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少女期① 神殿編。
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神話がある。
その昔。
空のはるか上に一匹の龍がいた。
龍は気紛れで地上に降りては雨を降らし嵐を呼び巨大な身体をくねらせ尾で地を打ち鳴らし、地震を起こした。
龍にしてみればただの気紛れ。
だが地上に生きる者にとっては、それはまさしく天災であった。
ある時一人の男が立ち上がった。
その時の龍の気紛れは長く、短い寿命の人にしてみれば永劫にも感じられる時間であった。
男は自身の時間すべてと引き換えに仲間を集め、旅をし、神域へと至り、神へと祈った。
祈りを終えた時、男の生は終わった。
神は男の祈りを聞き遂げ、死した男の代わりにその仲間と男の子供たちに力を与えた。
男の五人の仲間には長い寿命と後に魔力と呼ばれる力を。
男の一人の娘、二人の息子には長い寿命と魔力、それに特別な加護を。
男の子供たちと仲間は長い時をかけ龍を地の底に封じた。
そうして封印を施した龍の頭、胴、尾の部分にあたる地にそれぞれ国を造った。
龍の頭にアフタリスタ。
龍の胴にカルデガフト。
龍の尾にラフスルーナ。
アフタリスタとカルデガフトには男の二人の息子たちが。
ラフスルーナには男の娘が。
それぞれ王としてたち、男の仲間たちはそれぞれの国に別れ子供たちを支えた。
「その子供の人の子供がこの国の王様なの?」
藍色の髪を頭のてっぺんで団子にした女の子が首を傾げながら問うのに、教壇に立ったリリアはニッコリと笑う。
「そうですよ。今の王様はちょうど10代目ですね。この国の王族はすべて男-ー始父様の子孫になります。そうしてお仲間の子孫が貴族ということになります。あなたたちも血は薄いですが魔力がある以上どこかで貴族の血が混じっているはずです。ずっと昔に混じった血の中の魔力が隔世遺伝として表れているのです」
「かくせいいでん?」
一番年下らしい小さな丸顔の男の子の顔には疑問符が浮かんで見える。もちろん実際に浮かんでいるのではなくそれらしい表情というだけだが。
「隔世遺伝というのはですね。世代を跨いで特徴や力が遺伝するということです」
真面目くさってリリアが答えるのに、スカーレットは頭の中で「わかるかっ!」ツッコミを入れた。
案の定先の男の子だけでなく教室中の子供たちの顔に疑問符が浮かんでいる。
「あー、あんたは目が青いだろう?」
仕方ない、とスカーレットは声を挟んだ。
「うん」
「でもあんたのお母さんとお父さんも目が青くないとする」
「お父さんも青いよ!」
「いいから聞け。青くないとする。で、あんたのお父さんのおじいちゃんのお父さんが青い目をしていた」
「うん?」
「そうするとあんたの目の色はおじいちゃんのお父さんから受け継いだものってことになる」
「受けつい?」
「あー、もらったってことだ」
まったく子供の相手は疲れる。
「つまりあんたのおじいちゃんのおじいちゃんだかそのまたおばあちゃんだとかが貴族で魔力持ちだった。で、その魔力をあんたがもらったってこと」
「よくわかんない」
「だろうな。その内わかるよ」
あっさり匙を投げて机の上に足を投げ出した。
とはいえリリアの説明よりはマシだったはずだと思う。
リリアは教師役は止めといた方がいい。
子供たちへの教師役は大人の神官たちが交代で行っている。
今日のスカーレットはお勤めをサボって時間を遅らせた罰でリリアの助手である。
「うおっほん!おっほん!」
わざとらしくリリアが咳払いした。
「神話のお話はここまでにしましょう。次は字の練習をしましょうね。みんなは石板を出してね。スカーレットは足を下ろして」
「「「「「はーい!」」」」」
子供たちが元気良く返事をする。
スカーレットは返事の代わりに投げ出した足を下ろして組み直した。
「みんなはわたしが黒板に書いた文字を真似して書いて下さい。スカーレットはみんなが上手に書けてるか見て回って下さい。さっ、スカーレットちゃんと仕事して!」
後半のセリフにはほんのり苛立ちだか怒りだかが滲み出ている。
スカーレットは「ふぁ」と欠伸をすると、
「動くの面倒。できたら持ってきな」
椅子の背もたれに体重を預けて、天井を仰ぎ見た。
-ーこんなとこで子供の相手とか、今世は平和だな。自分もどちらかというとまだ子供の範疇だけど。あれ?そもそも2つしか年も違わねーし。二人ほどは同じ年か。
なんてことを思いながら。
スカーレットは忘れていた。
こういう時こそ厄介事を呼び込んでしまう質が自分にあることを。
別に呼んでいるつもりはないのだが、何故か厄介事という鴨が面倒というネギを背負ってやってくるのだ。有り難くない。
ギシリ、と背もたれが音を立てる。
何気なく窓の外を仰ぎ見ると、晴天の空が広がっていた。
その昔。
空のはるか上に一匹の龍がいた。
龍は気紛れで地上に降りては雨を降らし嵐を呼び巨大な身体をくねらせ尾で地を打ち鳴らし、地震を起こした。
龍にしてみればただの気紛れ。
だが地上に生きる者にとっては、それはまさしく天災であった。
ある時一人の男が立ち上がった。
その時の龍の気紛れは長く、短い寿命の人にしてみれば永劫にも感じられる時間であった。
男は自身の時間すべてと引き換えに仲間を集め、旅をし、神域へと至り、神へと祈った。
祈りを終えた時、男の生は終わった。
神は男の祈りを聞き遂げ、死した男の代わりにその仲間と男の子供たちに力を与えた。
男の五人の仲間には長い寿命と後に魔力と呼ばれる力を。
男の一人の娘、二人の息子には長い寿命と魔力、それに特別な加護を。
男の子供たちと仲間は長い時をかけ龍を地の底に封じた。
そうして封印を施した龍の頭、胴、尾の部分にあたる地にそれぞれ国を造った。
龍の頭にアフタリスタ。
龍の胴にカルデガフト。
龍の尾にラフスルーナ。
アフタリスタとカルデガフトには男の二人の息子たちが。
ラフスルーナには男の娘が。
それぞれ王としてたち、男の仲間たちはそれぞれの国に別れ子供たちを支えた。
「その子供の人の子供がこの国の王様なの?」
藍色の髪を頭のてっぺんで団子にした女の子が首を傾げながら問うのに、教壇に立ったリリアはニッコリと笑う。
「そうですよ。今の王様はちょうど10代目ですね。この国の王族はすべて男-ー始父様の子孫になります。そうしてお仲間の子孫が貴族ということになります。あなたたちも血は薄いですが魔力がある以上どこかで貴族の血が混じっているはずです。ずっと昔に混じった血の中の魔力が隔世遺伝として表れているのです」
「かくせいいでん?」
一番年下らしい小さな丸顔の男の子の顔には疑問符が浮かんで見える。もちろん実際に浮かんでいるのではなくそれらしい表情というだけだが。
「隔世遺伝というのはですね。世代を跨いで特徴や力が遺伝するということです」
真面目くさってリリアが答えるのに、スカーレットは頭の中で「わかるかっ!」ツッコミを入れた。
案の定先の男の子だけでなく教室中の子供たちの顔に疑問符が浮かんでいる。
「あー、あんたは目が青いだろう?」
仕方ない、とスカーレットは声を挟んだ。
「うん」
「でもあんたのお母さんとお父さんも目が青くないとする」
「お父さんも青いよ!」
「いいから聞け。青くないとする。で、あんたのお父さんのおじいちゃんのお父さんが青い目をしていた」
「うん?」
「そうするとあんたの目の色はおじいちゃんのお父さんから受け継いだものってことになる」
「受けつい?」
「あー、もらったってことだ」
まったく子供の相手は疲れる。
「つまりあんたのおじいちゃんのおじいちゃんだかそのまたおばあちゃんだとかが貴族で魔力持ちだった。で、その魔力をあんたがもらったってこと」
「よくわかんない」
「だろうな。その内わかるよ」
あっさり匙を投げて机の上に足を投げ出した。
とはいえリリアの説明よりはマシだったはずだと思う。
リリアは教師役は止めといた方がいい。
子供たちへの教師役は大人の神官たちが交代で行っている。
今日のスカーレットはお勤めをサボって時間を遅らせた罰でリリアの助手である。
「うおっほん!おっほん!」
わざとらしくリリアが咳払いした。
「神話のお話はここまでにしましょう。次は字の練習をしましょうね。みんなは石板を出してね。スカーレットは足を下ろして」
「「「「「はーい!」」」」」
子供たちが元気良く返事をする。
スカーレットは返事の代わりに投げ出した足を下ろして組み直した。
「みんなはわたしが黒板に書いた文字を真似して書いて下さい。スカーレットはみんなが上手に書けてるか見て回って下さい。さっ、スカーレットちゃんと仕事して!」
後半のセリフにはほんのり苛立ちだか怒りだかが滲み出ている。
スカーレットは「ふぁ」と欠伸をすると、
「動くの面倒。できたら持ってきな」
椅子の背もたれに体重を預けて、天井を仰ぎ見た。
-ーこんなとこで子供の相手とか、今世は平和だな。自分もどちらかというとまだ子供の範疇だけど。あれ?そもそも2つしか年も違わねーし。二人ほどは同じ年か。
なんてことを思いながら。
スカーレットは忘れていた。
こういう時こそ厄介事を呼び込んでしまう質が自分にあることを。
別に呼んでいるつもりはないのだが、何故か厄介事という鴨が面倒というネギを背負ってやってくるのだ。有り難くない。
ギシリ、と背もたれが音を立てる。
何気なく窓の外を仰ぎ見ると、晴天の空が広がっていた。
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