39 / 45
連載
何故こうなったのか?
しおりを挟む
何故こうなったのか?
はい。それはクソ女ことカノンのせいですね。
私がこれまで頑張ってきた準備を見事に台無しにしてくれたからねー。
私は決して聖女になりたかったわけではない。
むしろ、全力で遠慮したかった。
別段カノンやバカたちのザマアが見たかったわけでもない。
本音を言うと、それなりに痛い目にあってくれたら嬉しいけど。
それでも廃嫡されたらいいとか、死刑になればいいとか暴漢にでも襲われて滅茶苦茶にされてしまえとか、思っていたわけではない。
私は自分さえ平凡無事に生きながらえさえすればそれで良かったのだ。
それは実はとても我が儘で自分本意な考えだ。
私は知っているのだから。
この世界にもうすぐ危機が訪れること。
聖女の力で暗黒竜は封印され、世界は救われる。
だとしてもそれまでの間にいくつもの町や村は魔物に襲われ、疫病に苦しみ、住む場所や親しい人、家族を失う人だっている。
その事実に蓋をして、私は自分のことだけを考えてこれまでやってきた。
だって。
だからってどうしろというのか。
世界を救う聖女とか、私には荷が重すぎる。
手に負えない。
だから私がこれまでにしてきたことっていうのはあくまでも自分の破滅を回避するための方策。
皇太子にもカノンにもできるだけ自分からは関わらず、私がカノンを虐めたり害したりするという行動を避け、私が断罪される理由を少しでも減らそうとした。まあ向こうから寄って来られた分は対応したけどね。
周囲との関係を改め、いざという時に皇太子やカノンに同調する人を減らそうとした。
偶然にもマリア様、ティオネ様と友人関係になれたおかげでファンクラブの皆様というお仲間もできて思いがけず楽しい学園生活が送れるようになけれど、それがなくとも少しずつ周りの評価を改善できるよう努力はしたつもりだ。
目があったら微笑むとか、挨拶するとか、そんなことだけども。
大切だと思うんですよ。
そういうの。
それでも回避仕切れなかった時のために準備をしてきたのだ。
具体的には一人で生きていけるための準備を。
もし、万が一死刑か免れないとなったら逃げ出せるように。
魔法の練習ーー特に隠蔽系の魔法を行使できるようにした。これはヤバイな、となったらすぐに身を隠すあるいは脱走できるように。
クリステル様にさりげなくお願いして商売の知識を僅かながらも勉強してみたり。楓だった頃の記憶を頼りにお金儲けをしようとしてみたり。
これに関してはもうすぐそれなりに上手くいきそうだったのだ。
スウェットの販売にヨガやラジオ体操、ダイエットメニューの普及に関わるアドバイス料。
クリステル様からも色好い返事が頂けたところだった。
一月後にはスウェットの試作販売が行われる予定にまでこぎ着けたのに。
フィムにだって色々動いてもらっていた。
町の人に模倣してもらって町で買い物してもらったり乗り合いの馬車に乗ってもらったり宿に泊まってみてもらったり。
貴族令嬢のエリカ・オルディスにはない旅の知識を少しずつ蓄えてもらって。
こっそり商業ギルドの銀行に口座を作ってもらったり。
エリス、という架空の名で作った口座にはすでに私のおこずかいの半分ほどを移してある。
衣装部屋の奥に眠っていた子供の頃の髪飾りやドレスから宝石を崩して集めておいたりもした。
アクセサリーにしなかったのは売って資金にした際に足がつかないように。
最近のものにしなかったのは邸の人間にバレないようにだ。
こつこつ色々やってたんですよ!
全てとは言わないが、半分ほどはパーである。
いや、必要なかったとなるのが一番良かったのだが。
逃げ出す、もしくは追放された時のための準備だからね。
つらつらとそんなことを考えていると、響いてくる車輪の音が変わった。
舗装されていない馬車道を走る音からもっと硬質な石畳を走る音に。
私は窓の外を見る。
正確には窓の外。
町の中を歩く人の姿をしっかりと目に焼き付ける。
見るのは若い女性。
私の影に潜むフィムに覚えてもらうために。
似ているようでもカノンが旅に出るシーンと、今の私ではまったく立場が違う。
何だかんだ怖がってみたりぐだぐだ考えてみたところで私が選べるのは一つだけ。
私は私の納得のいくように行動する。
その一択しかないのだから。
はい。それはクソ女ことカノンのせいですね。
私がこれまで頑張ってきた準備を見事に台無しにしてくれたからねー。
私は決して聖女になりたかったわけではない。
むしろ、全力で遠慮したかった。
別段カノンやバカたちのザマアが見たかったわけでもない。
本音を言うと、それなりに痛い目にあってくれたら嬉しいけど。
それでも廃嫡されたらいいとか、死刑になればいいとか暴漢にでも襲われて滅茶苦茶にされてしまえとか、思っていたわけではない。
私は自分さえ平凡無事に生きながらえさえすればそれで良かったのだ。
それは実はとても我が儘で自分本意な考えだ。
私は知っているのだから。
この世界にもうすぐ危機が訪れること。
聖女の力で暗黒竜は封印され、世界は救われる。
だとしてもそれまでの間にいくつもの町や村は魔物に襲われ、疫病に苦しみ、住む場所や親しい人、家族を失う人だっている。
その事実に蓋をして、私は自分のことだけを考えてこれまでやってきた。
だって。
だからってどうしろというのか。
世界を救う聖女とか、私には荷が重すぎる。
手に負えない。
だから私がこれまでにしてきたことっていうのはあくまでも自分の破滅を回避するための方策。
皇太子にもカノンにもできるだけ自分からは関わらず、私がカノンを虐めたり害したりするという行動を避け、私が断罪される理由を少しでも減らそうとした。まあ向こうから寄って来られた分は対応したけどね。
周囲との関係を改め、いざという時に皇太子やカノンに同調する人を減らそうとした。
偶然にもマリア様、ティオネ様と友人関係になれたおかげでファンクラブの皆様というお仲間もできて思いがけず楽しい学園生活が送れるようになけれど、それがなくとも少しずつ周りの評価を改善できるよう努力はしたつもりだ。
目があったら微笑むとか、挨拶するとか、そんなことだけども。
大切だと思うんですよ。
そういうの。
それでも回避仕切れなかった時のために準備をしてきたのだ。
具体的には一人で生きていけるための準備を。
もし、万が一死刑か免れないとなったら逃げ出せるように。
魔法の練習ーー特に隠蔽系の魔法を行使できるようにした。これはヤバイな、となったらすぐに身を隠すあるいは脱走できるように。
クリステル様にさりげなくお願いして商売の知識を僅かながらも勉強してみたり。楓だった頃の記憶を頼りにお金儲けをしようとしてみたり。
これに関してはもうすぐそれなりに上手くいきそうだったのだ。
スウェットの販売にヨガやラジオ体操、ダイエットメニューの普及に関わるアドバイス料。
クリステル様からも色好い返事が頂けたところだった。
一月後にはスウェットの試作販売が行われる予定にまでこぎ着けたのに。
フィムにだって色々動いてもらっていた。
町の人に模倣してもらって町で買い物してもらったり乗り合いの馬車に乗ってもらったり宿に泊まってみてもらったり。
貴族令嬢のエリカ・オルディスにはない旅の知識を少しずつ蓄えてもらって。
こっそり商業ギルドの銀行に口座を作ってもらったり。
エリス、という架空の名で作った口座にはすでに私のおこずかいの半分ほどを移してある。
衣装部屋の奥に眠っていた子供の頃の髪飾りやドレスから宝石を崩して集めておいたりもした。
アクセサリーにしなかったのは売って資金にした際に足がつかないように。
最近のものにしなかったのは邸の人間にバレないようにだ。
こつこつ色々やってたんですよ!
全てとは言わないが、半分ほどはパーである。
いや、必要なかったとなるのが一番良かったのだが。
逃げ出す、もしくは追放された時のための準備だからね。
つらつらとそんなことを考えていると、響いてくる車輪の音が変わった。
舗装されていない馬車道を走る音からもっと硬質な石畳を走る音に。
私は窓の外を見る。
正確には窓の外。
町の中を歩く人の姿をしっかりと目に焼き付ける。
見るのは若い女性。
私の影に潜むフィムに覚えてもらうために。
似ているようでもカノンが旅に出るシーンと、今の私ではまったく立場が違う。
何だかんだ怖がってみたりぐだぐだ考えてみたところで私が選べるのは一つだけ。
私は私の納得のいくように行動する。
その一択しかないのだから。
0
お気に入りに追加
7,087
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた
兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる
佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます
「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」
なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。
彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。
私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。
それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。
そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。
ただ。
婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。
切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。
彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。
「どうか、私と結婚してください」
「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」
私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。
彼のことはよく知っている。
彼もまた、私のことをよく知っている。
でも彼は『それ』が私だとは知らない。
まったくの別人に見えているはずなのだから。
なのに、何故私にプロポーズを?
しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。
どういうこと?
============
番外編は思いついたら追加していく予定です。
<レジーナ公式サイト番外編>
「番外編 相変わらずな日常」
レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。
いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。
※転載・複写はお断りいたします。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。