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第280話 遠くから、さりげなく野次馬

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「取締役って……マジかよ。じゃあ、経理部長は?」
「社長が独断でレイナとその弟の借金を会社の金で肩代わりしたんだ。で、その分をすぐに工面しろと命令されたから、ブチ切れて辞めた」
「うーわー……で、金額は」
「一千万」
「ひいい!」
「それだけじゃないよ。他にもある。弟に経費で高級車を買えだの、レイナにはタクシーチケットを渡せとか」
「……何となく、パトカーと救急車が来た理由がうっすらとわかるような」
「うん。僕もそんな感じ。だから昼休みに、ちらっと見に行こうかなって。もちろん遠くからだけど」
 近くへ寄れば、騒ぎに巻き込まれる危険があるからだ。なので、さりげなく野次馬というやつだ。
「ならば、オレも行こうかな」
「じゃあ、十二時三十分ぐらいに、あの会社の近くで。着いたら連絡するよ」
「了解。オレも着いたら電話する」
 こうして通話は終了し、佐野はスマホを内ポケットへしまった。 
 するとそこで、ユキが佐野の肩をポンと叩く。
 まずい。私用電話が長かったから、これは注意されるぞ。
「電話が長引き、申し訳ございません!」
 佐野は慌ててユキに頭を深く下げる。
「いや、いいんだ。気にするな。で――昼休みと言わず、今行こうぜ」
「え?」
「古山建設の警察沙汰、俺はぜひ見物したい。昼休みなんか待ってたら、騒ぎが終ってしまうからな」
 恐ろしいことを満面の笑みで言う。
「……はい。では」
 資材倉庫のシャッターにいたずら書きをされた恨みは、未だ根深く残っているらしい。

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