悪役令嬢になりました。

黒田悠月

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お祖父様との対話

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「……ふう、なんだか落ち着かないわね」

教会本部、その白き塔の一室で私は白王とともにソファに座っている。

こちらに着いてかれこれ二時間ほどか。
到着するなり部屋に案内されて軟禁状態。
窓がないものだから余計閉じ込められ感が強い。

ソファの前に置かれたガラスのテーブルの上に紅茶の入ったティーセット。
神官らしき女性が持って来てくれたそれも、すでに冷えてしまっている。 

カノンとは到着するなり別行動だ。

と、いうか引っ立てられてどこかへ連れられて言った。
兵士長と迎えにきた衛兵の会話から察するに牢屋にいれられたらしい。
自業自得ってか当然だよね。

「フィムはどう?少しはマシになった?」

私の影に潜んでいたフィムは、魔物だからか塔に入ってくるなり『気持ち悪いです。プルプルします』と言ってずっとプルプルしている。

自分の影の中だから見えないけどね。

「誰も来ないし、出て来ても大丈夫かな?」

うん、白王なら誰か近づいてきたら気配でわかるよね?

白王に気を付けておいてもらうようにお願いして、フィムを呼んだ。

「あらら」

プルプルというか、トゲトゲだよ。

フィムは薄桃色の身体をいつもの雫型ではなくウニのようなトゲトゲにしていた。

トゲの先はぷるんと丸くて触れるとプニプニしている。

ちょっと震えてるかな?

『魔物を排除する結界が塔全体に張られている。それが原因』
「なるほど」

教会だからねぇ。
そう言う白王は平気そうだね。

『聖獣だから』

そうですか。

魔物と聖獣は違うってことかな?
聖属性だから?

私はトゲトゲなフィムを胸に抱えてエナを注ぎ込むイメージを脳裏に浮かべた。
母白虎に教わった効率的にエナを与える方法だ。

『美味しいです♪』
「そう。少しはマシになったかしら?」
『はい!』

(フィムってば可愛い~♪)

我が使い魔ながら癒し系だよね。

『エリカ。誰か来る』
「フィム、中に戻って」

残念。
もう少し癒されたかった。

フィムが消えるとほぼ同時に部屋のドアがノックされる。

「どうぞ」

私はよそ行きの声で了承の意を応えた。

「久しぶりだの、エリカ」

ドアを開け、入ってきたその人は私を見てそう穏やかに笑った。

「お祖父様!……いえ、枢機卿様!」

入ってきたのは白い髭を蓄えた背の低い老人。
私と同じ空の色の瞳を持つその人は、私の母の父。
つまり私、エリカ・オルディスの祖父だ。

7人いる枢機卿の一人。
ちなみにお祖父様の兄の一人が教皇様。
教会で一番偉いお人だ。

私は慌ててソファから立ち上がるとスカートの裾を軽く持ち上げて挨拶をする。

「お久しぶりにございます」

私、日生楓としては始めましてだけど、エリカは確か子供の頃に数回お会いしているはず。
言ってもほんとに片手で足りる回数だけど。
ええと、確か3回ほど?

「よい、今はそなたの祖父として会いにきた。さあ座りなさい」
「……はい」

うああ!緊張する!

なんだろう。
この感じ。

この人、オーラ?みたいのがあんのよ!

さすが枢機卿様!

と、とりあえず座る?
うん、いいんだよね?座って。
だって座れって言われたもん。

「……白虎様に聖女に選ばれたとか」
「は、はい」

私はソファに浅く座って答える。
お祖父様の目は、私でなく傍らに伏せた白王に。

「ふむ、確かに白虎様のご子息で間違いあるまい」
「はい」
「……証を、見せてもらえるか?」
「はい」

なんだろう?

お祖父様のこの目。
苦い感情を飲み込んだような目。

少なくとも孫が聖女に選ばれて誇らしいとか嬉しいって目ではないよね?

むしろ……。

いぶかしみながらも、言われるがまま髪をかきあげてうなじを見せる。

そこにはハート型の痣。
聖女の印の一部。

うむ、とお祖父様はそれを見て一つ頷いた。

「エリカよ」
「はい」

私、さっきから「はい」しか言ってなくね?
ま、それしか言えないよね。

「祖父として、一つ忠告しておく」
「……は、い」
「聖女の役割は暗黒竜を封印すること。よいな」

は?
や、知ってますけど?

私は思わず間抜け面をしたと思う。
なに当たり前なこと言ってんの?この人。みたいな。

「よいな。それ以下でもそれ以上でもない。そのことを決して忘れるな」

そう言って、祖父はさっさと背を向けてしまう。

そのままドアを開けて、部屋の外へ。
閉まる寸前、

「……教会を信用しすぎるな」

聞こえるかどうかと言う小声でそう言って、鋭い視線を白王に向けた。

「お祖父様?」

ぱたん、とドアが閉まる。

私はその背を、なかば腰を浮かべた状態で唖然と見送った。

(……どういう意味?)

首を捻ったけれど、深く思い悩む暇はないようだった。

『エリカ』

白王がドアに視線をやり、身体を起こす。

いくつもの足音とドアをノックする音が、新たな訪問者の存在を告げた。



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