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出立の朝。
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朝。
砦の前には10を超える馬車が並んでいる。
学生たちはそれぞれ班ごとにそれらに乗り込んで王都への帰路につく。
私はその光景を少しだけ離れた場所で眺めていた。
馬車に乗り込む生徒の列、その最後尾に近い一位にはカイル様を含む同班の皆様の姿。
ハウエル様、ガイ様、アイシス様、 サーシャ様。
皆様うつむきがちながらも冷静な様子だ。
それと対称的なのが最後尾の一団。
バカたち、皇太子ご一行。
一晩中軟禁されながらもずっと騒いでいたと聞くのに、まだまだ元気みたい。
兵士に囲まれていながら、ひたすらなにやら声を上げ続けている。
(兵士さんたちも大変だよね)
相手は腐っても自国の皇太子だ。
私にしたみたいに槍を向けるなんて真似はできるはずがない。
ただ人数で囲んでひたすら宥めるしかない。
「オルディス侯爵令嬢」
兵士長の声に、私は馬車に乗り込む生徒たちの列から目を離した。
その時、ふと視線を感じた気がして目を戻すと、カイル様の顔がこちらに向けられているのが見えてドキリとしてしまう。
慌てて視線を外す。
離れているうえ、間には砦の兵士が囲んでいるし、木々だってある。
私の姿をあちらから探すのは困難なはず、なのに。
カイル様の視線はまっすぐに私に向いていたように思った。
(……もうっ!気にしない!私!)
もうあの方のことは極力相手にしない。
そう、昨夜決めたんだから。
「オルディス侯爵令嬢?」
「失礼。なんでもございませんわ」
「そうですか。馬車の用意が出来ましたので」
「わかりました。……カノンはどうしましたの?」
「ご一緒に教会本部へ連れてくるようにとの事で。別の馬車にすでに」
「そうですか……」
私は少し考えて「うん」と小さく頷いた。
「カノンと同乗させてはもらえませんか?」
「……は?」
兵士長の顔が何言い出すんだ、コイツ。と言っている。
そんなに変なこと言ったかな?
うん、変か。
自分を嵌めて殺そうとした相手と馬車に同乗したいっていうんだもんね。
普通ないわな。
「カノンと話をしたいんです。できれば二人で」
ーーできませんか?
私は兵士長に頭を下げた。
侯爵令嬢であり、今では一応聖女である私に頭を下げられて、兵士長は慌てて「頭をおあげください!」と身振り付きで声を上げる。
「いかがでしょう?」
私は頭を上げながらそう続けた。
「……それは、危険です。束縛はしておりますし、魔法封じの魔具は着けてはいますが。馬車の中は狭いですし。もし、暴れられでもしたら」
「それは大丈夫ですわ。私には白虎様がいますもの」
にっこり笑って白王を呼んだ。
傍らに巨大な白虎の姿の白王が姿を現す。
「少し狭くなりますけど、致し方ありませんわね。白王、一緒に同乗して下さるわよね?」
「わかった。俺、エリカ守る」
「だ、そうですわ。これ以上ない護衛ですわよね?あとは……もし、私たちの話が気になるのなら兵士長貴方も同乗なさる?」
「……いえ、私は結構です。ただし長時間はご勘弁下さい。彼女のしたことは国家反逆罪にも値する行為です。その犯罪者と、たとえ聖女様といえど二人きりで話をするというのは少々問題がありますので。
10分ほどで一度馬車を止めます。そこで乗り換えて頂きけますか?」
「ありがとう!兵士長!」
手でも握ろうかと思ったけど、すでに冷や汗ダラダラな兵士長がもっと困ることになりそうだから止めておく。
まったく。
白王ってば威嚇しすぎだよ。
私はちら、と横を見る。
そこでは「断ったらどうなるかわかってるんだろうな」と無言の圧力を兵士長に向ける白王が。
まあ、話が早くて助かるけど♪
「ではこちらへ」
促されて私と白王は兵士長の後についていく。
砦の裏手側に、生徒たちの乗ったものとは一回りほど小さい馬車が2台停められていた。
その周囲には同行するのだろう馬を連れた数十人の兵士たち。
「こちらです。どうぞ」
兵士長が馬車の1台の前に立ち、扉を開けた。
「アーサー様?」
なかからカノンが声を上げた。
あら、皇太子が助けにきたとでも思ったのかな?
残念。
バカたちは今頃別の馬車に詰め込まれてるはずだよ。
「ご機嫌よう、カノン様。一晩ぶりね。昨夜はよく眠れたかしら?」
「……エリカ・オルディス!」
眠れたはずはない。
般若の形相で睨みつけるカノンに、私は意地の悪い笑みを浮かべて優雅に腰を折って挨拶をしてみせた。
砦の前には10を超える馬車が並んでいる。
学生たちはそれぞれ班ごとにそれらに乗り込んで王都への帰路につく。
私はその光景を少しだけ離れた場所で眺めていた。
馬車に乗り込む生徒の列、その最後尾に近い一位にはカイル様を含む同班の皆様の姿。
ハウエル様、ガイ様、アイシス様、 サーシャ様。
皆様うつむきがちながらも冷静な様子だ。
それと対称的なのが最後尾の一団。
バカたち、皇太子ご一行。
一晩中軟禁されながらもずっと騒いでいたと聞くのに、まだまだ元気みたい。
兵士に囲まれていながら、ひたすらなにやら声を上げ続けている。
(兵士さんたちも大変だよね)
相手は腐っても自国の皇太子だ。
私にしたみたいに槍を向けるなんて真似はできるはずがない。
ただ人数で囲んでひたすら宥めるしかない。
「オルディス侯爵令嬢」
兵士長の声に、私は馬車に乗り込む生徒たちの列から目を離した。
その時、ふと視線を感じた気がして目を戻すと、カイル様の顔がこちらに向けられているのが見えてドキリとしてしまう。
慌てて視線を外す。
離れているうえ、間には砦の兵士が囲んでいるし、木々だってある。
私の姿をあちらから探すのは困難なはず、なのに。
カイル様の視線はまっすぐに私に向いていたように思った。
(……もうっ!気にしない!私!)
もうあの方のことは極力相手にしない。
そう、昨夜決めたんだから。
「オルディス侯爵令嬢?」
「失礼。なんでもございませんわ」
「そうですか。馬車の用意が出来ましたので」
「わかりました。……カノンはどうしましたの?」
「ご一緒に教会本部へ連れてくるようにとの事で。別の馬車にすでに」
「そうですか……」
私は少し考えて「うん」と小さく頷いた。
「カノンと同乗させてはもらえませんか?」
「……は?」
兵士長の顔が何言い出すんだ、コイツ。と言っている。
そんなに変なこと言ったかな?
うん、変か。
自分を嵌めて殺そうとした相手と馬車に同乗したいっていうんだもんね。
普通ないわな。
「カノンと話をしたいんです。できれば二人で」
ーーできませんか?
私は兵士長に頭を下げた。
侯爵令嬢であり、今では一応聖女である私に頭を下げられて、兵士長は慌てて「頭をおあげください!」と身振り付きで声を上げる。
「いかがでしょう?」
私は頭を上げながらそう続けた。
「……それは、危険です。束縛はしておりますし、魔法封じの魔具は着けてはいますが。馬車の中は狭いですし。もし、暴れられでもしたら」
「それは大丈夫ですわ。私には白虎様がいますもの」
にっこり笑って白王を呼んだ。
傍らに巨大な白虎の姿の白王が姿を現す。
「少し狭くなりますけど、致し方ありませんわね。白王、一緒に同乗して下さるわよね?」
「わかった。俺、エリカ守る」
「だ、そうですわ。これ以上ない護衛ですわよね?あとは……もし、私たちの話が気になるのなら兵士長貴方も同乗なさる?」
「……いえ、私は結構です。ただし長時間はご勘弁下さい。彼女のしたことは国家反逆罪にも値する行為です。その犯罪者と、たとえ聖女様といえど二人きりで話をするというのは少々問題がありますので。
10分ほどで一度馬車を止めます。そこで乗り換えて頂きけますか?」
「ありがとう!兵士長!」
手でも握ろうかと思ったけど、すでに冷や汗ダラダラな兵士長がもっと困ることになりそうだから止めておく。
まったく。
白王ってば威嚇しすぎだよ。
私はちら、と横を見る。
そこでは「断ったらどうなるかわかってるんだろうな」と無言の圧力を兵士長に向ける白王が。
まあ、話が早くて助かるけど♪
「ではこちらへ」
促されて私と白王は兵士長の後についていく。
砦の裏手側に、生徒たちの乗ったものとは一回りほど小さい馬車が2台停められていた。
その周囲には同行するのだろう馬を連れた数十人の兵士たち。
「こちらです。どうぞ」
兵士長が馬車の1台の前に立ち、扉を開けた。
「アーサー様?」
なかからカノンが声を上げた。
あら、皇太子が助けにきたとでも思ったのかな?
残念。
バカたちは今頃別の馬車に詰め込まれてるはずだよ。
「ご機嫌よう、カノン様。一晩ぶりね。昨夜はよく眠れたかしら?」
「……エリカ・オルディス!」
眠れたはずはない。
般若の形相で睨みつけるカノンに、私は意地の悪い笑みを浮かべて優雅に腰を折って挨拶をしてみせた。
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書籍をWebより大幅改稿しているため、書籍のラストと連載分が繋がっていません。そのため、続きを第二部として新たに書き直しています。元の連載分については現在読んでいる途中という方もいるかもなので9月末まで残して削除とさせて頂く予定となります。(*年末あたりまで残します。)第二部の部分が書籍からの続きになります!お読み頂いてる方、本をご購入頂いた方ありがとうございます(^-^)
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