悪役令嬢になりました。

黒田悠月

文字の大きさ
上 下
36 / 45
連載

よおく、わかりました。

しおりを挟む
私は怒りに震えながらも、なんとか吐き出しそうになる罵倒の言葉を喉の奥に抑えた。

私ごときが何を言ったところで意味がないことは自明だろうから。

傍らに佇む白王の頭を宥めるようにゆっくりと手を伸ばして撫でる。
でないと私の怒りが伝染した白王が彼らに飛びかかってしまいそうだ。


自業自得ではあるんだけど。

だって、この人たちは私だけじゃなくて、私を聖女として認めた白虎母のこともバカにしてるも同然なんだから。
というか、バカにしてるよね?

聖獣様とか持ち上げながら教会の意向と都合を優先しようってんだからさ。

少しくらい痛い目に合った方がいいと思う。

とはいえ、ここは教会本部。
そしてこの人たちは性根は腐りきっていても、教会幹部だ。
いくら白王が白虎様の子息で普通の魔物よりずっと強いっていってもさすがに一人で敵うとは思えない。

お祖父様や家族のこともあるしね。

教会の枢機卿や大貴族であっても教会を敵に回して無事に済むはずがない。

この人たちは私が否やと答えれば平気で私だけじゃなく周りの人間も貶めるだろう。

「……納得できませんか?」

ゆっくりと近づいてきたフィリォ枢機卿が私の横に立って唇を寄せてくる。
ちょうど白王と反対側だ。

「貴女とフォール準男爵令嬢は色々あった様子。ムリはありませんか」

耳打ちされて、肌に触れる吐息にゾクリと鳥肌が。

(気持ち悪い……!)

さらりと節立った指が私の髪をかきあげて耳にかける。

「……大丈夫ですよ。私たちの中にも彼女が気に入らない人間がいますから。そう、例えば大事な跡取りをたぶらかされて廃嫡せざるを得なくなった方とかね?」

周りに聞こえない囁き声。
クスクスと小さく笑う、フィリォ枢機卿。
円卓に背を向けている状態なので、他の枢機卿や教皇様には見えていないはずだ。 

宰相様にも。

「今回の騒動で皇太子とその取り巻きの学生たちはもちろんその親の評価は最悪です。首をすげ替えざるを得ないほ
どにね。他に子息のいる家庭からまだ良いのでしょうが、一人息子の家は周りの親族がわが子を養子にと早くも迫っている様子。腹立ちもするでしょうね?お気の毒なことです」

どうやら、

とフィリォ枢機卿はよりいっそう唇を寄せた。

「すでに修道院に向かう馬車に手の者を向かわせたようですよ。殺しはしないまでも、それなり以上に痛手を負わせなければ気が済まないのでしょう。教会としては生きてさえいれば問題ないので、かまわないのですが。汚されていようが五体満足でなかろうが、古代魔法の詠唱ができさえすれば……いざという時の予備には使えますから。寧ろ散々傷ついた後に救いの手を与えた方がより従順になって良いかも知れません。ああもちろん、貴方が従順であって下されば予備も必要ありませんから、消してしまっても良いのですよ?嬉しいでしょう?」

嬉しい?
私が?

確かにカノンへの処罰が甘過ぎるとは思ったよ。
バカたちも廃嫡されるようでいい気味と言えなくはないけど。

ここまであからさまに脅されて喜ばれるかっつーのっ!

つまりカノンは修道院でなく途中で拐かされてより悲惨な末路だと。
ただし、しっかり教会に管理はされ、生かされる。

私が従順でないと判断された場合は、私とカノンの首をすげ替えるために。

「……白虎様が納得されますでしょうか?」
「問題はありませんよ。聖獣様は聖域に縛られた存在。何もできはしません。ーーあれはあくまでも教会の選んだ聖女を確固たるものにするためのもの。あれの意向など教会と反するならどうでもいい。まして魔物とまぐわって子を作るようなものなど、まったく汚らわしい!」

最後の台詞は白王を見ながら吐き捨てるように言った。

「そう、ですか。で?私はただ黙っていればよろしいのですか?」

私は俯いて拳を握り締める。

ああ、思いっきりぶん殴ってやりたい!

頭の中はそんな思いでギュウギュウ詰めだ。

「いえ、暗黒竜が復活するという白虎様のお言葉も捨て置くわけには参りません。ですから……」

ーー貴女には旅に出て頂きます。

そうフィリォ枢機卿は言うと、大袈裟な仕草で袖を翻した。

「残りの3聖獣。その認定を受けて頂きます。ご存知の通りそれぞれ別の大陸、別の国におりますので、秘密裏に向かい聖女として認められて頂きたい。もちろん教会から護衛はお付けしますし、すべての聖獣に認められ、暗黒竜が事実復活したなら貴女を晴れて聖女として敬いましょう」

護衛ね?
私の態度しだいでは刺客になるんでしょうに。

ああ、なんだかね?
もう、怒りを通りこして腹を括ったわよ。

旅ね。

いいでしょう。
出てやろうじゃないか。

ただし、
私の納得できるやり方で。         





しおりを挟む
感想 129

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

愛想を尽かした女と尽かされた男

火野村志紀
恋愛
※全16話となります。 「そうですか。今まであなたに尽くしていた私は側妃扱いで、急に湧いて出てきた彼女が正妃だと? どうぞ、お好きになさって。その代わり私も好きにしますので」

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。