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婚約破棄ですか、喜んで。
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私、リディア・フランデルと彼、カール・グローデルが初めて会ったのは私の兄クラークの8才の誕生日。
伯爵家の令嬢で五才の私と、同じく伯爵家の令息で六才だったカールはその頃からすでに両家の中では婚約者候補だった。
幼い二人を兄の誕生日の祝いにかこつけて会わせてみて、まずは様子見というつもりであったようだ。
その頃にはすでに前世の記憶を思い出していた私は、五才にしては大人びて落ち着いた美幼女だった。いかんせん自分のことはろくに覚えていないのでいくつで死んだのか定かではないが、覚えている知識からして、大人であったことは確か。
中身が大人なのだから、子供であっても大人びていて当然だし、そりゃあ同世代の子供と比べたら落ち着いていた。
少しばかり落ち着き過ぎているくらいであったろうと思う。
身体つきは五才にしても少し小さかったけれど、柔らかく肩の下でくるんと内巻きにカールした銀髪といい、大きなスミレ色の瞳といい、ぷっくらとした桃色の唇といい将来的に確実に美人となる要素を五才ながら兼ね備えていた。
自分で言うのは何だけど、本当に可愛らしかった。
こっそり鏡を覗いてはほくそ笑んでたもの、私。
カールはといえばこれまた可愛らしかった。
今でも可愛い系のイケメンにギリ入るところだけれど、その頃のカールはまだ本当に幼気な子供っていうか、いいとこのお坊ちゃん風で、……うん、あの頃は可愛かったよね。
何よりもまだマトモだった。
いや、本人も周りも子供だったからね。
だから誰も気づかなかった。
本人でさえも気づいていなかったのではないだろうか。
自分の趣味、というか性癖に。
ただよくよく思い出せば、すでにあの頃から片鱗はあったようにも思う。
私は初めて会ったカールをいかにも貴族の坊ちゃま!さすが異世界!と思ったし、一生懸命拙い挨拶をして庭の花壇から摘んだ花束を差し出された時は素直に嬉しいと思った。
初対面の様子は悪くない。
両家の親たちはそう結論づけたようで、それから何度か両家で交流をして、私が六才になってすぐに私とカールは婚約者になった。
カールは自分よりも小さい子が好きらしくて、母たちのお茶会についてくる子供たちの面倒をよくみていた。
私はその様子を眺めながら「ちっちゃい子に優しくできるのは高得点だよねー」と呑気に評価していた。ちゃんと見ていれば、カールが優しくしているのが女の子限定だというのは気づいただろうけど。
かといってそれですぐに少しばかり特殊な趣味であるとはさすがに私も思わない。
頭の片隅に疑惑が浮かび上がってきたのは、10才を半ばも過ぎた頃。
ちょうどその頃、私はある意味運命的な出会いをした。
正確に言うならば、私はまったくこれっぽっちも運命を感じてなどいない。
けれど相手の方は私を運命の相手だと言った。
そうして街角で10才の子供相手にいきなりプロポーズをした。
「私の一生をかけてあなたを研究したい」
怖かった。
これがプロポーズだったなんて聞いた時には思わなかったもの。
変なのに会った。そう怯えつつ侍女に連れられて家に帰った私に父が「正式な結婚の申し込みがあったが婚約者がいるから断ったよ」と教えてくれた。
怯える私に、カールは「僕が守るよ」と言ってくれた。
嬉しかった。
正直胸がキュンとしてしまったのを覚えている。
「僕が守る」なんてちょっと王子様っぽい。
なーんて、感動してしまったほどだ。
あの頃の私はカールに恋をしていた。
だからカールに見合う女性になろうと厳しい淑女教育も頑張っていたし、ちょっぴり大人ぶって背伸びした服装やお化粧をしてみたり。
結果として、私のその努力が、私とカールの関係を壊すのをより早めることとなった。
伯爵家の令嬢で五才の私と、同じく伯爵家の令息で六才だったカールはその頃からすでに両家の中では婚約者候補だった。
幼い二人を兄の誕生日の祝いにかこつけて会わせてみて、まずは様子見というつもりであったようだ。
その頃にはすでに前世の記憶を思い出していた私は、五才にしては大人びて落ち着いた美幼女だった。いかんせん自分のことはろくに覚えていないのでいくつで死んだのか定かではないが、覚えている知識からして、大人であったことは確か。
中身が大人なのだから、子供であっても大人びていて当然だし、そりゃあ同世代の子供と比べたら落ち着いていた。
少しばかり落ち着き過ぎているくらいであったろうと思う。
身体つきは五才にしても少し小さかったけれど、柔らかく肩の下でくるんと内巻きにカールした銀髪といい、大きなスミレ色の瞳といい、ぷっくらとした桃色の唇といい将来的に確実に美人となる要素を五才ながら兼ね備えていた。
自分で言うのは何だけど、本当に可愛らしかった。
こっそり鏡を覗いてはほくそ笑んでたもの、私。
カールはといえばこれまた可愛らしかった。
今でも可愛い系のイケメンにギリ入るところだけれど、その頃のカールはまだ本当に幼気な子供っていうか、いいとこのお坊ちゃん風で、……うん、あの頃は可愛かったよね。
何よりもまだマトモだった。
いや、本人も周りも子供だったからね。
だから誰も気づかなかった。
本人でさえも気づいていなかったのではないだろうか。
自分の趣味、というか性癖に。
ただよくよく思い出せば、すでにあの頃から片鱗はあったようにも思う。
私は初めて会ったカールをいかにも貴族の坊ちゃま!さすが異世界!と思ったし、一生懸命拙い挨拶をして庭の花壇から摘んだ花束を差し出された時は素直に嬉しいと思った。
初対面の様子は悪くない。
両家の親たちはそう結論づけたようで、それから何度か両家で交流をして、私が六才になってすぐに私とカールは婚約者になった。
カールは自分よりも小さい子が好きらしくて、母たちのお茶会についてくる子供たちの面倒をよくみていた。
私はその様子を眺めながら「ちっちゃい子に優しくできるのは高得点だよねー」と呑気に評価していた。ちゃんと見ていれば、カールが優しくしているのが女の子限定だというのは気づいただろうけど。
かといってそれですぐに少しばかり特殊な趣味であるとはさすがに私も思わない。
頭の片隅に疑惑が浮かび上がってきたのは、10才を半ばも過ぎた頃。
ちょうどその頃、私はある意味運命的な出会いをした。
正確に言うならば、私はまったくこれっぽっちも運命を感じてなどいない。
けれど相手の方は私を運命の相手だと言った。
そうして街角で10才の子供相手にいきなりプロポーズをした。
「私の一生をかけてあなたを研究したい」
怖かった。
これがプロポーズだったなんて聞いた時には思わなかったもの。
変なのに会った。そう怯えつつ侍女に連れられて家に帰った私に父が「正式な結婚の申し込みがあったが婚約者がいるから断ったよ」と教えてくれた。
怯える私に、カールは「僕が守るよ」と言ってくれた。
嬉しかった。
正直胸がキュンとしてしまったのを覚えている。
「僕が守る」なんてちょっと王子様っぽい。
なーんて、感動してしまったほどだ。
あの頃の私はカールに恋をしていた。
だからカールに見合う女性になろうと厳しい淑女教育も頑張っていたし、ちょっぴり大人ぶって背伸びした服装やお化粧をしてみたり。
結果として、私のその努力が、私とカールの関係を壊すのをより早めることとなった。
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