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決着の時
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「さて、今日で約一月か……このまま続ければどのぐらいで死に至るのか、あるいは昏睡状態がどれほど続くのか……よし、次は少し薬の量を増やしてみるか」
ブートレット公宮内の医務局で、一人の男が、点滴液の入った瓶を手に何やらブツブツと呟いている。
瓶の蓋を開け、懐から取り出した透明な液体を入れようとした、その時だった。
ガシッ
どこから現れたのか、顔を隠した男が薬瓶を持つ男の手を捕まえた。
「なっ、何?!お前ら、どこから?!」
「アンソニー様!」
男と一緒に現れたミミが大声で主の名を呼び、医務局の扉を大きく開けた。
「よし、今です!」
アンソニーに続き、ジャン、ディミトリ、ウィル、そして公国の騎士達と一緒にセベールが部屋に駆け入ってきた。
年老いた医師の周りを素早く囲み、万が一にも逃げられないようにする。
「犯人はあなただったんだね」
ジャンが医師に近づくと、影に掴まれて動かせない医師の手から薬瓶を奪い取った。
「これは、ダムシー子爵家で作られていた違法薬物だよね?どうしてこんな物を点滴液に入れようとしてるのかな?」
ジャンの口調からはいつもの軽い調子が消えていた。
「わ、私は、ただ、栄養剤を追加しようとしていただけです!違法薬物など!」
「栄養剤ねえ。この液体を調べればすぐにわかることだけどね」
「ほ、本当です!ポールさんの治療に役立ちそうな薬を探していた時に、いい薬があると聞いて購入したんです!」
「ふーん。その薬を売っていたのはこの男かな?」
ジャンの言葉に全員が振り向いた。そこには、糸目の男が後ろ手に縛られた男を連行してきていた。
「ギリギリ間に合いましたね。もう少しで売人に逃げられてしまう所でしたよ」
抵抗を諦めた男を前に押し出しながら、トマスが言う。
「よくやってくれた。トマス」
「王命とあらば、この命に替えても」
ウィルの労いにトマスの糸目が更に細められた。
「それで、そこの爺さんに見覚えは?」
トマスが連行している男に問う。
「ああ。一月ほど前に俺が薬を売った相手だ。結構な値段をふっかけたが、ダムシー子爵邸から出てきた物だと言ったら、喜んで大金をはたいていたからな。よく覚えているぜ」
「わしは知らん!こんな男など知らん!ええい、放せ!わしは大公家お抱えの筆頭医師だぞ!」
騎士達に拘束されまいと、暴れて抵抗する医師にセベールが優しく語りかけた。
「その大公家から、あなたを拷問にかける許可をいただきましたよ。お年寄りにあまり非道いことはしたくありませんので、できるだけ素直にお話いただいた方がいいと思いますよ」
「そ、そんな!公世子殿下!これは何かの間違いです!私は無実です!」
「ふっ、舐められたものだな。大公家の足下でこのような大罪を犯すとは。……連れて行け!」
ディミトリの命令に騎士達とセベールが老医師を部屋から連れ出す。公宮の廊下には医師の怒号が響き渡っていた。
=======================
老医師のことはセベールに任せ、一同は一度ポールの眠る部屋に戻った。
「トニー様!」
「ウィル様!」
「ジャン様!」
クラリス、アリス、イメルダの三人が開いた扉に駆け寄る。
「犯人は無事捕縛したよ。メル、ごめんね、急ぎで薬の成分を分析しなきゃいけないんだ。アリス、一緒に来てくれる?」
イメルダをぎゅうぎゅうに抱きしめながらジャンがアリスを見た。
「わかりました。すぐに用意いたします!」
ジャンの言葉に、ウィルの側に行こうとしていたアリスが踵を返した。
「……ジャン……自分だけずるいぞ」
ウィルの恨めしそうな声を無視して、ジャンがアンソニーとエラリーに告げる。
「僕とアリスは王国から連れてきた研究員達と一緒に、犯人から没収した薬物の解析をしてくる。エラリーとアンソニーはここでメルとクラリス嬢とポールを守って」
「わかりました」
「わかった」
「まだ何か危険なことがあるんですか?」
緊迫した空気に、クラリスが不安そうに尋ねる。
「犯人が一人だとは限らないからね。仲間がまだ公宮内にいるかもしれないし、追い詰められた奴は何をするかわからないからね」
ジャンが厳しい口調で答えた。
「ディミトリ、ディミトリも一緒に研究所に来てもらえる?君がいれば、抑止力になる」
「あまり有難い役目ではないがね……承知した」
「ウィルも一緒に来るんでしょ?」
ジャンが思い出したようにウィルに声をかける。
「もちろんだ。アリスを守るのは私だからね」
「さあ、支度できましたわ!急ぎましょう!」
準備を整えたアリスの号令に、皆が一斉に頷いた。
ブートレット公宮内の医務局で、一人の男が、点滴液の入った瓶を手に何やらブツブツと呟いている。
瓶の蓋を開け、懐から取り出した透明な液体を入れようとした、その時だった。
ガシッ
どこから現れたのか、顔を隠した男が薬瓶を持つ男の手を捕まえた。
「なっ、何?!お前ら、どこから?!」
「アンソニー様!」
男と一緒に現れたミミが大声で主の名を呼び、医務局の扉を大きく開けた。
「よし、今です!」
アンソニーに続き、ジャン、ディミトリ、ウィル、そして公国の騎士達と一緒にセベールが部屋に駆け入ってきた。
年老いた医師の周りを素早く囲み、万が一にも逃げられないようにする。
「犯人はあなただったんだね」
ジャンが医師に近づくと、影に掴まれて動かせない医師の手から薬瓶を奪い取った。
「これは、ダムシー子爵家で作られていた違法薬物だよね?どうしてこんな物を点滴液に入れようとしてるのかな?」
ジャンの口調からはいつもの軽い調子が消えていた。
「わ、私は、ただ、栄養剤を追加しようとしていただけです!違法薬物など!」
「栄養剤ねえ。この液体を調べればすぐにわかることだけどね」
「ほ、本当です!ポールさんの治療に役立ちそうな薬を探していた時に、いい薬があると聞いて購入したんです!」
「ふーん。その薬を売っていたのはこの男かな?」
ジャンの言葉に全員が振り向いた。そこには、糸目の男が後ろ手に縛られた男を連行してきていた。
「ギリギリ間に合いましたね。もう少しで売人に逃げられてしまう所でしたよ」
抵抗を諦めた男を前に押し出しながら、トマスが言う。
「よくやってくれた。トマス」
「王命とあらば、この命に替えても」
ウィルの労いにトマスの糸目が更に細められた。
「それで、そこの爺さんに見覚えは?」
トマスが連行している男に問う。
「ああ。一月ほど前に俺が薬を売った相手だ。結構な値段をふっかけたが、ダムシー子爵邸から出てきた物だと言ったら、喜んで大金をはたいていたからな。よく覚えているぜ」
「わしは知らん!こんな男など知らん!ええい、放せ!わしは大公家お抱えの筆頭医師だぞ!」
騎士達に拘束されまいと、暴れて抵抗する医師にセベールが優しく語りかけた。
「その大公家から、あなたを拷問にかける許可をいただきましたよ。お年寄りにあまり非道いことはしたくありませんので、できるだけ素直にお話いただいた方がいいと思いますよ」
「そ、そんな!公世子殿下!これは何かの間違いです!私は無実です!」
「ふっ、舐められたものだな。大公家の足下でこのような大罪を犯すとは。……連れて行け!」
ディミトリの命令に騎士達とセベールが老医師を部屋から連れ出す。公宮の廊下には医師の怒号が響き渡っていた。
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老医師のことはセベールに任せ、一同は一度ポールの眠る部屋に戻った。
「トニー様!」
「ウィル様!」
「ジャン様!」
クラリス、アリス、イメルダの三人が開いた扉に駆け寄る。
「犯人は無事捕縛したよ。メル、ごめんね、急ぎで薬の成分を分析しなきゃいけないんだ。アリス、一緒に来てくれる?」
イメルダをぎゅうぎゅうに抱きしめながらジャンがアリスを見た。
「わかりました。すぐに用意いたします!」
ジャンの言葉に、ウィルの側に行こうとしていたアリスが踵を返した。
「……ジャン……自分だけずるいぞ」
ウィルの恨めしそうな声を無視して、ジャンがアンソニーとエラリーに告げる。
「僕とアリスは王国から連れてきた研究員達と一緒に、犯人から没収した薬物の解析をしてくる。エラリーとアンソニーはここでメルとクラリス嬢とポールを守って」
「わかりました」
「わかった」
「まだ何か危険なことがあるんですか?」
緊迫した空気に、クラリスが不安そうに尋ねる。
「犯人が一人だとは限らないからね。仲間がまだ公宮内にいるかもしれないし、追い詰められた奴は何をするかわからないからね」
ジャンが厳しい口調で答えた。
「ディミトリ、ディミトリも一緒に研究所に来てもらえる?君がいれば、抑止力になる」
「あまり有難い役目ではないがね……承知した」
「ウィルも一緒に来るんでしょ?」
ジャンが思い出したようにウィルに声をかける。
「もちろんだ。アリスを守るのは私だからね」
「さあ、支度できましたわ!急ぎましょう!」
準備を整えたアリスの号令に、皆が一斉に頷いた。
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