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Chapter 2
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疲れ果てた沢原はテーブルに突っ伏して眠っていた。メガネは花宗が外してテーブルに置いた。莉子も座ったまま小舟を漕ぎ始めた。昼間は銃を片手に暴れていたのだ。緊張度も半端なかった事だろう。やっと安心出来たのだ。
柳川は眉間に皺を寄せ、組んだ手をテーブルに乗せていた。
「実は、我々が得た情報によると、約1か月前に北米のとある街で不可解な事件があった。地元警察の発表によるとホームレスが起こした爆発事故という事で片付けられた。しかし、爆発が起きる直前に銃撃戦が行われた。そして、建物の2階と3階が抉り取られるように消滅したんだ。その事件には特殊な情報提供者の存在とUFORGの戦闘部隊TSETが絡んでいたそうだ。これについて何か情報を持っていないか?」
蒼は花宗を見ていた。ピクリと僅かに動いて一瞬表情が変わった気がした。
「アメリカのTSETは知っています。我々とは別の組織ですが、独自の調査を元にサンクトゥスレガトゥス協会と戦っているグループです。情報提供者については確かな事は分かりませんが、我々イデュに近い者の可能性も‥‥‥」
蒼は、なぜか花宗の言葉尻が言い澱んでいた気がした。
「花宗さんの組織に近い?まさか異星人とか?」
「えっと、その、私も詳しくは分かりません。サンクトゥスレガトゥス協会は長い間、歴史の裏舞台で暗躍していました。そして数々の紛争や暗殺に関係し、世界征服を企てる権力者に手を貸すなどしていました。第二次世界大戦ではナチの兵器開発や神秘思想、アーリア人種による選民思想を持つ、アーネンエルベに情報やディンギルのテクノロジーを提供していたそうです。戦後、サンクトゥスレガトゥス協会は歴史から完全に消え、地下に潜りました。そこで、ディンギルの再訪を信じ、徐々に信者を集めていたそうです。その情報提供者はサンクトゥスレガトゥス協会を探し出せるという事なんでしょうか?」
「すまん。我々はサンクトゥスレガトゥス協会については調べても分からなかった。それに、その情報提供者については皆目見当がつかない。しかし、少し分かったよ。かなり古くからある反社会的秘密結社って事かな。異星人信仰の‥‥‥。という事は、我々とTSETとは敵が同じという事か‥‥‥」
12畳ほどの会議室は、やっと涼しくなり始めた。
柳川3佐は腕組したまま天井を見て考えていた。
(一体、こんな話をどうやって報告書に纏めればいいんだ。それに、射殺した事も……。死体の処理は終わったと言うが、メディアやSNSで拡散されれば反自衛隊に餌をやる事になる)
一旦会話が途切れるのを見計らって、神崎3曹は部屋から出て行った。そして暫くすると缶コーヒーやお茶などの飲み物を人数分買ってきた。それと同じタイミングで2人の自衛官が入って来た。
「おっ!神崎!気が利くな!」
遠山1曹がそう言うと、神崎はニヤリと笑って言った。
「当然ですよ!君達も好きなの選んで」
「すいません。有難うございます」
蒼と花宗は缶コーヒーを手に取った。疲れているので、甘いものが飲みたいのだろう。
「2人ともお疲れ。紹介する。メインパイロットの城隅1尉とコパイロットの羽犬塚3尉だ。2人には自分から後で話をしておく」
2人は軽く頭を下げた。柳川3佐とは違い、迷彩の戦闘服ではなく、カーキ色の上下を着ていた。膝下の側面にポケットが付いたズボンを履いており、手にはヘルメットバッグを提げていた。胸にはパイロットの証である羽根をあしらったワッペンが付けられている。
「あ、あの、それで今の状況はどうなっていますか?この半日は碌にスマホも見る事が無かったので‥‥‥。と言うか僕のスマホは電源を切ったままですけど‥‥‥」
「そうか、大変な一日だったよな。政府からは今夜〇時をもって、指定された国民以外は外出禁止令が出される。法律的にはそこまでの拘束力は無いのだが、今回は超法規的措置として、逮捕・拘束される可能性もあるようだ。自衛隊も治安出動と防衛出動待機命令が出ているしな」
「そ、そうなんですね‥‥‥。結構、大変な事になっていますね。それで、これからどうなるんでしょうか?」
「我々は君達と行動を共にするように命令が出ている。建前はAsteroid research teamという事になっているが、要は調査という名目でどこでも行けるという事だ。しかし、今は君達だけで出掛けたりは出来ないが、特別調査要員として身分を保証できるように、立花陸将が掛け合ってくれている。まぁ現地雇用のアルバイトと言う感じかな」
「それは助かります!ありがとうございます!」
花宗は日本の今の状況では自分達だけで行動する事は出来ないだろうと考えていた。外出禁止令が出るのだ。見つかればすぐに拘束されてしまうだろう。しかし、自衛隊の後ろ盾があれば車両もヘリも使える。
「それで、君達はこれからどうするんだ?大溝君が戦えるとも思えないが」
「はい、今のままでは円筒印章を使える程度です。しかしカラグである大溝 蒼を、サンクチュアリに導き、そこでアブアマの記憶に触れる事で、本当の力を目覚めさせることが出来ます」
「え?僕も円筒印章が使えるの!?」
花宗の思い掛けない言葉に、まさか自分にそんな事が出来ると思っていなかった蒼は素直に驚いた。
「ええ、直ぐには出来ないかもしれないけど、ちょっと練習するれば出来るはずよ!そうだ、蒼にも渡しておくわ」
そう言うと、花宗はウェストバッグから黒い円筒印章を取り出した。
「こ、これは?」
「これが蒼が持つべきカラグの円筒印章よ!」
見た目は花宗の円筒印章と同じような形をしているが、色は黒っぽい光沢のある部分に赤褐色が散りばめられ、それに楔形文字や人物などのレリーフの浮き彫りが施されている。そして、サイズに反しずっしりと重い。
「あ、重い!予想外の重さだ‥‥‥」
遠山1曹が手を出した。
「なるほど、これは重いな‥‥‥」
神崎3曹も手を伸ばす。
「うっほ!これは!」
「そうなの。これはウテガが持つクリスタルでは無くて隕鉄で作られているの。宇宙から落ちてきた小惑星のコアを形成していた物質よ」
「へー!そうなんだ!そう言われると何だか凄い物に感じる!」
「あとで練習してみましょうか?あ、でも光が出ると目立っちゃうか‥‥‥」
「そうだな。ここでは遠慮してもらおうか」
「はい、了解しました」
「それで、そのサンクチュアリとはどこにあるのかね?」
「国内には2か所あります。一つは剣山、それと皆神山です」
矢留2曹は手を伸ばし、神崎3曹が買ってきた缶コーヒーのプルタブを開けた。
「あ、あたし知っているわ。この前TVで霊山特集をやっていて見たよ。徳島県にある剣山には、なんでも大昔にユダヤ人が訪れ、キリスト教の聖遺物であるアークを封印してあるとか、それで、そのアークには担ぐために2本の棒があるんだけど、その見た目が日本の御神輿にそっくりで、アークが起源じゃないかと紹介されていたわ。まぁ、歴史的な証拠もないただの都市伝説的な扱いだったけどね」
「そうですね。剣山にはアークに関する伝説があります。ひょっとしたら本当に封印されているかもしれませんよ」
矢留の話を聞いて花宗はニコリと笑って思わせぶりなな言い方をした。
「ま、マジで?だったら探そうよ!!まんまレイダースじゃん!『神崎 日向!失われたアーク』なんてね!」
神崎3曹が興奮して席を立った!
「でも、アークには神の力が収められている反面、人を滅ぼす力もあるとか‥‥‥。むやみに扱うと大勢が死ぬかもしれません」
一気にテンションが下がる神崎3曹。
「そ、そうなの!?それは不味いな‥‥‥」
柳川3佐もお茶を手に取り一口飲んだ。
「じゃあ剣山を目指すのか?」
「いえ、我々は皆神山を目指します」
「皆神山!?長野県だったな確か」
「はい、長野県の北部です。この山は昔から日本のピラミッドと呼ばれています。ここには旧日本軍の地下基地の奥に聖域が有るのですが、普通の人には入口すら見つける事は不可能です。そこにカラグを導けば自然と入口が開かれるはずです」
「柳川3佐、明日から天候が悪くなるので、この数日は長野の山間部はヘリで飛べないかもしれませんよ。あとでウェザーの確認をしておきますけど‥‥‥」
「城隅1尉、そうだな、お任せするよ」
城隅1尉と羽犬塚3尉は頷いた。
壁に掛かっている時は20時20分だった。流石に4人はヘトヘトに疲れている筈だが、花宗だけはそう見えなかった
「柳川3佐、一つお願いがあります」
「何だい?花宗さん」
「沢原さんと莉子ちゃんを安全な所へ送って貰えますか?お願いします!ここから先は、人間の敵も宇宙から来る敵も本気を出してきます」
「そうだな。分かった、シェルターへ行けるように手配しよう。」
「ありがとうございます!それと、皆さんも私の事はユヅキと呼んでください」
「わ、わかった、ユヅキさん。確かに承った。2人の事は安心してほしい」
「OK!ユヅキちゃん!君も自分の事はヒナタと呼んでくれ!」
神崎3曹は立ち上がって、自分に親指を向けている。
「何、力んでるんだよ!手を出したら懲戒免職だからな!!」
「し、失礼な!矢留2曹!自分はそんな事はしませんよ!」
会議室にやっと和やかな笑いが響いた。
花宗も蒼も笑っていた。
「今夜は疲れているだろうし、これで解散とする。流石に駐屯地まで敵も侵入しては来ないだろうしな。女子は矢留が面倒見てくれる。着替えや下着類はPXで買えるし、食事もPXやホットスナックの自販機などがあるから各自済ませてくれ、明日の朝から駐屯地内で喫食できるから。矢留と神崎は4人の食事、生活雑貨、衣類などを購入したら領収書を貰っておいてくれ。じゃぁ解散!!」
「沢原さん、莉子も起きて。食事とシャワーをさせて貰おう」
「え‥‥‥は、あ、ボ、ボッチ―」
「ふぐっ‥‥‥あーーはぁ‥‥‥。おはよう‥‥‥。あれ?ゴ、ゴメンナサイ!寝ちゃったみたい!話し合いは終わったの!?」
「うん、大丈夫だよ。取り合えずは解散して食事とシャワーをさせて貰えるって言うからさ」
蒼はいつの間にか普通に沢原さんと会話をしている事に気付いていない。ちょっとした戦友のようなものを感じて心を開いたのかもしれなかった。
「よっしゃ!食事しよう!!お腹すいたしね!」
さすが中学生だ。少し眠っただけで復活したみたいだ。
「じゃぁ、女子3人はWAC隊舎へ行くよ!その前に皆で先に買い物とかしようか?」
「そうですね。こんな状態なので、PXは閉店時間が2100で伸びているけど、もう2030過ぎてるし先に行った方がいいですね」
「じゃ、矢留と神崎は皆を頼んだよ!お疲れ~」
「はい、遠山1曹お疲れさまです」
「遠山1曹はどこか行くんですか?」
「いやいや、別にどこってわけじゃないけどね。うちらはこの駐屯地の者じゃないから、結局は外来宿舎に泊まるしかないからね。外はあんなだし」
「はぁ、なるほど。そうだ、ここは何て駐屯地なんですか?」
「そうか、いきなり連れてこられたもんな。ここは立川駐屯地だよ」
「あぁ立川まで来たんですね。ヘリだとアッと言うまだったので、距離感と時間間隔が合わないですね」
「そうそう、ヘリは直線を時速数百キロで飛ぶから」
「おい!神崎行くぞ!PXが閉まる!」
「へ~い!」
会議室から出て出口に向かうと、城隅1尉と羽犬塚3尉が何枚もある液晶モニターを見ていた。
「城隅1尉と羽犬塚3尉は、ウェザー情報を見ているんだよ。パイロットは自分で情報収集して飛行可能か、どのルートを飛ぶか決めないといけないからね。そしてフライトプランを提出するんだ」
「へー、なるほど」
「城隅1尉、羽犬塚3尉。お先に失礼します。お疲れ様でした」
矢留と神崎は丁寧に挨拶をして管制塔がある建物から外に出た。
21時近くになっていたが、まだ少しムワッとした空気が纏わりついた。
PXはコンビニのような品揃えに加え、桜マークがついていない、私物と言われる戦闘服や弾帯、半長靴、弾嚢などの自衛隊グッズなどが売っている。駐屯地内の宿舎は営内と呼ばれ、営内居住者は交代で残留と呼ばれる待機要員をしないといけない。残留は外出が出来ないが、PXに行けば大概の物が売っているので特に困る事は無い。それに平日は喫茶店や食堂なども開いているし、隊員クラブという居酒屋もある。
一通り必要な物を買い揃え、6人は外来宿舎へ向かって、駐屯地内を歩いていた。
「そうだ、蒼兄、母さんに電話してないじゃん!」
「そうだ‥‥‥と言っても携帯通じるのか?南米だっけ?」
「中米だって。あとで掛けてみようよ」
「OK、じゃ頼んだよ!」
「えー、そう言うのは兄があるもんでしょ?」
「チッ!都合の良い時ばかり兄を持ちだすんだから!」
「大溝君は妹と仲いいんだね~!」
「矢留2曹、そんな事ないですよ!いつもは兄を蟻以下の存在と思っているんです」
「私の事は瑠衣ちゃん!って呼んでよ!まぁ、でも仲良い証拠だよ!」
(瑠衣ちゃん?)
「矢留2曹はちゃん付けする年‥‥‥ガスッ!!‥‥‥はひぶっ!!い、いだいでしゅよ‥‥‥瑠衣ちゃん‥‥‥」
矢留二曹の容赦ない膝蹴りが神崎3曹の股間を襲った。
究極の体育会系の自衛隊を垣間見て、4人は少し引いていた‥‥‥。
蒼は花宗をみた。
花宗はふと立ち止まり、空を見上げていた。
「蒼」
「な、何?ユヅキさん」
「蒼は絶対守るから。私はその為に貴方の所に来たんだから‥‥‥」
そう呟く花宗に、蒼は何て言って良いか分からなかった。結局は何も返すことは出来ず、2人は黙ったまま歩き出した――。
柳川は眉間に皺を寄せ、組んだ手をテーブルに乗せていた。
「実は、我々が得た情報によると、約1か月前に北米のとある街で不可解な事件があった。地元警察の発表によるとホームレスが起こした爆発事故という事で片付けられた。しかし、爆発が起きる直前に銃撃戦が行われた。そして、建物の2階と3階が抉り取られるように消滅したんだ。その事件には特殊な情報提供者の存在とUFORGの戦闘部隊TSETが絡んでいたそうだ。これについて何か情報を持っていないか?」
蒼は花宗を見ていた。ピクリと僅かに動いて一瞬表情が変わった気がした。
「アメリカのTSETは知っています。我々とは別の組織ですが、独自の調査を元にサンクトゥスレガトゥス協会と戦っているグループです。情報提供者については確かな事は分かりませんが、我々イデュに近い者の可能性も‥‥‥」
蒼は、なぜか花宗の言葉尻が言い澱んでいた気がした。
「花宗さんの組織に近い?まさか異星人とか?」
「えっと、その、私も詳しくは分かりません。サンクトゥスレガトゥス協会は長い間、歴史の裏舞台で暗躍していました。そして数々の紛争や暗殺に関係し、世界征服を企てる権力者に手を貸すなどしていました。第二次世界大戦ではナチの兵器開発や神秘思想、アーリア人種による選民思想を持つ、アーネンエルベに情報やディンギルのテクノロジーを提供していたそうです。戦後、サンクトゥスレガトゥス協会は歴史から完全に消え、地下に潜りました。そこで、ディンギルの再訪を信じ、徐々に信者を集めていたそうです。その情報提供者はサンクトゥスレガトゥス協会を探し出せるという事なんでしょうか?」
「すまん。我々はサンクトゥスレガトゥス協会については調べても分からなかった。それに、その情報提供者については皆目見当がつかない。しかし、少し分かったよ。かなり古くからある反社会的秘密結社って事かな。異星人信仰の‥‥‥。という事は、我々とTSETとは敵が同じという事か‥‥‥」
12畳ほどの会議室は、やっと涼しくなり始めた。
柳川3佐は腕組したまま天井を見て考えていた。
(一体、こんな話をどうやって報告書に纏めればいいんだ。それに、射殺した事も……。死体の処理は終わったと言うが、メディアやSNSで拡散されれば反自衛隊に餌をやる事になる)
一旦会話が途切れるのを見計らって、神崎3曹は部屋から出て行った。そして暫くすると缶コーヒーやお茶などの飲み物を人数分買ってきた。それと同じタイミングで2人の自衛官が入って来た。
「おっ!神崎!気が利くな!」
遠山1曹がそう言うと、神崎はニヤリと笑って言った。
「当然ですよ!君達も好きなの選んで」
「すいません。有難うございます」
蒼と花宗は缶コーヒーを手に取った。疲れているので、甘いものが飲みたいのだろう。
「2人ともお疲れ。紹介する。メインパイロットの城隅1尉とコパイロットの羽犬塚3尉だ。2人には自分から後で話をしておく」
2人は軽く頭を下げた。柳川3佐とは違い、迷彩の戦闘服ではなく、カーキ色の上下を着ていた。膝下の側面にポケットが付いたズボンを履いており、手にはヘルメットバッグを提げていた。胸にはパイロットの証である羽根をあしらったワッペンが付けられている。
「あ、あの、それで今の状況はどうなっていますか?この半日は碌にスマホも見る事が無かったので‥‥‥。と言うか僕のスマホは電源を切ったままですけど‥‥‥」
「そうか、大変な一日だったよな。政府からは今夜〇時をもって、指定された国民以外は外出禁止令が出される。法律的にはそこまでの拘束力は無いのだが、今回は超法規的措置として、逮捕・拘束される可能性もあるようだ。自衛隊も治安出動と防衛出動待機命令が出ているしな」
「そ、そうなんですね‥‥‥。結構、大変な事になっていますね。それで、これからどうなるんでしょうか?」
「我々は君達と行動を共にするように命令が出ている。建前はAsteroid research teamという事になっているが、要は調査という名目でどこでも行けるという事だ。しかし、今は君達だけで出掛けたりは出来ないが、特別調査要員として身分を保証できるように、立花陸将が掛け合ってくれている。まぁ現地雇用のアルバイトと言う感じかな」
「それは助かります!ありがとうございます!」
花宗は日本の今の状況では自分達だけで行動する事は出来ないだろうと考えていた。外出禁止令が出るのだ。見つかればすぐに拘束されてしまうだろう。しかし、自衛隊の後ろ盾があれば車両もヘリも使える。
「それで、君達はこれからどうするんだ?大溝君が戦えるとも思えないが」
「はい、今のままでは円筒印章を使える程度です。しかしカラグである大溝 蒼を、サンクチュアリに導き、そこでアブアマの記憶に触れる事で、本当の力を目覚めさせることが出来ます」
「え?僕も円筒印章が使えるの!?」
花宗の思い掛けない言葉に、まさか自分にそんな事が出来ると思っていなかった蒼は素直に驚いた。
「ええ、直ぐには出来ないかもしれないけど、ちょっと練習するれば出来るはずよ!そうだ、蒼にも渡しておくわ」
そう言うと、花宗はウェストバッグから黒い円筒印章を取り出した。
「こ、これは?」
「これが蒼が持つべきカラグの円筒印章よ!」
見た目は花宗の円筒印章と同じような形をしているが、色は黒っぽい光沢のある部分に赤褐色が散りばめられ、それに楔形文字や人物などのレリーフの浮き彫りが施されている。そして、サイズに反しずっしりと重い。
「あ、重い!予想外の重さだ‥‥‥」
遠山1曹が手を出した。
「なるほど、これは重いな‥‥‥」
神崎3曹も手を伸ばす。
「うっほ!これは!」
「そうなの。これはウテガが持つクリスタルでは無くて隕鉄で作られているの。宇宙から落ちてきた小惑星のコアを形成していた物質よ」
「へー!そうなんだ!そう言われると何だか凄い物に感じる!」
「あとで練習してみましょうか?あ、でも光が出ると目立っちゃうか‥‥‥」
「そうだな。ここでは遠慮してもらおうか」
「はい、了解しました」
「それで、そのサンクチュアリとはどこにあるのかね?」
「国内には2か所あります。一つは剣山、それと皆神山です」
矢留2曹は手を伸ばし、神崎3曹が買ってきた缶コーヒーのプルタブを開けた。
「あ、あたし知っているわ。この前TVで霊山特集をやっていて見たよ。徳島県にある剣山には、なんでも大昔にユダヤ人が訪れ、キリスト教の聖遺物であるアークを封印してあるとか、それで、そのアークには担ぐために2本の棒があるんだけど、その見た目が日本の御神輿にそっくりで、アークが起源じゃないかと紹介されていたわ。まぁ、歴史的な証拠もないただの都市伝説的な扱いだったけどね」
「そうですね。剣山にはアークに関する伝説があります。ひょっとしたら本当に封印されているかもしれませんよ」
矢留の話を聞いて花宗はニコリと笑って思わせぶりなな言い方をした。
「ま、マジで?だったら探そうよ!!まんまレイダースじゃん!『神崎 日向!失われたアーク』なんてね!」
神崎3曹が興奮して席を立った!
「でも、アークには神の力が収められている反面、人を滅ぼす力もあるとか‥‥‥。むやみに扱うと大勢が死ぬかもしれません」
一気にテンションが下がる神崎3曹。
「そ、そうなの!?それは不味いな‥‥‥」
柳川3佐もお茶を手に取り一口飲んだ。
「じゃあ剣山を目指すのか?」
「いえ、我々は皆神山を目指します」
「皆神山!?長野県だったな確か」
「はい、長野県の北部です。この山は昔から日本のピラミッドと呼ばれています。ここには旧日本軍の地下基地の奥に聖域が有るのですが、普通の人には入口すら見つける事は不可能です。そこにカラグを導けば自然と入口が開かれるはずです」
「柳川3佐、明日から天候が悪くなるので、この数日は長野の山間部はヘリで飛べないかもしれませんよ。あとでウェザーの確認をしておきますけど‥‥‥」
「城隅1尉、そうだな、お任せするよ」
城隅1尉と羽犬塚3尉は頷いた。
壁に掛かっている時は20時20分だった。流石に4人はヘトヘトに疲れている筈だが、花宗だけはそう見えなかった
「柳川3佐、一つお願いがあります」
「何だい?花宗さん」
「沢原さんと莉子ちゃんを安全な所へ送って貰えますか?お願いします!ここから先は、人間の敵も宇宙から来る敵も本気を出してきます」
「そうだな。分かった、シェルターへ行けるように手配しよう。」
「ありがとうございます!それと、皆さんも私の事はユヅキと呼んでください」
「わ、わかった、ユヅキさん。確かに承った。2人の事は安心してほしい」
「OK!ユヅキちゃん!君も自分の事はヒナタと呼んでくれ!」
神崎3曹は立ち上がって、自分に親指を向けている。
「何、力んでるんだよ!手を出したら懲戒免職だからな!!」
「し、失礼な!矢留2曹!自分はそんな事はしませんよ!」
会議室にやっと和やかな笑いが響いた。
花宗も蒼も笑っていた。
「今夜は疲れているだろうし、これで解散とする。流石に駐屯地まで敵も侵入しては来ないだろうしな。女子は矢留が面倒見てくれる。着替えや下着類はPXで買えるし、食事もPXやホットスナックの自販機などがあるから各自済ませてくれ、明日の朝から駐屯地内で喫食できるから。矢留と神崎は4人の食事、生活雑貨、衣類などを購入したら領収書を貰っておいてくれ。じゃぁ解散!!」
「沢原さん、莉子も起きて。食事とシャワーをさせて貰おう」
「え‥‥‥は、あ、ボ、ボッチ―」
「ふぐっ‥‥‥あーーはぁ‥‥‥。おはよう‥‥‥。あれ?ゴ、ゴメンナサイ!寝ちゃったみたい!話し合いは終わったの!?」
「うん、大丈夫だよ。取り合えずは解散して食事とシャワーをさせて貰えるって言うからさ」
蒼はいつの間にか普通に沢原さんと会話をしている事に気付いていない。ちょっとした戦友のようなものを感じて心を開いたのかもしれなかった。
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「そうですね。こんな状態なので、PXは閉店時間が2100で伸びているけど、もう2030過ぎてるし先に行った方がいいですね」
「じゃ、矢留と神崎は皆を頼んだよ!お疲れ~」
「はい、遠山1曹お疲れさまです」
「遠山1曹はどこか行くんですか?」
「いやいや、別にどこってわけじゃないけどね。うちらはこの駐屯地の者じゃないから、結局は外来宿舎に泊まるしかないからね。外はあんなだし」
「はぁ、なるほど。そうだ、ここは何て駐屯地なんですか?」
「そうか、いきなり連れてこられたもんな。ここは立川駐屯地だよ」
「あぁ立川まで来たんですね。ヘリだとアッと言うまだったので、距離感と時間間隔が合わないですね」
「そうそう、ヘリは直線を時速数百キロで飛ぶから」
「おい!神崎行くぞ!PXが閉まる!」
「へ~い!」
会議室から出て出口に向かうと、城隅1尉と羽犬塚3尉が何枚もある液晶モニターを見ていた。
「城隅1尉と羽犬塚3尉は、ウェザー情報を見ているんだよ。パイロットは自分で情報収集して飛行可能か、どのルートを飛ぶか決めないといけないからね。そしてフライトプランを提出するんだ」
「へー、なるほど」
「城隅1尉、羽犬塚3尉。お先に失礼します。お疲れ様でした」
矢留と神崎は丁寧に挨拶をして管制塔がある建物から外に出た。
21時近くになっていたが、まだ少しムワッとした空気が纏わりついた。
PXはコンビニのような品揃えに加え、桜マークがついていない、私物と言われる戦闘服や弾帯、半長靴、弾嚢などの自衛隊グッズなどが売っている。駐屯地内の宿舎は営内と呼ばれ、営内居住者は交代で残留と呼ばれる待機要員をしないといけない。残留は外出が出来ないが、PXに行けば大概の物が売っているので特に困る事は無い。それに平日は喫茶店や食堂なども開いているし、隊員クラブという居酒屋もある。
一通り必要な物を買い揃え、6人は外来宿舎へ向かって、駐屯地内を歩いていた。
「そうだ、蒼兄、母さんに電話してないじゃん!」
「そうだ‥‥‥と言っても携帯通じるのか?南米だっけ?」
「中米だって。あとで掛けてみようよ」
「OK、じゃ頼んだよ!」
「えー、そう言うのは兄があるもんでしょ?」
「チッ!都合の良い時ばかり兄を持ちだすんだから!」
「大溝君は妹と仲いいんだね~!」
「矢留2曹、そんな事ないですよ!いつもは兄を蟻以下の存在と思っているんです」
「私の事は瑠衣ちゃん!って呼んでよ!まぁ、でも仲良い証拠だよ!」
(瑠衣ちゃん?)
「矢留2曹はちゃん付けする年‥‥‥ガスッ!!‥‥‥はひぶっ!!い、いだいでしゅよ‥‥‥瑠衣ちゃん‥‥‥」
矢留二曹の容赦ない膝蹴りが神崎3曹の股間を襲った。
究極の体育会系の自衛隊を垣間見て、4人は少し引いていた‥‥‥。
蒼は花宗をみた。
花宗はふと立ち止まり、空を見上げていた。
「蒼」
「な、何?ユヅキさん」
「蒼は絶対守るから。私はその為に貴方の所に来たんだから‥‥‥」
そう呟く花宗に、蒼は何て言って良いか分からなかった。結局は何も返すことは出来ず、2人は黙ったまま歩き出した――。
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考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
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