脳筋令嬢は三度目の恋をする。

黒田悠月

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少女期① 神殿編。

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「……ふぅん、わかった」

 だらしなく椅子から投げ出した足をぶらぶたさせてそう短く答えたスカーレットに、リリアは何故か信じられないものを見たかのような目を向けてきた。

(……そっちが言ってきたくせに)

 突然スカーレットに神殿の移籍を伝えてきたのはリリアの方だ。
 スカーレットはそれに素直に応じただけ。
 なのにあり得ないものを見たと言いたげなリリアの顔はなかなかに心外である。

「……いいのですか?」
「いいも何も」

 ヨイショっとスカーレットは椅子から勢いを付けて立ち上がった。

「すでに決定事項なんでしょ?」

 スカーレットに告げられたということはそういうことだ。
 スカーレットは緋の神殿の中では一番魔力が多いし取り扱いも上手い。
 だから本来なら見習いの身分なのにも関わらず祭祀を執り行っている。けれども身分は所詮見習いのままで平民の小娘だ。
 神殿の人事に口など挟めるはずもない。

「それは、そうなのですが」

 リリアはまだ不服そうだ。
 何だ。文句を付けてもらいたかったのか。

「あのねぇ、私だって雇われてる身でお上にそうそう逆らったりしないって」

 神殿は雇い主。
 スカーレットの神殿に対する認識は雇用主である。神殿側は保護と言っているが、実際タダ飯食べさせてもらってるし、寝る場所も与えてもらっている。掃除や朝晩の祈りを執り行う代わりに少なからずお給金ももらっている。
 衣食住が整えられている環境な分もらった給金は実家に仕送りが出来ている。
 始まりこそ誘拐まがいではあったけれど、スカーレットの中ではすでに出稼ぎ気分になって久しい。
 そして雇われている立場である以上、それなりに上の命令には従順である。

(……エロオヤジの夜伽をしろってわけでもないしねぇ)

 神殿を移動するというだけの話であれば、特に逆らう理由もない。
 問題があるとすればその場所くらい。
 が、いくら王都の本神殿に移動したからといって、たかが少々魔力が多い程度の使徒候補がそう身分の高いはずの過去の知り合いと顔を合わすはずもない。

「やることはここと対して変わんないんでしょ?だったら別にいいよ」

 どうせゴネても無駄だし。
 と、スカーレットはしごくアッサリと移動を了承して、そのわずか4日後王都に着くや否や後悔することになる。


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