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第227話 悪人の一人勝ち

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「かいつまんで言えば、シュレッダー事件をきっかけに、星崎が訪問先の現場事務所で窃盗を繰り返し、そのうえ部下を巻き込んで資材の横流しまで企てていたのが一気に明るみに出たと。そして、横流しの背後にはレイナを筆頭とする怪しげな連中がいる――ということでしょうか」
 佐野はユキへ改めて確認する。
「そうだ。俺もケイにこの件について伝えたいのはやまやまだったが、盗難にしろ、横流しにしろ、これといった証拠もなく、不確定な部分もかなりあるから、あえて言わなかったんだ。それに、どっちみちケイを呼び寄せるつもりでいたので、これらに関して俺は静観を決め込んでいたんだ。この件は、下手にあちこちへ口外したら、さらに話がこじれるだけだと思ってな」
「確かにそうかもしれません」
 ユキの言っていることは正論だ。星崎による窃盗の確固たる証拠は掴めていないし、横流しの話も他社からの伝え聞きでしかないからだ。
「でも考えてみたら、ケイの後輩が犯罪に巻き込まれそうになっていたんだよな。しかも殴られてもいる。やはりちゃんとケイに伝えるべきだった……すまない」
 申し訳なさそうにユキは頭を下げる。
「いいえ、いいんです。どうか気になさらないでください。田上課長の判断は正しいです。なぜなら、たとえ僕の耳にそれらのことが入っても、どうにもならないからです。その問題を仮に僕が社内で提議しても、証拠がないからと、社長には黙殺されるし、あとから星崎にボコボコに殴られるだけですから」
 とはいえ、自分の知らないところでとんでもないことが起きていたのだ。何も知らなかった自分に腹が立つのと同時に、元勤務先に対しても心底うんざりする。
 けれど今となってはどうにもならない。殴られた後輩の行く末も心配だが、決定的な証拠がないから手も足も出ない。
 これでは悪人の一人勝ちではないか――
 佐野は歯がゆく思う。



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