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異世界生活準備編
05
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(可愛い~♪……でもってこっちは可愛くない)
エレノアさんが店に来てから二日後。
私は篭に山盛りのパンを詰め込んだものを持って、エレノアさんと二人店から馬車で半日ほどのこの辺りでは一番大きな街ーーヤンセンの街にやってきた。
石造りの立派な外壁に囲まれた街の奥。
貴族区と呼ばれる一画。
小高い坂を登った場所にその家はあった。
花の意匠が施されたポーチをくぐった私とエレノアさんは、メイド頭だという年輩の女性に案内されて大きな観音開きのドアから家の中に入る。
白とグレーを基調とした落ち着いた雰囲気のエントランスを抜けて、三人は並べそうな横幅の広い螺旋の階段を上がる。
(天井高っ!)
掃除が大変そうだ。
まあこちらには魔法があるからね。
えっちら梯子を上ってハタキをパタパタなんて必要はない。
風魔法でホコリを落として集めてぽいっ、で簡単に済むか。
そんなことを頭に思い浮かべながら、階段を上がりきり、やっぱり広い廊下の奥へ。
青いドアを開けた向こうにいたのは奥方らしきまだ若い女性とメイドさんが二人。
それとちっちゃい男の子と女の子。
子供たちは奥方の子だろう。
二人とも奥方と同じ翡翠色の瞳に金茶のくるくる巻き毛。
男の子は短髪で、ちょっとだけアフロっぽい。
女の子は肩を軽く覆うくらい。
見た目は二人とも文句なしに可愛い。
造作自体はね。
ただ男の子はガリガリ寸前まで痩せてて服から出た肌がどこも赤いプツプツだらけ。
女の子はポッチャリ。
というか、浮腫んでる?
なんか二人とも健康的とは言い難い。
ってか、どっちも不健康でしょ。これ。
「ようこそおいで下さいました。この邸の主、ナルージャ・ドーテの妻タニアでございます。これが息子のファルカ、それに娘のマーニャでございます」
「ファルカです。こんにちわ」
恥ずかしそうにはにかんだ笑顔で挨拶するファルカ君。
「……マーニャ」
対照的にふて腐れた様子でぼそりと名乗るマーニャちゃん。
「ねえ、私はもういいでしょ?この人たちが用があるのはファルカなんでしょう」
奥方のスカートを引っ張ってそう主張している。
うん、まあ、いいんでない?
と、私は思う。
確かに、私が呼ばれたわけはファルカ君だよね。
「マーニャ、そんなこと言わないの」
困った様子で宥める奥方。
「奥方様、こちらがこの前お話したカフェ『ツムギ』のオーナーでシェフのツムギ様ですわ。本日はいくつかパンのサンプルをお持ち頂きました」
「ツムギ・カサハラです。始めまして。卵や乳製品のアレルギーということのようでしたので、卵やバター等の入っていないパンをお持ちしました」
どうぞ、と私はパンの入った篭を寄ってきたメイドさんに預ける。
「……わあ!」
と篭の中のパンを見て目を輝かせるファルカ君。
(可愛い)
「……ふん、見た目はまあまあね」
と、チラ見してそう呟くマーニャちゃん。
(可愛くない)
この二人ってたぶん双子だよね。
何故にこうまで対照的かなぁ。
「カボチャの生地のベーグルに無花果とクルミのカンパーニュ、それにプレーンのベーグルにレッシュの葉とハムを挟んだサンドイッチ。それとバナーニャの蒸しケーキです」
すべて油分、牛乳、卵不使用のものだ。
ベーグルはもともとバターや牛乳は使用しない生地だし、カンパーニュも今回はバターなしで作った。
少し使う時もあるけど、基本的にはフランスパン系のハードパンってバター使わないしね。
その分水分量が多くて捏ねるのは大変だった。
レッシュの葉はレタスによく似たこちらの野菜。
レタスと同じようにサラダによく使う。
バナーニャは味はバナナと桃を混ぜた感じ。
見た目はバナナそのもので甘くて美味しい。
子供が食べるものだから甘いケーキも入れておいたのだ。
「美味しそうです!母様!」
「本当に。普段食べているものとはずいぶん違いますのね」
あー、まーねー。
こちらのパンといえばカチカチで平べったい塊か、出来損ないのピザっぽいものだから。
見た目も味も全然違う。
だからこそ素人の趣味なパンで充分お店ができるんだけど。
「よろしければさっそくご試食はいかがですか?焼き立ての方がより美味しいので」
朝焼いたからまだほんのり温かい。
どうせだから早めに食べてほしいよね。
「そうね。お二人もぜひご一緒に。お茶を入れさせますわ」
奥方の言葉を合図に、私たちは食堂へ案内された。
途中ファルカ君たちと目が合って、ファルカ君はニコッと笑ってくれる。
マーニャちゃんは……ぷいっと横を向いた。
おい。
私、何かしたかな?
してないよね?
エレノアさんが店に来てから二日後。
私は篭に山盛りのパンを詰め込んだものを持って、エレノアさんと二人店から馬車で半日ほどのこの辺りでは一番大きな街ーーヤンセンの街にやってきた。
石造りの立派な外壁に囲まれた街の奥。
貴族区と呼ばれる一画。
小高い坂を登った場所にその家はあった。
花の意匠が施されたポーチをくぐった私とエレノアさんは、メイド頭だという年輩の女性に案内されて大きな観音開きのドアから家の中に入る。
白とグレーを基調とした落ち着いた雰囲気のエントランスを抜けて、三人は並べそうな横幅の広い螺旋の階段を上がる。
(天井高っ!)
掃除が大変そうだ。
まあこちらには魔法があるからね。
えっちら梯子を上ってハタキをパタパタなんて必要はない。
風魔法でホコリを落として集めてぽいっ、で簡単に済むか。
そんなことを頭に思い浮かべながら、階段を上がりきり、やっぱり広い廊下の奥へ。
青いドアを開けた向こうにいたのは奥方らしきまだ若い女性とメイドさんが二人。
それとちっちゃい男の子と女の子。
子供たちは奥方の子だろう。
二人とも奥方と同じ翡翠色の瞳に金茶のくるくる巻き毛。
男の子は短髪で、ちょっとだけアフロっぽい。
女の子は肩を軽く覆うくらい。
見た目は二人とも文句なしに可愛い。
造作自体はね。
ただ男の子はガリガリ寸前まで痩せてて服から出た肌がどこも赤いプツプツだらけ。
女の子はポッチャリ。
というか、浮腫んでる?
なんか二人とも健康的とは言い難い。
ってか、どっちも不健康でしょ。これ。
「ようこそおいで下さいました。この邸の主、ナルージャ・ドーテの妻タニアでございます。これが息子のファルカ、それに娘のマーニャでございます」
「ファルカです。こんにちわ」
恥ずかしそうにはにかんだ笑顔で挨拶するファルカ君。
「……マーニャ」
対照的にふて腐れた様子でぼそりと名乗るマーニャちゃん。
「ねえ、私はもういいでしょ?この人たちが用があるのはファルカなんでしょう」
奥方のスカートを引っ張ってそう主張している。
うん、まあ、いいんでない?
と、私は思う。
確かに、私が呼ばれたわけはファルカ君だよね。
「マーニャ、そんなこと言わないの」
困った様子で宥める奥方。
「奥方様、こちらがこの前お話したカフェ『ツムギ』のオーナーでシェフのツムギ様ですわ。本日はいくつかパンのサンプルをお持ち頂きました」
「ツムギ・カサハラです。始めまして。卵や乳製品のアレルギーということのようでしたので、卵やバター等の入っていないパンをお持ちしました」
どうぞ、と私はパンの入った篭を寄ってきたメイドさんに預ける。
「……わあ!」
と篭の中のパンを見て目を輝かせるファルカ君。
(可愛い)
「……ふん、見た目はまあまあね」
と、チラ見してそう呟くマーニャちゃん。
(可愛くない)
この二人ってたぶん双子だよね。
何故にこうまで対照的かなぁ。
「カボチャの生地のベーグルに無花果とクルミのカンパーニュ、それにプレーンのベーグルにレッシュの葉とハムを挟んだサンドイッチ。それとバナーニャの蒸しケーキです」
すべて油分、牛乳、卵不使用のものだ。
ベーグルはもともとバターや牛乳は使用しない生地だし、カンパーニュも今回はバターなしで作った。
少し使う時もあるけど、基本的にはフランスパン系のハードパンってバター使わないしね。
その分水分量が多くて捏ねるのは大変だった。
レッシュの葉はレタスによく似たこちらの野菜。
レタスと同じようにサラダによく使う。
バナーニャは味はバナナと桃を混ぜた感じ。
見た目はバナナそのもので甘くて美味しい。
子供が食べるものだから甘いケーキも入れておいたのだ。
「美味しそうです!母様!」
「本当に。普段食べているものとはずいぶん違いますのね」
あー、まーねー。
こちらのパンといえばカチカチで平べったい塊か、出来損ないのピザっぽいものだから。
見た目も味も全然違う。
だからこそ素人の趣味なパンで充分お店ができるんだけど。
「よろしければさっそくご試食はいかがですか?焼き立ての方がより美味しいので」
朝焼いたからまだほんのり温かい。
どうせだから早めに食べてほしいよね。
「そうね。お二人もぜひご一緒に。お茶を入れさせますわ」
奥方の言葉を合図に、私たちは食堂へ案内された。
途中ファルカ君たちと目が合って、ファルカ君はニコッと笑ってくれる。
マーニャちゃんは……ぷいっと横を向いた。
おい。
私、何かしたかな?
してないよね?
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