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Chapter1
squad
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2024年8月
首相官邸危機管理センター 会議室
「総理、それに大臣少しお時間はありますか?」
物部総理と増山防衛大臣は目を合わせた。
「情報本部長の立花陸将ですね?そうですね‥‥‥少しなら構いませんよ」
物部総理は見た目通りに温和で、気さくな人物だった。今年67歳になるが、その年齢を感じさせない行動力と信念を持って総理大臣の任に正面から向き合っている。
陸自の将官は全員が退室し、総理と防衛大臣、それと情報本部長の三人だけが残り、巨大な金色のテーブルの傍らで向き合うように椅子に座った。
「お忙しい所誠に恐縮です。今回の召集の内容を聞いて、お話しておいた方が良いと思いまして‥‥‥」
「どういう事でしょうか?」
「それが、確信はしたものの荒唐無稽な話しでもありますので、一つの情報と思って聞いて頂きたいのです」
「立花さん、遥彼方の宇宙空間ではすでに荒唐無稽な事が起きているんだ、この際何を聞いても驚きはしないよ!」
増山防衛大臣は、ぶっきら棒な話しっぷりだが、悪気がある言い方でもない。昔気質の裏表がない人物だ。
「了解しました。自分が情報本部に上番する際、前任者からの申し送りで奇妙なものがありました」
総理も増山も静かに耳を傾けている。
「前任者はこう言っていたんです。、古くは八咫烏と言う秘密組織から、明治以降は旧日本陸軍参謀局長、陸軍中野学校長、内閣情報調査室長を経て情報本部長まで受け継がれている言葉があると言うんです。それは『古事記の時代、八咫烏を祖に伝えられている事がある。この世を災厄から護る為、守護者が目覚める。彼等を助けるのが真の任務。その時が来れば分かる筈‥‥‥。そしてこの事は厳に秘密とするように‥‥‥』と‥‥‥」
増山大臣は眉間に皺を寄せている。
「何だいそりゃあ?都市伝説か何かかい?」
「自分も最初はそんな類の事だろうと考えておりました。それにすっかり忘れていたのです。そして、先週、私物のスマートフォンに、ある人から電話が掛かってきました。嗄れた老人の声でこんな事を言っていました。『 古から伝えられた通り、人類に危機が迫り、カラグが目覚める。お主の真の任務の為に尽瘁するのじゃ』とだけ言って、一方的に切られてしまいました。非通知から掛かって来たので、こちらから折り返すは事出来ませんでした。そして、今日の話しです。偶然にしては出来過ぎていると思いまして‥‥‥」
「なるほどね~。確かにタイミングも内容に関しても関係がりそうな感じだなぁ…。小惑星の件はマスコミもまだ掴んでいない筈だしな‥‥‥うーん‥‥‥総理はどうお考えで?」
「確かに偶然にしては出来過ぎですね‥‥‥。情報が少ないので、今のところ何とも言え‥‥‥!?」
腕組をしながら、そう言いかけて物部総理は動きを止め、遠い記憶を呼び覚ますように、目を見開いて一点を見つめている。
「総理、どうしました?」
そして、物部総理は記憶の欠片を拾うように、ゆっくりと話始めた。
「!‥‥‥私も思い出したことがあります。子供の時分なので随分と昔の話しですが、‥‥‥父方の祖母が昔話をする様に何度か聞かせてくれました。細部は覚えていませんが、確かこうです『天から災厄が降りかかった時に、国を守る者が誕生する…』と、只の昔話の断片かもしれませんが、その電話の老人が仰っていた事に似ているかと‥‥‥」
「ほう、昔話にしちゃあ、あまり聞いた事が無い話しですね」
増山防衛大臣は顎を撫でながら神妙な顔をしている。
「確かに、似ていると言えば似ていますね‥‥‥」
立花も奇妙な類似点が気になっていた。
「分かりました。増山大臣が仰っていたように、既に荒唐無稽な事象が発生しています。先ずは、その老人の情報を集めてください。情報本部の全てをフルに使って構いせん」
「了解しました!」
「それと念のため、1個班規模で調査部隊を組織した方が良いかも知れんな。この先何が起きるか分からん。宜しいですか総理?」
「その辺りの事は、増山さんにお任せしますよ」
「では立花陸将、先ずは極秘に信頼できる精鋭を1個班程度で集めてくれ、装備と陸空の移動手段もだ。あとでテキトウな命令を切っておく。この件に関しては、総理か俺の所に直接報告してくれ」
「はっ!了解しました!!」
立花は席を立つと、物部総理大臣に対して、まるで機械の様に素早く腰を曲げて10度の敬礼をすると会議室を後にした。
――――――――――――――――
立花は西門でスマートフォンを受け取ると、すぐ電話を掛けた。
空調が効いた首相官邸から外に出ると、車の排気と水分を多く含んだジットリとした空気が混ざって、直ぐ体に纏わりついた。スマートフォンの液晶にも汗が滲んでヌルっとした嫌な感触が頬に伝わる。
「もしもし、私だ。ちょっと頼みたい事があってね。詳細は会って話すが、信頼できる精鋭をパイロット含め6名、装備と陸空の移動手段の確保をして欲しい‥‥‥あぁ、そうだ。60が良いな。命令書は後で増山防衛大臣が切ってくれる。すまないが、出来るだけ速くお願いしたい。それと、私物の携帯電話の通話記録を調べて欲しいんだが。‥‥‥そうだ、1か月前から今日までの通話記録と、発信場所を全て調べてくれ。悪いね」
電話を切ると待ってた官用車に乗り込んだ。
「立花陸将、市ヶ谷で宜しいでしょうか?」
「そうだ、頼む」
ドライバーの池田2曹は、今までこれだけの将官が集まっているのを見た事が無かった。
「了解しました‥‥‥。そ、その‥‥‥何かあったんでしょか?」
「池田2曹、大丈夫だよ。ちょっとしたオッサン達の井戸端会議みたいなもんだ。心配する事じゃない‥‥‥今のところは‥な‥‥」
「は、はぁ‥‥‥」
いつもの様に屈託の無い口調で立花は答えたが、池田2曹はその言葉尻に違和感を覚えた。ちょうど車外のクラクションに掻き消され、よく聞こえなかったが、『今のところは‥‥‥』と聞こえた気がしたからだ。
しかし、それ以上話し掛けるのは許されない空気があったので、車内は静なまま防衛省へ向かった。
――――――――――――――――
防衛省に着いた立花は、残っていた恒常業務の書類に目を通し、電話を何件か掛けた。しかし、頭の大部分は小惑星と謎の老人が占めている。11か月後に地球は終わってしまうのだろうか?妻や子供の顔がグルグルと脳内を回っていた。
窓から見える東京の街は、8月の狂ったような太陽光の照射を受け、街全体がハイライトに彩られている。
情報本部の仕事は、画像、通信、地理情報を収集、分析し。各機関と連携しながら、我が国の脅威となる、軍事情勢、国際情勢の動向を分析するのが任務である。しかし、そう言う事が全く役に立たない相手に対して、立花は酷く無力さを感じていた。
ボイジャー1号を破壊した何者かが、小惑星を操っているのだとすると、人類の科学力など最低でも数百年、数千年は遅れている筈だ。その様な脅威に、日本や世界を守る事が出来るだろうか。
窓の外に視線を移すと、先ほどより日が傾いて来たが、それでも東京特有の、体全体を包み込む不快な暑さが容易に想像できる。
時計を見ると1715時。あと15分で課業終了の国旗降下のラッパが流れる時間だった。
コンコン
「どうぞ」
「立花陸将。柳川3佐がお見えです」
「分かった。通してくれ」
「失礼します。部長、通話記録の件ですが‥‥‥」
柳川 和夫3等陸佐は、立花の下で勤務して2年近くなる。今年で45歳になる彼は、身長180㎝、太い上腕は戦闘服の上からでも鍛えられているのが分かる。防衛大を卒業、幹部レンジャー課程を修了し、機甲科隊員として第15即応機動連隊 第2機動戦闘車中隊長、第一師団隷下の第一偵察戦闘大隊、偵察中隊長を歴任し、現在は情報本部統合情報部に所属。外国の軍隊に関する情報を収集するのが主任務である。(但し、具体的な部署などは、防衛秘密に抵触するため記載する事は出来ない)
「何か分かったかね?」
「それが、キャリアの通信記録には何もなかったのです。確かに、一週間まえに非通知の通話が1件ありました。ある基地局を経由して部長のスマートフォンに通話した形跡は有るのですが、通信元の情報が一切記録されていませんでした」
柳川3佐は、詳細な通話記録を立花に手渡すと、下士官の様にピシッと休めの姿勢をとっていた。制服の胸元には色とりどりの防衛記念章とレンジャー徽章が光っている。
「どういう事だ?」
「それが、技術陸曹も技官も、キャリア側のエンジニアも理解できないそうです。通話元のMACアドレスや、GPS情報などの情報が全く記録されていませんでした。誰かが、固定電話を持って基地局によじ登り、有線で接続して通話した様だと‥‥‥しかし、そんな事は不可能ですよ」
立花は思いもしない調査結果に、顎を撫でながら天井を仰ぎ見た。
「キャリアのサーバーにクラックして改竄した可能性は?」
「可能性としてはありますが、そう言った形跡もなったようです。もし有ったとしても、このように鮮やかにクラッキング出来る組織は、政府や軍が絡んでいるかもしれませんね」
「そうか、ありがとう。(あの老人は何者なんだ?)」
「それと、精鋭についてはピックアップして手配しているところです。立花陸将‥‥‥。どういう事でしょうか?何があったのんです?」
柳川3佐は最も信頼できる部下の一人だった。彼なら、臨機応変に、どのような場面でも対処できるだろう。
「柳川3佐、君にだけは話しておこう。今回の件はG7の政府、軍などが絡んでいる。それにこれは総理直々に受けた命令だ」
「!!G7‥‥‥総理大臣ですか‥‥‥!?」
柳川3佐は防大含め20年以上自衛隊で勤務しているが、1個班規模の部隊を準備し、それが総理大臣からの直接の命令なんて聞いた事が無かった。他国からの侵略か、大規模なテロの発生が予測されているのかと考えたが、我々情報本部が何も察知していない事は考えられない。という事は、想像以上の事柄が我が国の安全を脅かしているのだろうか?しかし、今のところは何も思いつかなかった。
「そうだ。一か月前‥‥‥」
立花はボイジャー1号が消息を絶った経緯、そして巨大小惑星が地球に接近している事、それから、謎の老人からの電話の件を柳川に説明した。いつも、冷静な柳川も流石に超自然的な天体の発見と、立花に掛かって来た電話の件を聞いて、明らかに狼狽えているのが分かった。それは、無理もない事だろう。まるで、映画のように荒唐無稽な話だ。
「この件は最優先事項で、上位の防衛秘密に指定される。指示があるまで、私と君だけの秘密だ。それと、集めた隊員は情報本部 統合情報部付に転属扱いになる筈だ。その班を君に指揮してもらいたい。今後どのような事が起きるか予想が付かない。班を組織するのはその為の保険だ。先ずは、電話の老人を探す事に集中してくれ。頼めるかな?」
柳川は休めの姿勢から、素早く一挙動で気を付けの姿勢をとった。
「勿論です!全身全霊で任務完遂に務めてまいります!」
首相官邸危機管理センター 会議室
「総理、それに大臣少しお時間はありますか?」
物部総理と増山防衛大臣は目を合わせた。
「情報本部長の立花陸将ですね?そうですね‥‥‥少しなら構いませんよ」
物部総理は見た目通りに温和で、気さくな人物だった。今年67歳になるが、その年齢を感じさせない行動力と信念を持って総理大臣の任に正面から向き合っている。
陸自の将官は全員が退室し、総理と防衛大臣、それと情報本部長の三人だけが残り、巨大な金色のテーブルの傍らで向き合うように椅子に座った。
「お忙しい所誠に恐縮です。今回の召集の内容を聞いて、お話しておいた方が良いと思いまして‥‥‥」
「どういう事でしょうか?」
「それが、確信はしたものの荒唐無稽な話しでもありますので、一つの情報と思って聞いて頂きたいのです」
「立花さん、遥彼方の宇宙空間ではすでに荒唐無稽な事が起きているんだ、この際何を聞いても驚きはしないよ!」
増山防衛大臣は、ぶっきら棒な話しっぷりだが、悪気がある言い方でもない。昔気質の裏表がない人物だ。
「了解しました。自分が情報本部に上番する際、前任者からの申し送りで奇妙なものがありました」
総理も増山も静かに耳を傾けている。
「前任者はこう言っていたんです。、古くは八咫烏と言う秘密組織から、明治以降は旧日本陸軍参謀局長、陸軍中野学校長、内閣情報調査室長を経て情報本部長まで受け継がれている言葉があると言うんです。それは『古事記の時代、八咫烏を祖に伝えられている事がある。この世を災厄から護る為、守護者が目覚める。彼等を助けるのが真の任務。その時が来れば分かる筈‥‥‥。そしてこの事は厳に秘密とするように‥‥‥』と‥‥‥」
増山大臣は眉間に皺を寄せている。
「何だいそりゃあ?都市伝説か何かかい?」
「自分も最初はそんな類の事だろうと考えておりました。それにすっかり忘れていたのです。そして、先週、私物のスマートフォンに、ある人から電話が掛かってきました。嗄れた老人の声でこんな事を言っていました。『 古から伝えられた通り、人類に危機が迫り、カラグが目覚める。お主の真の任務の為に尽瘁するのじゃ』とだけ言って、一方的に切られてしまいました。非通知から掛かって来たので、こちらから折り返すは事出来ませんでした。そして、今日の話しです。偶然にしては出来過ぎていると思いまして‥‥‥」
「なるほどね~。確かにタイミングも内容に関しても関係がりそうな感じだなぁ…。小惑星の件はマスコミもまだ掴んでいない筈だしな‥‥‥うーん‥‥‥総理はどうお考えで?」
「確かに偶然にしては出来過ぎですね‥‥‥。情報が少ないので、今のところ何とも言え‥‥‥!?」
腕組をしながら、そう言いかけて物部総理は動きを止め、遠い記憶を呼び覚ますように、目を見開いて一点を見つめている。
「総理、どうしました?」
そして、物部総理は記憶の欠片を拾うように、ゆっくりと話始めた。
「!‥‥‥私も思い出したことがあります。子供の時分なので随分と昔の話しですが、‥‥‥父方の祖母が昔話をする様に何度か聞かせてくれました。細部は覚えていませんが、確かこうです『天から災厄が降りかかった時に、国を守る者が誕生する…』と、只の昔話の断片かもしれませんが、その電話の老人が仰っていた事に似ているかと‥‥‥」
「ほう、昔話にしちゃあ、あまり聞いた事が無い話しですね」
増山防衛大臣は顎を撫でながら神妙な顔をしている。
「確かに、似ていると言えば似ていますね‥‥‥」
立花も奇妙な類似点が気になっていた。
「分かりました。増山大臣が仰っていたように、既に荒唐無稽な事象が発生しています。先ずは、その老人の情報を集めてください。情報本部の全てをフルに使って構いせん」
「了解しました!」
「それと念のため、1個班規模で調査部隊を組織した方が良いかも知れんな。この先何が起きるか分からん。宜しいですか総理?」
「その辺りの事は、増山さんにお任せしますよ」
「では立花陸将、先ずは極秘に信頼できる精鋭を1個班程度で集めてくれ、装備と陸空の移動手段もだ。あとでテキトウな命令を切っておく。この件に関しては、総理か俺の所に直接報告してくれ」
「はっ!了解しました!!」
立花は席を立つと、物部総理大臣に対して、まるで機械の様に素早く腰を曲げて10度の敬礼をすると会議室を後にした。
――――――――――――――――
立花は西門でスマートフォンを受け取ると、すぐ電話を掛けた。
空調が効いた首相官邸から外に出ると、車の排気と水分を多く含んだジットリとした空気が混ざって、直ぐ体に纏わりついた。スマートフォンの液晶にも汗が滲んでヌルっとした嫌な感触が頬に伝わる。
「もしもし、私だ。ちょっと頼みたい事があってね。詳細は会って話すが、信頼できる精鋭をパイロット含め6名、装備と陸空の移動手段の確保をして欲しい‥‥‥あぁ、そうだ。60が良いな。命令書は後で増山防衛大臣が切ってくれる。すまないが、出来るだけ速くお願いしたい。それと、私物の携帯電話の通話記録を調べて欲しいんだが。‥‥‥そうだ、1か月前から今日までの通話記録と、発信場所を全て調べてくれ。悪いね」
電話を切ると待ってた官用車に乗り込んだ。
「立花陸将、市ヶ谷で宜しいでしょうか?」
「そうだ、頼む」
ドライバーの池田2曹は、今までこれだけの将官が集まっているのを見た事が無かった。
「了解しました‥‥‥。そ、その‥‥‥何かあったんでしょか?」
「池田2曹、大丈夫だよ。ちょっとしたオッサン達の井戸端会議みたいなもんだ。心配する事じゃない‥‥‥今のところは‥な‥‥」
「は、はぁ‥‥‥」
いつもの様に屈託の無い口調で立花は答えたが、池田2曹はその言葉尻に違和感を覚えた。ちょうど車外のクラクションに掻き消され、よく聞こえなかったが、『今のところは‥‥‥』と聞こえた気がしたからだ。
しかし、それ以上話し掛けるのは許されない空気があったので、車内は静なまま防衛省へ向かった。
――――――――――――――――
防衛省に着いた立花は、残っていた恒常業務の書類に目を通し、電話を何件か掛けた。しかし、頭の大部分は小惑星と謎の老人が占めている。11か月後に地球は終わってしまうのだろうか?妻や子供の顔がグルグルと脳内を回っていた。
窓から見える東京の街は、8月の狂ったような太陽光の照射を受け、街全体がハイライトに彩られている。
情報本部の仕事は、画像、通信、地理情報を収集、分析し。各機関と連携しながら、我が国の脅威となる、軍事情勢、国際情勢の動向を分析するのが任務である。しかし、そう言う事が全く役に立たない相手に対して、立花は酷く無力さを感じていた。
ボイジャー1号を破壊した何者かが、小惑星を操っているのだとすると、人類の科学力など最低でも数百年、数千年は遅れている筈だ。その様な脅威に、日本や世界を守る事が出来るだろうか。
窓の外に視線を移すと、先ほどより日が傾いて来たが、それでも東京特有の、体全体を包み込む不快な暑さが容易に想像できる。
時計を見ると1715時。あと15分で課業終了の国旗降下のラッパが流れる時間だった。
コンコン
「どうぞ」
「立花陸将。柳川3佐がお見えです」
「分かった。通してくれ」
「失礼します。部長、通話記録の件ですが‥‥‥」
柳川 和夫3等陸佐は、立花の下で勤務して2年近くなる。今年で45歳になる彼は、身長180㎝、太い上腕は戦闘服の上からでも鍛えられているのが分かる。防衛大を卒業、幹部レンジャー課程を修了し、機甲科隊員として第15即応機動連隊 第2機動戦闘車中隊長、第一師団隷下の第一偵察戦闘大隊、偵察中隊長を歴任し、現在は情報本部統合情報部に所属。外国の軍隊に関する情報を収集するのが主任務である。(但し、具体的な部署などは、防衛秘密に抵触するため記載する事は出来ない)
「何か分かったかね?」
「それが、キャリアの通信記録には何もなかったのです。確かに、一週間まえに非通知の通話が1件ありました。ある基地局を経由して部長のスマートフォンに通話した形跡は有るのですが、通信元の情報が一切記録されていませんでした」
柳川3佐は、詳細な通話記録を立花に手渡すと、下士官の様にピシッと休めの姿勢をとっていた。制服の胸元には色とりどりの防衛記念章とレンジャー徽章が光っている。
「どういう事だ?」
「それが、技術陸曹も技官も、キャリア側のエンジニアも理解できないそうです。通話元のMACアドレスや、GPS情報などの情報が全く記録されていませんでした。誰かが、固定電話を持って基地局によじ登り、有線で接続して通話した様だと‥‥‥しかし、そんな事は不可能ですよ」
立花は思いもしない調査結果に、顎を撫でながら天井を仰ぎ見た。
「キャリアのサーバーにクラックして改竄した可能性は?」
「可能性としてはありますが、そう言った形跡もなったようです。もし有ったとしても、このように鮮やかにクラッキング出来る組織は、政府や軍が絡んでいるかもしれませんね」
「そうか、ありがとう。(あの老人は何者なんだ?)」
「それと、精鋭についてはピックアップして手配しているところです。立花陸将‥‥‥。どういう事でしょうか?何があったのんです?」
柳川3佐は最も信頼できる部下の一人だった。彼なら、臨機応変に、どのような場面でも対処できるだろう。
「柳川3佐、君にだけは話しておこう。今回の件はG7の政府、軍などが絡んでいる。それにこれは総理直々に受けた命令だ」
「!!G7‥‥‥総理大臣ですか‥‥‥!?」
柳川3佐は防大含め20年以上自衛隊で勤務しているが、1個班規模の部隊を準備し、それが総理大臣からの直接の命令なんて聞いた事が無かった。他国からの侵略か、大規模なテロの発生が予測されているのかと考えたが、我々情報本部が何も察知していない事は考えられない。という事は、想像以上の事柄が我が国の安全を脅かしているのだろうか?しかし、今のところは何も思いつかなかった。
「そうだ。一か月前‥‥‥」
立花はボイジャー1号が消息を絶った経緯、そして巨大小惑星が地球に接近している事、それから、謎の老人からの電話の件を柳川に説明した。いつも、冷静な柳川も流石に超自然的な天体の発見と、立花に掛かって来た電話の件を聞いて、明らかに狼狽えているのが分かった。それは、無理もない事だろう。まるで、映画のように荒唐無稽な話だ。
「この件は最優先事項で、上位の防衛秘密に指定される。指示があるまで、私と君だけの秘密だ。それと、集めた隊員は情報本部 統合情報部付に転属扱いになる筈だ。その班を君に指揮してもらいたい。今後どのような事が起きるか予想が付かない。班を組織するのはその為の保険だ。先ずは、電話の老人を探す事に集中してくれ。頼めるかな?」
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