』
『前へ!!』
矢留がミニミで牽制射撃をしている間に、神崎がスコープを覗く。
その間に蒼と莉子は沢原の手を引いて走った。
『よし!2人は後退しろ!』
『了解!』
矢留と神崎は射撃位置から匍匐で移動し、柳川と花宗の援護射撃で後退する。それを繰り返す。
敵の攻撃も極端に減って来た。弾薬が少ないのだろう。
羽犬塚も相当に辛いはずだが、自分が進まなくては仲間が道連になってしまう。そう考えると、今感じている痛みを気にしている場合じゃなかった。
『アルファ!全員建物に到達!』
『了解!!』
バン!!
従業員用の金属製のドアを勢いよく開けた。建物は鉄筋コンクリート製で窓やドアに近付かない限り弾が貫通する心配はなかった。
建物内は照明が消え人の気配はない。事務所や更衣室を通り過ぎ、医務室と書かれた部屋を見つけるとドアを開けて、羽犬塚をベッドに寝かせた。
沢原も力尽き、地べたにペタリと座り込んだ。
遠山はスマホを取り出して基山に現在地を送った。
「莉子ちゃん、拳銃を渡しておくわ。今度は実弾だから、確実に敵と分かるまで向けるのも駄目!良い?」
「わ、分かりました親方!!」
(親方?)
実弾と聞いて緊張しているのか、震える手で拳銃を受け取った。
「お、おい、大丈夫か?」
しかし、ニヤリと笑って構えて見せた。
「ボッチ―!任せて!みんなを守るのは私‥‥‥!」
(あぶねーヤツだな‥‥‥)
「ユヅキさんは?」
「私は遠山1曹と建物内の確認と、柳川さん達の様子を見てくる!」
「わ、分かった!気を付けて!!」
「花宗さん、じゃあ行こうか」
「はい」
花宗は小銃の残弾を確認し、部屋を飛び出して行った。
医務室と書かれていたが、6畳ほどの部屋に寝台と市販の薬が置かれている程度で、羽犬塚の治療を出来る設備はない。従業員がちょっとした怪我や病気の時に利用していたのだろう。
城隅は消毒薬とガーゼ、包帯を薬品棚から探し出し、寝台の傍の椅子に座った。
「莉子ちゃん厨房に行って砂糖を取って来てくれないか?レストランでもカフェでもいいから」
「へ?砂糖ですか?」
「そうだ。砂糖には塩並みの殺菌力が有るらしい。悪いけど頼む」
「了解です!任務遂行してきます!」
そう言うと、莉子は敬礼をして走って行った。しかし、残念なのは敬礼が左手だった事だ。
「羽犬塚、消毒するぞ。覚悟しろ!蒼!羽犬塚の身体を押さえててくれ!」
「は、はい!分かりました」
「ま、マジですか‥‥‥?遠慮するのはアリですかね?ハハハハハ」
「無理だな!諦めろ」
「了解‥‥‥です」
羽犬塚は脂汗を掻き、顔は白く血色が悪い。城隅は包帯の封を開けて、羽犬塚の口に突っ込んだ。
「包帯を噛んどけ!」
羽犬塚は頷いた。
城隅は花宗がTシャツで作った包帯をハサミで切り、赤黒く変色したタオルを取り除くとアルコールで銃創の周りに付着した血液を拭き取った。血液は止まらず筋肉の動きに合わせて少しずつ溢れ出てきた。
アルコールを傷口に垂らし、直ぐに清潔なガーゼを押し付ける。
「ぐふっ!!ぐががががががががーーーーーーー!ひぃー!ひぃー! ひぃー! ‥‥‥」
蒼は羽犬塚に圧し掛かるよ様にして身体を押さえた。涙目になる羽犬塚は眉間に皺を寄せ城隅を見て頷いた。
城隅と蒼は羽犬塚を俯せにして銃創の出口にもアルコールを振りかけた。そしてガーゼの束で傷口を圧迫する。
「ふ‥‥‥ががががががぁぁぁぁぁあ、ちゅふーーーぐ、あああああぁぁぁ痛いっすーーーー!!」
「よく頑張った!!終わりだ!」
ちょうど莉子が任務を遂行して戻って来た。
「グラニュー糖ですが大丈ですかね?」
「大丈夫!ありがとう!」
城隅はガーゼにグラニュー糖をまぶすと傷口に押し当てた。それから包帯でグルグル巻きにして、その上からガムテープを巻いた。
羽犬塚の反応が無い。呼吸はしているので、激痛で気を失ったのだろう。
銃声は殆ど聞こえなくなった。敵が撃ち尽くしたのか、全員倒したのかは分からない。
蒼は立ち上がり、部屋の隅に有った毛布を手に取り、羽犬塚と沢原に掛けてやった。
「蒼、ありがとう」
それを見て城隅は例を言った。
「いえ、こちらこそ僕の為に羽犬塚さんが‥‥‥」
「俺達は自衛官だ。君が何者かなんて俺にはわからんが、命令が有れば何だってやる。それは羽犬塚だって同じだ。別に恨んだりしないよ」
「は、はい。ありがとうございます」
複数の足音が聞こえた。城隅と莉子は拳銃を構える。
「私だ入るぞ」
柳川の声だった。その後ろには矢留と神崎の姿も見えた。
その直ぐ後に、花宗と遠山も帰って来た。みんな汗と泥にまみれ、膝や肘から血が滲んでいた。蒼も右膝から血が滲んでいたが、アドレナリンのせいで気付いていなかった。
花宗は担架を調達してきていた。
「これが有れば羽犬塚さんの移動も楽でしょ?」
「ユヅキさんすまないね」
「いえ、それで、状況はどうなんです?」
「敵はまだいるが、弾が無いのか作戦なのか分からんが、包囲しているだけだ。何を考えているのかは分からんね」
「そうですか。基山には連絡しました。多分直接ここに来る筈です」
「了解。城隅、羽犬塚の容態は?」
「傷口を消毒して、ガーゼを交換しました。今は気を失っています」
「そうか。しばらく休ませよう。ここには莉子ちゃんと沢原さんを残して、あとは付いて来い。防御陣地を作るぞ!」
「了解!!」
柳川達はエントランスからの侵入を防ぐために椅子やテーブルなどを掻き集めてバリケードを作った。それから医務室に通じる通路にも同様のバリケードで塞いだ。それと消火器を集めて目に付くところに置いていく。
「医務室に通じる通路とエントランス、裏口に見張りについてくれ。もしも敵が侵入したら、近くにある消火器を狙って撃て。多少は効果があるだろう。無駄弾をへらせるし」
「なるほど」
「ただ、辺りが粉まみれになるけどな」
そこでやっと皆に笑顔が出た。負傷者は出てしまったが、ヘリの墜落からここまで誰も失っていない。
「俺は食料とか漁ってきます。何か必要なものが有れば探してきますけど」
「お!神崎気が利くな。じゃ俺はバーボンとビーフジャーキー頼むわ!」
「おやっさん、酒は皆神山に着いていからにしてくださいよ」
「やっぱ、ダメか‥‥‥」
遠山はそう言うと、外人の様に手の平を上に向けて肩を竦めて見せた。
「神崎、甘い物とかスポーツドリンクが有れば探してくれ。ひょっとしたら、自販機が災害モードになっていて押せば出て来るかもしれん」
「なるほど。そういやぁそう言うのもありましたね。さすが柳川3佐。了解しました!!」
「じゃ、僕も行ってきます。荷物持ちになるでしょう?」
「蒼、悪いね頼むよ」
周囲をコンクリートで遮蔽されているのは心強い。みんなに余裕が出て来ていた――。
ぽつりと水滴が肌に触れた。
気温は22℃。空は一面に雨雲が広がり、今にも本格的に降り出しそうだった。
タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!
城隅が羽犬塚に肩を貸して前に進む。
「ウグッ‥‥‥痛っ!ふーっ!ふーっ!」
羽犬塚は脇腹に貫通銃創を負っていた。出血量からも動脈は傷ついていないが、動くたびに眉間に皺を寄せ、ちいさく呻き声をあげていた。
「頑張れ!羽犬塚!もう少し行けば休めるぞ!」
「す、すいません‥‥‥城‥‥‥隅1尉‥‥‥」
『50m先の茂みまで行くぞ!エコー援護しろ!』
『了解!!』
タタタタタタタタン!タタタタタタタタン!
ゴルフコースにミニミ軽機関銃の連射音が響く。
シヒュン!!シヒュン!!
そして敵の弾がが頭上を掠め、空気を切り裂く音が鼓膜を震わせた。
『リロード!』
矢留が叫んだ!ミニミの弾丸を撃ち尽くした。すぐにその場に伏せ、箱型の弾倉を交換する。
すかさず遠山と神崎が矢留を援護する。
『エコーそのまま這ってください!』
タパン!タパン! タタン! タタン! タタン!タパン!!
神崎の言葉で、矢留はフェアウェイの芝を掴みながら、完全に顔を伏せた第4匍匐でみんなが居る茂みまで移動する。矢留の頭をかすめた弾丸は土煙を上げて芝を吹き飛ばした!何とか茂みに辿り着き直ぐに木の陰に転がるように身を潜める。
「はぁー!はぁー!ミニミは最後の弾倉です!はぁー!はぁー!‥‥‥死ぬかと思ったわ!ユヅキちゃん!」
「大丈夫ですか!!」
矢留は肩で息をしていたが、花宗を見てニヤリと笑った。
「ユヅキちゃん小銃は撃てるよね?」
「え、ええ使えますよ」
「じゃ、これ、弾は入っているから」
「了解です」
矢留から小銃と弾倉を受け取ると、チャージングハンドルを引いて弾丸を装填した。
「了解、弾は節約してくれよ!‥‥‥3人は大丈夫か?」
柳川が蒼達に声を掛けた。
「は、はい!大丈夫ですが、沢原さんがちょっと辛いみたいです」
「大‥‥‥丈夫‥‥‥まだ、大丈‥‥‥夫、はぁー!はぁー!はぁー!‥‥‥」
沢原はかなり辛そうで顔色が悪い。
「もう少しだ。ホテルに入れば少しは休める。何とか頑張ってくれ!」
「は、はい‥‥‥分かり‥‥‥まひた」
神崎は本隊から少し離れたところで腹ばいになり、スコープを覗く。そして、ゆっくりとトリガーに指を掛けた。
スコープのクロスヘアに目標の頭部が重なる。
呼吸に合わせ、トリガーを絞った。タパン!!
スコープの向こうに居る目標の頭部から血液と脳の一部が飛び散った。
撃ち終わってもトリガーは完全に戻さない。戻しきる寸前のところでカチリと指先に振動が来る。そこで止めて次の獲物に照準を合わせた。こうすると、戻しきるよりも軽くトリガーを落とせるのだ。
神崎は呼吸を整えゆっくりとトリガーを絞る。タパン!!
2人目は右肩を掠めた!
「チッ!」
『一人倒して、一人軽傷。残り4』
『良いぞ!フォックストロット!全員無駄玉は撃つなよ!』
『了解!!』
「沢原さん大丈夫?あと200mもないはず」
「え、ええ‥‥‥まだいけます!はぁー、はぁー‥‥‥」
「取り合えず、水を一口飲んで。ほら」
「あ、ありがとう、大溝君‥‥‥」
「莉子‥‥‥は、大丈夫そうだな!」
「は?妹にはちょっと雑じゃね?」
「ほら、元気そうじゃん」
莉子はほっぺを膨らませていた
それを見て、沢原は少し笑顔を見せた。
まだ雲は我慢していたが、それも時間の問題だ。
「柳川3佐」
「なんだ?」
「ちょっとおかしくないですか?こちらは負傷者と子供連れとはいえ、相手はたった4人でしつこく付いてくる。敵は弾薬が尽きれば何も出来ないなず、それとも補給が来るのか‥‥‥。武装も小火器だけだし、連携も出来ていない事から、何も考えていないのか‥‥‥。敵の落としどころが分かりませんね」
「俺もそこは解せない。馬鹿な狂信者か、はたまた時間稼ぎか‥‥‥?」
「時間稼ぎ?では増援か補給か?」
「分からんね。こっちは基山が来れば補給できるが‥‥‥。とにかくホテルまで子供達と羽犬塚を連れて行くしかない。遠山1曹は羽犬塚を頼む。あとちょっとだ」
「了解です!」
『全員聞いてくれ!残り200も無い。エコーとフォックストロットで援護してくれ。残りは一気に建物に入るぞ』
『了解!!』
『前へ!!』
矢留がミニミで牽制射撃をしている間に、神崎がスコープを覗く。
その間に蒼と莉子は沢原の手を引いて走った。
『よし!2人は後退しろ!』
『了解!』
矢留と神崎は射撃位置から匍匐で移動し、柳川と花宗の援護射撃で後退する。それを繰り返す。
敵の攻撃も極端に減って来た。弾薬が少ないのだろう。
羽犬塚も相当に辛いはずだが、自分が進まなくては仲間が道連になってしまう。そう考えると、今感じている痛みを気にしている場合じゃなかった。
『アルファ!全員建物に到達!』
『了解!!』
バン!!
従業員用の金属製のドアを勢いよく開けた。建物は鉄筋コンクリート製で窓やドアに近付かない限り弾が貫通する心配はなかった。
建物内は照明が消え人の気配はない。事務所や更衣室を通り過ぎ、医務室と書かれた部屋を見つけるとドアを開けて、羽犬塚をベッドに寝かせた。
沢原も力尽き、地べたにペタリと座り込んだ。
遠山はスマホを取り出して基山に現在地を送った。
「莉子ちゃん、拳銃を渡しておくわ。今度は実弾だから、確実に敵と分かるまで向けるのも駄目!良い?」
「わ、分かりました親方!!」
(親方?)
実弾と聞いて緊張しているのか、震える手で拳銃を受け取った。
「お、おい、大丈夫か?」
しかし、ニヤリと笑って構えて見せた。
「ボッチ―!任せて!みんなを守るのは私‥‥‥!」
(あぶねーヤツだな‥‥‥)
「ユヅキさんは?」
「私は遠山1曹と建物内の確認と、柳川さん達の様子を見てくる!」
「わ、分かった!気を付けて!!」
「花宗さん、じゃあ行こうか」
「はい」
花宗は小銃の残弾を確認し、部屋を飛び出して行った。
医務室と書かれていたが、6畳ほどの部屋に寝台と市販の薬が置かれている程度で、羽犬塚の治療を出来る設備はない。従業員がちょっとした怪我や病気の時に利用していたのだろう。
城隅は消毒薬とガーゼ、包帯を薬品棚から探し出し、寝台の傍の椅子に座った。
「莉子ちゃん厨房に行って砂糖を取って来てくれないか?レストランでもカフェでもいいから」
「へ?砂糖ですか?」
「そうだ。砂糖には塩並みの殺菌力が有るらしい。悪いけど頼む」
「了解です!任務遂行してきます!」
そう言うと、莉子は敬礼をして走って行った。しかし、残念なのは敬礼が左手だった事だ。
「羽犬塚、消毒するぞ。覚悟しろ!蒼!羽犬塚の身体を押さえててくれ!」
「は、はい!分かりました」
「ま、マジですか‥‥‥?遠慮するのはアリですかね?ハハハハハ」
「無理だな!諦めろ」
「了解‥‥‥です」
羽犬塚は脂汗を掻き、顔は白く血色が悪い。城隅は包帯の封を開けて、羽犬塚の口に突っ込んだ。
「包帯を噛んどけ!」
羽犬塚は頷いた。
城隅は花宗がTシャツで作った包帯をハサミで切り、赤黒く変色したタオルを取り除くとアルコールで銃創の周りに付着した血液を拭き取った。血液は止まらず筋肉の動きに合わせて少しずつ溢れ出てきた。
アルコールを傷口に垂らし、直ぐに清潔なガーゼを押し付ける。
「ぐふっ!!ぐががががががががーーーーーーー!ひぃー!ひぃー! ひぃー! ‥‥‥」
蒼は羽犬塚に圧し掛かるよ様にして身体を押さえた。涙目になる羽犬塚は眉間に皺を寄せ城隅を見て頷いた。
城隅と蒼は羽犬塚を俯せにして銃創の出口にもアルコールを振りかけた。そしてガーゼの束で傷口を圧迫する。
「ふ‥‥‥ががががががぁぁぁぁぁあ、ちゅふーーーぐ、あああああぁぁぁ痛いっすーーーー!!」
「よく頑張った!!終わりだ!」
ちょうど莉子が任務を遂行して戻って来た。
「グラニュー糖ですが大丈ですかね?」
「大丈夫!ありがとう!」
城隅はガーゼにグラニュー糖をまぶすと傷口に押し当てた。それから包帯でグルグル巻きにして、その上からガムテープを巻いた。
羽犬塚の反応が無い。呼吸はしているので、激痛で気を失ったのだろう。
銃声は殆ど聞こえなくなった。敵が撃ち尽くしたのか、全員倒したのかは分からない。
蒼は立ち上がり、部屋の隅に有った毛布を手に取り、羽犬塚と沢原に掛けてやった。
「蒼、ありがとう」
それを見て城隅は例を言った。
「いえ、こちらこそ僕の為に羽犬塚さんが‥‥‥」
「俺達は自衛官だ。君が何者かなんて俺にはわからんが、命令が有れば何だってやる。それは羽犬塚だって同じだ。別に恨んだりしないよ」
「は、はい。ありがとうございます」
複数の足音が聞こえた。城隅と莉子は拳銃を構える。
「私だ入るぞ」
柳川の声だった。その後ろには矢留と神崎の姿も見えた。
その直ぐ後に、花宗と遠山も帰って来た。みんな汗と泥にまみれ、膝や肘から血が滲んでいた。蒼も右膝から血が滲んでいたが、アドレナリンのせいで気付いていなかった。
花宗は担架を調達してきていた。
「これが有れば羽犬塚さんの移動も楽でしょ?」
「ユヅキさんすまないね」
「いえ、それで、状況はどうなんです?」
「敵はまだいるが、弾が無いのか作戦なのか分からんが、包囲しているだけだ。何を考えているのかは分からんね」
「そうですか。基山には連絡しました。多分直接ここに来る筈です」
「了解。城隅、羽犬塚の容態は?」
「傷口を消毒して、ガーゼを交換しました。今は気を失っています」
「そうか。しばらく休ませよう。ここには莉子ちゃんと沢原さんを残して、あとは付いて来い。防御陣地を作るぞ!」
「了解!!」
柳川達はエントランスからの侵入を防ぐために椅子やテーブルなどを掻き集めてバリケードを作った。それから医務室に通じる通路にも同様のバリケードで塞いだ。それと消火器を集めて目に付くところに置いていく。
「医務室に通じる通路とエントランス、裏口に見張りについてくれ。もしも敵が侵入したら、近くにある消火器を狙って撃て。多少は効果があるだろう。無駄弾をへらせるし」
「なるほど」
「ただ、辺りが粉まみれになるけどな」
そこでやっと皆に笑顔が出た。負傷者は出てしまったが、ヘリの墜落からここまで誰も失っていない。
「俺は食料とか漁ってきます。何か必要なものが有れば探してきますけど」
「お!神崎気が利くな。じゃ俺はバーボンとビーフジャーキー頼むわ!」
「おやっさん、酒は皆神山に着いていからにしてくださいよ」
「やっぱ、ダメか‥‥‥」
遠山はそう言うと、外人の様に手の平を上に向けて肩を竦めて見せた。
「神崎、甘い物とかスポーツドリンクが有れば探してくれ。ひょっとしたら、自販機が災害モードになっていて押せば出て来るかもしれん」
「なるほど。そういやぁそう言うのもありましたね。さすが柳川3佐。了解しました!!」
「じゃ、僕も行ってきます。荷物持ちになるでしょう?」
「蒼、悪いね頼むよ」
周囲をコンクリートで遮蔽されているのは心強い。みんなに余裕が出て来ていた――。
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