悪役令嬢になりました。

黒田悠月

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何故こうなったのか?

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何故こうなったのか?

はい。それはクソ女ことカノンのせいですね。

私がこれまで頑張ってきた準備を見事に台無しにしてくれたからねー。

私は決して聖女になりたかったわけではない。
むしろ、全力で遠慮したかった。

別段カノンやバカたちのザマアが見たかったわけでもない。
本音を言うと、それなりに痛い目にあってくれたら嬉しいけど。

それでも廃嫡されたらいいとか、死刑になればいいとか暴漢にでも襲われて滅茶苦茶にされてしまえとか、思っていたわけではない。

私は自分さえ平凡無事に生きながらえさえすればそれで良かったのだ。

それは実はとても我が儘で自分本意な考えだ。

私は知っているのだから。
この世界にもうすぐ危機が訪れること。
聖女の力で暗黒竜は封印され、世界は救われる。

だとしてもそれまでの間にいくつもの町や村は魔物に襲われ、疫病に苦しみ、住む場所や親しい人、家族を失う人だっている。

その事実に蓋をして、私は自分のことだけを考えてこれまでやってきた。

だって。
だからってどうしろというのか。

世界を救う聖女とか、私には荷が重すぎる。
手に負えない。

だから私がこれまでにしてきたことっていうのはあくまでも自分の破滅を回避するための方策。


皇太子にもカノンにもできるだけ自分からは関わらず、私がカノンを虐めたり害したりするという行動を避け、私が断罪される理由を少しでも減らそうとした。まあ向こうから寄って来られた分は対応したけどね。

周囲との関係を改め、いざという時に皇太子やカノンに同調する人を減らそうとした。
偶然にもマリア様、ティオネ様と友人関係になれたおかげでファンクラブの皆様というお仲間もできて思いがけず楽しい学園生活が送れるようになけれど、それがなくとも少しずつ周りの評価を改善できるよう努力はしたつもりだ。

目があったら微笑むとか、挨拶するとか、そんなことだけども。

大切だと思うんですよ。
そういうの。


それでも回避仕切れなかった時のために準備をしてきたのだ。

具体的には一人で生きていけるための準備を。

もし、万が一死刑か免れないとなったら逃げ出せるように。

魔法の練習ーー特に隠蔽系の魔法を行使できるようにした。これはヤバイな、となったらすぐに身を隠すあるいは脱走できるように。

クリステル様にさりげなくお願いして商売の知識を僅かながらも勉強してみたり。楓だった頃の記憶を頼りにお金儲けをしようとしてみたり。

これに関してはもうすぐそれなりに上手くいきそうだったのだ。

スウェットの販売にヨガやラジオ体操、ダイエットメニューの普及に関わるアドバイス料。

クリステル様からも色好い返事が頂けたところだった。

一月後にはスウェットの試作販売が行われる予定にまでこぎ着けたのに。

フィムにだって色々動いてもらっていた。

町の人に模倣してもらって町で買い物してもらったり乗り合いの馬車に乗ってもらったり宿に泊まってみてもらったり。

貴族令嬢のエリカ・オルディスにはない旅の知識を少しずつ蓄えてもらって。

こっそり商業ギルドの銀行に口座を作ってもらったり。

エリス、という架空の名で作った口座にはすでに私のおこずかいの半分ほどを移してある。

衣装部屋の奥に眠っていた子供の頃の髪飾りやドレスから宝石を崩して集めておいたりもした。

アクセサリーにしなかったのは売って資金にした際に足がつかないように。
最近のものにしなかったのは邸の人間にバレないようにだ。

こつこつ色々やってたんですよ!

全てとは言わないが、半分ほどはパーである。
いや、必要なかったとなるのが一番良かったのだが。

逃げ出す、もしくは追放された時のための準備だからね。


つらつらとそんなことを考えていると、響いてくる車輪の音が変わった。

舗装されていない馬車道を走る音からもっと硬質な石畳を走る音に。


私は窓の外を見る。

正確には窓の外。
町の中を歩く人の姿をしっかりと目に焼き付ける。
見るのは若い女性。

私の影に潜むフィムに覚えてもらうために。


似ているようでもカノンが旅に出るシーンと、今の私ではまったく立場が違う。

何だかんだ怖がってみたりぐだぐだ考えてみたところで私が選べるのは一つだけ。

私は私の納得のいくように行動する。
その一択しかないのだから。

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