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Chapter1
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防衛省
Unknown One Task Force
Unknown Oneが消滅してから数日が経過していた。関係各国はUnknown Oneを発見する為に全力を注いでたが、ハワイのパンスターズ2望遠鏡や、『すざく』などの小惑星探査衛星でも発見する事は出来なかった。
「一体、あんな巨大で質量のある物体がどこに消えたんだ‥‥‥」
佐々木ディレクターは連日の勤務で酷く疲れていたが、それは、この防衛省の地下に居る者全員が同じだった。
ADのWAFが、モニター上に重要データを受信した時に点滅するアイコンに気付いた。
「佐々木ディレクター。NASAから重要データが送られてきました。今、観測分析班の伊藤チーフに確認して貰っています」
「了解した」
データを確認した分析班が突然慌ただしくなった。
「佐々木ディレクター!ちょっとこれを見てください」
伊藤チーフが興奮気味に言うと、巨大なメインモニターにハワイのハレアカラ山に設置された、パンスターズ2望遠鏡が撮影した画像が映し出された。
「それで、この画像が?」
少し青味掛かった宇宙空間に、数えきれないほどの光の点が見えた。専門家でないとこの画像の意味は分からない。
「ちょっと待って下さい。拡大しますので‥‥‥。ここです。良いですか?沢山の光の点は銀河だったり恒星だったりします。それらは動いているのですが、この画像のような特異な動きはしません。この2つの光点に注目してください」
巨大なモニターに連続した天体画像が移され、伊藤チーフが示した2つの光点が左右に引き離されるように見えた。
「分かりますか!!」
伊藤チーフは興奮していた。
「すまんが、全員に分かるように説明して貰えないかな!?」
伊藤は頭を掻きながら、何故分からないのかと少しイラついた様だった。そして、更に興奮して言った。
「ええっとですね!これは、急激な時空の歪みです!アインシュタインですよ!!重力レンズの様な現象です!!まだ、何が起こったのか正確には分かりませんが、何かの力が発生し時空を歪ませ、そして、時空を引き裂いて出現したのです‥‥‥!!」
「出現!?‥‥‥何が現れたんだ‥‥‥!?」
「多分ですが、Unknown Oneです‥‥‥」
室内の音声が全て消えた。
「Unknown Oneだと!?現在の地球との距離は!?」
「約150万km‥‥‥。NASAジェット推進研究所によると、NEOに分類され、更にPHAに指定されました‥‥‥」
「直ぐ総理に繋げてくれ!!」
(どうやって200億㎞離れた場所にあった小惑星が数日間姿を消して、それが火星よりも近くに出現したんだ!?)
佐々木1等空佐は、とても人類が相手に出来る事象では無いと考え、寒気すら感じた。もう科学力云々の話ではなく、もはや次元が違うのだ。
逃げる場所など人類には無い――。
――――
3日前
午前9時05分
大溝 蒼は部室で少し時間を潰した後、塀を乗り越え上履きのまま帰宅した。そして、登校中に体調不良になったと学校へ電話を掛けた。その後、自分の部屋へ行き、エアコンを点けるとベッドに背中から倒れ込んだ。
(あぁ、もう駄目だな‥‥‥、通信制の高校へ編入するか‥‥‥。別に全日制にこだわる必要もないか‥‥‥)
机に置いたスマホが何度か震えたが無視した。
蒼の頭の中はさっき起きた教室での事がグルグル回り、加藤のニヤついた顔が瞼の裏に映し出されていた。
(ふぅー。やっぱり、上手くいかないな‥‥‥)
体が弛緩し始め、天井の一点を見つめている。瞼は重くなり、徐々に視界が狭くなっていった。
(あ、視界が、視野狭窄か‥‥‥)
中央に陽炎のようにモヤモヤしたものが見えたが、それも明るさと共に徐々に消え、一筋の光も届かない深い闇の中で目を開けているように、何も見えなくなった。
蒼は、自分が目を開けているのか、それとも閉じているのか‥‥‥。それすら分からなった。
(な、何も見えない‥‥‥。それに、音も‥‥‥聞こえない)
どのくらいの時間が経ったから分からない。しかし、少しずつ、ラジオのノイズの様な『ジ、ジ、ジ、‥‥ジ、ジ、ジーー』と小さい音が聞こえ、そのノイズは段々と大きくなっていった。
(なんだ‥‥‥これ、耳鳴り!?)
バンッ!!
突然頭の中で大きな爆発音が聞こえ、蒼は頭を抱えた。頭内爆発音症候群の様な突然響く大きな音だった。
(グハっ!!な、何なんだよ!)
すると、暗闇だった世界に小さく光る点が無数に見え始め、その中央に遥かに大きな一つの眩い光が見えた。
(ん!な、なんだ。た、太陽‥‥か?そ、それに、地球か!?)
大きな光の周りを幾つもの小さな光が回っている。
(太陽系??なんでこんなものが見える!幻覚か!?)
太陽系に見えたものが物凄い速度で迫って来た。そして、周りに見えた無数の光は視界の後方へ追いやられて行った。
(何だ!何だ!!何も見えない!!夢なのか!?こ、声が‥‥‥出ない)
光は全て消え失せ、暗闇の中に大きな円形の、本当の暗闇が見えた‥‥‥。
「はっ!!」
突然覚醒し、目を見開いた。部屋の空調は効いていたが、粘つく様な汗を体中で掻いていた。
ベッドの上から窓を見ると、もう暗くなっている。壁に掛けてある時計を見ると20時12分だった。
(10時間以上寝ていたのか!?)
そして、腕には点滴の針が刺さり、ベッドの横には点滴スタンドが立っていた。
(点滴?誰が?)
スタンドにぶら下がった点滴パックを手に取りベッドから降りて立ち上がると、水を飲むため少しフラつきながら1階へ降りて行った。
「ボ、ボッチ―!やっと起きた。どうしたんだよ!」
莉子はリビングの椅子から勢いよく立ち上がり、いつもの調子でなく、鬼気迫る様子で蒼に話し掛けた。
「え‥‥‥いや、ちょっと、具合が悪くて休んだんだ。それで、ずっと寝てた」
キッチンへ行きグラスに水道水を注ぐと一気に飲み干した。
「寝てたって‥‥‥。蒼兄、3日も寝てたんだよ!!どっか具合が悪いの!?」
(え、何を言っているんだ?3日‥‥‥!?)
莉子の言葉を聞いて、蒼は莉子が居るリビングの方を見た。
「3日?3日間も寝てたのか?」
「そ、そうだよ!翌日も目を覚まさなかったから、救急車を呼ぼうか、それか叔母さんに連絡しようか悩んでいたら、丁度、ユヅキさんが蒼兄を迎えに来たから相談したの。そしたら、ユヅキさんの知り合いの医者を紹介してくれて、自宅で診察してもらった。グスッ、点滴とか色々診察して貰ったの。グスッ、それで、一時的なものだから、安静にして様子を見ようという事になったの。グスッ」
莉子は酷く興奮して段々と涙目になり、後半は鼻をすすりながら話した。
来ている服をを見ると、制服ではなくハーフパンツとTシャツに着替えてあった。
「じゃ、これも?」
「服はお医者さんが着替えさせてくれた。楽な服装が良いだろうって‥‥‥」
莉子は話しながらスマホを手に取り、メッセージを打っていた。
「そ、そうか。ゴメン‥‥‥多分、大丈夫。熱中症と疲れが重なったのかも‥‥‥」
蒼はリビングのソファに深く腰掛けた。点滴パックを床に置いたからか、腕に繋がるチューブに血が逆流し赤くなっていく。
「蒼兄、そ、それ、血が出てる」
そう言われて、蒼は点滴パックを腕よりも高いソファの背もたれの上に置いた。
ピンポーン
「あ、来たみたい。はーい!」
「誰が?」
「ユヅキさん」
「呼んだのか?」
「うん、だって毎日何度も家に来て、点滴パックを交換したり、様子を見に来てくれていたんだよ」
「そ、そうなのか‥‥‥」
3日経っているようだが、蒼にとって今朝の出来事だ。どんな顔をして会えば良いのか正直分からなかった。
「お邪魔します‥‥‥」
「ど、ども‥‥‥。その、ありがとう。色々やって貰って‥‥‥」
蒼は口ごもりながらそう言うと、花宗は深く頭を下げた。
「御免なさい!自分を過信していたわ。本当に傷付けるつもりは無かったの!」
顔を上げた花宗は、目を潤ませ自分の愚かさを悔いているように見えた。
「別に良いよ。いつかはこうなると中学生の時から思っていたから‥‥‥」
蒼は強がりではなく、本当にそう考えていた。中学を無事に卒業できたのは、ただ運が良かったと思っていたのだ。
莉子は怪訝な表情を浮かべていた。妹は3日前に学校で何が有ったのか知らない。
「そうだ、何度か家電に“沢原 亜紀”って人から電話があったよ。何だか、酷く心配していたけど‥‥‥。全く友達がいないわけじゃないのね!しかも女子だし!」
莉子はやっといつも通りの莉子になった。そして、また揶揄う様なニヤケタ顔で蒼を見ている。
「沢原 さんて部活の?」
何故か花宗の眉間に皺が寄りそうだった。
「うん、そうだよ。ちょっとスマホを取ってくる」
蒼はそう言うと自分の部屋に行った。そして、スマホを見て花宗と沢原からSup?のメッセ―ジが幾つも入っているのに気付いた。
「あ、ゴメン、沢山メッセージ貰っていたのか‥‥‥」
蒼のスマホが震え着信を知らせた。液晶画面には“部活沢原”の表示があった。
「も、もしもし‥‥‥」
『大溝君?そ、その今大丈夫なの?あの騒ぎの後学校を休んでいたから心配で‥‥‥』
「う、うん、大丈夫‥‥‥。ゴメン。何度も連絡貰っていたみたいで‥‥‥」
『私は大丈夫、大溝君が大丈夫なら、良いんだけど‥‥‥。花宗さんは大丈夫?大溝君を庇って、あの後はあまり良い話を聞かなかったから‥‥‥』
寝耳に水とはこう言う事だ。蒼はそんな事になっていたなんて、露程も思っていなかったのだ。
「そうなの!?知らなかった‥‥‥。ずっと寝ていて、さっき起きたんだ‥‥‥」
『本当に大丈夫?もし、何かあれば遠慮なく言ってね。え、えと、同じ部活だし‥‥‥』
「うん、ありがとう。でも大丈夫だから。うん、うん、それじゃあ」
「花‥‥‥ユヅキさん。色々ありがとう。なんか迷惑を掛けてしまったみたいで」
「何言っているの?迷惑を掛けたのはこっちの方よ!本当にごめんなさい」
「学校は暫く休んで、通信制に編入しようと思う」
蒼は覚悟を決めた顔をした。
「え?蒼兄なんで?」
「多分、学校は大丈夫‥‥‥」
花宗 結月の顔は暗く、思い詰めた様だった。
「いや、もう行けないよ。僕の心が折れた‥‥‥から」
「私は何があったか知らないけど、多分ユヅキさんが言う通り、それどころじゃないかも」
「何で?なにかあったの?」
「蒼君、落ち着いて聞いて。信じられないかもしれないけど、今日の昼過ぎに日本政府から発表が有ったの」
花宗の顔はいつもより真剣で、興奮した様に少し紅潮していた。そして、莉子はTVのリモコンを手に取った。
ニュースでは、地球から150万kmのところに巨大な小惑星が現れ、それが地球に対して潜在的に危険な小惑星であると、NASAやNASAジェット推進研究所それにJAXAが公式に発表したと報じていた‥‥‥。
NASAが提供したパンスターズ2望遠鏡の映像が映し出されていた。宇宙空間よりも漆黒の闇が円を描いてそこにはあった。
「これって‥‥‥。何で!?嘘だろ‥‥‥!!」
「蒼君!!どうしたの!?この映像が‥‥‥!?何があったの!?」
蒼は力なく椅子に座ると口を開いた。
「眠っている間に。この闇を見たんだ‥‥‥」
「え?闇って、この円形の黒い部分?」
「そう、視界が闇に閉ざされ、太陽系を見た。それから、この真の闇が見えたんだ‥‥‥」
Unknown One Task Force
Unknown Oneが消滅してから数日が経過していた。関係各国はUnknown Oneを発見する為に全力を注いでたが、ハワイのパンスターズ2望遠鏡や、『すざく』などの小惑星探査衛星でも発見する事は出来なかった。
「一体、あんな巨大で質量のある物体がどこに消えたんだ‥‥‥」
佐々木ディレクターは連日の勤務で酷く疲れていたが、それは、この防衛省の地下に居る者全員が同じだった。
ADのWAFが、モニター上に重要データを受信した時に点滅するアイコンに気付いた。
「佐々木ディレクター。NASAから重要データが送られてきました。今、観測分析班の伊藤チーフに確認して貰っています」
「了解した」
データを確認した分析班が突然慌ただしくなった。
「佐々木ディレクター!ちょっとこれを見てください」
伊藤チーフが興奮気味に言うと、巨大なメインモニターにハワイのハレアカラ山に設置された、パンスターズ2望遠鏡が撮影した画像が映し出された。
「それで、この画像が?」
少し青味掛かった宇宙空間に、数えきれないほどの光の点が見えた。専門家でないとこの画像の意味は分からない。
「ちょっと待って下さい。拡大しますので‥‥‥。ここです。良いですか?沢山の光の点は銀河だったり恒星だったりします。それらは動いているのですが、この画像のような特異な動きはしません。この2つの光点に注目してください」
巨大なモニターに連続した天体画像が移され、伊藤チーフが示した2つの光点が左右に引き離されるように見えた。
「分かりますか!!」
伊藤チーフは興奮していた。
「すまんが、全員に分かるように説明して貰えないかな!?」
伊藤は頭を掻きながら、何故分からないのかと少しイラついた様だった。そして、更に興奮して言った。
「ええっとですね!これは、急激な時空の歪みです!アインシュタインですよ!!重力レンズの様な現象です!!まだ、何が起こったのか正確には分かりませんが、何かの力が発生し時空を歪ませ、そして、時空を引き裂いて出現したのです‥‥‥!!」
「出現!?‥‥‥何が現れたんだ‥‥‥!?」
「多分ですが、Unknown Oneです‥‥‥」
室内の音声が全て消えた。
「Unknown Oneだと!?現在の地球との距離は!?」
「約150万km‥‥‥。NASAジェット推進研究所によると、NEOに分類され、更にPHAに指定されました‥‥‥」
「直ぐ総理に繋げてくれ!!」
(どうやって200億㎞離れた場所にあった小惑星が数日間姿を消して、それが火星よりも近くに出現したんだ!?)
佐々木1等空佐は、とても人類が相手に出来る事象では無いと考え、寒気すら感じた。もう科学力云々の話ではなく、もはや次元が違うのだ。
逃げる場所など人類には無い――。
――――
3日前
午前9時05分
大溝 蒼は部室で少し時間を潰した後、塀を乗り越え上履きのまま帰宅した。そして、登校中に体調不良になったと学校へ電話を掛けた。その後、自分の部屋へ行き、エアコンを点けるとベッドに背中から倒れ込んだ。
(あぁ、もう駄目だな‥‥‥、通信制の高校へ編入するか‥‥‥。別に全日制にこだわる必要もないか‥‥‥)
机に置いたスマホが何度か震えたが無視した。
蒼の頭の中はさっき起きた教室での事がグルグル回り、加藤のニヤついた顔が瞼の裏に映し出されていた。
(ふぅー。やっぱり、上手くいかないな‥‥‥)
体が弛緩し始め、天井の一点を見つめている。瞼は重くなり、徐々に視界が狭くなっていった。
(あ、視界が、視野狭窄か‥‥‥)
中央に陽炎のようにモヤモヤしたものが見えたが、それも明るさと共に徐々に消え、一筋の光も届かない深い闇の中で目を開けているように、何も見えなくなった。
蒼は、自分が目を開けているのか、それとも閉じているのか‥‥‥。それすら分からなった。
(な、何も見えない‥‥‥。それに、音も‥‥‥聞こえない)
どのくらいの時間が経ったから分からない。しかし、少しずつ、ラジオのノイズの様な『ジ、ジ、ジ、‥‥ジ、ジ、ジーー』と小さい音が聞こえ、そのノイズは段々と大きくなっていった。
(なんだ‥‥‥これ、耳鳴り!?)
バンッ!!
突然頭の中で大きな爆発音が聞こえ、蒼は頭を抱えた。頭内爆発音症候群の様な突然響く大きな音だった。
(グハっ!!な、何なんだよ!)
すると、暗闇だった世界に小さく光る点が無数に見え始め、その中央に遥かに大きな一つの眩い光が見えた。
(ん!な、なんだ。た、太陽‥‥か?そ、それに、地球か!?)
大きな光の周りを幾つもの小さな光が回っている。
(太陽系??なんでこんなものが見える!幻覚か!?)
太陽系に見えたものが物凄い速度で迫って来た。そして、周りに見えた無数の光は視界の後方へ追いやられて行った。
(何だ!何だ!!何も見えない!!夢なのか!?こ、声が‥‥‥出ない)
光は全て消え失せ、暗闇の中に大きな円形の、本当の暗闇が見えた‥‥‥。
「はっ!!」
突然覚醒し、目を見開いた。部屋の空調は効いていたが、粘つく様な汗を体中で掻いていた。
ベッドの上から窓を見ると、もう暗くなっている。壁に掛けてある時計を見ると20時12分だった。
(10時間以上寝ていたのか!?)
そして、腕には点滴の針が刺さり、ベッドの横には点滴スタンドが立っていた。
(点滴?誰が?)
スタンドにぶら下がった点滴パックを手に取りベッドから降りて立ち上がると、水を飲むため少しフラつきながら1階へ降りて行った。
「ボ、ボッチ―!やっと起きた。どうしたんだよ!」
莉子はリビングの椅子から勢いよく立ち上がり、いつもの調子でなく、鬼気迫る様子で蒼に話し掛けた。
「え‥‥‥いや、ちょっと、具合が悪くて休んだんだ。それで、ずっと寝てた」
キッチンへ行きグラスに水道水を注ぐと一気に飲み干した。
「寝てたって‥‥‥。蒼兄、3日も寝てたんだよ!!どっか具合が悪いの!?」
(え、何を言っているんだ?3日‥‥‥!?)
莉子の言葉を聞いて、蒼は莉子が居るリビングの方を見た。
「3日?3日間も寝てたのか?」
「そ、そうだよ!翌日も目を覚まさなかったから、救急車を呼ぼうか、それか叔母さんに連絡しようか悩んでいたら、丁度、ユヅキさんが蒼兄を迎えに来たから相談したの。そしたら、ユヅキさんの知り合いの医者を紹介してくれて、自宅で診察してもらった。グスッ、点滴とか色々診察して貰ったの。グスッ、それで、一時的なものだから、安静にして様子を見ようという事になったの。グスッ」
莉子は酷く興奮して段々と涙目になり、後半は鼻をすすりながら話した。
来ている服をを見ると、制服ではなくハーフパンツとTシャツに着替えてあった。
「じゃ、これも?」
「服はお医者さんが着替えさせてくれた。楽な服装が良いだろうって‥‥‥」
莉子は話しながらスマホを手に取り、メッセージを打っていた。
「そ、そうか。ゴメン‥‥‥多分、大丈夫。熱中症と疲れが重なったのかも‥‥‥」
蒼はリビングのソファに深く腰掛けた。点滴パックを床に置いたからか、腕に繋がるチューブに血が逆流し赤くなっていく。
「蒼兄、そ、それ、血が出てる」
そう言われて、蒼は点滴パックを腕よりも高いソファの背もたれの上に置いた。
ピンポーン
「あ、来たみたい。はーい!」
「誰が?」
「ユヅキさん」
「呼んだのか?」
「うん、だって毎日何度も家に来て、点滴パックを交換したり、様子を見に来てくれていたんだよ」
「そ、そうなのか‥‥‥」
3日経っているようだが、蒼にとって今朝の出来事だ。どんな顔をして会えば良いのか正直分からなかった。
「お邪魔します‥‥‥」
「ど、ども‥‥‥。その、ありがとう。色々やって貰って‥‥‥」
蒼は口ごもりながらそう言うと、花宗は深く頭を下げた。
「御免なさい!自分を過信していたわ。本当に傷付けるつもりは無かったの!」
顔を上げた花宗は、目を潤ませ自分の愚かさを悔いているように見えた。
「別に良いよ。いつかはこうなると中学生の時から思っていたから‥‥‥」
蒼は強がりではなく、本当にそう考えていた。中学を無事に卒業できたのは、ただ運が良かったと思っていたのだ。
莉子は怪訝な表情を浮かべていた。妹は3日前に学校で何が有ったのか知らない。
「そうだ、何度か家電に“沢原 亜紀”って人から電話があったよ。何だか、酷く心配していたけど‥‥‥。全く友達がいないわけじゃないのね!しかも女子だし!」
莉子はやっといつも通りの莉子になった。そして、また揶揄う様なニヤケタ顔で蒼を見ている。
「沢原 さんて部活の?」
何故か花宗の眉間に皺が寄りそうだった。
「うん、そうだよ。ちょっとスマホを取ってくる」
蒼はそう言うと自分の部屋に行った。そして、スマホを見て花宗と沢原からSup?のメッセ―ジが幾つも入っているのに気付いた。
「あ、ゴメン、沢山メッセージ貰っていたのか‥‥‥」
蒼のスマホが震え着信を知らせた。液晶画面には“部活沢原”の表示があった。
「も、もしもし‥‥‥」
『大溝君?そ、その今大丈夫なの?あの騒ぎの後学校を休んでいたから心配で‥‥‥』
「う、うん、大丈夫‥‥‥。ゴメン。何度も連絡貰っていたみたいで‥‥‥」
『私は大丈夫、大溝君が大丈夫なら、良いんだけど‥‥‥。花宗さんは大丈夫?大溝君を庇って、あの後はあまり良い話を聞かなかったから‥‥‥』
寝耳に水とはこう言う事だ。蒼はそんな事になっていたなんて、露程も思っていなかったのだ。
「そうなの!?知らなかった‥‥‥。ずっと寝ていて、さっき起きたんだ‥‥‥」
『本当に大丈夫?もし、何かあれば遠慮なく言ってね。え、えと、同じ部活だし‥‥‥』
「うん、ありがとう。でも大丈夫だから。うん、うん、それじゃあ」
「花‥‥‥ユヅキさん。色々ありがとう。なんか迷惑を掛けてしまったみたいで」
「何言っているの?迷惑を掛けたのはこっちの方よ!本当にごめんなさい」
「学校は暫く休んで、通信制に編入しようと思う」
蒼は覚悟を決めた顔をした。
「え?蒼兄なんで?」
「多分、学校は大丈夫‥‥‥」
花宗 結月の顔は暗く、思い詰めた様だった。
「いや、もう行けないよ。僕の心が折れた‥‥‥から」
「私は何があったか知らないけど、多分ユヅキさんが言う通り、それどころじゃないかも」
「何で?なにかあったの?」
「蒼君、落ち着いて聞いて。信じられないかもしれないけど、今日の昼過ぎに日本政府から発表が有ったの」
花宗の顔はいつもより真剣で、興奮した様に少し紅潮していた。そして、莉子はTVのリモコンを手に取った。
ニュースでは、地球から150万kmのところに巨大な小惑星が現れ、それが地球に対して潜在的に危険な小惑星であると、NASAやNASAジェット推進研究所それにJAXAが公式に発表したと報じていた‥‥‥。
NASAが提供したパンスターズ2望遠鏡の映像が映し出されていた。宇宙空間よりも漆黒の闇が円を描いてそこにはあった。
「これって‥‥‥。何で!?嘘だろ‥‥‥!!」
「蒼君!!どうしたの!?この映像が‥‥‥!?何があったの!?」
蒼は力なく椅子に座ると口を開いた。
「眠っている間に。この闇を見たんだ‥‥‥」
「え?闇って、この円形の黒い部分?」
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