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Chapter1
戦闘部隊
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1ヶ月前
カナダ ブリティッシュコロンビア州
バンクーバー ダウンタウン・イーストサイド
この街は、夏になると世界的な著名人が避暑地として利用する事でも有名な場所だ。冬は連日シトシトと降る雨ばかりだが、夏は湿度も低く過ごし易い。しかも夏至の日は21時30分まで明るい。
しかし、イーストサイドは古い街で、ダウンタウンの中心から少し歩いただけで、雰囲気がガラッと変わる。治安が良いと言われるバンクーバーだが、WヘイスティングスStの周辺に来ると、落書きだらけの廃業した店舗が目立つ。その周辺に、衣服を洗濯するという概念を忘れた、饐えた臭いがするホームレス、それに怪しい連中が集まっていた。営業している店舗もあるが、そう言った連中を相手にしている様だ。
それでも昼間はまだいいが、夜になって女の子が一人で歩くのはお勧めしない。彼方此方にアル中やジャンキーが屯しており、綺麗な服着てフラフラと歩いていたら、現金を盗られるだけで済めば良い方だ。しかも、盗んだ金はその場で薬代に消えてしまう。
時刻は2時24分。WヘイスティングスStから一本北を通る狭い路地。ゴミが散乱し、路面も建物の壁もジメジメとして苔がこびり付いている。それに、アンモニアの様な嫌な臭いが漂っており、ここを歩くのは素人には危険だ。
その路地に、両サイドに配管工事会社のロゴがプリントしてある真っ黒い大型のバンが一台停車した。
直ぐに、後部の観音開きのドアが開き、5人ほどの男達がバラバラと降りてきた。が、まだ車内に人影が見える。待機するドライバーと、助手席にイスラム教徒の女性が着るブルカに似た、頭をすっぽりと覆う頭巾を被っている者が1名乗っていた。
男達は黒っぽい服を着ていたが、統一した服装と言うわけでは無い。ただ、銃は全員が同じ物を携帯しており、単眼のNVGを装着していた。
男達は目的の3階建ての建物のドアに近づくと、そうちの一人が手際よくドアノブと蝶番にセムテックス爆薬を仕掛けた。全員が壁に張り付き、ドアに背を向けると爆薬が一斉に点火された。
ド、ド、ドン!!
ドアが外れ地面に倒れる。隊長らしき男の掛け声で一斉に建物に侵入した。
「GO!GO!GO!GO!!」
建物に入るとすぐ左側に2階に通じる階段があり、3名が駆け上がって行った。残りの2名は1階を捜索する。
1階は元々店舗だった様で、遮る壁は無く一つの大きなスペースになっており、段ボールやゴミが散乱しているだけで目的のモノはない。
2人の男達はそれを確認するとすぐに2階へ移動した。
「1階クリアー。合流する」
「Rog、2階の各部屋はクリアーだ。3階へ行く」
「Rog!」
男達は3階へ到達した。ここは1階と同じ作りになっている。しかし、1階と違うのは、室温が極端に低いのと、薄暗い照明が灯っていた。そして、壁面にはビッシリと計測用の電子機器と大きなモニターが幾つもあり、床には太い電源ケーブルが蛇の様に這っていた。
それと、部屋の中央には、人の背丈ほどの大きな透明な球体が鎮座しており、計測機器からカラフルな様々なサイズのケーブルが、タコの足の様に繋がっていた。球体をよく見ると底面には、鈍色の液体の様な物が溜まっている。
「な、何だこれは?‥‥‥ターゲットは通り側に移動した!」
その時、耳鳴りにも似た不快なモスキート音が頭の中に響いた。
「グッ!!F××k!光学兵器だ!」
敵の一人は、球体の後方に山積みになっている電子機材の陰から、握り拳をこちらに向けていて、その拳から赤いレーザー光が放たれた。
レーザー光は先頭の男の太腿を掠り、後ろの壁を貫通した。
「S××t!」
この光学兵器は車のドア程度なら簡単に貫通する。しかも、その照射装置は手の平に収まる大きさで、撃たれている方から見ると、手から直接レーザーが出ている様に見えた。
「GO!GO!撃て!撃て!」
サプレッサー付のクリスヴェクターの短連射音が響いた!
タタン!タタン!タタン!タタン!タタン!タタン!
弾丸が発射される度に部屋は爆炎に照らされ、その中を敵のレーザー光の帯が飛び交っていた。
キン!キン!キン!キン!‥‥‥。排夾された真鍮製のカートリッジが床に散らばった。
「ゴボッ!」
敵の頭部から、後方に血液と脳漿が飛び散り壁を赤黒く染めた。
「球体は撃つなよ! 一人倒した。残り2!」
「Rog!前進!前進!!」
「!!」
「停止!全員停止!速やかに撤収しろ!!」
男達の一人が、球体の傍に一定の間隔で点滅する幾何学模様を映す小さなモニターを発見した。その模様が何を示しているかは分からなかったが、直感的に危険な物と判断したのだ。
「ヤバイ!ヤバイ!早くこの建物から出るぞ!!行け!行け!行け!」
男達は一斉に階段を駆け降りる。そして、車両に乗り込むと直ぐ様バンを発進させ、建物から遠ざかった。
手傷を負った2名の敵は球体の傍で跪くと、点滅していた幾何学模様を映すモニターが、数秒点灯してから何も表示をしなくなった。
部屋の気圧が一気に下がり、室温が更に低下した。そして、球体の中心に向かって周囲の電子機器やケーブル、その他のあらゆる物が球体に張り付いた。
それと同時に、球体の下に溜まっていた液体の様な物が、浮き上がり色々な形に変形しながら内面に衝突し続けた。それはまるで、籠の鳥が逃げようと暴れているみたいだった。
その数秒後、壁や天井の一部が剥がれ始め球体に吸い寄せられた。球体の中央に黒い靄が現れ、張り付いた電子機材などによって、球体に亀裂が走ると、低周波音を発生させ、球体は一気に収縮した!その直後、太陽の様に強烈に光った!そして、2階と3階、それに隣接する建物の一部をえぐるようにして消滅した。
バンは数百m離れた所で停車した。男達が建物の方を見ると、すでに警察や消防の車両が集まって来ていた。
男達の一人が呟いた。
「隊長、何だったんです!?あれは‥‥‥」
「俺も詳しくは知らん!」
「あれは、ここの言葉で説明すると、ブラックホールの蒸発だ‥‥‥」
頭巾を被って助手席に座っていた人物が口を開いた。
「ブラックホール!?‥‥‥それが蒸発しただと!?」
「そうだ。ただあれは、不本意な行動だったはず。あそこでは兵器開発をしていたが、我々に発見された為全てを消した。あそこに居た者も含めて」
頭巾の者は抑揚がなく感情を忘れたかのように、淡々と言葉を発した。
「まぁ良い。兎に角ここを離れるぞ。車を出してくれ」
「了解です」
そのままバンは深夜の街に消えて行った――。
あと数時間で夜が明ける。夏のバンクーバーは一年を通して人口が増えると言われるほど人気のある街だ。
今起きた爆発は、ホームレスかジャンキーが引き起こした、只の事故として扱われるだろう――。
カナダ ブリティッシュコロンビア州
バンクーバー ダウンタウン・イーストサイド
この街は、夏になると世界的な著名人が避暑地として利用する事でも有名な場所だ。冬は連日シトシトと降る雨ばかりだが、夏は湿度も低く過ごし易い。しかも夏至の日は21時30分まで明るい。
しかし、イーストサイドは古い街で、ダウンタウンの中心から少し歩いただけで、雰囲気がガラッと変わる。治安が良いと言われるバンクーバーだが、WヘイスティングスStの周辺に来ると、落書きだらけの廃業した店舗が目立つ。その周辺に、衣服を洗濯するという概念を忘れた、饐えた臭いがするホームレス、それに怪しい連中が集まっていた。営業している店舗もあるが、そう言った連中を相手にしている様だ。
それでも昼間はまだいいが、夜になって女の子が一人で歩くのはお勧めしない。彼方此方にアル中やジャンキーが屯しており、綺麗な服着てフラフラと歩いていたら、現金を盗られるだけで済めば良い方だ。しかも、盗んだ金はその場で薬代に消えてしまう。
時刻は2時24分。WヘイスティングスStから一本北を通る狭い路地。ゴミが散乱し、路面も建物の壁もジメジメとして苔がこびり付いている。それに、アンモニアの様な嫌な臭いが漂っており、ここを歩くのは素人には危険だ。
その路地に、両サイドに配管工事会社のロゴがプリントしてある真っ黒い大型のバンが一台停車した。
直ぐに、後部の観音開きのドアが開き、5人ほどの男達がバラバラと降りてきた。が、まだ車内に人影が見える。待機するドライバーと、助手席にイスラム教徒の女性が着るブルカに似た、頭をすっぽりと覆う頭巾を被っている者が1名乗っていた。
男達は黒っぽい服を着ていたが、統一した服装と言うわけでは無い。ただ、銃は全員が同じ物を携帯しており、単眼のNVGを装着していた。
男達は目的の3階建ての建物のドアに近づくと、そうちの一人が手際よくドアノブと蝶番にセムテックス爆薬を仕掛けた。全員が壁に張り付き、ドアに背を向けると爆薬が一斉に点火された。
ド、ド、ドン!!
ドアが外れ地面に倒れる。隊長らしき男の掛け声で一斉に建物に侵入した。
「GO!GO!GO!GO!!」
建物に入るとすぐ左側に2階に通じる階段があり、3名が駆け上がって行った。残りの2名は1階を捜索する。
1階は元々店舗だった様で、遮る壁は無く一つの大きなスペースになっており、段ボールやゴミが散乱しているだけで目的のモノはない。
2人の男達はそれを確認するとすぐに2階へ移動した。
「1階クリアー。合流する」
「Rog、2階の各部屋はクリアーだ。3階へ行く」
「Rog!」
男達は3階へ到達した。ここは1階と同じ作りになっている。しかし、1階と違うのは、室温が極端に低いのと、薄暗い照明が灯っていた。そして、壁面にはビッシリと計測用の電子機器と大きなモニターが幾つもあり、床には太い電源ケーブルが蛇の様に這っていた。
それと、部屋の中央には、人の背丈ほどの大きな透明な球体が鎮座しており、計測機器からカラフルな様々なサイズのケーブルが、タコの足の様に繋がっていた。球体をよく見ると底面には、鈍色の液体の様な物が溜まっている。
「な、何だこれは?‥‥‥ターゲットは通り側に移動した!」
その時、耳鳴りにも似た不快なモスキート音が頭の中に響いた。
「グッ!!F××k!光学兵器だ!」
敵の一人は、球体の後方に山積みになっている電子機材の陰から、握り拳をこちらに向けていて、その拳から赤いレーザー光が放たれた。
レーザー光は先頭の男の太腿を掠り、後ろの壁を貫通した。
「S××t!」
この光学兵器は車のドア程度なら簡単に貫通する。しかも、その照射装置は手の平に収まる大きさで、撃たれている方から見ると、手から直接レーザーが出ている様に見えた。
「GO!GO!撃て!撃て!」
サプレッサー付のクリスヴェクターの短連射音が響いた!
タタン!タタン!タタン!タタン!タタン!タタン!
弾丸が発射される度に部屋は爆炎に照らされ、その中を敵のレーザー光の帯が飛び交っていた。
キン!キン!キン!キン!‥‥‥。排夾された真鍮製のカートリッジが床に散らばった。
「ゴボッ!」
敵の頭部から、後方に血液と脳漿が飛び散り壁を赤黒く染めた。
「球体は撃つなよ! 一人倒した。残り2!」
「Rog!前進!前進!!」
「!!」
「停止!全員停止!速やかに撤収しろ!!」
男達の一人が、球体の傍に一定の間隔で点滅する幾何学模様を映す小さなモニターを発見した。その模様が何を示しているかは分からなかったが、直感的に危険な物と判断したのだ。
「ヤバイ!ヤバイ!早くこの建物から出るぞ!!行け!行け!行け!」
男達は一斉に階段を駆け降りる。そして、車両に乗り込むと直ぐ様バンを発進させ、建物から遠ざかった。
手傷を負った2名の敵は球体の傍で跪くと、点滅していた幾何学模様を映すモニターが、数秒点灯してから何も表示をしなくなった。
部屋の気圧が一気に下がり、室温が更に低下した。そして、球体の中心に向かって周囲の電子機器やケーブル、その他のあらゆる物が球体に張り付いた。
それと同時に、球体の下に溜まっていた液体の様な物が、浮き上がり色々な形に変形しながら内面に衝突し続けた。それはまるで、籠の鳥が逃げようと暴れているみたいだった。
その数秒後、壁や天井の一部が剥がれ始め球体に吸い寄せられた。球体の中央に黒い靄が現れ、張り付いた電子機材などによって、球体に亀裂が走ると、低周波音を発生させ、球体は一気に収縮した!その直後、太陽の様に強烈に光った!そして、2階と3階、それに隣接する建物の一部をえぐるようにして消滅した。
バンは数百m離れた所で停車した。男達が建物の方を見ると、すでに警察や消防の車両が集まって来ていた。
男達の一人が呟いた。
「隊長、何だったんです!?あれは‥‥‥」
「俺も詳しくは知らん!」
「あれは、ここの言葉で説明すると、ブラックホールの蒸発だ‥‥‥」
頭巾を被って助手席に座っていた人物が口を開いた。
「ブラックホール!?‥‥‥それが蒸発しただと!?」
「そうだ。ただあれは、不本意な行動だったはず。あそこでは兵器開発をしていたが、我々に発見された為全てを消した。あそこに居た者も含めて」
頭巾の者は抑揚がなく感情を忘れたかのように、淡々と言葉を発した。
「まぁ良い。兎に角ここを離れるぞ。車を出してくれ」
「了解です」
そのままバンは深夜の街に消えて行った――。
あと数時間で夜が明ける。夏のバンクーバーは一年を通して人口が増えると言われるほど人気のある街だ。
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