1 / 12
副団長の苦悩。
しおりを挟む
王国騎士団第2師団副団長ハリム・ウェントソンには気になっている女性がいる。
ハリムの所属する第2師団は現在王都に在留しており、日々王都郊外にある騎士団訓練所で鍛練の毎日を送っていた。
ハリムの直属の上司、ゲイズ師団長は国の英雄と言われている。
長年に渡り国境を脅かしてきた東の隣国との小競り合いの日々を力業で解決した脳筋だ。
おかけで国は今平和そのものであり、ハリムの所属する第2師団は戦場に出ることなくひたすら訓練づけの日々。
英雄の率いる第2師団には将来有望な貴族の子息も多く、第2師団が訓練所を使用している時間には訓練所の周囲を見物の女性たちが取り囲む。
貴族の令嬢から玉の輿狙いの町娘から一部のコアなファンまで多い日には数十人単位で。
その中に彼女はいた。
ほぼ毎日。
雨の日も風の日もやってくる。
最前列に詰め寄る肉食系女子から少し離れた後ろの方で一人ポツンと立っている。
どこかの下位貴族の令嬢なのだとは思うが、舞踏会では見かけたことがない。
彼女の存在を意識し始めたのは一月ほど前の雨の日。
なかなかに酷い雨の日で途中で雷まで鳴り始めていた。
「戦場では雨も雷も関係ないわー!」
ワハハハハー!とよりテンション高く(雷に興奮したのだろう)訓練を続けようとする脳筋を宥め、訓練を中断させた。
訓練所は屋根のないだだっ広い広場である。
そんな所で剣やら槍を振り回してたら普通に雷に打たれる。
「そんなもの気合いと筋肉で跳ね返してやるわ!」
んなことデキルのはあんただけだから。
つーかホントにデキそうなのが怖い。
そんなことを思っていると本当に雷が落ちた。
ただし場所は訓練所の中ではなくさすがに両手の指で足りる数の見物人がいる柵の外に。
人が少なくて良かった。
雷は訓練所を取り囲む柵から少し離れた一本の樹に落ちた。
普段なら周りに大勢の見物人がいるあたりだが、その日はいなかった。皆、屋根のある訓練所脇のベンチに座っている。
ーーと、ほっとしかけたのだが。
「いかん!」
隣の脳筋が走り出す。
見れば件の樹の側に一人の少女が倒れている。
ハリムもまた慌てて走り出す。
何故この雷の中あんな場所に!バカか!
幸いにも少女は衝撃と音で気を失っていただけだった。
脳筋が抱き上げるとうっすら目を開け何やら小さく呟いてヘニャっという風に笑った。
ものすごく幸せそうな顔で。
その瞬間ハリムの胸は打たれた。
ハリムは自分で言うのもなんだがモテる。
非常にモテる。
爵位は子爵だが近い内に伯爵になることがすでに決まっている。
英雄の補佐官で切れ者だと評判な将来有望な騎士の筆頭であり顔も悪くない。
筋肉ダルマの多い第2師団の中でハリムを始めとする例外は女子たちのあこがれの的でありターゲットである。
常に肉食系女子が絡んでくるが、なんとか上手くかわしている。
だがその少女の笑顔はこれまでに見た女たちの誰とも違っていた。
媚のない素直な笑顔。
その笑顔にハリムは恋をした。
その後のハリムは訓練所で常に彼女の姿を探すようになった。
彼女はいつも少し離れた場所でこちらを見つめている。
ハリムは彼女を見つけるとわざと彼女の目に入りやすい位置で部下たちに訓練をつけたりする。
ちょっとだけカッコつけて数人を一度に相手してやっつけてみたり、わざとらしく上着を脱いで汗を拭いてみたり。
他の肉食系女子たちはきゃーっという悲鳴を上げるが彼女はいまいち反応が薄い。
というかもしかしてハリムに興味がないっぽい。
いや、ハリムの方を見ている時もあるのはあるのだ。
それも熱っぽい真剣な目で。
ただしそれはハリム一人の時ではなく脳筋と並んでいる時。
つまり彼女は脳筋を見つめているのだろうか。
彼女の好みは一部のコアなファンと同じく筋肉ムキムキだと?
これは自分ももっと筋肉を鍛えるべきなのか。
毎日脳筋と共にプロテインを飲むべきなのか?
だが自分の剣技は力業よりも早さと正確さを重視したものだ。
それを捨ててでも筋肉をつけるべきなのか。
ハリムは悩んでいた。
少女の目が脳筋一人の時は大して熱がないことには気づかず。
ハリムと脳筋、二人が並んでいる時にだけその目が輝きを増し唇がヘニャっと緩むことに。
「萌えー( 〃▽〃)」
と一人妄想の世界にイッちゃってることに気づかないまま、苦悩の日々を送っていた。
ハリムの所属する第2師団は現在王都に在留しており、日々王都郊外にある騎士団訓練所で鍛練の毎日を送っていた。
ハリムの直属の上司、ゲイズ師団長は国の英雄と言われている。
長年に渡り国境を脅かしてきた東の隣国との小競り合いの日々を力業で解決した脳筋だ。
おかけで国は今平和そのものであり、ハリムの所属する第2師団は戦場に出ることなくひたすら訓練づけの日々。
英雄の率いる第2師団には将来有望な貴族の子息も多く、第2師団が訓練所を使用している時間には訓練所の周囲を見物の女性たちが取り囲む。
貴族の令嬢から玉の輿狙いの町娘から一部のコアなファンまで多い日には数十人単位で。
その中に彼女はいた。
ほぼ毎日。
雨の日も風の日もやってくる。
最前列に詰め寄る肉食系女子から少し離れた後ろの方で一人ポツンと立っている。
どこかの下位貴族の令嬢なのだとは思うが、舞踏会では見かけたことがない。
彼女の存在を意識し始めたのは一月ほど前の雨の日。
なかなかに酷い雨の日で途中で雷まで鳴り始めていた。
「戦場では雨も雷も関係ないわー!」
ワハハハハー!とよりテンション高く(雷に興奮したのだろう)訓練を続けようとする脳筋を宥め、訓練を中断させた。
訓練所は屋根のないだだっ広い広場である。
そんな所で剣やら槍を振り回してたら普通に雷に打たれる。
「そんなもの気合いと筋肉で跳ね返してやるわ!」
んなことデキルのはあんただけだから。
つーかホントにデキそうなのが怖い。
そんなことを思っていると本当に雷が落ちた。
ただし場所は訓練所の中ではなくさすがに両手の指で足りる数の見物人がいる柵の外に。
人が少なくて良かった。
雷は訓練所を取り囲む柵から少し離れた一本の樹に落ちた。
普段なら周りに大勢の見物人がいるあたりだが、その日はいなかった。皆、屋根のある訓練所脇のベンチに座っている。
ーーと、ほっとしかけたのだが。
「いかん!」
隣の脳筋が走り出す。
見れば件の樹の側に一人の少女が倒れている。
ハリムもまた慌てて走り出す。
何故この雷の中あんな場所に!バカか!
幸いにも少女は衝撃と音で気を失っていただけだった。
脳筋が抱き上げるとうっすら目を開け何やら小さく呟いてヘニャっという風に笑った。
ものすごく幸せそうな顔で。
その瞬間ハリムの胸は打たれた。
ハリムは自分で言うのもなんだがモテる。
非常にモテる。
爵位は子爵だが近い内に伯爵になることがすでに決まっている。
英雄の補佐官で切れ者だと評判な将来有望な騎士の筆頭であり顔も悪くない。
筋肉ダルマの多い第2師団の中でハリムを始めとする例外は女子たちのあこがれの的でありターゲットである。
常に肉食系女子が絡んでくるが、なんとか上手くかわしている。
だがその少女の笑顔はこれまでに見た女たちの誰とも違っていた。
媚のない素直な笑顔。
その笑顔にハリムは恋をした。
その後のハリムは訓練所で常に彼女の姿を探すようになった。
彼女はいつも少し離れた場所でこちらを見つめている。
ハリムは彼女を見つけるとわざと彼女の目に入りやすい位置で部下たちに訓練をつけたりする。
ちょっとだけカッコつけて数人を一度に相手してやっつけてみたり、わざとらしく上着を脱いで汗を拭いてみたり。
他の肉食系女子たちはきゃーっという悲鳴を上げるが彼女はいまいち反応が薄い。
というかもしかしてハリムに興味がないっぽい。
いや、ハリムの方を見ている時もあるのはあるのだ。
それも熱っぽい真剣な目で。
ただしそれはハリム一人の時ではなく脳筋と並んでいる時。
つまり彼女は脳筋を見つめているのだろうか。
彼女の好みは一部のコアなファンと同じく筋肉ムキムキだと?
これは自分ももっと筋肉を鍛えるべきなのか。
毎日脳筋と共にプロテインを飲むべきなのか?
だが自分の剣技は力業よりも早さと正確さを重視したものだ。
それを捨ててでも筋肉をつけるべきなのか。
ハリムは悩んでいた。
少女の目が脳筋一人の時は大して熱がないことには気づかず。
ハリムと脳筋、二人が並んでいる時にだけその目が輝きを増し唇がヘニャっと緩むことに。
「萌えー( 〃▽〃)」
と一人妄想の世界にイッちゃってることに気づかないまま、苦悩の日々を送っていた。
0
お気に入りに追加
354
あなたにおすすめの小説
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
あなたの子ではありません。
沙耶
恋愛
公爵令嬢アナスタシアは王太子セドリックと結婚したが、彼に愛人がいることを初夜に知ってしまう。
セドリックを愛していたアナスタシアは衝撃を受けるが、セドリックはアナスタシアにさらに追い打ちをかけた。
「子は要らない」
そう話したセドリックは避妊薬を飲みアナスタシアとの初夜を終えた。
それ以降、彼は愛人と過ごしておりアナスタシアのところには一切来ない。
そのまま二年の時が過ぎ、セドリックと愛人の間に子供が出来たと伝えられたアナスタシアは、子も産めない私はいつまで王太子妃としているのだろうと考え始めた。
離縁を決意したアナスタシアはセドリックに伝えるが、何故か怒ったセドリックにアナスタシアは無理矢理抱かれてしまう。
しかし翌日、離縁は成立された。
アナスタシアは離縁後母方の領地で静かに過ごしていたが、しばらくして妊娠が発覚する。
セドリックと過ごした、あの夜の子だった。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
(完結)お姉様を選んだことを今更後悔しても遅いです!
青空一夏
恋愛
私はブロッサム・ビアス。ビアス候爵家の次女で、私の婚約者はフロイド・ターナー伯爵令息だった。結婚式を一ヶ月後に控え、私は仕上がってきたドレスをお父様達に見せていた。
すると、お母様達は思いがけない言葉を口にする。
「まぁ、素敵! そのドレスはお腹周りをカバーできて良いわね。コーデリアにぴったりよ」
「まだ、コーデリアのお腹は目立たないが、それなら大丈夫だろう」
なぜ、お姉様の名前がでてくるの?
なんと、お姉様は私の婚約者の子供を妊娠していると言い出して、フロイドは私に婚約破棄をつきつけたのだった。
※タグの追加や変更あるかもしれません。
※因果応報的ざまぁのはず。
※作者独自の世界のゆるふわ設定。
※過去作のリメイク版です。過去作品は非公開にしました。
※表紙は作者作成AIイラスト。ブロッサムのイメージイラストです。
王女殿下の秘密の恋人である騎士と結婚することになりました
鳴哉
恋愛
王女殿下の侍女と
王女殿下の騎士 の話
短いので、サクッと読んでもらえると思います。
読みやすいように、3話に分けました。
毎日1回、予約投稿します。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる