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チートは案外取り扱いが難しい。
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そぅっと見た目と比べて軽い扉を僅かに開けて、外を覗く。
薄暗い石壁の通路の向こう。
そこには猿に似た魔物がいた。
異様に長い手足に遠目にもわかる伸びた爪。
ミニマムモンキーと呼ばれる魔物だ。
どうみても軽く二メートルは越えているのにどこがミニマムなのよ、と突っ込みたくなるが、ミニマムモンキーがいるフロアには群れのボスであるビッグモンキーがいるので、それと比べてミニマムということなのだろう。
ダンジョン内の魔物はあまり群れることがないのだけれど一部の知能がすこーしある猿系やゴブリンなどの魔物はだいたい数十程度の群れを作る。
アリやネズミなんかの小型の魔物は知能というより本能的なものでか、たまにとんでもない数の群れを作るともいうけど。
「ええと、ミニマムモンキーはだいたい適切レベル30前後だから……」
端から見ればブツブツ一人で独り言を言う幼女。
だけれど滑舌の悪さを解消するためと一人きりという心細さを誤魔化すため、私はできるだけ考えを口に出すことにしている。
誰も見ていないことだし。
「ダンジョンの適正レベルはだいたい35といったところね」
それも群れを相手にする可能性大なことを鑑みればソロなら上位職で。
ユグドラシルオンラインは下位職から最上位職までありゲームでの『リーナ』は上位職のスナイパーでレベル68。
本来なら余裕でソロ踏破できるレベル。
レベルがそのままであれば。
私はまたそぅっと扉を閉めて、はあ、と息を吐いた。ぺたん、と狐の尻尾が下を向く。
ダンジョン内では時間の経過がわかりにくい。
ゲームのユグドラシルでは二時間に一度鐘の音が響き、それが三度つまりログインして六時間が経てばその後十分以内で強制的にアバターが寝落ち、ログアウトさせられる。その後二時間はログイン不可になるし、戦闘中に寝落ちしてしまった時にはアバターは意識のないまましばらくその場に放置されるわけで……。
当然ゲームオーバー。
ログイン開始時の位地に戻りデスペナルティーとしてログインしていた間の経験値全消去、ランダムでのアイテム消去、所持金の30%そのいずれかが適応される。
経験値なら多少時間と苦労がムダになるだけで済むし、所持金も痛いけどまだマシ。
一番厄介なのがランダムでのアイテム消去で、本当にランダムだからポーションの瓶一つで済む時もあれば伝説級の激レアアイテムが消去されてしまうこともある。
なのでプレイヤーは皆三度目の鐘を聞くと慌ててログアウトしていたものだ。
「もう三回聞いたけどねー」
二時間ごとに鐘が鳴るのはこの世界でも同じらしい。ただしログアウトはされなかった。
当たり前か。
私にとってはこの世界こそがリアルなのだから。
二時間ごとというのもゲームではログインした時間を起点として個人差があり、鐘の音もその人にしか聞こえない。
だけどここでの鐘はこの世界の標準時間を軸として二時間ごとダンジョン全体に響いているように聞こえる。私がここに来てわりとすぐに一度鳴っていたもの。
おかげで私がここに転移してから最低四時間以上、おそらくは五時間弱が経っているということがわかって助かるといえば助かるのだけれど。
これだと一度眠ってしまえばその間の経過時間はわからないわよね?
数日程度ならともかくそれ以上になると、この時間の曖昧さは精神的に辛いものがある。
「やっぱりできるだけ早くここを出ないと……」
曖昧な時間経過、他に人のいない一人だけの世界、変わらない景色、狭い空間。
この状態でどれだけ正気を保てるか。
「『ブック』」
私は口の中で小さくそう呟く。
このおそらく五時間弱と思われる時間、私は発声練習や軽い運動の他に様々な確認や検証を行ってきた。
その中でわかったことの一つ。
ユグドラシルにおけるステータスシートでありインベントリでもある『ブック』を今の私『リーナ』が使えるということ。
手の中に一冊の重厚な皮表紙の本が現れる。
頭の中で思うだけでその本は胸の前にかざした手のひらの上でフワリと宙に浮くと、私が思うページを独りでに開く。同時に目の前に半透明のプレートが現れた。
私はそこに浮かび上がった文字--自身のステータスを見て、もはや何度目かも知れないため息をついた。
薄暗い石壁の通路の向こう。
そこには猿に似た魔物がいた。
異様に長い手足に遠目にもわかる伸びた爪。
ミニマムモンキーと呼ばれる魔物だ。
どうみても軽く二メートルは越えているのにどこがミニマムなのよ、と突っ込みたくなるが、ミニマムモンキーがいるフロアには群れのボスであるビッグモンキーがいるので、それと比べてミニマムということなのだろう。
ダンジョン内の魔物はあまり群れることがないのだけれど一部の知能がすこーしある猿系やゴブリンなどの魔物はだいたい数十程度の群れを作る。
アリやネズミなんかの小型の魔物は知能というより本能的なものでか、たまにとんでもない数の群れを作るともいうけど。
「ええと、ミニマムモンキーはだいたい適切レベル30前後だから……」
端から見ればブツブツ一人で独り言を言う幼女。
だけれど滑舌の悪さを解消するためと一人きりという心細さを誤魔化すため、私はできるだけ考えを口に出すことにしている。
誰も見ていないことだし。
「ダンジョンの適正レベルはだいたい35といったところね」
それも群れを相手にする可能性大なことを鑑みればソロなら上位職で。
ユグドラシルオンラインは下位職から最上位職までありゲームでの『リーナ』は上位職のスナイパーでレベル68。
本来なら余裕でソロ踏破できるレベル。
レベルがそのままであれば。
私はまたそぅっと扉を閉めて、はあ、と息を吐いた。ぺたん、と狐の尻尾が下を向く。
ダンジョン内では時間の経過がわかりにくい。
ゲームのユグドラシルでは二時間に一度鐘の音が響き、それが三度つまりログインして六時間が経てばその後十分以内で強制的にアバターが寝落ち、ログアウトさせられる。その後二時間はログイン不可になるし、戦闘中に寝落ちしてしまった時にはアバターは意識のないまましばらくその場に放置されるわけで……。
当然ゲームオーバー。
ログイン開始時の位地に戻りデスペナルティーとしてログインしていた間の経験値全消去、ランダムでのアイテム消去、所持金の30%そのいずれかが適応される。
経験値なら多少時間と苦労がムダになるだけで済むし、所持金も痛いけどまだマシ。
一番厄介なのがランダムでのアイテム消去で、本当にランダムだからポーションの瓶一つで済む時もあれば伝説級の激レアアイテムが消去されてしまうこともある。
なのでプレイヤーは皆三度目の鐘を聞くと慌ててログアウトしていたものだ。
「もう三回聞いたけどねー」
二時間ごとに鐘が鳴るのはこの世界でも同じらしい。ただしログアウトはされなかった。
当たり前か。
私にとってはこの世界こそがリアルなのだから。
二時間ごとというのもゲームではログインした時間を起点として個人差があり、鐘の音もその人にしか聞こえない。
だけどここでの鐘はこの世界の標準時間を軸として二時間ごとダンジョン全体に響いているように聞こえる。私がここに来てわりとすぐに一度鳴っていたもの。
おかげで私がここに転移してから最低四時間以上、おそらくは五時間弱が経っているということがわかって助かるといえば助かるのだけれど。
これだと一度眠ってしまえばその間の経過時間はわからないわよね?
数日程度ならともかくそれ以上になると、この時間の曖昧さは精神的に辛いものがある。
「やっぱりできるだけ早くここを出ないと……」
曖昧な時間経過、他に人のいない一人だけの世界、変わらない景色、狭い空間。
この状態でどれだけ正気を保てるか。
「『ブック』」
私は口の中で小さくそう呟く。
このおそらく五時間弱と思われる時間、私は発声練習や軽い運動の他に様々な確認や検証を行ってきた。
その中でわかったことの一つ。
ユグドラシルにおけるステータスシートでありインベントリでもある『ブック』を今の私『リーナ』が使えるということ。
手の中に一冊の重厚な皮表紙の本が現れる。
頭の中で思うだけでその本は胸の前にかざした手のひらの上でフワリと宙に浮くと、私が思うページを独りでに開く。同時に目の前に半透明のプレートが現れた。
私はそこに浮かび上がった文字--自身のステータスを見て、もはや何度目かも知れないため息をついた。
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