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Chapter 2
hide-and-seek
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蒼と莉子、それに沢原はあまりにも荒唐無稽な事を、花宗から聞かされて戸惑いの色を隠せなかった。確かに、蒼は花宗の手から放たれる不思議なオレンジ色の光が、60㎏以上はある男を吹き飛ばすのを見た。しかし、だからと言って蒼自身が、それ以上の力を秘め、そして、その力が地球を危機から救うなど到底信じられなかったのだ。
「ユヅキさん。未知の物体が沢山地球に向かっているのは本当みたいだし、オレンジ色の光も見た。だからと言って、僕にそんな凄い力があるとは全然思えないよ」
蒼は本心を語った。万年ボッチ人生の只の少年にそんな力があるなんて、どう考えても信じられない。人違いだと考えていた。
「そうよ、来世は蟻に生まれ変わってもボッチになる様な蒼兄が、そんな凄い人の訳がないわ!」
莉子はけっこう酷い事を言っている。ある意味DVではないかと蒼は思った。
「カラグになる人は、周囲から距離を置かれる。特に思春期はそれが顕著になるの。それに、イデュはあなたを探し出し、サンクトゥスレガトゥス協会も貴方を狙ったでしょ?これは人違いでも勘違いでもない。真実なのよ。これから蒼をある場所へ導く。そこで、本来の力を引き出さなきゃならないの」
(どこかに連れて行かれるの?平和に土器やら石器を探していたいだけなのに‥‥‥)
「でもどうやって!?またさっきみたいに銃を持った男が来たら、僕達だけでどこかに行くなんて無理だよ!!」
花宗はコンテナボックスから黒いプラスティックケースを2つ取り出した。
「大丈夫これが有るから!」
そう言いながら、ケースを開けた。中には、くり抜かれたウレタンに収められた黒い拳銃と弾倉が4つ入っていた。銃を取り出すとトリガーガードを挟むように錠前がついている。
「こ、これって!本物の!?」
莉子は映画などでは見慣れていたが、日本で本物をこんな間近で見る事になるとは全く考えてもいなかった。見た目は金属ではなく、プラスティックのような材質でトイガンに見えた。
花宗は鍵を外して、弾倉を装填しスライドを引いた。
ジャキッ!
「そうよ、これはH&K SFP9 口径9㎜、装弾数は15発。スライドは金属だけど、ポリマーフレームだからトイガンぽいけど、自衛隊も採用している拳銃よ」
「ユヅキさんって本当に女子高生なの??カッコいい!!」
莉子は初めて見る拳銃や、それを扱い慣れた花宗を目を輝かせて見ていた。
沢原は拳銃の登場に、深刻な事態に巻き込まれていると改めて感じていた。
「そ、その、花宗さん。本当に大丈夫なの?銃を使って、人を‥‥‥殺すの?」
「私は、蒼を守るために来たの。だから、蒼の行く手を阻む者達が居たら容赦なくトリガーを引くし、円筒印章も使うわ!」
断固たる決意を見せる花宗に、蒼は何て言って良いのか分からなかった。
ここ数年、誰からも相手にされていなかった蒼は、急に花宗のような女性に担ぎ上げられている。自己肯定感が無く、卑屈な性格になってしまった蒼には、それは凄く辛く、急激な変化に心が追いついていかなかった。
「それに、サンクトゥスレガトゥス協会も人員が豊富って訳じゃないの。世界中にカラグは5人居て、奴らは力を引き出す前にカラグを殺そうとしている。だから、世界中に散って探しているから、日本にいる敵はそんなに多くない。それはイデュにも言える事なんだけどね。どこも人手不足なのよ」
さらりと言う花宗は、蒼や莉子、それに沢原とは住む世界が違うと3人は感じた。
「ユヅキさんはこういう事に慣れているみたいだけど、僕達はただの一般人。敵が少ないと言うけど、銃を持った相手が現れたら自分でもどう動いて良いか分からない。正直、怖いよ。それにどこに行くかも知らないし‥‥‥」
蒼がそう言うと、2人は頷いた。
「今、私達を回収する部隊が準備をしている。先ずはそれと合流して、沢原さんを安全なところに届ける。それから、蒼と莉子ちゃんは私達とともに皆神山を目指す!」
「え!?花宗さん、皆神山って長野県の?」
「そうよ、長野の北にある小さい山よ。沢原さん知っているの?」
「え、ええ。皆神山と言えば日本のピラミッドじゃないかと言われていて、第二次大戦中は旧日本軍の地下基地が有ったところ‥‥‥そこに何が!?」
「世界中にカラグの為の聖域が有って、皆神山はその一つよ。そこにはアブアマのテクノロジーの一部や力を引き出すための記憶があるの。でも、その聖域にはカラグやウテガ以外は入れない。そもそも入口すら一般人には見つける事はできないわ」
日本にもピラミッドと言われる山が幾つか存在する。エジプトやメキシコのピラミッドのように石を切り出して積んだピラミッドとは違い、山に手を加えて作られたピラミッドだ。
そして、日本のピラミッドこそ、沢原が考古学に興味を持った切っ掛けだった。小さいころ、考古学の研究者であった父に教えられ、いつか日本にもピラミッドがあるという事を、正式に考古学会に認めさせようと研究していた父の背中を見て育った。沢原の父は夢半ばで身体を壊し他界してしまったが、いつかは沢原自身がその証拠を発見しようと夢を描いていたのだ。
(ひょっとしたら、父が追い求めていた答えがそこにあるの‥‥‥?語られていない秘密がある?)
「あ、あの、花宗さん‥‥‥」
「何?」
「そ、その‥‥‥もし可能なら私もそこへ行ってみたい。そして、大溝君がどうなるのか、この世界の行く末を見てみたいの。父が探し求めていたものがそこにあるのかもしれない‥‥‥」
花宗も蒼も莉子も黙っていた。沢原がそこまで言うのには理由があるのだろう。しかし、これはバンジージャンプにチャレンジするのとは訳が違う。
「沢原さん貴方が何を思っているのかは分からないけど、ここから先は貴方には無理よ。戦闘になれば貴方を守れないかもしれない。それは死を意味するのよ。かといって、シェルターに隠れても確実に助かるとは言えないけど‥‥‥」
花宗にハッキリと断られ、沢原は俯いて涙を流した。そして、顔を上げた。
「花宗さん、それでも良い。だから、お願いだから私も連れて行って!本当は凄く怖い‥‥‥けど、どうしても一緒に行きたいの!」
沢原の顔は涙でグシャグシャになっていた。
「そうね‥‥‥今は何とも言えないわ。それに先ずは回収班と合流するのが先よ。そして、敵の動きもまだ分からないし。ちょっと、保留にさせて」
「うん、分かったわ。ゴメンなさい‥‥‥無理を言ってしまって」
「気にしないで。それぞれに色んな思いが有るのは分かるから」
花宗はキッチンからカロリーバーやチューブ式ゼリー飲料、それにミネラルウォーターを持って来て全員に配った。
それからクローゼットに掛かっているベストを全員に渡した。
「ちょっと暑いけど、このベストを着て。防弾と防刃ベストよ」
「こんな薄っぺらくても防弾になるの?」
莉子はベストを持つと、細部をくまなく見ていた。表面は黒い色をしたナイロン素材だが、薄い板状の物が何枚も入っている。両脇にも板が入っているので、ナイフで脇を狙われても防げる確率は高い。莉子が言うように、かなり薄っぺらく、それに軽かった。
「そうよ。これはイデュに伝わる不思議な素材で作られている。私も詳しくは分からないけど、時間が存在しない物質らしいわ。だから破壊できないど、これ以上は大きく生成できないらしいの。でも、弾が当たったら相当痛いから覚悟してね」
「時間が存在しないって‥‥‥もう、何でもありだね、ハハハハハ」
蒼はそう言うと苦笑いしていた。
「それと、莉子ちゃん」
「はい?」
「貴方は拳銃の使い方は分かる?」
「け、拳銃ですか!?」
「使い方を教えるから持ってて」
「わ、私が!?アクション映画とかで銃の使い方は見た事あるけど、トイガンすら触った事はないのよ!」
「大丈夫。使い方を知っていれば、8歳の子供でも撃てる」
「ちょ、ちょっと待ってよ!妹に銃を持たせるの?それで人を殺せって!?何を考えてるんだよ!」
「蒼、ちょっと落ち着いて。大丈夫。莉子ちゃんに持たせるのは空砲よ」
「空砲!?」
「そう。普通の人は銃を向けられたり、銃声がすれば怯む。でも、絶対に実弾と同じだと思って扱って。至近距離で人を撃ったら、皮膚が裂けて大怪我する可能性が有るし、耳元で撃てば鼓膜が破れるから。私が撃ってと言ったら少し上を向けて撃てばいいから」
そして、花宗による拳銃の使い方のレクチャーが始まった。
「いい、こうして、弾倉を装填してスライドを引けば、チャンバーに弾丸が装填される。これで引き金を引けば撃てる。弾倉が空になったらスライドが後退したまま止まるから、弾倉を交換してこのスライドリリースを押すと、スライドが前進してまたチャンバーに弾丸が装填される。グリップはしっかりと両手で握って、そうね、そんな感じ。後退するスライドには注意して。それと、打つ瞬間までトリガーには指を掛けない。人差し指は伸ばしたままに。そうそう、良い感じ」
「どう?蒼兄?決まっているでしょ?」
莉子はそう言うと、両手で握って構えて見せた。確かに様になっている。
「でも、気を付けてくれよ。空砲とはいえ玩具じゃないんだからな!」
「それに必ず、敵以外には向けないのと、弾が入っていないと分かっていても、常に装填されていると思って扱って。銃は思い込みが事故につながるから」
花宗はウェストバッグに取り付けるホルスターと予備弾倉をいくつか莉子に渡した。
「はい。了解です!!」
莉子は調子に乗って敬礼をして見せた。しかし、惜しい事に敬礼が左手だった。
その時、無線機からノイズが聞こえた。
「ジ、ジュ、ジュ‥‥‥1862158こちらイプシロン。1715 ポイント3A-5Dで回収班と合流」
「了解イプシロン、1715 3A-5D了解、交信終了」
花宗はスマホの時計を見た。
「あと、30分くらいか。そろそろここを出ないと。家族に連絡するなら今した方がいいわ」
そう言うとスマホで地図を見ていた。
「そ、そうだった。そこの電話使っていいのね?」
「うん、でも絶対に場所と誰と一緒か言わないでね。自衛隊に拾って貰ったって言って」
「うん、分かった。ありがとう」
そう言うと沢原は固定電話から家族の携帯に電話を掛けた。花宗に言われた通りに、安全なところに居て、自衛隊と一緒に居ると伝えていた。
「ねえ、蒼。3A-5Dだとここか‥‥‥。縄文小学校って場所わかる?出来れば最短ルートで行きたいの」
「縄文小?もちろん分るよ、僕も莉子も通っていたところだから」
「今からそこに行かなくてはならないの」
「う、うん。分かった」
「沢原さんも莉子ちゃんも大丈夫?ここから移動するわ」
4人はウェストバッグに食料と水、それに莉子と花宗はホルスターに銃をしまった。
今からどうなるのか花宗にも分からない。何とか回収班と合流出来れば良いと、それだけを考えていた――。
「ユヅキさん。未知の物体が沢山地球に向かっているのは本当みたいだし、オレンジ色の光も見た。だからと言って、僕にそんな凄い力があるとは全然思えないよ」
蒼は本心を語った。万年ボッチ人生の只の少年にそんな力があるなんて、どう考えても信じられない。人違いだと考えていた。
「そうよ、来世は蟻に生まれ変わってもボッチになる様な蒼兄が、そんな凄い人の訳がないわ!」
莉子はけっこう酷い事を言っている。ある意味DVではないかと蒼は思った。
「カラグになる人は、周囲から距離を置かれる。特に思春期はそれが顕著になるの。それに、イデュはあなたを探し出し、サンクトゥスレガトゥス協会も貴方を狙ったでしょ?これは人違いでも勘違いでもない。真実なのよ。これから蒼をある場所へ導く。そこで、本来の力を引き出さなきゃならないの」
(どこかに連れて行かれるの?平和に土器やら石器を探していたいだけなのに‥‥‥)
「でもどうやって!?またさっきみたいに銃を持った男が来たら、僕達だけでどこかに行くなんて無理だよ!!」
花宗はコンテナボックスから黒いプラスティックケースを2つ取り出した。
「大丈夫これが有るから!」
そう言いながら、ケースを開けた。中には、くり抜かれたウレタンに収められた黒い拳銃と弾倉が4つ入っていた。銃を取り出すとトリガーガードを挟むように錠前がついている。
「こ、これって!本物の!?」
莉子は映画などでは見慣れていたが、日本で本物をこんな間近で見る事になるとは全く考えてもいなかった。見た目は金属ではなく、プラスティックのような材質でトイガンに見えた。
花宗は鍵を外して、弾倉を装填しスライドを引いた。
ジャキッ!
「そうよ、これはH&K SFP9 口径9㎜、装弾数は15発。スライドは金属だけど、ポリマーフレームだからトイガンぽいけど、自衛隊も採用している拳銃よ」
「ユヅキさんって本当に女子高生なの??カッコいい!!」
莉子は初めて見る拳銃や、それを扱い慣れた花宗を目を輝かせて見ていた。
沢原は拳銃の登場に、深刻な事態に巻き込まれていると改めて感じていた。
「そ、その、花宗さん。本当に大丈夫なの?銃を使って、人を‥‥‥殺すの?」
「私は、蒼を守るために来たの。だから、蒼の行く手を阻む者達が居たら容赦なくトリガーを引くし、円筒印章も使うわ!」
断固たる決意を見せる花宗に、蒼は何て言って良いのか分からなかった。
ここ数年、誰からも相手にされていなかった蒼は、急に花宗のような女性に担ぎ上げられている。自己肯定感が無く、卑屈な性格になってしまった蒼には、それは凄く辛く、急激な変化に心が追いついていかなかった。
「それに、サンクトゥスレガトゥス協会も人員が豊富って訳じゃないの。世界中にカラグは5人居て、奴らは力を引き出す前にカラグを殺そうとしている。だから、世界中に散って探しているから、日本にいる敵はそんなに多くない。それはイデュにも言える事なんだけどね。どこも人手不足なのよ」
さらりと言う花宗は、蒼や莉子、それに沢原とは住む世界が違うと3人は感じた。
「ユヅキさんはこういう事に慣れているみたいだけど、僕達はただの一般人。敵が少ないと言うけど、銃を持った相手が現れたら自分でもどう動いて良いか分からない。正直、怖いよ。それにどこに行くかも知らないし‥‥‥」
蒼がそう言うと、2人は頷いた。
「今、私達を回収する部隊が準備をしている。先ずはそれと合流して、沢原さんを安全なところに届ける。それから、蒼と莉子ちゃんは私達とともに皆神山を目指す!」
「え!?花宗さん、皆神山って長野県の?」
「そうよ、長野の北にある小さい山よ。沢原さん知っているの?」
「え、ええ。皆神山と言えば日本のピラミッドじゃないかと言われていて、第二次大戦中は旧日本軍の地下基地が有ったところ‥‥‥そこに何が!?」
「世界中にカラグの為の聖域が有って、皆神山はその一つよ。そこにはアブアマのテクノロジーの一部や力を引き出すための記憶があるの。でも、その聖域にはカラグやウテガ以外は入れない。そもそも入口すら一般人には見つける事はできないわ」
日本にもピラミッドと言われる山が幾つか存在する。エジプトやメキシコのピラミッドのように石を切り出して積んだピラミッドとは違い、山に手を加えて作られたピラミッドだ。
そして、日本のピラミッドこそ、沢原が考古学に興味を持った切っ掛けだった。小さいころ、考古学の研究者であった父に教えられ、いつか日本にもピラミッドがあるという事を、正式に考古学会に認めさせようと研究していた父の背中を見て育った。沢原の父は夢半ばで身体を壊し他界してしまったが、いつかは沢原自身がその証拠を発見しようと夢を描いていたのだ。
(ひょっとしたら、父が追い求めていた答えがそこにあるの‥‥‥?語られていない秘密がある?)
「あ、あの、花宗さん‥‥‥」
「何?」
「そ、その‥‥‥もし可能なら私もそこへ行ってみたい。そして、大溝君がどうなるのか、この世界の行く末を見てみたいの。父が探し求めていたものがそこにあるのかもしれない‥‥‥」
花宗も蒼も莉子も黙っていた。沢原がそこまで言うのには理由があるのだろう。しかし、これはバンジージャンプにチャレンジするのとは訳が違う。
「沢原さん貴方が何を思っているのかは分からないけど、ここから先は貴方には無理よ。戦闘になれば貴方を守れないかもしれない。それは死を意味するのよ。かといって、シェルターに隠れても確実に助かるとは言えないけど‥‥‥」
花宗にハッキリと断られ、沢原は俯いて涙を流した。そして、顔を上げた。
「花宗さん、それでも良い。だから、お願いだから私も連れて行って!本当は凄く怖い‥‥‥けど、どうしても一緒に行きたいの!」
沢原の顔は涙でグシャグシャになっていた。
「そうね‥‥‥今は何とも言えないわ。それに先ずは回収班と合流するのが先よ。そして、敵の動きもまだ分からないし。ちょっと、保留にさせて」
「うん、分かったわ。ゴメンなさい‥‥‥無理を言ってしまって」
「気にしないで。それぞれに色んな思いが有るのは分かるから」
花宗はキッチンからカロリーバーやチューブ式ゼリー飲料、それにミネラルウォーターを持って来て全員に配った。
それからクローゼットに掛かっているベストを全員に渡した。
「ちょっと暑いけど、このベストを着て。防弾と防刃ベストよ」
「こんな薄っぺらくても防弾になるの?」
莉子はベストを持つと、細部をくまなく見ていた。表面は黒い色をしたナイロン素材だが、薄い板状の物が何枚も入っている。両脇にも板が入っているので、ナイフで脇を狙われても防げる確率は高い。莉子が言うように、かなり薄っぺらく、それに軽かった。
「そうよ。これはイデュに伝わる不思議な素材で作られている。私も詳しくは分からないけど、時間が存在しない物質らしいわ。だから破壊できないど、これ以上は大きく生成できないらしいの。でも、弾が当たったら相当痛いから覚悟してね」
「時間が存在しないって‥‥‥もう、何でもありだね、ハハハハハ」
蒼はそう言うと苦笑いしていた。
「それと、莉子ちゃん」
「はい?」
「貴方は拳銃の使い方は分かる?」
「け、拳銃ですか!?」
「使い方を教えるから持ってて」
「わ、私が!?アクション映画とかで銃の使い方は見た事あるけど、トイガンすら触った事はないのよ!」
「大丈夫。使い方を知っていれば、8歳の子供でも撃てる」
「ちょ、ちょっと待ってよ!妹に銃を持たせるの?それで人を殺せって!?何を考えてるんだよ!」
「蒼、ちょっと落ち着いて。大丈夫。莉子ちゃんに持たせるのは空砲よ」
「空砲!?」
「そう。普通の人は銃を向けられたり、銃声がすれば怯む。でも、絶対に実弾と同じだと思って扱って。至近距離で人を撃ったら、皮膚が裂けて大怪我する可能性が有るし、耳元で撃てば鼓膜が破れるから。私が撃ってと言ったら少し上を向けて撃てばいいから」
そして、花宗による拳銃の使い方のレクチャーが始まった。
「いい、こうして、弾倉を装填してスライドを引けば、チャンバーに弾丸が装填される。これで引き金を引けば撃てる。弾倉が空になったらスライドが後退したまま止まるから、弾倉を交換してこのスライドリリースを押すと、スライドが前進してまたチャンバーに弾丸が装填される。グリップはしっかりと両手で握って、そうね、そんな感じ。後退するスライドには注意して。それと、打つ瞬間までトリガーには指を掛けない。人差し指は伸ばしたままに。そうそう、良い感じ」
「どう?蒼兄?決まっているでしょ?」
莉子はそう言うと、両手で握って構えて見せた。確かに様になっている。
「でも、気を付けてくれよ。空砲とはいえ玩具じゃないんだからな!」
「それに必ず、敵以外には向けないのと、弾が入っていないと分かっていても、常に装填されていると思って扱って。銃は思い込みが事故につながるから」
花宗はウェストバッグに取り付けるホルスターと予備弾倉をいくつか莉子に渡した。
「はい。了解です!!」
莉子は調子に乗って敬礼をして見せた。しかし、惜しい事に敬礼が左手だった。
その時、無線機からノイズが聞こえた。
「ジ、ジュ、ジュ‥‥‥1862158こちらイプシロン。1715 ポイント3A-5Dで回収班と合流」
「了解イプシロン、1715 3A-5D了解、交信終了」
花宗はスマホの時計を見た。
「あと、30分くらいか。そろそろここを出ないと。家族に連絡するなら今した方がいいわ」
そう言うとスマホで地図を見ていた。
「そ、そうだった。そこの電話使っていいのね?」
「うん、でも絶対に場所と誰と一緒か言わないでね。自衛隊に拾って貰ったって言って」
「うん、分かった。ありがとう」
そう言うと沢原は固定電話から家族の携帯に電話を掛けた。花宗に言われた通りに、安全なところに居て、自衛隊と一緒に居ると伝えていた。
「ねえ、蒼。3A-5Dだとここか‥‥‥。縄文小学校って場所わかる?出来れば最短ルートで行きたいの」
「縄文小?もちろん分るよ、僕も莉子も通っていたところだから」
「今からそこに行かなくてはならないの」
「う、うん。分かった」
「沢原さんも莉子ちゃんも大丈夫?ここから移動するわ」
4人はウェストバッグに食料と水、それに莉子と花宗はホルスターに銃をしまった。
今からどうなるのか花宗にも分からない。何とか回収班と合流出来れば良いと、それだけを考えていた――。
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