13 / 13
少女期① 神殿編。
5
しおりを挟む
「……ふぅん、わかった」
だらしなく椅子から投げ出した足をぶらぶたさせてそう短く答えたスカーレットに、リリアは何故か信じられないものを見たかのような目を向けてきた。
(……そっちが言ってきたくせに)
突然スカーレットに神殿の移籍を伝えてきたのはリリアの方だ。
スカーレットはそれに素直に応じただけ。
なのにあり得ないものを見たと言いたげなリリアの顔はなかなかに心外である。
「……いいのですか?」
「いいも何も」
ヨイショっとスカーレットは椅子から勢いを付けて立ち上がった。
「すでに決定事項なんでしょ?」
スカーレットに告げられたということはそういうことだ。
スカーレットは緋の神殿の中では一番魔力が多いし取り扱いも上手い。
だから本来なら見習いの身分なのにも関わらず祭祀を執り行っている。けれども身分は所詮見習いのままで平民の小娘だ。
神殿の人事に口など挟めるはずもない。
「それは、そうなのですが」
リリアはまだ不服そうだ。
何だ。文句を付けてもらいたかったのか。
「あのねぇ、私だって雇われてる身でお上にそうそう逆らったりしないって」
神殿は雇い主。
スカーレットの神殿に対する認識は雇用主である。神殿側は保護と言っているが、実際タダ飯食べさせてもらってるし、寝る場所も与えてもらっている。掃除や朝晩の祈りを執り行う代わりに少なからずお給金ももらっている。
衣食住が整えられている環境な分もらった給金は実家に仕送りが出来ている。
始まりこそ誘拐まがいではあったけれど、スカーレットの中ではすでに出稼ぎ気分になって久しい。
そして雇われている立場である以上、それなりに上の命令には従順である。
(……エロオヤジの夜伽をしろってわけでもないしねぇ)
神殿を移動するというだけの話であれば、特に逆らう理由もない。
問題があるとすればその場所くらい。
が、いくら王都の本神殿に移動したからといって、たかが少々魔力が多い程度の使徒候補がそう身分の高いはずの過去の知り合いと顔を合わすはずもない。
「やることはここと対して変わんないんでしょ?だったら別にいいよ」
どうせゴネても無駄だし。
と、スカーレットはしごくアッサリと移動を了承して、そのわずか4日後王都に着くや否や後悔することになる。
だらしなく椅子から投げ出した足をぶらぶたさせてそう短く答えたスカーレットに、リリアは何故か信じられないものを見たかのような目を向けてきた。
(……そっちが言ってきたくせに)
突然スカーレットに神殿の移籍を伝えてきたのはリリアの方だ。
スカーレットはそれに素直に応じただけ。
なのにあり得ないものを見たと言いたげなリリアの顔はなかなかに心外である。
「……いいのですか?」
「いいも何も」
ヨイショっとスカーレットは椅子から勢いを付けて立ち上がった。
「すでに決定事項なんでしょ?」
スカーレットに告げられたということはそういうことだ。
スカーレットは緋の神殿の中では一番魔力が多いし取り扱いも上手い。
だから本来なら見習いの身分なのにも関わらず祭祀を執り行っている。けれども身分は所詮見習いのままで平民の小娘だ。
神殿の人事に口など挟めるはずもない。
「それは、そうなのですが」
リリアはまだ不服そうだ。
何だ。文句を付けてもらいたかったのか。
「あのねぇ、私だって雇われてる身でお上にそうそう逆らったりしないって」
神殿は雇い主。
スカーレットの神殿に対する認識は雇用主である。神殿側は保護と言っているが、実際タダ飯食べさせてもらってるし、寝る場所も与えてもらっている。掃除や朝晩の祈りを執り行う代わりに少なからずお給金ももらっている。
衣食住が整えられている環境な分もらった給金は実家に仕送りが出来ている。
始まりこそ誘拐まがいではあったけれど、スカーレットの中ではすでに出稼ぎ気分になって久しい。
そして雇われている立場である以上、それなりに上の命令には従順である。
(……エロオヤジの夜伽をしろってわけでもないしねぇ)
神殿を移動するというだけの話であれば、特に逆らう理由もない。
問題があるとすればその場所くらい。
が、いくら王都の本神殿に移動したからといって、たかが少々魔力が多い程度の使徒候補がそう身分の高いはずの過去の知り合いと顔を合わすはずもない。
「やることはここと対して変わんないんでしょ?だったら別にいいよ」
どうせゴネても無駄だし。
と、スカーレットはしごくアッサリと移動を了承して、そのわずか4日後王都に着くや否や後悔することになる。
0
お気に入りに追加
160
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない
曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが──
「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」
戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。
そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……?
──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。
★小説家になろうさまでも公開中

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。
因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。
そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。
彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。
晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。
それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。
幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。
二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。
カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。
こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

【完結】聖女の手を取り婚約者が消えて二年。私は別の人の妻になっていた。
文月ゆうり
恋愛
レティシアナは姫だ。
父王に一番愛される姫。
ゆえに妬まれることが多く、それを憂いた父王により早くに婚約を結ぶことになった。
優しく、頼れる婚約者はレティシアナの英雄だ。
しかし、彼は居なくなった。
聖女と呼ばれる少女と一緒に、行方を眩ませたのだ。
そして、二年後。
レティシアナは、大国の王の妻となっていた。
※主人公は、戦えるような存在ではありません。戦えて、強い主人公が好きな方には合わない可能性があります。
小説家になろうにも投稿しています。
エールありがとうございます!

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる