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第166話 不愉快な着信画面

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 八時。撤収作業が終わった。
 窓から差し込む冬の日差しがタイル張りの床に降り注ぎ、白く反射している。
「佐野さん、お疲れさん。もう帰って大丈夫だ。家に帰ってひとまず寝ろ。田上には私から連絡しておくから、現場事務所へ行くのは明日でいいぞ」
 現場責任者が、くたびれ果てた顔で言う。
「はい。ありがとうございます。それではお先に失礼します」
 佐野は深々と頭を下げ、次に技術者達へも大きな声で愛想良く挨拶した。
 もう彼らとは、会うこともあるまい――
 佐野は寂しさと名残惜しさを胸に駐車場へと向かった。

 車の中で少しばかり仮眠をしてから家路につこうと思っていたが、意外にも工事が終わった達成感と、今後の不安で目が冴えてしまった。
 けれどユキと現場責任者のはからいで、会社へは行かなくていいし、今日一日の休みももらっている。
「ならばコンビニで今日と明日の朝の食料を買い込んで、ずっとベッドの中で寝て過ごそう」
 佐野は車のエンジンを回し、テナントビルの駐車場から出た。
 
 都心の幹線道路はすっかり平常通りに戻り、混雑している。今日からほとんどの会社が営業を再開するせいだ。
「きっと今頃、うちの社長は社員を前にして、偉そうに訓示を垂れているのだろうな」
 佐野は鼻を鳴らして、ぼそりとつぶやく。 元旦にユキとの通話バトルでその本性を知り、さらに「ワンプッシュ敗走」をやらかしたことで、今や佐野の中では社長は星崎と同類であった。
「もしかしたら、レイナも来てるんじゃないか。社長の秘書兼、星崎の補佐として」
 そう考えると、ますます会社へは行きたくなくなる。
「このままずっと、現場事務所と部屋の往復だけだったら最高なんだけどな」
 絶対に叶うはずのない願望を頭の端で考えているうちに、車はコンビニへ到着した。
 するとその時、内ポケットの中のスマホが鳴る。
「ユキかもしれない!」
 期待に胸を膨らませ、車を駐車場に停めてから急いでスマホを取り出す。
 しかし着信画面を見た途端、佐野の表情は露骨に曇る。発信者が会社だったからだ。 

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