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目覚め
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「ポ、ポール?!......はい!水だよ!ゆっくり飲んで!」
ジャンが一早く動き、ポールの頭を支えると、サイドテーブルに置かれていた吸飲みをポールの口元に持っていく。ポールの喉がゆっくりと動き、少しずつ吸飲みの中味が減っていくのが見える。
「……ふう」
ジャン以外の四人はしばらく何も言えずに固まっていたが、吸飲みから口を放し、息を吐いたポールの元にワッと駆け寄った。
「「「「ポール!」」」」
「ゴホン……ン、ン、あー、ようやく声が出せたぜ……ちっ、体は全然動かないな。ジャン、悪い、起こしてくれ。あー、まあ、何があったかはこれからゆっくり聞くとして。とりあえず、ディミトリ、お前、馬鹿だろ」
「?!」
「ポ、ポール?!公世子殿下に向かって、いくらなんでもそれは不敬にあたりますよ!」
目覚めるなり爆弾発言をかますポールにアンソニーが焦る。
「あ?だってよ、言ってることが馬鹿過ぎてよ。俺を友達だと思っているなら、権力を振りかざして上から命令するんじゃなくて『助けてくれ』って言えばいいだけだろ。あんな脅迫まがいの命令をされなくても、友達が困っていたら助けるに決まってるだろ」
エラリーとジャンに支えられながら、ベッドの背にもたれたまま、ポールがディミトリを真っ直ぐ見て言う。
一月近く寝たきりだった体からは肉が落ちて、頬はこけ、肌もくすんでいたが、そのペールブラウンの目に浮かぶ強い光は健在だった。
「ポール……君は私を友人と呼んでくれるのか……」
ディミトリが呆然とした様子で尋ねる。
「あ?当たり前だろ?俺達は友達になったんだろ?お前がわざわざ一人で食堂までお節介やきに来た時にな。違うのか?」
「ポール……」
ディミトリの瞳に光るものが浮かんだ。
カチャ
「あら、皆様お揃いでしたか」
続き部屋の扉が開き、アリスが姿を見せた。その後ろにクラリスとイメルダが続く。
「メル!」
イメルダの姿を認めたジャンが、ポールの背中を支えていた手を放し、嬉しそうにイメルダの元に駆け寄る。
「っつ、おい、ジャン!急に手を放すなよ!」
ヘッドボードに頭をぶつけそうになったポールがジャンに文句を言った。
「……え?ポールお兄ちゃん……?」
久しぶりに聞くポールの声に、クラリスの瞳が大きく見開かれる。
「ポールお兄ちゃん!」
次の瞬間、クラリスは思い切り駆け出すと、エラリーに支えられてベッドに半身を起こしているポールに飛びついた。
「ポールお兄ちゃん!ようやく、ようやく、目が覚めたのね……!」
「クラリス、ごめんな。心配かけたみたいだな」
ポールにしがみついて子供のようにワンワン泣き始めたクラリスに、ポールが優しく言った。
「ああ、くそ、クラリスを抱き締めたいのに、腕が動かせないぜ。俺はいったいどれぐらい眠っていたんだ?」
「約一月ですよ」
ポールの問いにアンソニーが答える。その目は少し寂しそうに、だが、優し気に細められていた。
「さっきの話によると、俺は医者に薬を盛られていたのか?」
「そうですよ。ポールはいつから目が覚めていたんですか?」
「お前達が部屋に入ってきた時ぐらいだな。だんだんと意識が戻ってきて、お前達の声がぼんやりと聞こえていた」
「どの辺からちゃんと聞こえていたの?」
イメルダの横にピッタリくっつきながら、ジャンが聞く。
「六人のうち三人が犯人とかっていうところからだな」
「起きてるとすぐに伝えなかったのはどうしてだ?」
ウィルが逃げるアリスを捕まえながら聞く。
「意識が戻ってからもなかなか目を開けられなくてな。声を出そうにも口が動かないんだ。動かし方を忘れちまったみたいにな。今だってそうだ。指一本自由に動かせねえ」
「一月も寝たきりだったんですから、それは仕方ありませんわ。特にポールさんに使われていた薬は強いものでしたから……でも大丈夫です。これから少しずつ動かす練習をしていけばいいんです」
アリスがウィルと距離を取ろうともがきながら言った。
「大丈夫。ポールならすぐに元気になるよ。だって、一月寝てて起きてすぐに、公世子を『馬鹿』呼ばわりするぐらいだからね」
腕の中にイメルダを閉じ込めてニコニコ顔のジャンが言う。
「安心しろ。鍛錬なら俺が付き合ってやる」
ポールの背中を支えながら、エラリーも言った。
「……まだしばらくみんなに迷惑かけるな。すまないが、よろしく頼む」
ポールが言って、ほんのわずかだけ頭を下げた。
「ひとまず、オランジュリー商会長に急いで連絡しないといけないね。私は少し失礼するよ」
「ああ、ディミトリ、頼んだぜ。」
にっこり笑って、ディミトリが急ぎ足で部屋を出て行く。
その背を見送りながら、ポールが皆にこれまでの経緯を尋ねた。
「それで、俺が刺された後、何があったのかを教えてくれ」
ジャンが一早く動き、ポールの頭を支えると、サイドテーブルに置かれていた吸飲みをポールの口元に持っていく。ポールの喉がゆっくりと動き、少しずつ吸飲みの中味が減っていくのが見える。
「……ふう」
ジャン以外の四人はしばらく何も言えずに固まっていたが、吸飲みから口を放し、息を吐いたポールの元にワッと駆け寄った。
「「「「ポール!」」」」
「ゴホン……ン、ン、あー、ようやく声が出せたぜ……ちっ、体は全然動かないな。ジャン、悪い、起こしてくれ。あー、まあ、何があったかはこれからゆっくり聞くとして。とりあえず、ディミトリ、お前、馬鹿だろ」
「?!」
「ポ、ポール?!公世子殿下に向かって、いくらなんでもそれは不敬にあたりますよ!」
目覚めるなり爆弾発言をかますポールにアンソニーが焦る。
「あ?だってよ、言ってることが馬鹿過ぎてよ。俺を友達だと思っているなら、権力を振りかざして上から命令するんじゃなくて『助けてくれ』って言えばいいだけだろ。あんな脅迫まがいの命令をされなくても、友達が困っていたら助けるに決まってるだろ」
エラリーとジャンに支えられながら、ベッドの背にもたれたまま、ポールがディミトリを真っ直ぐ見て言う。
一月近く寝たきりだった体からは肉が落ちて、頬はこけ、肌もくすんでいたが、そのペールブラウンの目に浮かぶ強い光は健在だった。
「ポール……君は私を友人と呼んでくれるのか……」
ディミトリが呆然とした様子で尋ねる。
「あ?当たり前だろ?俺達は友達になったんだろ?お前がわざわざ一人で食堂までお節介やきに来た時にな。違うのか?」
「ポール……」
ディミトリの瞳に光るものが浮かんだ。
カチャ
「あら、皆様お揃いでしたか」
続き部屋の扉が開き、アリスが姿を見せた。その後ろにクラリスとイメルダが続く。
「メル!」
イメルダの姿を認めたジャンが、ポールの背中を支えていた手を放し、嬉しそうにイメルダの元に駆け寄る。
「っつ、おい、ジャン!急に手を放すなよ!」
ヘッドボードに頭をぶつけそうになったポールがジャンに文句を言った。
「……え?ポールお兄ちゃん……?」
久しぶりに聞くポールの声に、クラリスの瞳が大きく見開かれる。
「ポールお兄ちゃん!」
次の瞬間、クラリスは思い切り駆け出すと、エラリーに支えられてベッドに半身を起こしているポールに飛びついた。
「ポールお兄ちゃん!ようやく、ようやく、目が覚めたのね……!」
「クラリス、ごめんな。心配かけたみたいだな」
ポールにしがみついて子供のようにワンワン泣き始めたクラリスに、ポールが優しく言った。
「ああ、くそ、クラリスを抱き締めたいのに、腕が動かせないぜ。俺はいったいどれぐらい眠っていたんだ?」
「約一月ですよ」
ポールの問いにアンソニーが答える。その目は少し寂しそうに、だが、優し気に細められていた。
「さっきの話によると、俺は医者に薬を盛られていたのか?」
「そうですよ。ポールはいつから目が覚めていたんですか?」
「お前達が部屋に入ってきた時ぐらいだな。だんだんと意識が戻ってきて、お前達の声がぼんやりと聞こえていた」
「どの辺からちゃんと聞こえていたの?」
イメルダの横にピッタリくっつきながら、ジャンが聞く。
「六人のうち三人が犯人とかっていうところからだな」
「起きてるとすぐに伝えなかったのはどうしてだ?」
ウィルが逃げるアリスを捕まえながら聞く。
「意識が戻ってからもなかなか目を開けられなくてな。声を出そうにも口が動かないんだ。動かし方を忘れちまったみたいにな。今だってそうだ。指一本自由に動かせねえ」
「一月も寝たきりだったんですから、それは仕方ありませんわ。特にポールさんに使われていた薬は強いものでしたから……でも大丈夫です。これから少しずつ動かす練習をしていけばいいんです」
アリスがウィルと距離を取ろうともがきながら言った。
「大丈夫。ポールならすぐに元気になるよ。だって、一月寝てて起きてすぐに、公世子を『馬鹿』呼ばわりするぐらいだからね」
腕の中にイメルダを閉じ込めてニコニコ顔のジャンが言う。
「安心しろ。鍛錬なら俺が付き合ってやる」
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「……まだしばらくみんなに迷惑かけるな。すまないが、よろしく頼む」
ポールが言って、ほんのわずかだけ頭を下げた。
「ひとまず、オランジュリー商会長に急いで連絡しないといけないね。私は少し失礼するよ」
「ああ、ディミトリ、頼んだぜ。」
にっこり笑って、ディミトリが急ぎ足で部屋を出て行く。
その背を見送りながら、ポールが皆にこれまでの経緯を尋ねた。
「それで、俺が刺された後、何があったのかを教えてくれ」
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