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「お兄お腹空いてるの?」
「う~ん、だな」

 ぐるぐる鳴り続ける腹の虫に、カティは窓の外から視線を外して座席に座り直した。
 アイテムボックスの中にパンが残っていたはずだと、あさってみる。

「・・・食堂車があるからそっちで食べましょうよ。スープ辺りのお腹に優しいものにしといた方がいいわ」

 リリスが立ち上がってドアに向かう。

「フラウも食べるです」
「クリスもー!」
「フモー!」
「テディ連れて行って大丈夫か?」
「平気よ。この列車にはコロシアムに向かうテイマーが多いもの。他にも連れている人見かけたから」
「フモ、フモー」
「じゃ、大丈夫か」

 皆連れ立って廊下に出る。
 狭い廊下を抜けるとまた同じような個室のドアが並ぶ車両が続いていた。
 魔導列車は高価だと聞いているので、その分座席はすべて個室なのかも知れない。
 内装も飴色の壁やドアはよく磨かれて光沢があった。

 二両分の廊下を抜けて、赤い飾りの付いたドアを開ける。
 ドアの奥は小さなレストランだった。

 両の窓際にはカウンター席が設けられ、中央には円形のテーブルが四つ並ぶ。
 まだ込み合うのには早い時間なのか、カウンター席は半分ほど。
 テーブル席は三つが空いている。
 カティはテーブル席がいいかとリリスに続いて中に入ろうとして、止まった。
 先にいるリリスが立ち止まったためだ。

「リリス?」

 カティがどうしたのかと名を口にするのと一番奥のテーブル席に着いていた三人組の一人、二十代前半の女性が「あら?」と声を上げたのはほぼ同時だった。

「リリスじゃないの。貴女またコロシアムに挑戦する気?」

 ずいぶんと挑発的な態度。
 美人ではあるけどまたキツそうな女性だ。
 長い紫のロングヘアー。
 毛先だけを巻き髪にしている。
 着ているのはチャイナドレスに似たビロードの藍のドレス。
 スリットは片側にだけ、太ももの半ばまで入っている。

「もちろんよ、貴女こそ今年も出るのね」
「当然だわ。私は誰かさんと違って本選常連ですから」
「そうね。いつも本選には出るのよね」 

 ボソッと「一回戦だけはね」と口の中で言うのがすぐ後ろにいたカティには聞こえてしまった。

「カリナ、リリスっていうとあの?」
「ええ、あのリリスよ。リリス、こっちは私のパートナーのマルコ。彼自身も優秀なテイマーなんだけど、今は私のトレーナーをしてもらってるの。それから彼らは私がリーダーを務めるパーティの仲間でオズとシルク」

 カリナと同じテーブルに着いた三人がそれぞれ頭を下げる。
 禿げの大男がマルコ、魔導師風のフードをすっぽりと被った小男がオズ。
 背の高い短髪の三十代くらいの女性がシルクらしい。

「そちらは?もしかしてリリスのお仲間なのかしら?」
「ええ、そうよ」

 リリスが答えた途端、カリナは笑い声を上げた。

「ずいぶん頼りになりそうなお仲間ね。坊やにお嬢ちゃんたち二人。それにテディベア?まさかそのテディベアを試合に出すつもりじゃあないでしょうね?」

「ま、お似合いだけど」とカリナは声を上げ続ける。

「いいえ、試合には別の従魔を出すつもりよ」
「そう。せいぜい頑張って。今年こそ本選出場できるといいわね」
「ええ、貴女と当たるのを楽しみにしてる」
「ごめんなさい。それは多分ムリよ。私コロシアムの前にギルドの昇格試験を受けるつもりなの。S級に上がる予定だから、予選は免除されるのよね」
「あら大丈夫よ、私も本選出場するから」
「それって前にも聞いた覚えがあるけど?」

(・・・怖い)
『ああ、女の口喧嘩って怖いよなー』

「リリちゃんフラウお腹が空いたです」

 ひょこっとカティの後ろから顔を出したフラウに、「あら、ごめんなさいね」とカリナは笑いながら言うと、カティたちに背を向けて席に座り直した。

「座りましょうか」
「・・・え?ああ」

 ここに?と思いながらもカティは促されるままカリナたちのテーブルの隣に腰を下ろした。

(ぜったい味とかもうわからない気がする)

「ごはんー!」
「ごはんですー」

 無邪気な幼女二人がうらやましい。
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