悪役令嬢になりました。

黒田悠月

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1巻

1-2

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 それに、エリカの父や母が自分の親だという感覚は薄い。
 エリカとして生まれ変わった以上、これからは彼らが自分の両親なのだと、頭ではわかっているのだけれど……
 それでもまだ、私は日本の両親のことを思い出してしまう。
 ――お父さん、お母さん。
 つきん、と胸の奥が痛んだ。だけど、私はそれを無視した。
 いまはダメ。考えない、考えない。
 ぎゅっと目をつむって、心にふたをする。
 そんな私の様子に気づいてか、リリーナがそっと声をかけてきた。

「紅茶のおかわりをおれしますか?」

 カップの中の紅茶は、少なくなっている。

「いいえ、そろそろ休憩は終わりにするわ」

 私はそう答え、残った紅茶を飲み干した。
 東屋あずまやで優雅にお茶をするために、わざわざ運動着を着て庭に出てきたのではない。
 本当の目的は、この広大な庭でウォーキングをすること。
 花壇に囲まれた東屋あずまやが魅力的だったので、つい早々に休憩してしまったけれど、そもそもの目的は忘れていない。

「行くわよ!」

 気合いを入れて、私は歩き出した。
 エリカはほとんど運動らしきものをしたことがない。やっても、ダンスの練習くらい。その上、ここのところはずっと部屋に引きこもっていたから、ちょっと……いや、かなり運動不足だ。
 だから今日は、無理がない程度の速度で、庭をぐるっと一周するつもり。
 ダイエットのためとはいえ、一人で歩くのはさみしいし、付き合ってくれるリリーナに感謝だね!
 美しい花を眺めながら広い庭を歩き、そろそろさっきの東屋あずまやまで戻ってきたかな、という頃。
 小さな声が聞こえて、私は立ち止まった。
 ……ん?

「どうかしましたか?」

 リリーナは気づかなかったようだ。

「声が聞こえるわ……」

 私はあたりを見回したけど、人の姿は見当たらない。
 周りに視界をさえぎるようなものはないから、誰かいたら必ず見えるはずなんだけど。

『痛い。痛い。痛い』

 声がまた聞こえてきて、私はそちらに足を向ける。すると、花壇の花に埋もれるように縮こまっている黒猫を見つけた。

「まあ。猫が入り込んでいたんですね。野良のらねこでしょうか?」

 そう言ってリリーナが首をかしげる。

『痛い。痛い』

 どうやらこれは、この子の声らしい。

「痛がっているわ。どこか怪我をしているのかも」

 この子の声、リリーナには聞こえていないみたいだけど、どうして私には聞こえるんだ?
 私は内心の動揺を押し隠しながら、猫に手を伸ばした。
 ビクリと警戒し、毛を逆立さかだてる猫。私は「大丈夫よ」と声をかけてから、そっと背をでた。

『怖い。知らない人間怖い。怖い』
「怖いことはしないわ。大丈夫。怪我の手当てをしなくちゃ、ね? そうすれば、痛くなくなるわ」

 ゆっくり背をでつつ、できるだけ優しく声をかける。

『……ホント?』

 猫が不安げに見上げてくるので、私は安心させるようににっこり笑ってうなずいた。そして、怪我をしている前脚に触らないよう気をつけながら、そっと抱き上げる。
 その時、また別の声が聞こえてきた。

『わあ、血がいっぱい! タイヘン、タイヘン』

 声のぬしは、頭上を飛んでいったすずめのよう。
 どうやら私、動物の言葉がわかるっぽい。
 でも、エリカにそんな設定あったっけ?
『クラ乙』の設定っていうよりは、ライトノベルにありがちな設定よね。
 いわゆるチート。
 私はどちらかといえば、小説よりも、アニメやゲーム派だった。けれど人気の作品や、気に入ったイラストのものは、小説でも読んでいた。
 その知識からすると、異世界に転生、あるいは転移する主人公には、特殊能力がつきものだ。
 例えば、異世界の言葉や文字の意味が自動翻訳されるとか、やたら高い魔力を持っているとか。
 ――動物や魔物と話ができる、ってのもあったわね。
 そういえば……
 ふと、自称神様との会話を思い出す。

『いくつかチートをつけておくから』

 確か、自称神様はそんなことを言っていた。
 そのチートの一つが、コレってこと?
 そんなことを考えながら、ひとまず私は猫の怪我を治療するため、やしきの中へ向かった。



   三


『や、体力なさすぎだろ』

 腹筋運動を数回しただけで倒れ込んだ私に、黒猫が言った。
 窓際で庭を眺めていた猫は、自慢の尻尾しっぽをフリフリしながら私に近寄ってくる。
 先日、庭で怪我をしていた黒猫――クロだ。
 黒いから、クロと名づけた。
 なにも言わないで。ネーミングセンスがないことは、自分が一番よくわかっている。
 クロを拾ってから、五日ほどが経った。
 クロの怪我は、私がやしの魔法『ヒール』で治したので、もう傷痕きずあとすら残っていない。
 この世界には魔力が満ちていて、それは人や動物たちにも宿っている。だからほぼすべての人々が、魔法を使えるのだ。
 流石さすがファンタジーの世界!
 もちろん私も使えちゃいます。
 魔力には、火、水、土、風の基本属性と、聖という特殊属性があって、人が持つ魔力もいずれかの属性に分類される。
 一人の人間が複数の属性の魔力を持つこともあって、私の魔力の属性は聖と土と水の三つ。
 どの属性を持つ人でも使える魔法もあるけれど、特定の属性にしか使えない魔法もあるらしい。ちなみに治癒魔法は聖属性を持つ人にしか使えない、ちょっとレアな魔法だ。
 もともと聖属性を持つ人は少なく、中でも聖属性を持つ少女は、聖女というものになれる可能性があるため、少々特別扱いされている。
 乙女ゲームのヒロインであるカノンも聖属性持ちだ。
 このあたりは、『クラ乙』の設定と同じだね。
 いまのところ、この世界が『クラ乙』とそっくりであることは間違いなさそう。
 そんなことを考えていると、クロが私の顔をのぞき込んできた。
 クロの身体は、リリーナに洗ってもらって、ブラッシングもしてもらった。なので、毛はふかふかのふわふわ。柔らかくて長い毛が、動くたびにふさふさとなびいている。
 触りたーい! いじり倒したーい! モフモフしたーい!
 筋トレも終わったし、抱っこさせてもらおう。
 フフフ、絶対逃がさないんだからねっ!
 だけど、身体はぐったりしたまま動かない。

『……おい、生きてるか?』

 クロはそう言いながら、前脚で私の頭をてしてし叩いてくる。
 ヒドい扱いだ。私、一応飼いぬしなんですけど?

「生きてるわよ。でも……やし、やしをちょうだい」

 私は床にへばったまま、クロに手を伸ばした。するとクロはその手をすり抜けて、嫌そうな顔をする。

『気持ち悪っ!』

 あっ! こらっ! 逃げるな!
 追いかける余力はないのよ!

「……クーローっ」
『やーだよっ! そうやって、昨日も一昨日おとといも、ヒトのこと散々こねくり回しただろ!』

 うっ、だってふわふわなんだもん!
 おばあちゃんが飼っていたシロだって、毛並みは柔らかくて気持ちよかったけど、クロの毛はね……もう、至福なんですよ。

「あとでお魚を進呈しんていするから!」
『……お魚?』

 ピクピクとクロの耳が動く。
 よし、もう一押し!

「料理長に言って、新鮮な極上のお魚を用意してもらうわよ? ――ただし、モフモフさせてくれたら、だけどね?」

 そう言うと、クロはしぶしぶといった様子で近づいてくる。その小さな身体を、私はさっと胸に抱え込んだ。
 はぁ~ん♪ モフモフ♪
 スリスリと頬ずりすると、疲れも吹き飛ぶね。
 いやぁ、やされる。
 私は床に転がったまま、思う存分モフモフを堪能した。


 さて、朝の運動が終わったところで、次の日課に移るとしよう。

「クロ、図書室に行くわよ」

 ぐったりと床に伏せたクロに声をかけ、私は自室をあとにした。


 オルディス侯爵邸の図書室は非常に立派だ。
 部屋の広さは十二畳ほどで、壁一面に本棚が置かれている。
 その中にびっしりと並ぶ、革張りの分厚い本。
 この世界では本は高価なもので、貴族でもこれだけの蔵書を持っている家はなかなかない。
 そんな図書室で、私はここ最近、毎日調べ物をしている。
 読みかけだった本を棚から取り出し、部屋の中央に置かれた丸テーブルに座った。
 陶器でできたこのテーブルには、手元を照らすために小さなランプが備えつけられている。
 本を日焼けから守るため、図書室には窓がない。天井からランプが吊ってあるものの、それだけでは少し暗いのだ。
 これらのランプには、魔石灯ませきとうという、蛍光灯のような役割の魔導具が用いられている。ほんのちょっと魔力をそそぐだけで、明かりをともすことができるすぐれものだ。
 この世界では、電化製品がない代わりにこういった魔導具が使われている。魔導具は自身の魔力や、それを溜め込む鉱石――魔石を使って動かすもので、ランプの他、冷蔵庫に似たようなものもある。
 それなりに魔力のある人にしか動かせない上、超高価だけれど、自動車のようなものだってあるらしい。
 テレビや、スマホはないけどね。
 あぁ、テレビが恋しい……
 ……ううん、ダメダメダメ! 考えるのはナシ!
 首を左右に振って、ランプに少しだけ魔力をそそぐ。手元が柔らかい光に照らされ、私はしおりの挟んであったページを開いた。
 クロはというと、テーブルの下に置かれたかごに入って丸まり、ふわぁと欠伸あくびをしている。そこが、図書室に来た時のクロの定位置だ。
 クロが短い前脚で顔をゴシゴシする仕草にえる。
 犬猫のこういう仕草ってたまらない!
 つい、またモフりたくなるけれど、いまは我慢だ。
 ぐっとこらえて、視線を本のページに移した。
 いま読んでいるのは、この国――グレンファリアの歴史書である。
 自称神様は、ここは『クラ乙』をモデルにした世界だと言っていたけれど、そのままを鵜呑うのみにできるほど私は素直じゃない。
 だから、確認がてら勉強しているというわけ。
 この図書室にある書物や、エリカの記憶によれば、世界の歴史はこうだ。
 ある時、暗黒竜と呼ばれる、危険な力を持つ巨大な竜が現れた。
 それは、魔力の吹き溜まりから生まれたとか、人の負の感情から生まれたとか言われているけれど、はっきりしたことはわからない。
 ただ、暗黒竜が生まれると、その負の力によって世界中で異変が起きる。あちこちで天災が起き、魔物があふれ、人のいとなみや命をおびやかすのだ。
 そんな中、苦難に見舞われた人々の祈りを受け、神が遣わしたのが四聖獣しせいじゅうと聖女だった。
 聖女は四聖獣しせいじゅうの力を借り、暗黒竜を封印。
 世界は無事、平和を取り戻す。
 けれど、その封印は数百年に一度ほころびができてしまうという、不完全なものだった。
 そのため、封印がほころぶたびに聖女が選ばれて、ほころびを修復する役目を負うことに。
 聖女についてまとめた本によると、彼女たちはグレンファリアに生まれた聖属性を持つ少女から選ばれる。聖女の選出は教会と王家によっておこなわれ、候補者の中でも特に魔力が高く、すぐれた人格の人が選ばれてきたみたい。
 まあ、世界の命運を託すんだから、当然っちゃ当然か。
 そうやって選ばれた聖女は四聖獣しせいじゅうのいる聖域におもむき、封印を修復するための古代魔法を四聖獣しせいじゅうからさずけられる。
 そして現在、暗黒竜の封印にほころびが生まれていて、新たな聖女が必要とされていた。
 グレンファリアの国教である、フィルティアーサ神教の教会本部には、聖女が常駐している。
 けれどこれは「聖属性を持ったグレンファリアの少女」の中から選ばれた、象徴としての聖女でしかなく、封印を修復する力はない。
 本物の聖女は、四聖獣しせいじゅうに認められ、古代魔法をさずかった者のみをさす。封印にほころびが生じはじめると、教会と王家が選んだ者が聖域へおもむき、四聖獣しせいじゅうたちに自らが聖女たりうるかうかがいを立てるのだ。
 表向きには、エリカとカノンは教会本部に常駐する次の聖女候補だとされ、なにかと特別扱いされてきた。
 けれど実際には、封印の修復をおこなえる可能性を持つ、本物の聖女候補なのだ。
 これらも、『クラ乙』の設定とまったく同じ。
『クラ乙』は、ちょうど封印にほころびができてしまう時期を舞台にしている。
 ゲームのプロローグは、聖女候補であるカノンの、学園への入学。
 彼女が学園に通う中で攻略対象たちと恋をして、誰かと結ばれるまでが第一部恋愛編だ。
 続く第二部バトル編では、聖女となったカノンが暗黒竜の封印を修復する旅に出る。その際、恋愛編で結ばれた相手が、勇者として同行するという設定だった。
 悪役令嬢エリカとカノンは、王太子の婚約者候補としても、聖女候補としてもライバルなのである。
 パラパラと本のページをめくりながら、私は深く息をつく。

『毎日そうやってため息つきながら読んでるけど、それって意味あるのか?』

 かごの中でくつろぎつつ、クロが気だるそうに言った。
 クロには、私がエリカの身体に入り込んだことや、自称神様から聞いた話など、すべてを話している。
 いまでは私のいい相談役だ。あんまり役には立たないけど。
 ただ、話を聞いてもらえるだけでも精神的に助かるよね。

「意味はあるはずよ」

 現状把握は大切だ。
 ここ数日で、貴族や王族の家系図を、私の知る『クラ乙』の設定と徹底的に比較。何冊もの本を読んで、この国や他国の情勢も学んだ。
 結果、ここは『クラ乙』の世界でほぼ間違いないだろうという結論に至った。
 暗黒竜や聖女の存在だけでなく、王侯貴族たちの名前や経歴、国の歴史など、すべてがゲームの設定と一致しているのだから。
 ここが『クラ乙』と同じ世界であるということは、悪役令嬢のエリカ……つまり私を待っているのは、断罪イベントの果ての死刑。
 大好きだった世界で生き返ったのに、よりによって破滅エンドオンリーの悪役令嬢って……
 どうせなるなら、地味なモブキャラがよかった。
 それなら、イケメン攻略対象たちのイベントを、脇から楽しく眺めていられたのに。
 ヒロインになりたかったとは思わない。
 だって『クラ乙』のヒロインであるカノンは、他の乙女ゲームヒロインと比べてもなかなか大変なのだ。
 なんといっても第二部にはバトル編が待っている。
 冒険や魔物との戦いがあるのよ!
 戦うなんて絶対イヤ!!
 だってグロいのは無理だもの……
 それに、自分が攻略対象とイチャイチャしたいとも思わない。
 イケメンや素敵イベントは、脇からコッソリ眺めているぐらいがちょうどいいのだ。
 ああ、モブになりたかったな……
 まあ、そんなふうに現実逃避しても仕方ないんだけどね。

「私はエリカ・オルディスなの。乙女ゲームの悪役令嬢。だけど、私はゲームのエリカと同じ結末にはなりたくない」

 パタンと本を閉じた。

「だから、バッドエンドを回避するための策を練るわ」

 それと、万が一断罪イベントを回避できなかった時のために、逃げ出す方法も考えておこう。
 自称神様はバグがどうとかって言っていたけれど、なんのことかさっぱりわからないし、そっちはとりあえず保留。
 私の新たな人生のことを考えよう。
 自称神様によれば、エリカとカノンが恋愛編の最後まで生きていればいいとのこと。
 これは完全に私の推測だけど、この世界は、暗黒竜の封印にほころびが生まれる→聖女が修復→数百年後にほころぶ→また修復……というのを繰り返すことで、世界が発展・成長しているんじゃないかな。
 つまり重要なのは、カノンが攻略対象とともに世界を救うこと。
 そのために、エリカやカノンの存在が不可欠なのだろう。
 理由はわからないけれど、少なくとも、エリカが本来断罪されるべきタイミングまで、生きていればいいって話には納得できる。
 ゲームの設定では、エリカの断罪イベントは二つ存在する。
 一つは、第一部の恋愛編が終わってすぐに断罪され、死刑になるパターン。
 もう一つは、第二部バトル編のラスト、つまりゲームのエンディングで死刑になるパターンだ。
 ゲームではカノンの選択によって、どちらのルートをたどることになるかが決まるんだけど……この世界では、どっちに転んでも問題ないんだろう。
 恋愛編は、一年生の終わりまで。
 いまはちょうど一学期が終わったばかりだから、エリカに残された時間は、最短で半年ちょっとということになる。
 破滅エンドを回避するためには、すぐにでも動きたいところだ。
 ここで私は、自称神様の言葉を思い出す。
 自称神様は、私が聖女になってもいいと言っていた。
 普通に考えて、これは教会にいる聖女ではなく、封印を修復する本物の聖女のことを言っているのだろう。
 エリカが聖女になるなんて、ゲームのストーリーでは絶対にありえない。
 ということは、必ずしもゲームのストーリー通りに動く必要はなく、エリカは必ずしも断罪されないといけない、ってわけじゃないんじゃないかな?
 強引な理屈かもしれないけど、あながち間違ってもいない気がする。
 まあ、だからといって、聖女になる気はないけどね。
『クラ乙』のストーリー通りに、カノンが誰かを攻略し、世界を救ってくれればいい。
 私を巻き込まずに、ね。

「ひとまず、カノンをこれ以上いじめない。攻略対象に近づかない。バッドエンド回避策としては、そんなところかな」

 だけどよくあるライトノベルだと、悪役令嬢は結局主要キャラと関わっちゃうんだよねー。それで最後には攻略対象の一人とうまくいったり、ヒロインと仲よくなったりするのだ。
 そううまいこと行くか? ……いや、行く気がしない。
 すでにストーリーが始まってそれなりの時間が経っている。自称神様の話とエリカの記憶によれば、現在カノンは王太子ルートを順調に進んでいて、エリカは破滅エンドまっしぐらだ。

「とにかく、死亡エンドだけは全力で回避。国外追放されるくらいの覚悟で、準備しとくか」

 よしっ、とこぶしを握って気合いを入れた。

『ま、助けてもらったし? 少しは相談に乗ってやるよ』

 つんとあごを上げてクロが言ったのを見て、私はくすりと笑った。
 このツンデレめ!

「頼りにしてるわ。まあ、二学期が始まるまでまだ一ヶ月あるし、とりあえずはダイエットよ!」
『や、それが破滅エンド回避とどうつながるんだよ』

 あきれ顔のクロを、私はキッとにらみつける。

「あのね、見た目は大事なのよ? 周りの態度も変わるしね。いざという時、味方してもらいやすいのは、絶対美人さんのほうだと思うのよ」

 だから、やっぱりせようと思うのです。


 一時間ほど図書室で過ごした私は、自室へ戻って昼食を取ることにした。
 ボロが出ないようリリーナ以外の使用人との接触をけるため、夕食以外は自室で取るようにしている。
 本日の昼食は、アプリコットとママレードのジャムを添えた白パン、玉ねぎドレッシングをかけた温野菜サラダ、ベーコンとサツマイモのスープだ。
 食後には、ハーブティーを飲んでまったり。
 はあ、やっぱり優雅だわ。
 私はハーブティーに口をつけながら、昼食の片づけをするリリーナを盗み見た。
 どことなくソワソワした様子のリリーナ。食器を載せたワゴンを押して部屋を出ようとする彼女の足取りは、いつもより軽い気がする。
 リリーナ、今日は昼からお休みなんだっけ?
 確か昼食のあとから夜までは、別の侍女が代わりにつくと聞いた。
 だから私は、その侍女をけるべく、今日は図書室にこもるつもりだったんだけど……

「ねぇ、リリーナはこのあとどこかへ出かけるのよね? 誰かに会うの?」

 好奇心が抑えきれず、私はリリーナに聞いてみた。


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