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第327話 筋金入りの鍋奉行
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「おお! 美味いな」
ユキが満面の笑みで、うどんをほおばる。
「これに卵と天かす入れたら、どんな感じになるんでしょうね」
佐野が提案する。酔っ払いにありがちな、実に適当な思いつきである。
「うん。いいな、それ。店員さんに頼もうぜ。けどよ、もしこれがAとの食事だったら、テーブルの下から思いっきり蹴られてるぞ」
ユキも酒が回っているので、ご機嫌かつ、饒舌だ。
「わあ、怖い。もしかして、鍋奉行とか?」
佐野も酔っているので遠慮がない。
「そうさ。しかも筋金入りだ。食べる順番とか、薬味とか、すっごくうるせえんだよ。だからこんなふうに煮詰まるまで放置したり、具材があるうちにうどんを投入するなんてありえないんだ。そのうえ、汁が濁るのを異常に嫌って、天かすや卵は絶対に入れないんだよ」
「すごいこだわりようですね。僕、そこに同席してたら蹴られまくりですよ」
「だろうな。で――当時の俺は、常にAの顔色をうかがいながら、上品に食べなきゃならなかったから、ほとんど味がしなかったうえに、ほんの少ししか食べられなかった。本当に、あれは地獄のデートだったなあ」
ユキはそう言って明るく笑い、通りかかった店員へ生卵と天かすを注文するのだった。
ユキが満面の笑みで、うどんをほおばる。
「これに卵と天かす入れたら、どんな感じになるんでしょうね」
佐野が提案する。酔っ払いにありがちな、実に適当な思いつきである。
「うん。いいな、それ。店員さんに頼もうぜ。けどよ、もしこれがAとの食事だったら、テーブルの下から思いっきり蹴られてるぞ」
ユキも酒が回っているので、ご機嫌かつ、饒舌だ。
「わあ、怖い。もしかして、鍋奉行とか?」
佐野も酔っているので遠慮がない。
「そうさ。しかも筋金入りだ。食べる順番とか、薬味とか、すっごくうるせえんだよ。だからこんなふうに煮詰まるまで放置したり、具材があるうちにうどんを投入するなんてありえないんだ。そのうえ、汁が濁るのを異常に嫌って、天かすや卵は絶対に入れないんだよ」
「すごいこだわりようですね。僕、そこに同席してたら蹴られまくりですよ」
「だろうな。で――当時の俺は、常にAの顔色をうかがいながら、上品に食べなきゃならなかったから、ほとんど味がしなかったうえに、ほんの少ししか食べられなかった。本当に、あれは地獄のデートだったなあ」
ユキはそう言って明るく笑い、通りかかった店員へ生卵と天かすを注文するのだった。
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